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1~10話
1b、何もしてません!
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籠手の中が真空になるほど香りを堪能したあとは、惜しむように籠手を元の位置に戻し、少し迷っておもむろに兜へと手を伸ばした。
「お、重っ……」
しゃがんだまま重心を失いそうになりつつ、なんとか兜を膝の上に抱え込む。
赤い羽根飾りのついた、頭から顔の全面までを覆うフルフェイスの兜。
中の空洞を覗き、無意識に溢れてきた唾液を飲み込んで。
「ふぅぅぅぅ……」
肺の空気をすべて吐き出すと、息を吸うより早くガポッと兜を被った。
すぅぅぅぅぅぅ……っ!
兜の中で、思い切り鼻から空気を吸い込む。
「っはぁぁ…………。……ふふっ、くふふっ……」
気分の酩酊するような芳醇な香りに、思わず笑みが零れる。
ここまで自分の好みに合致する香りと出逢ったのは生まれて初めてだ。身体の奥がきゅんと疼く。
かぐわしい香りと共に狭い空間に閉じこもっているだなんて、なんという至福。
しゃがみこんで兜を被り夢中で深呼吸を繰り返す私には、誰かが近づいて来たことなど気付きようもなかった。
「———誰だ! そこで何をしている!」
鋭い声が飛ぶ。
咄嗟に声のした方を振り返るけれど、サイズの合わない兜はブカブカで目のスリット位置が合わず、顔を向けたところで声の主は見えない。
ただ、一つだけわかる。
これは非常にまずい状態だ……。
「お、重っ……」
しゃがんだまま重心を失いそうになりつつ、なんとか兜を膝の上に抱え込む。
赤い羽根飾りのついた、頭から顔の全面までを覆うフルフェイスの兜。
中の空洞を覗き、無意識に溢れてきた唾液を飲み込んで。
「ふぅぅぅぅ……」
肺の空気をすべて吐き出すと、息を吸うより早くガポッと兜を被った。
すぅぅぅぅぅぅ……っ!
兜の中で、思い切り鼻から空気を吸い込む。
「っはぁぁ…………。……ふふっ、くふふっ……」
気分の酩酊するような芳醇な香りに、思わず笑みが零れる。
ここまで自分の好みに合致する香りと出逢ったのは生まれて初めてだ。身体の奥がきゅんと疼く。
かぐわしい香りと共に狭い空間に閉じこもっているだなんて、なんという至福。
しゃがみこんで兜を被り夢中で深呼吸を繰り返す私には、誰かが近づいて来たことなど気付きようもなかった。
「———誰だ! そこで何をしている!」
鋭い声が飛ぶ。
咄嗟に声のした方を振り返るけれど、サイズの合わない兜はブカブカで目のスリット位置が合わず、顔を向けたところで声の主は見えない。
ただ、一つだけわかる。
これは非常にまずい状態だ……。
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