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4. 乗っ取られた俺の体が、合意の上で幼馴染と×××しようとしてるんだが
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俺はまた、夢の中にいるみたいに、目の前の光景を見つめていた。
俺の体と那奈の体は、俺のベッドの上で、向かい合って座っている。
俺の体は、那奈の髪を一房とり、そこに口付ける。
那奈の瞳は、そんな俺の顔を愛おしそうに見つめた。
俺の手は、那奈の手を取り、俺の頬に寄せる。
那奈の口は、心底幸せそうに弧を描いた。
俺の手は、那奈の頬を滑り、那奈の耳を撫でる。
那奈の体は、くすぐったそうにクスクスと笑った。
俺の口が開かれた。
「ナンナ、いいか?」
那奈の口が開く。
「ああ、トール。」
俺のベッドに座る那奈の体を、俺の腕がゆっくりと横たえる。
これから、俺の体が那奈の体と結ばれるのだ。
ただし、体を乗っ取られた状態で。
ーーーとんでもない幸福感と絶望感で、頭がおかしくなりそうだった。
俺の顔が、那奈の顔にゆっくりと近付いていく。
那奈の瞳が、俺の唇を受け入れるように閉じられる。
俺と那奈の唇が触れるかと思った、その時ーーー。
突如、俺の瞼が、閉じられた。
俺の視界が真っ暗になる。
トールは言った。
「徹、本当にいいのか?」
ーーーその瞬間、俺の心がざわついた。
覚悟は、もう決まったはずだった。
なのに、なぜ、俺は今こんなに動揺している?
俺は考える。
俺はいいんだろうか?
このまま俺と那奈の体だけが結ばれて。
ーーーもっと早く自覚していたら。
心に突き刺さったままのナンナさんの言葉が、俺の脳内で繰り返される。
どうして今、俺はこんなに幸せで、こんなに苦しいんだ?
どうして俺は、那奈の笑顔が一番大事なんだ?
どうして俺は、何度も何度も『俺は那奈が好き』だと勘違いしそうになったんだ?
『俺は那奈が好き』だというのが、勘違いではなく、本当の気持ちだったからじゃないのか?
だとすると、俺はもしかして、ずっと、那奈に対して感じていた想いに蓋をしていたんじゃないか?
不釣り合いだとわかっていたから。
拒絶されるのが怖かったから。
今の関係を壊したくなかったから。
湧き上がる感情を、すべて下半身のせいにして。
ーーーもっと早く伝えていたら。
今度はトールの言葉が、俺の脳内で繰り返された。
そうだ。自覚したなら、今、那奈に言わなきゃ。
俺と那奈の体だけが結ばれてしまう前に。
だって俺、那奈と体が結ばれ、それを体感してしまったら、那奈の顔をまた直視できなくなると思う。
那奈の顔を見るたび今日のことを思い出して、意識して、告白どころじゃないだろう。
やっと思い出した、俺の一番大事なものの存在も、きっとまた忘れてしまう。
ーーーそんなことになったら、俺は後悔する。
『トール、ごめん! 俺、やっぱりーーー』
「徹、気付いたんだな」
トールは俺の瞳を開け、体を起こした。
『……うん、俺、……やっと、気付いたよ。俺、このままじゃ後悔すると思う。だから、今、那奈に伝えたい』
「ああ。オレも今、伝えるべきだと思う。では、徹、交代するぞ」
『トール、ありがとう!』
トールがナンナさんに話しかける。
「ナンナ、お前も体を那奈に戻せ」
ナンナさんも那奈の体を起こし、頷いた。
「トール、わかった。那奈ちゃん、交代しよう」
そして俺は、体を取り戻したいと強く願った。
ーーー俺の視界が白く弾けた。
◇
俺が目を開けると、俺の前に座る那奈がいた。
「……徹?」
「ああ、そうだ。那奈か?」
「うん、そうだよ!」
「徹、急に交代するなんて、何かあったの?」
那奈の形の良い眉が下がり、青い瞳が俺を気遣わし気に見つめ、ふっくらとしたさくらんぼ色の唇が俺を心配する言葉を紡ぐ。
その様子に、俺の全身が動揺する。
可愛い。可愛すぎる。……やっぱり俺なんかが那奈に、告白していいんだろうか?
