182 / 366
11章 禁則領域 『異世界創造の主要』
書の6後半 英雄の最期『スタッフロールのその後に』
しおりを挟む
■書の6後半■ 英雄の最期 After Credit
「……何でそんな事しなきゃいけねぇんだ。あのランドールを、ファマメント政府は制御出来るつもりなのか?」
「するつもりでしょうねぇ。その段取りはあるからそうしている」
どういう事だ。そのように怪訝な顔をするとワイズは苦笑を漏らして頭を掻いた。
「ようるすにランドールを今、国を挙げて担ぎ上げている状況なのは分かりますよねぇ?彼は勇者なのです。王の器……創作された勇者という柱。……坊ちゃんはそういう事を自分がやらされている事を把握している」
坊ちゃんと、以前の様にランドールの事を呼んでワイズは言葉を続けた。
「彼の行動は全て抵抗なんだと僕は思っていた。用意された道を歩かない、彼は歩くはずがないと思っていたよ。ところが結果、そうじゃなくて突然彼は変容し、用意されていた道を歩き始めた。……何かそこにカラクリがあるはずだ。テニーが彼の復讐を手伝ったというのが一番、怪しいと僕は考えている。ランドールの意思を尊重しているようで、最初からそこに何かの罠があったのではないかなって僕は睨んでいるよ」
「奴が変わっちまったのは分かったが……変わると従順になるとでもいうのか?」
いまいちランドールの乱心とやらが俺にはよくわからんな。
「とりあえず自分の存在理由に従順になっている節はあるね」
それが、ワイズから見たらランドールっぽくないって事らしい。リオさんもその意見には賛同しているな。
「政府の作ったらしい道筋を歩く?どういう事なんだ」
ため息を交え、ワイズは答えた。
「だから、そもそも彼は自分を操作しようとするファマメント政府を『乗っ取ってやろう』と考えていたんだよ。それでもって自分の存在を操ろうとするものから脱却して、独立しようと画策していたんだ。その考えをテニーは汲み、ランドールならばそれは可能だと担いだ。僕も一応そういう事になっている。解るよね?それは自分を束縛しようとするものから脱する為だけの行動だった。自分の人生を勝ち取るためだけの『抵抗』だったんだよ。彼はただそれだけの為にファマメント国を乗っ取ろうと動いていた。……所が今の彼は天空国だけではなく『世界の全て』を自分の手中に収めるって目的を持っている」
目を細め、俺は尋ねた。
「世界の頂に立つ……?ファマメントに限らず世界の全て、カルケードもディアスも、ペランも……全部の世界!それが、王の器って計画の主要か?」
「はっきりとした事は分からないけれど、天使教はそのように『王の器』って計画を判断しているね」
ワイズの言葉に俺は小さく唸った。
世界を手中にする、ようするに……世界征服だよな。
実に一般的なRPGにおける魔王的な欲求だ。いやぁ、人間の身で成そうとするならその人は『覇王』って呼ばれるのだろうけれど。
「一番信じられない、僕らが一切想像が出来なかった事が何だか分かるかい?」
ナッツの問いかけに俺は顔を上げる。
「何だ?」
「ランドールはね、世界を制する為に魔王八逆星と手を組んだって事なんだよ。それからあの魔王八逆星がランドールに平服したって事」
ああ、なんかそれで全部納得出来ちまうな。
ランドールが魔王サイドであろうナドゥにノコノコついて行きやがった理由。
『もしわしのみかたになるのなら、おまえにせかいのはんぶんをやろう』
的なお約束な甘言にイエスを選んだって事か。
バーカ、それは勇者が選ぶべき選択肢じゃねぇ!
いや、世界半分じゃランドールの性格だと納得しねぇか。
半分と言わず君に全部あげるよ、とか言われたらおもしろい、やって見せろ!とか言いそうな気が……。
多分ナドゥの奴、全部上げます的な事言ったんだろうな。
……そもそも魔王八逆星がランドールに下ったって話は何だ?ギルはそんな風には言ってなかったと思うけどな。奴は、そういう決定に不満を呈したからああいう風に封印されてしまったのだろうか……いや、あれは。
俺の複製が作られているのが『気に入らない』と言っていたのか。
未だに何でそれが奴にとって気に入らないのかよく分からない。俺の心配をするような奴ではあるまい。明らかに他人の事を考えられるような奴ではない。どこまでも自分の都合で物事を判断していると思う。とすると、なぜそれが気に入らないのか。
俺が現在被っている被害をギルも、受けているからという答えはアリだろうか?
俺の苦しみが理解出来たとはそういう事じゃないのか?
……当っている気もするがなんか、それを軍師連中に聞くのは怖いな。俺はギルの理屈や理由を明確に知りたいとは望んでいない。そんなん、知らんでいい。俺は奴に同情したくない、だから怖いのかもしれん。
「ここでランドールらしき者を待つのはいいけど。奴らは港から来るのか?」
俺が何を言いたいのか分かっていると言う様に、レッドは小さく頷いた。軍師連中はすでに『イシュタル国に少し留まる』という結論の次について考えているのだろう。
「ようするに、僕らはこのままセイラードを拠点にするのか?という問題ですね。確かに……ストアのように船でランドールが移動しているという保証はありません。ストアが船を使ったのは、旧式の魔王軍の感染を爆発的に増やす為に潜伏期間を設けたからではないかと考えます、何からの事情で転位門がた使えず、ハデに動いて探知される事を嫌ってイシュタル国に不意打ちをするつもりだった可能性もあります。同じようにランドールがどこの船で、どのように来るかという情報は全くありません」
ストアのイシュタル国襲撃は、ディアス国に洩れていたんだもんな。
「恐らく、移動手段は船では無く別だ、と……僕は予測します」
「一番最悪で考えられるのは転移門だけど」
「しかし僕らは例の、ナドゥの蜘蛛を感知する探査魔導理論を完成させていますからね。これにより、イシュタル島にナドゥの仕掛けが配置されていない事は調査済みなのです」
つまり、突然転移門が開いてナドゥらが突然やってくるという事は、無いって事だ。
思えば一番最初のオーター島での出来事。いきなり突然転移門が開いてナドゥとギルが現れたアレな。あれはすでに魔王八逆星が手中に収めていたシーミリオン国だから起った事だ。
転移門の媒体にしている特殊な怪物をあっちこっちに配置してあったから実現する、神出鬼没。
イシュタル国に行けないから、急遽荷物はシーミリオンに運ぶよう、変更になったって事なんだろう。
「ただ、一つだけ懸念が」
「懸念?」
「……本島はまだ調べておりません」
本島?って、ここじゃないのか?
ちなみにイシュタル国というのは独立した小さな島国で、大陸に国土を持っていない。一番大きい……から、本島とは言わないと云う事か。そうか、そうだよな。
「つまり首都があるレイダーカ島は未調査か」
「ええ、……探査対象と魔導式の都合上深い海が挟まると探査能力が落ちてしまいまして」
リオさんは頬に手を当ててため息を吐く。
「どこに現れるかを待ち伏せようと考えたら、細かく隊を分ける事になってしまうわ。イズミヤとも話をしたけれど先の魔王軍を退治するのに結成させたエズの剣闘士軍、そのまま残してあるの。イシュタル国の軍隊もエズまで来ているそうだし」
「どっちみち一旦エズに移動、かな」
ナッツが苦笑して肩をすくめた。ワイズもそれに同調。
「ギルの封印の件も調べないといけませんしねぇ」
おっと、そうだった。
ワイズの言葉ですっかり忘れていたが思い出す。ギルは封印と一緒にエズにいるのだから、ナッツたちを連れて行けば魔王八逆星内部のイザコザについて改めて聞けるかもしれねぇな。
しかしエズをメインにされるのは……
「ただ、エズをメインで動くのは……アベルさんと貴方と、テリーさんにとって不都合でしょう」
俺が懸念を抱いた所をしっかり把握し、レッドが先に言葉にしてくれる。そうなんだ、その通り。
俺もあんまり、あの町には長居はしたくない。
いずれこっそりとエズに戻って剣闘士業再開もいいかもしれないと思っていたが、そんな未来予想図は消えたんだ。そんな目立った後世を送る資格は俺には無くなった。
戻って、目立つのは勘弁だぜ。
「イシュタル島の中央に移動しましょう。港も近い方が良いです、何かあったらすぐにエイオール船に乗り込めるように」
レッドはそう言って地図を引っ張り出す。いやぁ、イシュタル国なら俺はよく知っているから地図を出されるまでもないな。
「て事は、イシリだな」
「イシリは島中にある国です。近くにある港は隣町のエリオンになりますが、この辺りは川が多いので在る程度イシリの中心街近くまで中型船のエイオール船は入っていけるしょう」
地図で地理を確認しながらレッドが顔を上げる。
「取り急ぎイシリに拠点を移します。アービスさん達は目立ちますのでエイオール船で運んで貰ってはどうでしょう?僕らはイズミヤさんと一緒に一旦エズに向かい、そこから別行動という段取りは如何でしょうか?」
今、決めようってんだな。
しかし、別行動ってどういう事だ?
