異世界創造NOSYUYO トビラ

RHone

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5章 際会と再会と再開 『破壊された世界へ』

書の7前半 ログイン妨害『ヘタすると赤旗よりも致命的』

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■書の7前半■ ログイン妨害 LOG-IN distubance

 どよめきが聞こえる。と言うよりは……悲鳴かな。
 俺は眩しい光に目が眩み、またしても出血多量で視界が利きません。世界が、暗い。
 なんだって毎度毎度出血多量で死にそうにならないといけないんだろう俺。暴走行為の果てにある自業自得か……うう、そうなのかもしれない。

 とにかく、集まっている人々が驚くのも無理は無い事だ。俺からの合図を貰って降ろした縄梯子を登って来たのは……恐るべき『怪物』だったんだからな。
「おっと、攻撃はすんなよ」
 俺を背中に背負っているテリーは片手を上げ、ややおどけて言った。
「……通用するかよ……お前は、意識無かったかもしれないけど」
 まじで目が見えねぇ……目の前がチカチカする。そろそろヤバそうよ、俺?
「くそ、好きで暴走してたんじゃねぇのに。それもこれも……」
 言葉を途中で止め、テリーは背後の俺を窺った様だ。
「とにかく、手当てしてもらえ」
 地上に無事たどり着き、俺を地面に下ろしてテリーは俺から離れて行った。入れ替わりで地区長というアズリー達がすぐさま駆け寄って来て声を掛けてくるが……いかん……そーろそろマジに限界だ……意識が朦朧とする、ぜ。

「どういう事だカオス、これは……」
「ああ……どうやら……」

 やや遠くで、テリーとカオスが話している声が遠くなって行く。
 待て、俺を抜いて話を先に……進めるな……よ……。



 気がついて目を開ける、誰かが覗き込んでいるのが見えて来た。

「……ん?」
「どう、気分は?」
「……悪く、ないな」
 また気を失ったな、俺。
 身じろぎするとシーツの擦れる音、清潔なシソっぽいハーブの匂いがする。リコレクトするまでもなく俺は、直前の出来事を把握した。ゆっくり首を擦ると鈍い痛みが脳天を貫く。ギブスみたいなものが巻かれていた。
「お前はどうだよ、もう大丈夫なのか」
「勿論、僕はヒーラーだからね。一週間もあれば問題ないさ」
 ナッツだ。ゆっくり視界がハッキリしてくる。明るい日差しの降り注ぐ……どこかの部屋みたいだが……恐らく俺はフェイアーンから移動はしてない。俺達が月白城に戻るには一週間近く掛かるのだ。
 逆にナッツなら、一週間も掛けずにフェイアーンまで追いつく事が可能だろう、奴の背中には羽がある。
「アベルは?」
 そんな推測をして俺は、起き上がらず横になったままで訊ねた。多分……起きるなと言われると思う。
「一緒に来てるよ、一人位なら抱えて飛べるからね」
 ナッツは有翼人、自力で空を自由に飛べる大きな翼を背中に持っている通り。リコレクトして過去の話を思い出した所、気流の流れを使えば長距離移動もお手の物らしい。風が無ければ自分で追風を起こしてかなりの速度で空を飛ぶ。人間一人分くらいの荷物なら持ち運び可能、というのも確かに聞いた事があるな。
「テリーとは会ったか?」
「うん。色々と誤解があったみたいだけど、なんとかそれを解かなきゃってテリーとヒュンスさんで事情説明に行ってるよ。……それはそうと」
 一瞬視界から消え、ナッツは包帯の換えを手に戻ってきた。真面目な顔になり、溜め息を漏らしながら俺の首にはめられている固定ギブスをはずしに掛かる。
「どうしてお前は毎度毎度、出血多量で死にそうになる事態に陥るんだ?」
「あ……はは。よくわかんねぇ」
「血液凝固能力が低いのか?いや、そんな事はないよね?」
 ナッツは何かの薬草と思われる液体が染み込んだ湿布を、包帯だけになった俺の首に当てながら首をかしげている。
 じわりと液体が染み込んでくる。傷口に染みるかと思ったが痛みは無い、冷たいと思ったとたんに患部が熱を帯び、火照ってきた。
「血液の生産能力自体は高いみたいだからいいけどさ、人間種族ってただでさえ打たれ弱いんだから。無茶するのはいいかげん止めろよ」
「よく考えると人間がツートップだもんなぁウチのパーティー」
「陣形が明らかにオフェンス寄りだよね。先に攻撃して相手の手数自体を減らす。……だから、守りに入ると弱いのかもしれない」
 ナッツは少し眉を顰めてそう呟き、俺の首に手を当てながら傷塞ぎの魔法を行使した。薬草で火照っていた首が再び急速に冷やされていく感覚がある。
「……はい、これでとりあえず大丈夫。あとは増血剤を飲んで……」
 俺はようやく身体を起こした。湿布を剥がし新しい包帯を巻いてもらう。で……またあの渋い色の湯気立つ薬湯を手渡された。
 うー……これ、案の定ゲキ不味だったよなぁとリコレクト。
「飲まないとやっぱ、ダメ?魔法で増血とかできねぇもんなの?」
「出来なくも無いけど、身体への負担が大きいから僕はお勧めしない。長生きしたいなら自分の体力で回復するんだね」
 別に長生きしたいとは思わねぇけど……ええいすでにコイツとの付き合いも3度目だ!
 俺は鼻を摘まんで一気に飲み干し、すぐさま別に用意してあった水の入ったグラスを掴んで口の中の残量感も全て胃の中へ流し込んだ。
「はい、じゃぁもう一眠りしておいて」
「やっぱりそうなるのな……」
 しかしナッツの助言通りにすれば確実に明日、元通りになって歩ける様になるのは知っている。
 何しろ3度目ですから。