一気に不安が押し寄せる。
那奈は、幼馴染の俺の、こんな気持ちの悪い想いを知るのは、嫌に決まっている。
那奈は今後一切、俺に関わろうとしなくなるだろう。
今までの関係は、確実になくなってしまう。
それに、こんな想いを持っている俺の体とは、たとえトールとナンナさんのためであっても、結ばれたくないと言い出す可能性だってある。
そうしたら、2人が生まれ変われなくなってしまうかもしれない。
不安に支配されそうになる俺の脳裏に、トールの言葉が甦る。
ーーーもっと早く伝えていたら。
トールとナンナさんの、悲しげな笑みを思い出す。
そうだ。ダメだ、俺は今、言わなきゃダメなんだ。
体だけが結ばれて、告白できなくなる前に。大事なものを忘れてしまう前に。
ーーー今、伝えなければ、俺は絶対に後悔する。
俺は一息吐いて、口を開いた。
「……那奈。ナンナさんが前世について語った時、『もっと早く自覚していたら』と言っていたのを覚えてるか?」
「うん。覚えてるよ」
「その言葉のおかげで、俺はやっと自覚したんだ」
「……うん」
「それで、トールは『もっと早く伝えていたら』と言っていただろう?」
「うん。そうだね」
「だから俺は自覚した今、那奈に伝えたいと思った。だから、トールと入れ替わってここに来た」
「……うん」
俺は那奈の青い瞳をまっすぐに見る。
そして、口を開いた。
「那奈。……俺、那奈が好きだ」
「……っ!!!」
那奈は目を見開き、息を呑んだ。
「だから、この状況だから仕方なくとかじゃなくて。俺自身、俺の意思で、那奈と結ばれたいと思ってる」
那奈は目を見開いたまま口に手を当てる。
「それを、体だけが那奈と結ばれる前に、どうしても那奈に伝えたかった」
那奈の体は震え、その瞳に涙が滲んでいく。
ーーーごめんな、那奈。
涙が出るほど気持ち悪いよな。
今まで自覚してなかったとはいえ、俺は幼馴染の振りをしながら、こんな想いを抱いていたんだ。全てを下半身のせいにして。
きっともう、今日みたいに那奈が俺の家に来ることは無くなるだろうし、それどころか那奈が俺に話しかけることもなくなるだろう。
……でも、後悔はしない。
何も言わないまま、俺の体と那奈の体が結ばれて、那奈に伝える機会を失っていたら、俺はもっと後悔したと思うから。
だから、那奈。
俺は、お前が離れるのをわかった上で伝えたいと思ったんだ。
お前は気持ち悪がっていい。
俺から離れていいんだ。
自分に正直で、いつも真っ直ぐの、俺の大好きな笑顔の那奈でいてくれーーー。
ーーーしかし、その時。
那奈は瞳を潤ませ、……俺の大好きな笑顔を浮かべてこう言った。
「えへへ、徹!私、すごく嬉しい。もちろんいいよ!」
「……え?」
俺は咄嗟に固まった。
……何で那奈は笑顔なんだ?!
俺のことが気持ち悪くないのか?
それに、……「いいよ」?
何に対しての「いいよ」だ?
俺が「那奈に伝えたかった」と言ったことに対しての「いいよ」だとすると、「気持ち悪く思わないよ」って意味なのか?
いや、流石にそれは俺にとって都合が良すぎるか……。
那奈に問おうと俺が口を開く前に、那奈が躊躇ったような声音で言った。
「あ! ……でも」
そうだ、那奈。ちゃんと考えろ。
お前は暢気だから、昔から何でもすぐに受け入れがちだけど、幼馴染の美少女とのスペック違いの恋にハマる残念すぎる男は、流石に受け入れちゃダメだ。
「私達が結ばれても、ナンナさんとトールさんは生まれ変われないのかな?」
「……え?」
俺はまた固まった。
何でここで、俺たちが結ばれる話になるんだ?
拍子抜けしそうになるが、今はそれどころではないので、那奈の質問に答える。
「……あ、ああ。そうだと思うぞ。俺は、体だけが結ばれる前に、俺の気持ちを那奈に伝えたいと思った。だから、それが達成できて満足だ」
「え?」
『は?』
那奈とトールが同時に心底驚いた声を上げた。
そうだよな……こんな変なタイミングで皆を振り回してしまったもんな。
「那奈もトールもナンナさんも、……俺のワガママに付き合わせて申し訳なかった。じゃあ、那奈、体をトールとナンナさんに戻そう」
体だけが結ばれる前に、那奈に気持ちが伝えられて、しかもそれを那奈が、よくわからないが多分受け入れてくれたのだから、俺は満足だ。
トールとナンナさんには、俺が勢いで行動してしまったために、変なタイミングで中断させてしまって申し訳ない。
……などと考えていたら、那奈が俺の腕を掴んだ。
「待って、徹!!!」
「何だ?」
「私達やっと! せっかく! 初めて! 結ばれるんだし、先に私と徹でしようよ!」
「……え?」
俺はまた固まった。
だから何で、ここで俺たちがするという話になる?!