「全員でイシリに向かわず隊を分けるってのか?」
「それ程大げさな事ではないです、少しの間僕らは別行動を取らせて頂こうかと……ナッツさんをお借りしましてレイダーカ島に行ってきます」
「一々ナドゥの蜘蛛調べに行くってのかよ?」
レッドは小さく頷いて俺の質問に答えた。
「それもありますが、他にも用事はあるのです。一回ちゃんと国に報告を上げに行きたい所ではあります」
ため息を漏らし、ナッツが肩をすくめた。
「しかたないな、ヤト。僕らは明日早朝にここを発つ事になる。今決まった方針についての伝達がこれからだから、全体を動かすに半日は必要だろう。……行っておいで」
「んあ?」
俺は当初の目的をすっかり忘れて惚けてしまった。
「……行きたくないなら行かなくてもいいよ」
珍しくトゲの含まれた言葉で返されて、慌てて俺は何を目的に軍師連中に突撃したのか思い出した。
「あ、つまり先に行ってろと」
「うん、すぐに合流してやるから」
何時になく私怨の入ったナッツの呟きに、ワイズが口を引き吊らせてるな。俺はすぐさま踵を返し、エズからセイラードに飛ばしてきた早馬を確保すべくイズミヤが拠点にしている宿屋に向かって駆けだした。
だが。
別に急ぐ必要はねぇよなぁって、着きそうになってから気が付いた。俺ってバカでぇ。
早く着いたって他の連中を待つ間、一体何をすれば良いんだ。だってセイラードに帰らなくていいんだぜ?
最初の勢いだけでこういう事になった所為か、段取りをすっかり間違った。全く頭が回っていなくて俺は、今非常に具合が悪くなってきている。
馬に乗り慣れてないアベルを手引きしながらエズの外れまで、俺達は『戻ってきた』。
流石有能種、地図は全く読めない方向音痴だが肉体技能は全体的にポテンシャル高い。アベルはあっという間に馬を乗りこなし、疾く走る快感に目覚めちゃった感じで俺が止めるヒマもなくかっ飛ばしやがって。
お陰で日も暮れないうちにエズに着いちまいそうなんだよ。
しかし湖……真眸鏡が見えてくるに自然と、アベルは馬の足を遅らせた。今は馬から下りて歩いている。
遠くには見慣れた湖の姿がある。それが、故郷に戻ってきたという実感を彼女にもたらしているのだろう。しかし町並みを遠くから見るには見慣れた風景だ、というイメージは湧かない。
俺とアベル、共にな。
なんでって、こうやって遠くから町を眺めた事はそんなに無いからなぁ……。
目的とする墓は町の東外れだ。湖と逆の、比較的山の中だったと記憶している。
俺は……元剣闘士だったから墓ってのには縁があるんだ。墓というか、人の死に縁がある訳だけど。
試合で同僚や後輩が命を落とすなんて事、日常茶飯事だった。俺は自分が殺した相手に両手を合わせる事は作法的にあっても、墓を拝みにいったりするような冒涜的な事はしない。でも親しい友人や好敵手、かわいがってた後輩が死んだってのにはヒマがあるなら、冥福を祈りに拝んでやりたいっていう感情は持ち合わせていたもんでな。
イシュタル国の作法的に人の死を悼むのは、死霊発生を抑えるという意味の他に精霊信仰的な……ようするに仏かな。仏という概念はこの世界には無いがええと……魂?
生物としての3つの繋がりが切れて肉体が朽ちても、人の精神的な部分はある程度長い事世界にとどまると信じられていたりする。それが幽体に結びつき目には見えないがしばらくこの世界にとどまる、そういうのを精霊と呼んで敬う……みたいな宗教感があるのだな。
俺の監督務めた人が割と信心深い人で、あれこれ作法とか何やら言ってたような気がするが……うん、あんまりちゃんと憶えてねぇや。
死ぬと仏様になるのよ、みたいなイメージでいいだろう。具体的な説法は良く憶えてない俺だ。とにかく、割と親しい人の死に関して、俺はこまめに墓を尋ねて挨拶しに行っていた気がする。魂という概念で、目には見えないけどまだそいつらは近くにいるような感覚は信じてもいいかもしれない。そう思った……いや、そうであればいいと思ったが正しいのかな。
休日を黙って過ごす事が出来ない落ち着き無い奴だった、という事も把握はしております。ヒマを持て余すのがイヤで、ヒマな日に意味もなく墓場まで散歩に行く為の口実にしていた所もある。
隷属剣闘士なんて使い捨ての駒みたいに扱われてんだ。そんなんに、一々墓石立ててくれる程飼い主の闘技場はヒマと金は持ってない。なので基本的には合祀だ。
一つの闘技場が幾つかの大きな墓を持ってて、そこで一括に弔われていたはず。
なので分祀の石碑も結構あってな、実際に遺体を葬っている墓まで行く必要は無かったりもして、俺も山の中にある墓場まではそれほど多く足を運んだわけでは無い。町のはずれにも祈る為の石碑は立っていて、気安く街を出る事も叶わぬ隷属剣闘士だからどうしたってメインはそっちになる。
俺は方向音痴のアベルを導き、因縁深き町を避けて、遠回りに墓があったはずの山へ導いた。
着いた頃にはすっかり薄暗くなっている。
天気が良いのが幸いだ、雨とかだったら非常に近づきがたい雰囲気を醸し出している時刻である。いくつもの墓石が夕日に赤く染まって乱立しているのがそれでも少々不気味だ。
しかし、こういう時間帯なのは良い事だ。おかげさまで誰もいない。
「……ねぇヤト」
「なんだ」
日本における墓場、とは勿論様式が異なるが雰囲気的には似ているかもしれない。日本の墓より墓石がずっとデカい。土地的に広くはない都合上、びっしりと石碑が並んでいる所とか日本のそれと似ているかもな。
その石碑のちょっとした迷路を、まぁ仕方が無く手を繋いで歩いている訳だが。……ほら、こいつものすげぇ方向音痴だから。
「……あたし、さ。ここに来た事無いのよ」
「来た事ないって、エトオノ一族の墓もここにあるだろ?」
「……あ……のね。うん、今は怖いとか無いんだけど……今は、別の意味で怖いんだけど……」
しっかり手を握られている。震えている訳ではないが、緊張のあまり今にも震え出しそうな様子だな、というのは見て取れる。
幽霊怖い、とか言うような奴じゃねぇ。それは知ってる。
怖いのは……彼女がこの地で背負う責任の重さ故、だろう。
「思い出してきたんだ」
ちょっと待ってと言われ、俺は素直に足を止める。
アベルは自主的に手を解いて、ゆっくりその場で深呼吸を繰り返す。ついでに足腰屈伸運動を何度か繰り返し、両手を振り上げもう一度深呼吸。
「……よし」
「何してんだお前」
気合いを入れて俺の腕を掴み直すな。
「あたし、さ。お母さんが死んだの、ちゃんと受け入れてなかったんだ」
「……」
確かに、その話は初耳だ。
思い出してみる。リクレコト……エトオノ経営陣の事は俺は下っ端だったのでよく分からないが、コイツから社長にあたる親父の事は聞いた事があるのに母親の話題は、一切聞いた事がない事だけを思い出せる。なんで話題にしないのか、疑問を抱いた事はない。
なぜならば。
俺に両親がいなかったからだ。
だから『それ』がいるとか、いないとかいう事に何の疑問もないし興味もない。出来れば、話もしたくなかったりした。家庭の事情タブーといえばテリーもそうだからな。あと、隷属剣闘士は大抵ろくな経歴を持ってない。家族の話は全体的にしない傾向にある。
「お墓参り、した事無い」
「……アベル」
「ここ、来た事無いの。来たくなかったの。……怖かった、認めたくなかった。でもそんな風に思ってた事あたしは、すっかり忘れてて……」
「そんなに嫌だったのか」
思いっきり首を振って、アベルは笑った。無理しやがって。
「あたし、魔導都市で先生のお墓はちゃんと、拝めたもの。先生、死んじゃったんだってちゃんと……理解出来た。それなのに家族とか……そういうのは認めないって変でしょ。……変よね」
連れて行って。
小さく呟かれた言葉に俺は、彼女がしがみついている腕を引き、夕日が沈みきる前に……大きな墓石の並ぶ一画に彼女を導いた。
「多分、そっちのが関係者の奴だろ」
俺は彼女をまず、エトオノ一家の墓の方に導いてそこで腕を解かせる。
「俺は問題の名前を探すから、その間そっちでも拝んでろ」
アベルは無言で頷き、その場でしゃがみ込んでしまった。
彼女の親族が眠っている墓だ。母親と、あと父親と。俺みたいに両親ともどもいたかどうかも分からないとかじゃないが、アベルもまた俺と同じく今は、根無し草だ。
彼女は帰るべき家を失ってしまった。本当はちゃんとあったのにな。
彼女の意図とは関係なくそれは、破壊されちまったんだ。
俺はそのように他人事のように思い、踵を返して隷属剣闘士合祀の墓石に向かって無言で一礼していた。
過去、俺は、俺達は。
彼女の家を壊してしまった。
家庭というものが家、あるいは闘技場そのものであったエトオノは企業的にもその時崩壊した。そうなった理由はいくつかあるが、第一理由に一族を牽引しまとめ上げる柱をへし折ってしまったという事があると思う。
ようするに、アベルの父親を殺してしまった。
具体的に俺が手を下したというわけじゃない。が、比喩として俺達がエトオノの長の命を奪った事になってしまった。実際誰がやったのかは知らんし、それは重要な事じゃない。
俺は大凡『実行犯』が誰であるのか検討ついてる。アベルは完全に把握しているようだ。そこのところはテリーからこっそり聞いていたが、テリーは具体的にそれが誰なのかは俺に言わなかった。俺も聞かなかったしな。
公になる必要のない事実だと思っている。知っても何にもならない事実だと思っている。
それに……。
いや、それは……言う必要はないよな。
俺は墓石の前に蹲る彼女を振り返り、少し眺めてから目を逸らした。
かといってその事件、エトオノの長が『殺された』事件は未解決のまま放置って事は無い。決着は付いた。
付けさせられた。
犯人として、集団の責任を一人の剣闘士が背負って……。
死んだんだ。
目的の名前を墓石の、実に目立たない所に見つけて俺は眼を細める。
エトオノぶっ潰した犯人代表だってのに、エトオノ管轄の墓に名前があるってのは変な話だ。恐らく、別に分けると逆に目立つというか……犯人の業績を勘違いされちゃうのを避けるために墓は例外措置を受けてないんだろうと思う。
一応戒めの為に下された判決だったからな。そうでもしないと町の統率が取れないんだ。それは俺でも理解できる事だよ。
それはつまり英雄譚にしたいくないという事だろう。
アイツの名前はもしかするとここには刻まれていなくて、むしろどこかに隠されているのかとも思ったんだけどな。……少し拍子抜けだ。
「在ったぜ、アベル」
「……こっちは無いわ」
「は?何が」
「……アイツの名前」
この場合の『アイツ』が誰なのか俺はもちろん、都合色々分かっているのでピンと来る。
「在る訳無いだろ、正式に一族入りしてねぇんだから。入り損ねた訳じゃねぇか」
「……ああ、そう、よね」
アベルはそう力無く答えて立ち上がった。
誰だって?アベルが語らないなら俺は語らない。ヒントを出すとすれば……ようするに、真犯人の事だ。少なくとも俺はそうだと思っている。
「なんだよ、お前はあんな奴の墓も拝みたいのか。必要ねぇだろ」
俺は、自分が殺した奴の墓は拝まないぜ。
合祀になっているから頭を下げる形にはなるかもしれないが、心の中で頭を下げているのはそいつらに、じゃねぇ。
それは、冒涜的行為に思える。
「……そんな事してみろ。逆に呪われるってもんだ」
祈って欲しいだろうか?自分の命を奪った相手から祈られて、奪われた者は喜ぶのだろうか?
