不能だと噂の騎士隊長が『可能』なことを私だけが知っている(※のぞきは犯罪です)

南田 此仁@書籍発売中

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41~50話

あのときの騎士【中】

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「この傷が、あのときの……?」

 シーツの上を膝立ちでヨルグににじり寄り、左頬にそっと手を触れる。

 十年前に出逢っていた証。
 あの日の記憶が刻まれた傷痕。

「痛みはないですか? ……触っても、大丈夫ですか?」

「ああ、もちろん」

「…………」

 そろりと、親指の腹でなぞった傷痕はなだらかで。皮膚の色が少し暗く、引きつれたように見えること以外は、出血もカサブタも凹凸もなくすっかり治りきっていて、『事件』から今日までの月日の長さを実感する。

「あのときもリズは、怪我を負った俺の身を案じて涙してくれた。まるで自分の大事なもののように――俺のために涙を流してくれるリズを見てはじめて、俺はこの世に生を受けたような気がしたんだ。この少女の笑顔を守るためならなんだってできると、そう思った」

「そんなに、前から……」

 出血が止まり、傷口が塞がって、新しい皮膚ができてすっかり痕の凹凸もなくなるくらいの長い年月、私のことを想っていてくれたのだろうか。

 ふと目が合って。満月のような瞳に吸い込まれるように、唇が重なった。
 押さえられていた前髪が落ち、パサリと私の頬に触れる。ヨルグの両手が私の腰の後ろに回って、緩く腕のなかに捕らわれた。

「――あの日、俺をはじめ多くの人間がリズの働きに助けられた。幼いリズに恐ろしい思いをさせてしまったことは、本当に申し訳なく思っている」

「そんなの、気にしなくて大丈夫ですよ。事件のことだって、言われるまですっかり忘れてました……し……」

 恐ろしい記憶なんて負ってはいないと、否定に首を振りながら――思う。
 こんなにも衝撃的な出来事を、どうして綺麗さっぱり忘れていられたのだろう?
 記憶を辿れば、すぐに答えに至った。

 そうだ。あのときの王都が、両親と行った最後の――。
 両親が地滑りに巻き込まれたのは、王都から戻って間もなくのことだった。前後の記憶は濃いもやがかかっているかのように曖昧で、日々をどうやって過ごしていたのかも覚えていない。
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