本当に何でだ?
……またタチが悪い冗談なのか?
まさかこんな時に?
「だからさ、トールさんとナンナさんに2回目でもいいか聞いてみよう?」
『もちろんいいぞ』
すかさず、トールの声が脳内に響いてきた。
「ナンナさんはOKだって! トールさんは?」
「『もちろんいいぞ』って言ってるけど……」
「やったー! ナンナさん、トールさん、ありがとう!」
那奈は両手を上げて喜んだ。
……ん?……え?
……これでいいのか?
俺は、俺の想像を超える展開に、完全について行けなくなっていた。
しかし、そんな俺をよそに、那奈が焦ったように言う。
「そうだ、徹! ナンナさんとトールさんは時間がないんだよ! だからさ、徹……」
えへへ、と少し恥ずかしそうに笑いながら、那奈は手を広げて俺を見た。
「……しよ?」
もーーーなんなんだコイツ!
可愛すぎるだろおおおおおおおお!
俺の困惑は、那奈の笑顔に暴走した俺と俺の下半身により、完全に破壊された。
そしてその時やっと、俺は那奈の意図が理解できた。
ーーーああ、そうか。
さっき俺が「俺自身、俺の意思で、那奈と結ばれたい」と言ったからか。
那奈の「いいよ」は、それに対しての「いいよ」だったのだ。
俺は伝えるだけで満足だと思っていたけれど、那奈はそんな俺の願いを受け入れ、叶えてくれたのだ。
だったら、感謝こそすれ、拍子抜けしている場合ではない。
「……うん。那奈、ありがとう」
「えへへ」
嬉しそうに笑う那奈の背中に、俺は手を回す。
ーーーそして、俺と那奈は抱きしめ合い、唇を重ねた。
俺の体と那奈の体は、俺のベッドの上で、向かい合って座っている。
俺の体は、那奈の髪を一房とり、そこに口付ける。
那奈の瞳は、そんな俺の顔を愛おしそうに見つめた。
俺の手は、那奈の手を取り、俺の頬に寄せる。
那奈の口は、心底幸せそうに弧を描いた。
俺の手は、那奈の頬を滑り、那奈の耳を撫でる。
那奈の体は、くすぐったそうにクスクスと笑った。
俺の口が開かれた。
「ナンナ、いいか?」
那奈の口が開く。
「ああ、トール。」
俺のベッドに座る那奈の体を、俺の腕がゆっくりと横たえる。
これから、俺の体が那奈の体と結ばれるのだ。
ただし、体を乗っ取られた状態で。
ーーーとんでもない幸福感と絶望感で、頭がおかしくなりそうだった。
俺の顔が、那奈の顔にゆっくりと近付いていく。
那奈の瞳が、俺の唇を受け入れるように閉じられる。
俺と那奈の唇が触れるかと思った、その時ーーー。
突如、俺の瞼が、閉じられた。
俺の視界が真っ暗になる。
トールは言った。
「徹、本当にいいのか?」
ーーーその瞬間、俺の心がざわついた。
覚悟は、もう決まったはずだった。
なのに、なぜ、俺は今こんなに動揺している?
俺は考える。
俺はいいんだろうか?
このまま俺と那奈の体だけが結ばれて。
ーーーもっと早く自覚していたら。
心に突き刺さったままのナンナさんの言葉が、俺の脳内で繰り返される。
どうして今、俺はこんなに幸せで、こんなに苦しいんだ?
どうして俺は、那奈の笑顔が一番大事なんだ?
どうして俺は、何度も何度も『俺は那奈が好き』だと勘違いしそうになったんだ?
『俺は那奈が好き』だというのが、勘違いではなく、本当の気持ちだったからじゃないのか?
だとすると、俺はもしかして、ずっと、那奈に対して感じていた想いに蓋をしていたんじゃないか?