「……その前に聞かせろよ」
「何を?」
 介抱用具を片付けながらナッツが聞き返した。
「テリーと云いお前と云い、一体誰と戦ってたんだ?誰の所為でああなったんだよ」
 テリーは、地下牢で最初に見た時、コッチの世界にまだログイン出来てなかった。代わりによくわからんモノが奴を突き動かしていた状態と見る。
 誰からそんな妨害を受けるんだよ。
 コッチの世界の事象が、青旗である俺達にそこまで深く干渉する事は出来ないはずだろう?出来るとするなら……それは、この世界においての規格外に限られる。

 赤旗、バグプログラムのレッドフラグ。

  でもそこまでは良い、大体推測できるんだからな。問題はその赤旗の『誰が』やったかという事だ。
「アベルから聞かなかったのかい?魔王一派の追っ手だよ」
「だから、それを具体的に教えろって言ってるんだ。大体なんで俺達ログインするタイミングがズレてんだ?テリーの奴……最初見た時旗立ててねぇんだもん。びっくりしちまった……今はちゃんと青旗が見えるけど。……つまりそれって旗が立つ前はまだテリーの奴、こっちにログインしてないって事だよな?」
「うーん、思っていたより鋭いね」
 ナッツは関心気味というよりは間違いなく俺を小馬鹿にして苦笑った。
「思われている程おバカじゃなくて悪かったな……」
 俺は恨めしくナッツを見上げる。
「ま、その辺りはメージンから詳しい説明されると思うからさ。一旦エントランスに戻ってみたら?」
「む、そんなんできるのか?」
「一応ね、こっちで『寝てる』時に限るみたいだけど」

 エントランス、エントランスに行きたいと念じながら俺はシーツを被った。

「じゃ、お休み」
 ふっと甘い匂いがして、俺はその花の蜜のような空気を吸い込んで……一気に意識が遠くなる。
 ちょっと待て、一眠りしろとは言われたが強引に眠らされるのは……くあッ、ダメだ、意識が朦朧とするッ。
「お前ら、勝手に……」
 すっと闇に落ちるように遠のいては近付く、そんな感覚を繰り返しながら俺は呂律の回らない口で言った……はずだ。
「話、進めてるんじゃねーぞ……」
 ああ、またこのオチかよ!俺、オチまくりだ。



