不能だと噂の騎士隊長が『可能』なことを私だけが知っている(※のぞきは犯罪です)

南田 此仁@書籍発売中

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71~最終話

お店のこと【下】

 どうして急に辞めるなんて……。

「まさか、私と結婚したせいでお仕事に支障が――!」

「そんなことはありえない、日々充実している。……騎士は元々親に強制されて進んだ道だ。それでもリズと出逢ってからの俺は、国の平和を守ることが、ひいてはリズの幸せな暮らしを守ることに繋がるのだと信じて邁進まいしんしてきた」

「私の……」

「しかしもう、遠巻きに祈るような日々を過ごす必要はない。これからは誰よりも近くでリズの笑顔を守れるのだから」

 ヨルグのために涙を流す私を見て、はじめてこの世に生を受けた気がしたと言っていた。私の笑顔を守るためならなんでもできると、事実、その一心で国の平和を守ってきたのだという。隊の頂点にまで登り詰めるほどの、努力と成果を上げて。

 この人の愛はどれほど深いのだろう。
 誰かのために自分の人生のすべてを捧げられる。全身全霊で慈しんでくれる。
 決して、自分の意志を持たずにいるわけではない。自らの強い意志によって、私のために生きると固く決心しているのだ。

「ヨルグさん……、本当にあてにしちゃいますよ?」

「ああ、いくらでも」

 一体どれほど深く愛すれば、ヨルグからの愛情に追いつくことができるのだろう。今だって、これ以上ないくらい大好きなのに。

 見つめ合う私たちのあいだに、ぶっきらぼうなおじいちゃんの声が割って入った。

「……パーティーが終わったら始めるぞ」

「始める、って?」

「パン焼きの特訓だ。ビシバシしごくから覚悟しておけ」

「――!!! 私、頑張るわっ! じ、じゃあ、このお金も新しいパン焼き窯を買うのに使ってくれる!?」

「今は『俺の』店だ、必要なもんがありゃあ俺の金で買う。その金を店に使いたきゃ、になってから使うこったな」


 話し込んでいたせいですっかり時間がなくなってしまった。大急ぎでパンを口に詰め込み、スープで流し込む。

「さ、開店準備を始めなくっちゃ!」

 ヨルグとともに居間を出ようとしたとき、リンッと聞き覚えのある高音が鳴った。

 ヨルグに通信が入ったらしい。帰宅後や非番の日でも、たまにあることだ。
 人差し指を立てて「しーっ」とおじいちゃんに合図を送り、何やら揉めている気配を背後に感じながらも、重大な事件などでないことを祈りながらその場を離れた。



「……リズ、すまない。今から人を迎えにいかなくてはいけなくなってしまった」

「事件や事故じゃなかったなら何よりです。こっちは大丈夫なので、心配しないでいってらっしゃい!」

 準備が手伝えないことを謝りながら、妙に疲れた様子のヨルグはとぼとぼと出かけていった。
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