絶対嬉しくないと思うんだよな……俺は。例えそれがごめんなさいという謝罪でも、死んでんだぞ相手?もぅ、全部遅いじゃねぇか。
「……そうかな」
「欲しいのは謝罪じゃねぇだろ。死んだ奴と、和解する必要はない。死んだのは報いだ、殺したのはそうしたいと願ったからだ。違うのか?縁を切りたいから切ったんだろう」
そう言って、アベルに縁を切るように勧めたのは『アイツ』である事を俺は思い出していた。
一連の全てはアイツの所為だった。アイツがいなけりゃアベルはこんなに人生狂わされてはいなかったんだ。
何をするにしてもアベルの所為だとか色々思いこんで、アイツは余計な事をしたんだ。
アイツも『アイツ』も、大切な人を自由にしてやりたくて、全てを切り殺した。
だからアイツは死んだ。全て報いだ。
死んだという記録が残っている……ここに、確かに。
アイツの名前が刻まれている。それをアベルにやや強引に見せる。既に薄暗く、俺には彫りこまれた文字の陰影が殆ど見えない。手をつかみ、俺は強引にその凹凸を触らせる。
あ、そういえばアベルは暗視持ちだった。俺と違ってちゃんと見えてるだろうなぁ。
でも、その怪力持ちとは思えない細い指先でたった2文字の記号をなぞり、アベルは俯いて……声を詰まらせて呟いた。
「ごめんなさい」
「なんでお前が謝る」
それは、死んだ相手に呟かれた言葉ではないんだと、俺は勝手にそう受け取ってしまって即座ツッコミを入れてしまうのだった。
「だって、私が彼を巻き込んで殺したんだわ」
「………」
お互いに考える事は一緒なんだもんなぁ……。
何って声を掛ければいいのか、俺に声を掛ける資格があるのか?そのように迷っていたらアベルから言われてしまった。
「別にアンタに言ってるんじゃないんだから」
ああ。
「そら、そうだ」
俺は苦笑して立ち上がる。
アベルも急いで目元を拭いながら立ち上がった。
さて、と。これからどうすればいいのか。俺は眼を泳がせてしまう。今晩どうやって過ごせばいいのでしょう。
うっ、ナッツさんが遠くから睨んでいる気配が何故か感じられます。
……逸らした視線の先が何か騒がしい気がして顔を上げる。
「あれ?おい、アベル、あっち見ろ!」
「え?」
俺が指さした方向に慌てて顔を上げるアベルは、途端険しい表情になる。
「火事だわ」
「やっぱり火の手が上がってるのか……どこだって、お前に聞いても無駄だよなぁ」
すっかり薄暗くなってしまったが、遠くに異様な明りと黒い煙が見える気がしたんだ。俺の視力では火事なのか何かの行事なのかよく分からない。しかしアベルは有能種、暗視を備え、視力聴力ともに人間の能力を軽く超えている。
ただし、何度も言うが方向音痴だけは致命的だ。故に方角など把握できてないしどこら辺が燃えているか、なんて、ここからの距離は測れてもエズの町全体としてどこら辺か、なんてのは答えられるはずがないと俺は諦めてそう言った訳である。
ところが、じっと目をこらしてからアベルは厳しい顔で俺を振り返る。
「あたしの視力を嘗めないで頂戴。確かに致命的な方向音痴だけど……見える限り見た事のある建物が燃えてるのくらいは分かるわ」
そう言って視線を逸らし、苦い顔をした。
その横顔だけで、あと……トラブルが起る可能性だけで俺は、どこが燃えているのかなんとなく把握してしまう。
「……エトオノかよ」
「あたし、……逃げないわ、」
鋭く振り返った顔にある、決意の固さ。
やっぱりな。思った通りお前は強いよ……俺なんかよりずっとずっと、強いんだ。
何のスペシャルも持ち合わせない平凡な人間種族の俺より弱い、なんて事はありえねぇ。
そういう強い彼女を見ているとなんだか安心する。
「行きましょう!」
「ああ、」
俺も負けては居られないと存分に、虚勢を張れたりするんだ。
くそ、火事ってどうしてこう無駄に野次馬を量産するんだろう?何事かと集う人だかりに進行を阻まれて舌打ち。
こう云う時怪力娘は役に立つ。人だかりを纏めて引き倒すくらいに強引に人を掻き分けていく。その隙間が埋まらないうちに俺は後を付いていけばいい訳で。いや、引き倒されたりして睨んでくる人達に俺はすんませんとか謝る役か……。
ようやく政府の役人や軍隊によって閉鎖管理がされている区画までやってきた。すでに結構時間が経っているが……火の手は収まっている気配がない。天に昇る煙に炎が写り込み、空が赤い。
俺はそこでようやくアベルに追いついた。
「待て、そこは強引に行くな!目立つから!」
先に行くなら一応持って行け、と渡されていた政府の書類を取り出し、道をふさいでいる人達に事情を説明。セイラードが魔王八逆星から攻撃された件でイシュタル国政府は異常事態体勢になっているようで、素早く部隊長らしい人が駆け込んできて俺達をその先へ、
閉鎖されたエトオノ闘技場方面へ連れて行ってくれた。
「どうなっている!」
馬で駆けつけた部隊長はどうにも、先日レイダーカから派遣され、エズの封印地区を守護するように任命されたばかりの人らしい。おかげで俺やアベルを『国で正式任命した魔王討伐隊の人』位にしか認識していない。
それの何が問題だって?だから……俺とアベルはこの町ではちょっとした有名人だって事を把握してない。
もしエズの駐屯兵だったら……在る意味有名人であろうアベルと俺の『顔』を見ただけで俺達が誰なのか、余計な詮索をしてきた所だろう。
ただし俺は、一見しただけではそれだとはわかりにくいだろうけどな。昔と格好が違うしもとより顔は地味だし。けどアベルは違う。燃えるような赤い髪と瞳は遠東方人の中でもひときわ目立つ。
彼女がアベル・エトオノという字である事を覚えている人もこの町には多い事だろう。
あ、もしかして逆か?知らないのならこの場合、問題は無いのか?