「大変だね、ヤトさん」
「うえッ?」
 暗闇に浮かび上がる自分を見つけ、俺は飛び起きた。
 見下ろしている、そばかす顔の眼鏡の少年をまじまじと見上げる。
「メージン?」
「はい」
 鼈甲縁の眼鏡の奥で少年は笑った。癖のある髪に詰め襟制服……それは、そのまんまメージンそのもの。
 対して俺は戦士ヤトのまんまであるから、ちょっと違和感を感じてしまう。

 現実のメージンと、仮想の俺がこうやって額を付き合わせるなんて変だろ?変なんだよ。
 夢じゃぁなかろうかと思ったが……そういえば俺は今夢の中だった。ばっちり夢か。夢の中なら何でもアリって訳か。
 具体的には俺の脳が、そのように騙されているから実現する事ながら。

 メージンは屈み込んでいた所、手を差し出し、俺を立ち上がらせえてくれた。ここには地面らしい空間が視覚において確認出来ない。真っ暗い所に、俺とメージンだけが立っていた。
 最初のログアウトの辺りで感じた、自分が見えない状況とは違うな、戦士ヤトな姿の自分の手を見て、俺はエントランスというこの場所を何もないと知りながら、思わず見廻した。
「高松さんがバックアップシステムを強化してくれまして。エントランスまでなら『僕』も入れる事になりました」
「そうだったのか、……ん、あれだな」
 何もない、と思ったが見慣れない装置が浮かび上がるように置いてあるのを『認識』する。ディスプレイが何台か備えられたデスクで、キーボードなどが埋め込まれている。恐らくこれが、メージンが座っているバックアップシステムなのだろう。
「バックアップシステムも中に入れちまったって訳だな」
「ええ、今回、擬似的に視覚化させてみたそうです。元々僕の立ち位置は元からMFCの中ですから」
 そういえば……バックアップであるメージンは俺達と違って覚醒してるんだよな?その疑問を思うと、メージンは頷いて俺の問いに答えてくれた。
「あくまで擬似的な接触に過ぎません、バックアップ作業をしている僕は覚醒していますので……このエントランスで起こっている状況を正しくは体験出来ていないんです。ヤトさんが見ている『僕』はヤトさんにしか見えていません。僕はこの経験を後で、ログになった記録で体験できるようになります」
「そうなのか……」
 正直いまいち良く分からん。むぅ、レッドあたりに詳しく咀嚼してもらわんと理解できないかも。
「まぁそれはいい、仕事の邪魔するのもなんだし……エントランス使用って今回からなのな」
「ええ、元々ここで経験値振り分け作業を行う……所謂キャンプ画面的なものです。本当は皆さん全員にその旨をアナウンスしたかったんですが……あの通り」
 メージンは困った顔で笑う。
「全員見事にバラバラになってしまいまして。仕方が無いので個別にアナウンスしています」
「そりゃやっぱり、個別ログの続きからの問題で避けられなかったのか?」
「それが……なんとも言えないようですね」
「ログアウトは一斉に、同時にしたんだろ?」
 その問いに、メージンは口をつぐんだ。
「……別々なのか?」
「バラバラだった訳ではありませんが、開始場所は全員一緒では無かったようです。しかしだとするなら現状、全員バラバラにログインしている状態に説明がつきませんね」
 メージンはやや悲しい顔をする。申し訳なさそうに言った。
「ログイン障害が出ている可能性があるようです」
 この奇妙な状況、まさかログインに何か技術的な問題が起こっているんだろうか?などと密かに心配していたが……。当たっちまった、悪い想像だっただけに俺は予測していた事ながら驚いてしまう。
「ログイン障害ッ?いやまてよ、ログインできてない奴らが他にもいるならここにいるはずだろ、エントランスに」
「障害というよりも妨害である可能性も捨てきれません。ヤトさん達のシナリオというか……ログの流れ的には」
 そう言ってメージンは何やら手元を操作する。すると、ディスプレイが起動するような音がして目の前に大きなモニター窓が開いた。
「これからヤトさんは展開を色々スキップするのですが特別に、その間のログをご覧になりますか?」
「出来んのか?」
「リコレクト出来ない記録になりますけれど……スキップ時間軸で起こっている出来事をここからログに加える事は可能です」
 って、その意味が俺には理解できないのですが!?……相手がメージンなので詳しくとか縋り付く訳にも行かない。何となく。本来、バックアップのメージンと会話を交わす事もリソース的に控えるべきだとレッドも言っていたはずだ。
 ……高校生に訳わかんねぇから詳しく説明しろとは……お兄さん言えません。

