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51~60話

51d、抱擁を解……けない!

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 グレニスの泊まった客間を占拠したり、枕を抱きしめて過ごしたり。
 会いたいと思えば思うほど、時の流れは速度を落としていくようだ。
 期待していた妊娠も叶わず、月の障りを迎えてしまった。

 日中の大半はお母様とウェディングドレスのデザインについて話し合い、時折構ってほしそうなお父様の意見も聞いてみる。
 グレニスは今頃どうしているだろう?

 庭弄りを手伝ったり、メイドに交じって覚えたてのスキルを披露してみたり、香りの薄れた枕にしょんぼりと顔を埋めたり。

 そうしてゆっくり、ゆっくりと、二週間の時が過ぎた。


「……リヴ、なにやらグレニスくんが大変なようだよ」

「え?」

 朝食の席で新聞を読んでいたお父様が、とある記事を示して新聞を差し出した。

 受け取った新聞に視線を落とせば、そこにはでかでかとこう書かれていた。


 《ユベル=スターシュ伯爵 逮捕!
 デルマン=モーグ男爵と共謀し、大規模な麻薬密売事業!》


「そんな……」

 スターシュといえば、度々グレニスの様子を見に屋敷を訪れていたグレニスの叔父だ。

 私も一度挨拶を交わしたことがある。
 優雅で物腰がやわらかく、行儀見習いの私にも丁寧に接してくれて、とても犯罪に手を染めるような人物には見えなかったけれど……。

 記事には、国家転覆を目論む陰謀かだの、地位と美貌を持ちながらさらなる富を求めて破滅の道へだの、好き勝手なことが書かれている。
 そして、最後はこう締めくくられていた。

「スターシュ伯爵の逮捕を受け……、甥のグレニス=ジェルム侯爵も、騎士団長を解任か……!?」

 グレニスが言っていたのは、このことだったのか!!

 がばっと勢いよく顔を上げる。

「お父様っ、私今すぐグレンの所に行きたい! 約束の一ヶ月にはまだ早いけど、でも……っ」

「……うん、そうだね。大変なときには側にいてあげた方がいい」

「お母様……!」

 嫁げばもう家族で過ごす時間が取れなくなってしまうのだからと、一ヶ月間ここに留まることを条件づけたのはお母様だ。
 お父様の許可を得て、訴えるようにお母様を見れば、すでにメイドを呼んで私の荷造りを指示しているところだった。

「どうせ止めても聞かないでしょう? それにリヴったら、このところずっとぼんやりとして元気がなかったもの。さ、早く支度してグレニスさんの所へ行ってあげなさい」

「僕もすぐに先触れを出しておくよ」

「ありがとう! お父様、お母様、大好きよ!!」

 食事もそこそこに席を立つと、大急ぎで旅支度に取りかかった。
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