不釣り合いだとわかっていたから。
拒絶されるのが怖かったから。
今の関係を壊したくなかったから。
湧き上がる感情を、すべて下半身のせいにして。
ーーーもっと早く伝えていたら。
今度はトールの言葉が、俺の脳内で繰り返された。
そうだ。自覚したなら、今、那奈に言わなきゃ。
俺と那奈の体だけが結ばれてしまう前に。
だって俺、那奈と体が結ばれ、それを体感してしまったら、那奈の顔をまた直視できなくなると思う。
那奈の顔を見るたび今日のことを思い出して、意識して、告白どころじゃないだろう。
やっと思い出した、俺の一番大事なものの存在も、きっとまた忘れてしまう。
ーーーそんなことになったら、俺は後悔する。
『トール、ごめん! 俺、やっぱりーーー』
「徹、気付いたんだな」
トールは俺の瞳を開け、体を起こした。
『……うん、俺、……やっと、気付いたよ。俺、このままじゃ後悔すると思う。だから、今、那奈に伝えたい』
「ああ。オレも今、伝えるべきだと思う。では、徹、交代するぞ」
『トール、ありがとう!』
トールがナンナさんに話しかける。
「ナンナ、お前も体を那奈に戻せ」
ナンナさんも那奈の体を起こし、頷いた。
「トール、わかった。那奈ちゃん、交代しよう」
そして俺は、体を取り戻したいと強く願った。
ーーー俺の視界が白く弾けた。
◇
俺が目を開けると、俺の前に座る那奈がいた。
「……徹?」
「ああ、そうだ。那奈か?」
「うん、そうだよ!」
「徹、急に交代するなんて、何かあったの?」
那奈の形の良い眉が下がり、青い瞳が俺を気遣わし気に見つめ、ふっくらとしたさくらんぼ色の唇が俺を心配する言葉を紡ぐ。
その様子に、俺の全身が動揺する。
可愛い。可愛すぎる。……やっぱり俺なんかが那奈に、告白していいんだろうか?
一気に不安が押し寄せる。
那奈は、幼馴染の俺の、こんな気持ちの悪い想いを知るのは、嫌に決まっている。
那奈は今後一切、俺に関わろうとしなくなるだろう。
今までの関係は、確実になくなってしまう。
それに、こんな想いを持っている俺の体とは、たとえトールとナンナさんのためであっても、結ばれたくないと言い出す可能性だってある。
そうしたら、2人が生まれ変われなくなってしまうかもしれない。
不安に支配されそうになる俺の脳裏に、トールの言葉が甦る。
ーーーもっと早く伝えていたら。
トールとナンナさんの、悲しげな笑みを思い出す。
そうだ。ダメだ、俺は今、言わなきゃダメなんだ。
体だけが結ばれて、告白できなくなる前に。大事なものを忘れてしまう前に。
ーーー今、伝えなければ、俺は絶対に後悔する。
俺は一息吐いて、口を開いた。
「……那奈。ナンナさんが前世について語った時、『もっと早く自覚していたら』と言っていたのを覚えてるか?」
「うん。覚えてるよ」
「その言葉のおかげで、俺はやっと自覚したんだ」
「……うん」
「それで、トールは『もっと早く伝えていたら』と言っていただろう?」
「うん。そうだね」
「だから俺は自覚した今、那奈に伝えたいと思った。だから、トールと入れ替わってここに来た」
「……うん」
俺は那奈の青い瞳をまっすぐに見る。
そして、口を開いた。
「那奈。……俺、那奈が好きだ」
「……っ!!!」
那奈は目を見開き、息を呑んだ。
「だから、この状況だから仕方なくとかじゃなくて。俺自身、俺の意思で、那奈と結ばれたいと思ってる」
那奈は目を見開いたまま口に手を当てる。
「それを、体だけが那奈と結ばれる前に、どうしても那奈に伝えたかった」
那奈の体は震え、その瞳に涙が滲んでいく。
ーーーごめんな、那奈。
涙が出るほど気持ち悪いよな。
今まで自覚してなかったとはいえ、俺は幼馴染の振りをしながら、こんな想いを抱いていたんだ。全てを下半身のせいにして。
きっともう、今日みたいに那奈が俺の家に来ることは無くなるだろうし、それどころか那奈が俺に話しかけることもなくなるだろう。
……でも、後悔はしない。
何も言わないまま、俺の体と那奈の体が結ばれて、那奈に伝える機会を失っていたら、俺はもっと後悔したと思うから。
だから、那奈。
俺は、お前が離れるのをわかった上で伝えたいと思ったんだ。
お前は気持ち悪がっていい。
俺から離れていいんだ。
自分に正直で、いつも真っ直ぐの、俺の大好きな笑顔の那奈でいてくれーーー。
ーーーしかし、その時。
那奈は瞳を潤ませ、……俺の大好きな笑顔を浮かべてこう言った。
「えへへ、徹!私、すごく嬉しい。もちろんいいよ!」
「……え?」
俺は咄嗟に固まった。
……何で那奈は笑顔なんだ?!