 いいや、わかんない所は置いておいて。

 見れるって言うなら見ておかねば。なんか俺、気を失ったり眠らされたりと奴らとろくな会話が成立していない。俺がセーブしている間に……連中は何をしているんだ?かなり興味がある。



 俯瞰図だな、天井に目があればこんな風に見えるんじゃないだろうか……という図。
 奥のベッドで寝ているのはあれは、俺じゃねぇか。うはぁ、なんかヘンな気分。その隣でナッツとアベル、テリーが立ったまま深刻そうな顔で話し合っている。
 その、声が聞こえない。
「メージン、声……」
「じきに聞こえるようになりますよ」
 扉の開く音が聞こえた。
 俺はちょっとびっくりしつつ、扉を開けて部屋に入ってきたローブの男、カオス・カルマを視界に入れる。
『どうだ、見つかったか?』
『怪しい場所は幾つか、見つけておきました』
『追跡できるかな』
『問題よね……追跡するのが彼女の特技なのに、こっちがそれを探さないといけないんだもの』
 ナッツが組んでいた腕を解く。
『一応僕は探査系の魔法も使えるけれど、レッド程は魔法に対して器用に機転出来ないからね。まず何か手がかりになるものを探さないと』
 連中、何を話しているんだろう?メージンが状況を一緒に見ているのだが、ふいと言った。
「ヤトさんが寝ている間に誰かと合流しようとしているようですね……多分、アインさんでは?」
「おお、」
 そうかなる程、納得した。
 アベルが話していた『追跡するのが彼女の特技』というのは確かに、ドラゴンなのに鼻が利くアインの特徴だ。
「ドラゴンだしなぁ、テリーみたいに野性に戻ってたら何処にいるかなんてお手上げだろうし……大体、奴は何でログインできてなかったんだ?その辺りの原因はそっちで把握できねぇのかよ」
 奴というのはテリーの事だ。正気を失ってて、まるで違うモノが中に入っていた様だった。
 その状況も謎だし、その奇妙な憑依状況からどうやって無事にログインできたのか……あの状況からは何が正解であるのか俺にはよく分からない。
 その前に一応言っておくがテリーは、元野生児とかではない。本来であれば、ログインしていない俺達には元々この世界で積み上げた経験を齎すNPCが入っているはずなのだ。そのキャラクター的には、公族出身格闘大好き家出青年として振舞うはずである。
 あのケモノ状態が本性という訳ではないだろう。ありゃ、なんだ?
「そればっかりは僕にも……直接中に戻られてお聞きした方が早いかもしれないです」
 俺とメージンがそのように話をする間、彼らの話し合いは続く。

『ん、ちょっと思い出した』
 そう言ってテリーがポケットやらを弄り始める。ボロボロの上着は替えたようだが奴のズボンは一張羅だ。
 ジーンズを更に強化したような分厚い布と、なめし皮などを張り合わせて作られた頑丈な一着である。冒険野郎なんかやってるとな、装備品は血なのか何なのかよくわからない染みに塗れてしまう宿命にあるのだ。そういうのを隠す為に、洗濯では漂白剤じゃなくて染料を入れて染め上げて仕上げる。
 冒険者装備が全体的に黒っぽいのはその所為である……と、リコレクト。
『落としてなければ……ん、よし、あったぜ』
 テリーは何かをポケットの奥から摘まみ出し、そっとテーブルの上に置いた。
『何、それ』
 鮮やかな赤い色の、小さな貝殻……?俺は窓の奥の様子を良く見ようと首を伸ばす。
『アイツの鱗』
『何時の間に確保したんだい?』
『そうじゃねぇ、別れる際に剥ぎ取ってくれってアイツが言ったんだよ……。なんだろうな、よく思い出せねぇが……』
 そう言ってテリーは眉間を摘まんで目を瞑った。どうしても思い出せないという風に、記憶を辿って苦悩してる。
『ともかく、そういう状況になったんだよ』
 三人がカオスを一瞬窺ったな。ふむ……一部記憶が曖昧になっている『障害』があるもんな。それは部外者であるカオスには説明しようが無い。
『記憶が混乱しているんだね』
『みてぇだ、悪いな』
 カオスの手前、ログだとかリコレクトだとか、思い出せない壊れたログだとかいう話は出来ないんだ。それで、なんとか話のつじつまを合わせようと口裏合わせてる。……これでポカして相手に通じない話をしちまうと、経験値がマイナスされてしまう訳だ。
 俺も気をつけなければ。
『間違い無くそれがアインさんの鱗であれば、それで居場所は特定できる』
 カオスが無感情に言った言葉にナッツは頷き、じゃぁ早速探しに行こうと……ガーゼの上に爪の大きさ程の鱗を乗せた。