「昨日完成した封印のセキュリティが動いております」
「セキュリティだぁ?どういう事だ、俺は魔法系はさっぱり分からん」
戦士ヤトはセキュリティという言葉の意味を把握しなかった。しかしサトウハヤトの方でそれが『自己防衛機能』と勝手に翻訳してしまう。魔法技術もペランストラメール側から貪欲に吸収する技術大国、イシュタルでは古代語もフツーに使って来る事があるな。
「わしも余り詳しい方ではありませんが、昨日説明されたばかりだから憶えております。セキュリティとは何でも封印地区に無理に進入しようとする者を自動的に攻撃するという魔法式が組まれているという事で、その仕組みが動いているという状況の様ですぞ」
成る程な、って事は炎の壁(ファイヤーウォール)か。燃え盛る炎を見やって俺は呆れた。
考える事は世界が全然違うのに同じでやんの。
「それで、その魔法式はまだ大丈夫なの?」
部隊長のおっさんはアベルの言葉に頷いた。
「まだ炎が燃えておりますからな、魔法式は壊れておりませんでしょう。しかし脅威はまだ去ってはいない……魔法式が動いたままです故」
「その脅威は何だ?」
「今我々で包囲して取り押さえようとしておりますが……」
ゆるやかにカーブを描き、大きな範囲で囲み込む旧エトオノ闘技場の壁が見えてきた。
壁一面に綴られた謎の模様が赤く発光している。炎を吹き出している区画はもう少し先だ。
「魔導式が動いております、壁にはお触れにならないように!」
「分かってる、」
触った途端炎にやられるってんだろ、こりゃまた大層な仕掛けをしたもんだぜ!
アベルが走りながら、懐かしいであろう『家』の上空を見上げるように首を上げる。
「ヤト!見て!上空に何かいるわ!」
「もちろん上空進入にも対応してるだろ、心配しなくても……」
と言い返しつつも、俺も何かの影が上空を飛び回っているのを見上げる。
長い首をもたげ、勢いよくその影が炎を吐き出した。
「……あれはヒノトだ!て事は……ランドールか!」
平原貴族種のシリアさんが使役している、赤いドラゴン。竜なんてそんなにホイホイ見れるもんじゃねぇ、絶滅危惧種なんじゃねーのかな?少なくとも俺のファースト・ドラゴン・インパクトはアインさんだったし、ドラゴンらしいドラゴンを生で初めて見たのがあのヒノトだと言っても過言ではあるまい。竜っぽいが分類的には大型爬虫類で、しかし名前に竜が付く家畜と、魔王軍とかでたまに見かけるそれっぽい奴はノーカウトとする。
くそ、多少はそうかなぁと想像はしていたがその通り、最悪なパターンだ!奴ら、船なんぞ使わず別の手段で目的地まで高飛びして来やがったに違いない。
転移門か、それともあのドラゴンに乗ってやって来た、とか?それもありうるかもしれない。少なくともナドゥの転移門はイシュタル国本島には開かないはずだってレッドが言ってたもんな。
ヒノトはランドールパーティのシリアが使役しているドラゴンで人を数人乗っけて飛べてウチのチビドラゴンと同じく灼熱のブレスを吐き出す。だが、ウチのと違っておしゃべりはしねぇ。
それがエトオノを覆っているであろう魔法壁に触れないであろう上空を旋回し、何かに向けて炎を吐きかけている。
稀に尻尾や後ろ足が発火するのが見えるが、見えないファイヤーウォールの境界に触れてるのかもしれないな。炎竜であるためかさほどダメージを与えている様子はない。
「誰か乗ってるか?」
「ええ、多分シリアだと思う。でも……何してるのかしらあれ」
「わからん、とりあえず近くにランドールもいるはずだ!現場へ急ぐぞ!」
炎が上げる爆音と、罵声、怒号。そして武器が交差する聞き慣れた金属音が近くなる。
角を曲がった先、辺りに残っている民家や建物に炎が移り赤く燃え上がっている。その炎が照らし出す石畳に、沢山の人が倒れているのにまず俺は、目を奪われた。
ゆるやかにそれを目で追い、奥の方へと進み顔を上げる。
二人、明らかに軍人ではなく私兵……恐らく闘技場から強制徴兵されたと剣闘士だろう者がまるで、紙切れのように切り伏せられた瞬間を目の当たりしてしまう。
剣を抜きはなつ。
歩き出す、足下に倒れる者達を見る。
軍人じゃない、剣闘士だ。元俺の同業者なのは体格を見ただけでわかる。
それらが折り重なるように道々に倒れている。炎が揺らめく中、色の分からない池を作っているのに俺は足を踏み入れ、その水音に剣を握り直して駆けだした。
激しい炎の揺らめく中、黒い影になって立っている男がこちらを見て、笑ったのが見える。
「勇敢だな、ここの兵士は」
相手がこちらを見下していると見て、俺は正面から剣を叩き付けた。勿論、相手も余裕を持って構えているだけあり俺の一撃を正面で受止めている。
「てめぇ、こんな所で何している!」
「……ふん、誰かと思ったら、貴様か!」
ようやく俺が誰なのか認識したように男、ランドールは笑って剣を捻る。
俺と同じような体型のくせになんだ、このクソ強い力は!
ランドール、経歴からして西方人だとずっと思っていたが、黒髪黒目の外見の通り実際の所は南方人、サウターだという話だったな。サウターって事は貴族種が半分混じってる関係で人間よりも基礎能力地は上だ。しかし、だからって先祖返りで圧倒的ポテンシャルを持っているイシュターラーのアベルみたいなバカ力が備わる訳ではない。
こいつは世界に許されている生物の規格上何か、おかしい。
強引に右に剣を捻り伏せられ、俺は一旦ランドールの剣を弾き距離を取る。その隙を伺ってランドールの両端から再び剣闘士が二人斬り掛かっていくのが見えた。
「ばか、止めろ!」
ランドールはそちらを一瞥もせずに大きく剣を振り回し、両側から斬りかかろうとする二人を一瞬で吹き飛ばしてしまった。
剣が触れていない、あれだ、テリーが使ってくる衝撃波に似ている攻撃だ。それを軽く振り回した剣の一振りで発生させるって、人間技か?ゲームじゃねぇんだぞ!
一人は遠くにはじき飛ばされもう一人は、すぐそこにあった『炎の壁』に激突して絶叫を上げる。
ぼん、という低い音がして『炎の壁』に触れてしまったその剣闘士はあっという間に火だるまになって、崩れ落ちた。
「……この野郎……!」
「この通り、ザコにもかかわらず士気も落ちず俺に斬りかかってくる、その勇気は褒めてやってもいい」
「ああ、暴勇だけが剣闘士の取柄だからな」
俺は足下に広がる殺戮の跡に、怒りを腹にため込みながらも何とか冷静を保とうとランドールに向けてそのように答えていた。
「……ランドール」
「いかにも、俺はランドールだ。……貴様はこんな所で何をしている?」
顎を上げ、俺を見下したようにランドールは笑って俺に問いかける。
「それはこっちのセリフだ、貴様はここで何をしている!」
「見ての通りだ、わからんのか」
血で濡れた剣の露を払いのける。
「降りかかる火の粉を払っている」
俺は背後でアベルが構えた事を気配で察し、剣を下段に構え直し、ランドールから視線を逃さずにまだ近くにいるはずである部隊長のおっさんに叫んだ。
「攻撃を止めさせろ、こいつは剣闘士が多数で殴り込んで相手になるような奴じゃねぇ!怪物みたいなもんだ!」
俺の叫びにランドールの顔から笑みが消える。
「エース」
すると、いつの間にか竜顔の魔術師、エース爺さんがランドールの背後に控えていた。
「……そっちはどうだ」
「規模が大きすぎますな、まだ手こずっております」
夜で、光源が揺らめいているのもあって俺にはエース爺さんがどういう顔をしているのかここからは良く見えない。いや、元からフードを被っているし、竜顔の爺さんの表情はわかりにくいんだけど。
「使えん奴だ……」
しかし、ランドールがそのように舌打ちした事に一瞬、エース爺さんがうろたえて俺の方を見たように思える。
ランドールはこの時初めて剣を両手で構えた。
「だから、俺は最初から生ぬるいと言ったんだ」
ぞわりと、俺の背筋を駆け抜ける、この感覚は……恐れだ。
殺気、手に負えないレベルの強烈な気配を少し懐かしく思う。これを喰らったのは一度や二度ではない。
剣闘士時代、どんな強敵と戦ってもここまで凶悪な殺気を浴びせられた事はない。
これは。
ここ最近、知った感覚。
ランドールに剣を振らせると……まずい。
それが何故か、なんて理屈は俺の頭には無い。ただ直感として阻止しなければならない事に思えて剣を構え、走り出していた。
「……何でそんな事しなきゃいけねぇんだ。あのランドールを、ファマメント政府は制御出来るつもりなのか?」
「するつもりでしょうねぇ。その段取りはあるからそうしている」
どういう事だ。そのように怪訝な顔をするとワイズは苦笑を漏らして頭を掻いた。
「ようるすにランドールを今、国を挙げて担ぎ上げている状況なのは分かりますよねぇ?彼は勇者なのです。王の器……創作された勇者という柱。……坊ちゃんはそういう事を自分がやらされている事を把握している」
坊ちゃんと、以前の様にランドールの事を呼んでワイズは言葉を続けた。
「彼の行動は全て抵抗なんだと僕は思っていた。用意された道を歩かない、彼は歩くはずがないと思っていたよ。ところが結果、そうじゃなくて突然彼は変容し、用意されていた道を歩き始めた。……何かそこにカラクリがあるはずだ。テニーが彼の復讐を手伝ったというのが一番、怪しいと僕は考えている。ランドールの意思を尊重しているようで、最初からそこに何かの罠があったのではないかなって僕は睨んでいるよ」
「奴が変わっちまったのは分かったが……変わると従順になるとでもいうのか?」
いまいちランドールの乱心とやらが俺にはよくわからんな。
「とりあえず自分の存在理由に従順になっている節はあるね」
それが、ワイズから見たらランドールっぽくないって事らしい。リオさんもその意見には賛同しているな。
「政府の作ったらしい道筋を歩く?どういう事なんだ」
ため息を交え、ワイズは答えた。
「だから、そもそも彼は自分を操作しようとするファマメント政府を『乗っ取ってやろう』と考えていたんだよ。それでもって自分の存在を操ろうとするものから脱却して、独立しようと画策していたんだ。その考えをテニーは汲み、ランドールならばそれは可能だと担いだ。僕も一応そういう事になっている。解るよね?それは自分を束縛しようとするものから脱する為だけの行動だった。自分の人生を勝ち取るためだけの『抵抗』だったんだよ。彼はただそれだけの為にファマメント国を乗っ取ろうと動いていた。……所が今の彼は天空国だけではなく『世界の全て』を自分の手中に収めるって目的を持っている」
目を細め、俺は尋ねた。
「世界の頂に立つ……?ファマメントに限らず世界の全て、カルケードもディアスも、ペランも……全部の世界!それが、王の器って計画の主要か?」
「はっきりとした事は分からないけれど、天使教はそのように『王の器』って計画を判断しているね」
ワイズの言葉に俺は小さく唸った。
世界を手中にする、ようするに……世界征服だよな。
実に一般的なRPGにおける魔王的な欲求だ。いやぁ、人間の身で成そうとするならその人は『覇王』って呼ばれるのだろうけれど。
「一番信じられない、僕らが一切想像が出来なかった事が何だか分かるかい?」
ナッツの問いかけに俺は顔を上げる。
「何だ?」
「ランドールはね、世界を制する為に魔王八逆星と手を組んだって事なんだよ。それからあの魔王八逆星がランドールに平服したって事」
ああ、なんかそれで全部納得出来ちまうな。
ランドールが魔王サイドであろうナドゥにノコノコついて行きやがった理由。
『もしわしのみかたになるのなら、おまえにせかいのはんぶんをやろう』
的なお約束な甘言にイエスを選んだって事か。
バーカ、それは勇者が選ぶべき選択肢じゃねぇ!