俺のことが気持ち悪くないのか?
それに、……「いいよ」?
何に対しての「いいよ」だ?
俺が「那奈に伝えたかった」と言ったことに対しての「いいよ」だとすると、「気持ち悪く思わないよ」って意味なのか?
いや、流石にそれは俺にとって都合が良すぎるか……。
那奈に問おうと俺が口を開く前に、那奈が躊躇ったような声音で言った。
「あ! ……でも」
そうだ、那奈。ちゃんと考えろ。
お前は暢気だから、昔から何でもすぐに受け入れがちだけど、幼馴染の美少女とのスペック違いの恋にハマる残念すぎる男は、流石に受け入れちゃダメだ。
「私達が結ばれても、ナンナさんとトールさんは生まれ変われないのかな?」
「……え?」
俺はまた固まった。
何でここで、俺たちが結ばれる話になるんだ?
拍子抜けしそうになるが、今はそれどころではないので、那奈の質問に答える。
「……あ、ああ。そうだと思うぞ。俺は、体だけが結ばれる前に、俺の気持ちを那奈に伝えたいと思った。だから、それが達成できて満足だ」
「え?」
『は?』
那奈とトールが同時に心底驚いた声を上げた。
そうだよな……こんな変なタイミングで皆を振り回してしまったもんな。
「那奈もトールもナンナさんも、……俺のワガママに付き合わせて申し訳なかった。じゃあ、那奈、体をトールとナンナさんに戻そう」
体だけが結ばれる前に、那奈に気持ちが伝えられて、しかもそれを那奈が、よくわからないが多分受け入れてくれたのだから、俺は満足だ。
トールとナンナさんには、俺が勢いで行動してしまったために、変なタイミングで中断させてしまって申し訳ない。
……などと考えていたら、那奈が俺の腕を掴んだ。
「待って、徹!!!」
「何だ?」
「私達やっと! せっかく! 初めて! 結ばれるんだし、先に私と徹でしようよ!」
「……え?」
俺はまた固まった。
だから何で、ここで俺たちがするという話になる?!
本当に何でだ?
……またタチが悪い冗談なのか?
まさかこんな時に?
「だからさ、トールさんとナンナさんに2回目でもいいか聞いてみよう?」
『もちろんいいぞ』
すかさず、トールの声が脳内に響いてきた。
「ナンナさんはOKだって! トールさんは?」
「『もちろんいいぞ』って言ってるけど……」
「やったー! ナンナさん、トールさん、ありがとう!」
那奈は両手を上げて喜んだ。
……ん?……え?
……これでいいのか?
俺は、俺の想像を超える展開に、完全について行けなくなっていた。
しかし、そんな俺をよそに、那奈が焦ったように言う。
「そうだ、徹! ナンナさんとトールさんは時間がないんだよ! だからさ、徹……」
えへへ、と少し恥ずかしそうに笑いながら、那奈は手を広げて俺を見た。
「……しよ?」
もーーーなんなんだコイツ!
可愛すぎるだろおおおおおおおお!
俺の困惑は、那奈の笑顔に暴走した俺と俺の下半身により、完全に破壊された。
そしてその時やっと、俺は那奈の意図が理解できた。
ーーーああ、そうか。
さっき俺が「俺自身、俺の意思で、那奈と結ばれたい」と言ったからか。
那奈の「いいよ」は、それに対しての「いいよ」だったのだ。
俺は伝えるだけで満足だと思っていたけれど、那奈はそんな俺の願いを受け入れ、叶えてくれたのだ。
だったら、感謝こそすれ、拍子抜けしている場合ではない。
「……うん。那奈、ありがとう」
「えへへ」
嬉しそうに笑う那奈の背中に、俺は手を回す。
ーーーそして、俺と那奈は抱きしめ合い、唇を重ねた。
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