「俺を置いてくつもりかよ」
「みたいですね」
 憮然として腕を組む俺の隣で、メージンが苦笑した。
「とにかくエントランスの使い方は分かった、俺は戻るぜ」
「あ、ヤトさん!」
 これが他なら割と平気で無視しちまうかもしれないが、メージンの呼びかけを無視はしないぜ。ここから出たいと願えば出口は現れる、それがエントランスという場所なのだろう。いつの間にかトビラへの白い入り口が背後に開いていて、それ向かおうとした所足を止めて振り返った。
「今戻ったらログ確認が出来ませんよ?」
「へ?なんで」
「眠っている中に戻るんですから……スキップされてしまいます」
 俺は腕を組み、メージンが開いているモニター窓を覗き込んで言った。
「結局の所、俺が今戻ってもあそこで寝てる『俺』は目を醒ます事は出来ない……って事か」
「ええ、そうです」
「じゃぁ……俺がここで顛末を見ていてもスキップ明け、リコレクトできないって事か?」
 メージンは苦笑気味に頷いた。
 ……なぜ笑う?もしかして、そうなるという事実は説明したつもりだったのか?俺が理解できてない話の中にそういう事実があったと言う事か。……う、悪いなメージン、バカで頼り無い年長者で。
「でも利点はありますよ、ログ・コモンコピーがあれば即座に、ここで見たログをリコレクトできるようになります」
 なんだその、コモンコピーって?どうやら新しいコマンドであるようだ。
「それもエントランスと同じく追加要素って奴か?」
「いえ、エントランスも含めて元々最初からできるように作られています。前回のログイン時は、赤旗バグに対するデータ収集にエントランス使用領域を削ったので使えませんでした。だから説明がまだですね」
 おおそうだ、前回はただでさえ重いメージンのバックアップが更に不安定になっていたんだよな。ログ解析ツールが背後で走っていて、赤旗についての修正が随時入っていた。
「コモンコピー(ログ・CC)については基本的に、ログという観念を理解してから使ってもらう事にしているようなので必然的に、ログイン二回目から説明するようにと言われていましたし」
 なる程、エントランスの件も含めて本来はすぐにその説明を、メージンは俺達にするつもりだったのだろう。
 それなのにログインしたら……全員一気に『トビラ』に入れなかったばかりか、てんでバラバラになってしまっていた。だったらエントランスにいる時点で説明すればよかったのに……などと俺はちょっと思う。そしてそれだけこのログイン妨害の起きている状況は想定外なのだろうと推測できるのだった。
 そういう『開始』なる事自体、想定されてなかったと言う事か。
「で、コモンコピーってな何だ」
「簡単に言えば記憶の共有です。僕はみなさんの冒険には同行していませんが……特別にログを貰ってそれを確認しましたよね。つまりそれがログ・コモンコピーです。セーブデータログを他者に渡して共有します。相手の知らない自分の経験すなわち『ログ』をコピーして渡しておき、相手も同じ経験をリコレクトできるようにするコマンドです。これを行う事で、事情の説明を口でする必要がなくなります。ただし相手に嘘のログは渡せません。すべての経験を包み隠さず相手に知らせて問題の無い場合にのみコミューニョンは成立します」
 コミューニョン?聞き慣れないんだが、何だ?まぁ俺達ぁニホン人だから横文字の名称にはツッコまない。。問題はその作用と意味だ。
 つまりそれは――記憶の共有って事か?……なる程。
 今、モニターの中でアインを探しに出かけようとする連中の行動を、俺は寝ていて知る事が出来ない。しかし後に、どんな事があったのかをナッツなどから聞く事になるだろう。
 その時に事の顛末に嘘や隠し事をせずに伝える時は、ナッツは俺に対してログ・CCというコマンドを使う事が可能になるって事だな。それにより俺はナッツのログ、もしくは今ここで見ているログをリコレクトできるようになるって訳か。
 もちろんリアルの様に言葉や文字などで一から状況を説明する事も出来る。ただし、その場合は『嘘』を紛れ込ませることも可能なのだが、コモンコピーでは包み隠さず全部見せてしまう。