いや、世界半分じゃランドールの性格だと納得しねぇか。
半分と言わず君に全部あげるよ、とか言われたらおもしろい、やって見せろ!とか言いそうな気が……。
多分ナドゥの奴、全部上げます的な事言ったんだろうな。
……そもそも魔王八逆星がランドールに下ったって話は何だ?ギルはそんな風には言ってなかったと思うけどな。奴は、そういう決定に不満を呈したからああいう風に封印されてしまったのだろうか……いや、あれは。
俺の複製が作られているのが『気に入らない』と言っていたのか。
未だに何でそれが奴にとって気に入らないのかよく分からない。俺の心配をするような奴ではあるまい。明らかに他人の事を考えられるような奴ではない。どこまでも自分の都合で物事を判断していると思う。とすると、なぜそれが気に入らないのか。
俺が現在被っている被害をギルも、受けているからという答えはアリだろうか?
俺の苦しみが理解出来たとはそういう事じゃないのか?
……当っている気もするがなんか、それを軍師連中に聞くのは怖いな。俺はギルの理屈や理由を明確に知りたいとは望んでいない。そんなん、知らんでいい。俺は奴に同情したくない、だから怖いのかもしれん。
「ここでランドールらしき者を待つのはいいけど。奴らは港から来るのか?」
俺が何を言いたいのか分かっていると言う様に、レッドは小さく頷いた。軍師連中はすでに『イシュタル国に少し留まる』という結論の次について考えているのだろう。
「ようするに、僕らはこのままセイラードを拠点にするのか?という問題ですね。確かに……ストアのように船でランドールが移動しているという保証はありません。ストアが船を使ったのは、旧式の魔王軍の感染を爆発的に増やす為に潜伏期間を設けたからではないかと考えます、何からの事情で転位門がた使えず、ハデに動いて探知される事を嫌ってイシュタル国に不意打ちをするつもりだった可能性もあります。同じようにランドールがどこの船で、どのように来るかという情報は全くありません」
ストアのイシュタル国襲撃は、ディアス国に洩れていたんだもんな。
「恐らく、移動手段は船では無く別だ、と……僕は予測します」
「一番最悪で考えられるのは転移門だけど」
「しかし僕らは例の、ナドゥの蜘蛛を感知する探査魔導理論を完成させていますからね。これにより、イシュタル島にナドゥの仕掛けが配置されていない事は調査済みなのです」
つまり、突然転移門が開いてナドゥらが突然やってくるという事は、無いって事だ。
思えば一番最初のオーター島での出来事。いきなり突然転移門が開いてナドゥとギルが現れたアレな。あれはすでに魔王八逆星が手中に収めていたシーミリオン国だから起った事だ。
転移門の媒体にしている特殊な怪物をあっちこっちに配置してあったから実現する、神出鬼没。
イシュタル国に行けないから、急遽荷物はシーミリオンに運ぶよう、変更になったって事なんだろう。
「ただ、一つだけ懸念が」
「懸念?」
「……本島はまだ調べておりません」
本島?って、ここじゃないのか?
ちなみにイシュタル国というのは独立した小さな島国で、大陸に国土を持っていない。一番大きい……から、本島とは言わないと云う事か。そうか、そうだよな。
「つまり首都があるレイダーカ島は未調査か」
「ええ、……探査対象と魔導式の都合上深い海が挟まると探査能力が落ちてしまいまして」
リオさんは頬に手を当ててため息を吐く。
「どこに現れるかを待ち伏せようと考えたら、細かく隊を分ける事になってしまうわ。イズミヤとも話をしたけれど先の魔王軍を退治するのに結成させたエズの剣闘士軍、そのまま残してあるの。イシュタル国の軍隊もエズまで来ているそうだし」
「どっちみち一旦エズに移動、かな」
ナッツが苦笑して肩をすくめた。ワイズもそれに同調。
「ギルの封印の件も調べないといけませんしねぇ」
おっと、そうだった。
ワイズの言葉ですっかり忘れていたが思い出す。ギルは封印と一緒にエズにいるのだから、ナッツたちを連れて行けば魔王八逆星内部のイザコザについて改めて聞けるかもしれねぇな。
しかしエズをメインにされるのは……
「ただ、エズをメインで動くのは……アベルさんと貴方と、テリーさんにとって不都合でしょう」
俺が懸念を抱いた所をしっかり把握し、レッドが先に言葉にしてくれる。そうなんだ、その通り。
俺もあんまり、あの町には長居はしたくない。
いずれこっそりとエズに戻って剣闘士業再開もいいかもしれないと思っていたが、そんな未来予想図は消えたんだ。そんな目立った後世を送る資格は俺には無くなった。
戻って、目立つのは勘弁だぜ。
「イシュタル島の中央に移動しましょう。港も近い方が良いです、何かあったらすぐにエイオール船に乗り込めるように」
レッドはそう言って地図を引っ張り出す。いやぁ、イシュタル国なら俺はよく知っているから地図を出されるまでもないな。
「て事は、イシリだな」
「イシリは島中にある国です。近くにある港は隣町のエリオンになりますが、この辺りは川が多いので在る程度イシリの中心街近くまで中型船のエイオール船は入っていけるしょう」
地図で地理を確認しながらレッドが顔を上げる。
「取り急ぎイシリに拠点を移します。アービスさん達は目立ちますのでエイオール船で運んで貰ってはどうでしょう?僕らはイズミヤさんと一緒に一旦エズに向かい、そこから別行動という段取りは如何でしょうか?」
今、決めようってんだな。
しかし、別行動ってどういう事だ?
「全員でイシリに向かわず隊を分けるってのか?」
「それ程大げさな事ではないです、少しの間僕らは別行動を取らせて頂こうかと……ナッツさんをお借りしましてレイダーカ島に行ってきます」
「一々ナドゥの蜘蛛調べに行くってのかよ?」
レッドは小さく頷いて俺の質問に答えた。
「それもありますが、他にも用事はあるのです。一回ちゃんと国に報告を上げに行きたい所ではあります」
ため息を漏らし、ナッツが肩をすくめた。
「しかたないな、ヤト。僕らは明日早朝にここを発つ事になる。今決まった方針についての伝達がこれからだから、全体を動かすに半日は必要だろう。……行っておいで」
「んあ?」
俺は当初の目的をすっかり忘れて惚けてしまった。
「……行きたくないなら行かなくてもいいよ」
珍しくトゲの含まれた言葉で返されて、慌てて俺は何を目的に軍師連中に突撃したのか思い出した。
「あ、つまり先に行ってろと」
「うん、すぐに合流してやるから」
何時になく私怨の入ったナッツの呟きに、ワイズが口を引き吊らせてるな。俺はすぐさま踵を返し、エズからセイラードに飛ばしてきた早馬を確保すべくイズミヤが拠点にしている宿屋に向かって駆けだした。
だが。
別に急ぐ必要はねぇよなぁって、着きそうになってから気が付いた。俺ってバカでぇ。
早く着いたって他の連中を待つ間、一体何をすれば良いんだ。だってセイラードに帰らなくていいんだぜ?