「ログ・コモンコピーは『トビラ』の冒険ログイン時だけでは出来ないんです。ログのコピーのやり取りは覚醒時に行う必要があります。エントランスに待避して自ら取得しない限り、キャンプでの受け渡しも出来ません。また、コピーを取得しただけでも成立しません。MFC内でオリジナルのログをもっている人が、コモンコピーを許可する事で初めて成立します」
 つまり、経験のコピー配布はトビラ内ではもちろん、キャンプ画面であるエントランスでもコマンド実行不可。必ずリアルで覚醒時、ログの入ったメモリースティックをお互い持ち寄る事で可能になるって事か。これはまぁ、場合によってはMFCネットワークとかでも交換可能になるんだろうが。
 しかしこのコピーを渡したり、取得しただけではその経験を開けない。オリジナルの持ち主から、トビラ内で、許可を貰わないといけない。そこで初めて成立するコマンドが『ログ・CC』。
「なんでまたそんな面倒な事を?」
「事故防止と、各個人メモリのデータやり取りの間に余計なネットワークを挟みたくないのではないでしょうか?これは僕の推測ですけど……ログは繊細なものでしょう?でも強制終了で多く穴だらけ、破損だらけになってしまった。大切な記録だから、データをやり取りする間に劣化したり壊れたり、改変されたりしないように気を配らなければいけないと思ったのではないでしょうか」
 ふむ、なる程。
 プレイ時に自由にログのやり取りができてしまうと余りにそれが『手軽』すぎて、どんな副作用が起きるか分かったものじゃないって事だな。ログのやり取り中にログを変化させるような事が可能になったのなら、ログ・CCの『すべての経験を包み隠さず相手に知らせる』という前提が破壊されてしまうかもしれない。
「じゃぁ、本来なら一旦ログアウトしてログのコピー貰って、次回ログイン時に許可貰わないと成立しないはずの所……エントランスで先にログだけ作っておけば、許可だけ貰って俺はそのログをすぐにもトビラ内でリコレクトできる……というので合ってるか?」
 メージンはにっこりと笑った。
「はい、その通りです。実際ナッツさんはすでに、ヤトさんとアベルさんのやり取りおよび、テリーさんとのやり取りについてエントランスでログを取っています。問題が無ければログ・CCリコレクトの許可を降ろしてください」
 許可する方法はリコレクトと同じだ。事情を説明する事にして、相手にそれを思い出すように許可を出せばいい。様は『思い出す』コマンドを他人に向けて発令するようなもんか。これで事情説明をスキップする事が可能になる訳だな。頭の悪い俺にとってはもしかして、凄い福音なのでは?
「アベルはまだ無理か……説明してないとか?」
「説明はしていますがアベルさんは……ええと、ヤトさんより先にログインした事になりますから……」
 あそっか、別にログ・CCする必要無いのか。
「エントランスに入るには、こちらの世界で『寝る』必要があります。元々コモンコピーは、ログインしていない人や訳あって意識を世界に降ろせない人との間のログを埋める為にありますので……」
 ちょっと使いどころは難しいみたいだな。というか今はエントランスにいるから事情が違うが、トビラの中ではそんなに悩むほど難しい話じゃないのだろう。要するにコモンコピー(CC)というのは事情説明スキップとして使っても良いし、使わなくても良い。俺はそう認識した。

 じゃぁあとでCCリコレクト許可を貰うとして……俺はアベル、ナッツ、テリー、そして何故か行動を共にしている謎のローブ男カオス達の動向をモニター窓から窺い、ログを作っておく事にしよう。

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