最初の勢いだけでこういう事になった所為か、段取りをすっかり間違った。全く頭が回っていなくて俺は、今非常に具合が悪くなってきている。
馬に乗り慣れてないアベルを手引きしながらエズの外れまで、俺達は『戻ってきた』。
流石有能種、地図は全く読めない方向音痴だが肉体技能は全体的にポテンシャル高い。アベルはあっという間に馬を乗りこなし、疾く走る快感に目覚めちゃった感じで俺が止めるヒマもなくかっ飛ばしやがって。
お陰で日も暮れないうちにエズに着いちまいそうなんだよ。
しかし湖……真眸鏡が見えてくるに自然と、アベルは馬の足を遅らせた。今は馬から下りて歩いている。
遠くには見慣れた湖の姿がある。それが、故郷に戻ってきたという実感を彼女にもたらしているのだろう。しかし町並みを遠くから見るには見慣れた風景だ、というイメージは湧かない。
俺とアベル、共にな。
なんでって、こうやって遠くから町を眺めた事はそんなに無いからなぁ……。
目的とする墓は町の東外れだ。湖と逆の、比較的山の中だったと記憶している。
俺は……元剣闘士だったから墓ってのには縁があるんだ。墓というか、人の死に縁がある訳だけど。
試合で同僚や後輩が命を落とすなんて事、日常茶飯事だった。俺は自分が殺した相手に両手を合わせる事は作法的にあっても、墓を拝みにいったりするような冒涜的な事はしない。でも親しい友人や好敵手、かわいがってた後輩が死んだってのにはヒマがあるなら、冥福を祈りに拝んでやりたいっていう感情は持ち合わせていたもんでな。
イシュタル国の作法的に人の死を悼むのは、死霊発生を抑えるという意味の他に精霊信仰的な……ようするに仏かな。仏という概念はこの世界には無いがええと……魂?
生物としての3つの繋がりが切れて肉体が朽ちても、人の精神的な部分はある程度長い事世界にとどまると信じられていたりする。それが幽体に結びつき目には見えないがしばらくこの世界にとどまる、そういうのを精霊と呼んで敬う……みたいな宗教感があるのだな。
俺の監督務めた人が割と信心深い人で、あれこれ作法とか何やら言ってたような気がするが……うん、あんまりちゃんと憶えてねぇや。
死ぬと仏様になるのよ、みたいなイメージでいいだろう。具体的な説法は良く憶えてない俺だ。とにかく、割と親しい人の死に関して、俺はこまめに墓を尋ねて挨拶しに行っていた気がする。魂という概念で、目には見えないけどまだそいつらは近くにいるような感覚は信じてもいいかもしれない。そう思った……いや、そうであればいいと思ったが正しいのかな。
休日を黙って過ごす事が出来ない落ち着き無い奴だった、という事も把握はしております。ヒマを持て余すのがイヤで、ヒマな日に意味もなく墓場まで散歩に行く為の口実にしていた所もある。
隷属剣闘士なんて使い捨ての駒みたいに扱われてんだ。そんなんに、一々墓石立ててくれる程飼い主の闘技場はヒマと金は持ってない。なので基本的には合祀だ。
一つの闘技場が幾つかの大きな墓を持ってて、そこで一括に弔われていたはず。
なので分祀の石碑も結構あってな、実際に遺体を葬っている墓まで行く必要は無かったりもして、俺も山の中にある墓場まではそれほど多く足を運んだわけでは無い。町のはずれにも祈る為の石碑は立っていて、気安く街を出る事も叶わぬ隷属剣闘士だからどうしたってメインはそっちになる。
俺は方向音痴のアベルを導き、因縁深き町を避けて、遠回りに墓があったはずの山へ導いた。
着いた頃にはすっかり薄暗くなっている。
天気が良いのが幸いだ、雨とかだったら非常に近づきがたい雰囲気を醸し出している時刻である。いくつもの墓石が夕日に赤く染まって乱立しているのがそれでも少々不気味だ。
しかし、こういう時間帯なのは良い事だ。おかげさまで誰もいない。
「……ねぇヤト」
「なんだ」
日本における墓場、とは勿論様式が異なるが雰囲気的には似ているかもしれない。日本の墓より墓石がずっとデカい。土地的に広くはない都合上、びっしりと石碑が並んでいる所とか日本のそれと似ているかもな。
その石碑のちょっとした迷路を、まぁ仕方が無く手を繋いで歩いている訳だが。……ほら、こいつものすげぇ方向音痴だから。
「……あたし、さ。ここに来た事無いのよ」
「来た事ないって、エトオノ一族の墓もここにあるだろ?」
「……あ……のね。うん、今は怖いとか無いんだけど……今は、別の意味で怖いんだけど……」
しっかり手を握られている。震えている訳ではないが、緊張のあまり今にも震え出しそうな様子だな、というのは見て取れる。
幽霊怖い、とか言うような奴じゃねぇ。それは知ってる。
怖いのは……彼女がこの地で背負う責任の重さ故、だろう。
「思い出してきたんだ」
ちょっと待ってと言われ、俺は素直に足を止める。
アベルは自主的に手を解いて、ゆっくりその場で深呼吸を繰り返す。ついでに足腰屈伸運動を何度か繰り返し、両手を振り上げもう一度深呼吸。
「……よし」
「何してんだお前」
気合いを入れて俺の腕を掴み直すな。
「あたし、さ。お母さんが死んだの、ちゃんと受け入れてなかったんだ」
「……」
確かに、その話は初耳だ。
思い出してみる。リクレコト……エトオノ経営陣の事は俺は下っ端だったのでよく分からないが、コイツから社長にあたる親父の事は聞いた事があるのに母親の話題は、一切聞いた事がない事だけを思い出せる。なんで話題にしないのか、疑問を抱いた事はない。
なぜならば。
俺に両親がいなかったからだ。
だから『それ』がいるとか、いないとかいう事に何の疑問もないし興味もない。出来れば、話もしたくなかったりした。家庭の事情タブーといえばテリーもそうだからな。あと、隷属剣闘士は大抵ろくな経歴を持ってない。家族の話は全体的にしない傾向にある。
「お墓参り、した事無い」
「……アベル」
「ここ、来た事無いの。来たくなかったの。……怖かった、認めたくなかった。でもそんな風に思ってた事あたしは、すっかり忘れてて……」
「そんなに嫌だったのか」
思いっきり首を振って、アベルは笑った。無理しやがって。
「あたし、魔導都市で先生のお墓はちゃんと、拝めたもの。先生、死んじゃったんだってちゃんと……理解出来た。それなのに家族とか……そういうのは認めないって変でしょ。……変よね」
連れて行って。
小さく呟かれた言葉に俺は、彼女がしがみついている腕を引き、夕日が沈みきる前に……大きな墓石の並ぶ一画に彼女を導いた。
「多分、そっちのが関係者の奴だろ」
俺は彼女をまず、エトオノ一家の墓の方に導いてそこで腕を解かせる。
「俺は問題の名前を探すから、その間そっちでも拝んでろ」
アベルは無言で頷き、その場でしゃがみ込んでしまった。
彼女の親族が眠っている墓だ。母親と、あと父親と。俺みたいに両親ともどもいたかどうかも分からないとかじゃないが、アベルもまた俺と同じく今は、根無し草だ。
彼女は帰るべき家を失ってしまった。本当はちゃんとあったのにな。
彼女の意図とは関係なくそれは、破壊されちまったんだ。
俺はそのように他人事のように思い、踵を返して隷属剣闘士合祀の墓石に向かって無言で一礼していた。
過去、俺は、俺達は。
彼女の家を壊してしまった。
家庭というものが家、あるいは闘技場そのものであったエトオノは企業的にもその時崩壊した。そうなった理由はいくつかあるが、第一理由に一族を牽引しまとめ上げる柱をへし折ってしまったという事があると思う。
ようするに、アベルの父親を殺してしまった。
具体的に俺が手を下したというわけじゃない。が、比喩として俺達がエトオノの長の命を奪った事になってしまった。実際誰がやったのかは知らんし、それは重要な事じゃない。
俺は大凡『実行犯』が誰であるのか検討ついてる。アベルは完全に把握しているようだ。そこのところはテリーからこっそり聞いていたが、テリーは具体的にそれが誰なのかは俺に言わなかった。俺も聞かなかったしな。
公になる必要のない事実だと思っている。知っても何にもならない事実だと思っている。
それに……。
いや、それは……言う必要はないよな。
俺は墓石の前に蹲る彼女を振り返り、少し眺めてから目を逸らした。
かといってその事件、エトオノの長が『殺された』事件は未解決のまま放置って事は無い。決着は付いた。
付けさせられた。
犯人として、集団の責任を一人の剣闘士が背負って……。
死んだんだ。
目的の名前を墓石の、実に目立たない所に見つけて俺は眼を細める。
エトオノぶっ潰した犯人代表だってのに、エトオノ管轄の墓に名前があるってのは変な話だ。恐らく、別に分けると逆に目立つというか……犯人の業績を勘違いされちゃうのを避けるために墓は例外措置を受けてないんだろうと思う。
一応戒めの為に下された判決だったからな。そうでもしないと町の統率が取れないんだ。それは俺でも理解できる事だよ。
それはつまり英雄譚にしたいくないという事だろう。
アイツの名前はもしかするとここには刻まれていなくて、むしろどこかに隠されているのかとも思ったんだけどな。……少し拍子抜けだ。
「在ったぜ、アベル」
「……こっちは無いわ」
「は?何が」
「……アイツの名前」
この場合の『アイツ』が誰なのか俺はもちろん、都合色々分かっているのでピンと来る。
「在る訳無いだろ、正式に一族入りしてねぇんだから。入り損ねた訳じゃねぇか」
「……ああ、そう、よね」
アベルはそう力無く答えて立ち上がった。
誰だって?アベルが語らないなら俺は語らない。ヒントを出すとすれば……ようするに、真犯人の事だ。少なくとも俺はそうだと思っている。
「なんだよ、お前はあんな奴の墓も拝みたいのか。必要ねぇだろ」
俺は、自分が殺した奴の墓は拝まないぜ。
合祀になっているから頭を下げる形にはなるかもしれないが、心の中で頭を下げているのはそいつらに、じゃねぇ。
それは、冒涜的行為に思える。
「……そんな事してみろ。逆に呪われるってもんだ」
祈って欲しいだろうか?自分の命を奪った相手から祈られて、奪われた者は喜ぶのだろうか?
絶対嬉しくないと思うんだよな……俺は。例えそれがごめんなさいという謝罪でも、死んでんだぞ相手?もぅ、全部遅いじゃねぇか。
「……そうかな」
「欲しいのは謝罪じゃねぇだろ。死んだ奴と、和解する必要はない。死んだのは報いだ、殺したのはそうしたいと願ったからだ。違うのか?縁を切りたいから切ったんだろう」
そう言って、アベルに縁を切るように勧めたのは『アイツ』である事を俺は思い出していた。
一連の全てはアイツの所為だった。アイツがいなけりゃアベルはこんなに人生狂わされてはいなかったんだ。
何をするにしてもアベルの所為だとか色々思いこんで、アイツは余計な事をしたんだ。
アイツも『アイツ』も、大切な人を自由にしてやりたくて、全てを切り殺した。
だからアイツは死んだ。全て報いだ。
死んだという記録が残っている……ここに、確かに。
アイツの名前が刻まれている。それをアベルにやや強引に見せる。既に薄暗く、俺には彫りこまれた文字の陰影が殆ど見えない。手をつかみ、俺は強引にその凹凸を触らせる。
あ、そういえばアベルは暗視持ちだった。俺と違ってちゃんと見えてるだろうなぁ。
でも、その怪力持ちとは思えない細い指先でたった2文字の記号をなぞり、アベルは俯いて……声を詰まらせて呟いた。
「ごめんなさい」
「なんでお前が謝る」
それは、死んだ相手に呟かれた言葉ではないんだと、俺は勝手にそう受け取ってしまって即座ツッコミを入れてしまうのだった。
「だって、私が彼を巻き込んで殺したんだわ」
「………」
お互いに考える事は一緒なんだもんなぁ……。
何って声を掛ければいいのか、俺に声を掛ける資格があるのか?そのように迷っていたらアベルから言われてしまった。
「別にアンタに言ってるんじゃないんだから」
ああ。
「そら、そうだ」
俺は苦笑して立ち上がる。
アベルも急いで目元を拭いながら立ち上がった。
さて、と。これからどうすればいいのか。俺は眼を泳がせてしまう。今晩どうやって過ごせばいいのでしょう。
うっ、ナッツさんが遠くから睨んでいる気配が何故か感じられます。
……逸らした視線の先が何か騒がしい気がして顔を上げる。
「あれ?おい、アベル、あっち見ろ!」
「え?」
俺が指さした方向に慌てて顔を上げるアベルは、途端険しい表情になる。
「火事だわ」
「やっぱり火の手が上がってるのか……どこだって、お前に聞いても無駄だよなぁ」
すっかり薄暗くなってしまったが、遠くに異様な明りと黒い煙が見える気がしたんだ。俺の視力では火事なのか何かの行事なのかよく分からない。しかしアベルは有能種、暗視を備え、視力聴力ともに人間の能力を軽く超えている。
ただし、何度も言うが方向音痴だけは致命的だ。故に方角など把握できてないしどこら辺が燃えているか、なんて、ここからの距離は測れてもエズの町全体としてどこら辺か、なんてのは答えられるはずがないと俺は諦めてそう言った訳である。
ところが、じっと目をこらしてからアベルは厳しい顔で俺を振り返る。
「あたしの視力を嘗めないで頂戴。確かに致命的な方向音痴だけど……見える限り見た事のある建物が燃えてるのくらいは分かるわ」
そう言って視線を逸らし、苦い顔をした。
その横顔だけで、あと……トラブルが起る可能性だけで俺は、どこが燃えているのかなんとなく把握してしまう。
「……エトオノかよ」
「あたし、……逃げないわ、」
鋭く振り返った顔にある、決意の固さ。
やっぱりな。思った通りお前は強いよ……俺なんかよりずっとずっと、強いんだ。
何のスペシャルも持ち合わせない平凡な人間種族の俺より弱い、なんて事はありえねぇ。
そういう強い彼女を見ているとなんだか安心する。
「行きましょう!」
「ああ、」
俺も負けては居られないと存分に、虚勢を張れたりするんだ。
くそ、火事ってどうしてこう無駄に野次馬を量産するんだろう?何事かと集う人だかりに進行を阻まれて舌打ち。
こう云う時怪力娘は役に立つ。人だかりを纏めて引き倒すくらいに強引に人を掻き分けていく。その隙間が埋まらないうちに俺は後を付いていけばいい訳で。いや、引き倒されたりして睨んでくる人達に俺はすんませんとか謝る役か……。
ようやく政府の役人や軍隊によって閉鎖管理がされている区画までやってきた。すでに結構時間が経っているが……火の手は収まっている気配がない。天に昇る煙に炎が写り込み、空が赤い。
俺はそこでようやくアベルに追いついた。
「待て、そこは強引に行くな!目立つから!」
先に行くなら一応持って行け、と渡されていた政府の書類を取り出し、道をふさいでいる人達に事情を説明。セイラードが魔王八逆星から攻撃された件でイシュタル国政府は異常事態体勢になっているようで、素早く部隊長らしい人が駆け込んできて俺達をその先へ、
閉鎖されたエトオノ闘技場方面へ連れて行ってくれた。
「どうなっている!」
馬で駆けつけた部隊長はどうにも、先日レイダーカから派遣され、エズの封印地区を守護するように任命されたばかりの人らしい。おかげで俺やアベルを『国で正式任命した魔王討伐隊の人』位にしか認識していない。
それの何が問題だって?だから……俺とアベルはこの町ではちょっとした有名人だって事を把握してない。
もしエズの駐屯兵だったら……在る意味有名人であろうアベルと俺の『顔』を見ただけで俺達が誰なのか、余計な詮索をしてきた所だろう。
ただし俺は、一見しただけではそれだとはわかりにくいだろうけどな。昔と格好が違うしもとより顔は地味だし。けどアベルは違う。燃えるような赤い髪と瞳は遠東方人の中でもひときわ目立つ。
彼女がアベル・エトオノという字である事を覚えている人もこの町には多い事だろう。
あ、もしかして逆か?知らないのならこの場合、問題は無いのか?
「昨日完成した封印のセキュリティが動いております」
「セキュリティだぁ?どういう事だ、俺は魔法系はさっぱり分からん」
戦士ヤトはセキュリティという言葉の意味を把握しなかった。しかしサトウハヤトの方でそれが『自己防衛機能』と勝手に翻訳してしまう。魔法技術もペランストラメール側から貪欲に吸収する技術大国、イシュタルでは古代語もフツーに使って来る事があるな。
「わしも余り詳しい方ではありませんが、昨日説明されたばかりだから憶えております。セキュリティとは何でも封印地区に無理に進入しようとする者を自動的に攻撃するという魔法式が組まれているという事で、その仕組みが動いているという状況の様ですぞ」
成る程な、って事は炎の壁(ファイヤーウォール)か。燃え盛る炎を見やって俺は呆れた。
考える事は世界が全然違うのに同じでやんの。
「それで、その魔法式はまだ大丈夫なの?」
部隊長のおっさんはアベルの言葉に頷いた。
「まだ炎が燃えておりますからな、魔法式は壊れておりませんでしょう。しかし脅威はまだ去ってはいない……魔法式が動いたままです故」
「その脅威は何だ?」
「今我々で包囲して取り押さえようとしておりますが……」
ゆるやかにカーブを描き、大きな範囲で囲み込む旧エトオノ闘技場の壁が見えてきた。
壁一面に綴られた謎の模様が赤く発光している。炎を吹き出している区画はもう少し先だ。
「魔導式が動いております、壁にはお触れにならないように!」
「分かってる、」
触った途端炎にやられるってんだろ、こりゃまた大層な仕掛けをしたもんだぜ!
アベルが走りながら、懐かしいであろう『家』の上空を見上げるように首を上げる。
「ヤト!見て!上空に何かいるわ!」
「もちろん上空進入にも対応してるだろ、心配しなくても……」
と言い返しつつも、俺も何かの影が上空を飛び回っているのを見上げる。
長い首をもたげ、勢いよくその影が炎を吐き出した。
「……あれはヒノトだ!て事は……ランドールか!」
平原貴族種のシリアさんが使役している、赤いドラゴン。竜なんてそんなにホイホイ見れるもんじゃねぇ、絶滅危惧種なんじゃねーのかな?少なくとも俺のファースト・ドラゴン・インパクトはアインさんだったし、ドラゴンらしいドラゴンを生で初めて見たのがあのヒノトだと言っても過言ではあるまい。竜っぽいが分類的には大型爬虫類で、しかし名前に竜が付く家畜と、魔王軍とかでたまに見かけるそれっぽい奴はノーカウトとする。
くそ、多少はそうかなぁと想像はしていたがその通り、最悪なパターンだ!奴ら、船なんぞ使わず別の手段で目的地まで高飛びして来やがったに違いない。
転移門か、それともあのドラゴンに乗ってやって来た、とか?それもありうるかもしれない。少なくともナドゥの転移門はイシュタル国本島には開かないはずだってレッドが言ってたもんな。
ヒノトはランドールパーティのシリアが使役しているドラゴンで人を数人乗っけて飛べてウチのチビドラゴンと同じく灼熱のブレスを吐き出す。だが、ウチのと違っておしゃべりはしねぇ。
それがエトオノを覆っているであろう魔法壁に触れないであろう上空を旋回し、何かに向けて炎を吐きかけている。
稀に尻尾や後ろ足が発火するのが見えるが、見えないファイヤーウォールの境界に触れてるのかもしれないな。炎竜であるためかさほどダメージを与えている様子はない。
「誰か乗ってるか?」
「ええ、多分シリアだと思う。でも……何してるのかしらあれ」
「わからん、とりあえず近くにランドールもいるはずだ!現場へ急ぐぞ!」
炎が上げる爆音と、罵声、怒号。そして武器が交差する聞き慣れた金属音が近くなる。
角を曲がった先、辺りに残っている民家や建物に炎が移り赤く燃え上がっている。その炎が照らし出す石畳に、沢山の人が倒れているのにまず俺は、目を奪われた。
ゆるやかにそれを目で追い、奥の方へと進み顔を上げる。
二人、明らかに軍人ではなく私兵……恐らく闘技場から強制徴兵されたと剣闘士だろう者がまるで、紙切れのように切り伏せられた瞬間を目の当たりしてしまう。
剣を抜きはなつ。
歩き出す、足下に倒れる者達を見る。
軍人じゃない、剣闘士だ。元俺の同業者なのは体格を見ただけでわかる。
それらが折り重なるように道々に倒れている。炎が揺らめく中、色の分からない池を作っているのに俺は足を踏み入れ、その水音に剣を握り直して駆けだした。
激しい炎の揺らめく中、黒い影になって立っている男がこちらを見て、笑ったのが見える。
「勇敢だな、ここの兵士は」
相手がこちらを見下していると見て、俺は正面から剣を叩き付けた。勿論、相手も余裕を持って構えているだけあり俺の一撃を正面で受止めている。
「てめぇ、こんな所で何している!」
「……ふん、誰かと思ったら、貴様か!」
ようやく俺が誰なのか認識したように男、ランドールは笑って剣を捻る。
俺と同じような体型のくせになんだ、このクソ強い力は!
ランドール、経歴からして西方人だとずっと思っていたが、黒髪黒目の外見の通り実際の所は南方人、サウターだという話だったな。サウターって事は貴族種が半分混じってる関係で人間よりも基礎能力地は上だ。しかし、だからって先祖返りで圧倒的ポテンシャルを持っているイシュターラーのアベルみたいなバカ力が備わる訳ではない。
こいつは世界に許されている生物の規格上何か、おかしい。
強引に右に剣を捻り伏せられ、俺は一旦ランドールの剣を弾き距離を取る。その隙を伺ってランドールの両端から再び剣闘士が二人斬り掛かっていくのが見えた。
「ばか、止めろ!」
ランドールはそちらを一瞥もせずに大きく剣を振り回し、両側から斬りかかろうとする二人を一瞬で吹き飛ばしてしまった。
剣が触れていない、あれだ、テリーが使ってくる衝撃波に似ている攻撃だ。それを軽く振り回した剣の一振りで発生させるって、人間技か?ゲームじゃねぇんだぞ!
一人は遠くにはじき飛ばされもう一人は、すぐそこにあった『炎の壁』に激突して絶叫を上げる。
ぼん、という低い音がして『炎の壁』に触れてしまったその剣闘士はあっという間に火だるまになって、崩れ落ちた。
「……この野郎……!」
「この通り、ザコにもかかわらず士気も落ちず俺に斬りかかってくる、その勇気は褒めてやってもいい」
「ああ、暴勇だけが剣闘士の取柄だからな」
俺は足下に広がる殺戮の跡に、怒りを腹にため込みながらも何とか冷静を保とうとランドールに向けてそのように答えていた。
「……ランドール」
「いかにも、俺はランドールだ。……貴様はこんな所で何をしている?」
顎を上げ、俺を見下したようにランドールは笑って俺に問いかける。
「それはこっちのセリフだ、貴様はここで何をしている!」
「見ての通りだ、わからんのか」
血で濡れた剣の露を払いのける。
「降りかかる火の粉を払っている」
俺は背後でアベルが構えた事を気配で察し、剣を下段に構え直し、ランドールから視線を逃さずにまだ近くにいるはずである部隊長のおっさんに叫んだ。
「攻撃を止めさせろ、こいつは剣闘士が多数で殴り込んで相手になるような奴じゃねぇ!怪物みたいなもんだ!」
俺の叫びにランドールの顔から笑みが消える。
「エース」
すると、いつの間にか竜顔の魔術師、エース爺さんがランドールの背後に控えていた。
「……そっちはどうだ」
「規模が大きすぎますな、まだ手こずっております」
夜で、光源が揺らめいているのもあって俺にはエース爺さんがどういう顔をしているのかここからは良く見えない。いや、元からフードを被っているし、竜顔の爺さんの表情はわかりにくいんだけど。
「使えん奴だ……」
しかし、ランドールがそのように舌打ちした事に一瞬、エース爺さんがうろたえて俺の方を見たように思える。
ランドールはこの時初めて剣を両手で構えた。
「だから、俺は最初から生ぬるいと言ったんだ」
ぞわりと、俺の背筋を駆け抜ける、この感覚は……恐れだ。
殺気、手に負えないレベルの強烈な気配を少し懐かしく思う。これを喰らったのは一度や二度ではない。
剣闘士時代、どんな強敵と戦ってもここまで凶悪な殺気を浴びせられた事はない。
これは。
ここ最近、知った感覚。
ランドールに剣を振らせると……まずい。
それが何故か、なんて理屈は俺の頭には無い。ただ直感として阻止しなければならない事に思えて剣を構え、走り出していた。
0
あなたにおすすめの小説
喪女だった私が異世界転生した途端に地味枠を脱却して逆転恋愛
タマ マコト
ファンタジー
喪女として誰にも選ばれない人生を終えた佐倉真凛は、異世界の伯爵家三女リーナとして転生する。
しかしそこでも彼女は、美しい姉妹に埋もれた「地味枠」の令嬢だった。
前世の経験から派手さを捨て、魔法地雷や罠といったトラップ魔法を選んだリーナは、目立たず確実に力を磨いていく。
魔法学園で騎士カイにその才能を見抜かれたことで、彼女の止まっていた人生は静かに動き出す。
あざとしの副軍師オデット 〜脳筋2メートル義姉に溺愛され、婚外子から逆転成り上がる〜
水戸直樹
ファンタジー
母が伯爵の後妻になったその日から、
私は“伯爵家の次女”になった。
貴族の愛人の娘として育った私、オデットはずっと準備してきた。
義姉を陥れ、この家でのし上がるために。
――その計画は、初日で狂った。
義姉ジャイアナが、想定の百倍、規格外だったからだ。
◆ 身長二メートル超
◆ 全身が岩のような筋肉
◆ 天真爛漫で甘えん坊
◆ しかも前世で“筋肉を極めた転生者”
圧倒的に強いのに、驚くほど無防備。
気づけば私は、この“脳筋大型犬”を
陥れるどころか、守りたくなっていた。
しかも当の本人は――
「オデットは私が守るのだ!」
と、全力で溺愛してくる始末。
あざとい悪知恵 × 脳筋パワー。
正反対の義姉妹が、互いを守るために手を組む。
婚外子から始まる成り上がりファンタジー。
龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
婚約破棄したら食べられました(物理)
かぜかおる
恋愛
人族のリサは竜種のアレンに出会った時からいい匂いがするから食べたいと言われ続けている。
婚約者もいるから無理と言い続けるも、アレンもしつこく食べたいと言ってくる。
そんな日々が日常と化していたある日
リサは婚約者から婚約破棄を突きつけられる
グロは無し
【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない
朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる