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10~11章後推奨 番外編 ジムは逃げてくれた
◆BACK-BONE STORY『ジムは逃げてくれた -10-』
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◆BACK-BONE STORY『ジムは逃げてくれた -10-』
※これは、10~11章頃に閲覧推奨の、アベル視点の番外編です※
あたしはこんな未来が訪れる事など、全く想像する事が出来ないで居た。
右肩下がりの帳簿を眺めている時でさえまだ楽観的に、状況は一時的な事だろうと、あたしは。
全てが悪意に満ちた計画の一部だと、あたしはこれっぽっちも察する事は出来なかったのだ。
だから突然訪れた墜落の言葉を理解する事が出来ず、その聞こえた音の意味する事が分からずにいて、まるで異国の言語のようにあたしの耳から耳へと突き抜けていった。
唐突に突然の事が起こりすぎた。
でもそれさえ『計画』の一つだったのだろう。その時はただ突然吹き荒れた突風に成す術も無く立ちすくみ、何が起きたのか理解したのは全部片付いてからだと思う。
沢山の事を一気に起こして全体的な混乱を誘う。そうして、騒ぎでボロボロになった所を『連中』は、見事な程の手際でこちらの全てを刈り取ったのだ。
でもそんな、自然災害の様に吹き荒れた嵐の中、あたしが一番最初に選んだのは……病室へ行く事だった。
「ジム!」
つい大声で名前を呼び、そういえば……そんな風に名前を呼ぶ事すら殆ど無かったのだなと今更気が付く。
「……」
しかしジムは返答をしなかった。
出来ない訳ではないのだ。
彼は、したくなかったのだろうと思う。
「……何で、どうして、否定くらいしなさいよ!」
暫く黙って口を閉じて、半身起き上がらせていたジムはあたしには一瞥もくれずに窓の外を見ていた。
「ジム!答えなさい!」
「……こんな所に、何しに来てんだよ、」
低い呟き声の冷たさにあたしはハッとなり、眉を潜めた。
「お前が来るべき所はここじゃないだろ!?お前はここより先に、行くべき場所があるだろう!」
振り返らずに強く、ジムは吐き捨てる。
パパが、死んだ。
エトオノの長アダムが……殺害された。
殺されたという可能性が高いらしいけれど、何が何だか有耶無耶にされていて良く分からない状態だ。
その混乱に乗じて隣のクルエセルが買収を仕掛けてきた。
この大事に、そんな動きに、誰が乗るというのだろう?
だが、それに……カーラスが応じた。
応じてしまった?
違う。
すでにそうなる段取りがついていたのだ。
申し合わせた様に隷属剣闘士達がエトノオ経営陣の管理を逃れ、カーラスの動向に賛同する。
今のエトオノでは喰っていけない、剣闘士達にとって、闘技場の存続は死活問題だ。エトオノを建て直すにはエトオノというブランドに縋っている場合ではない。抱える剣闘士達を『生かす』には、そんな事に拘っている状況では無いというのが、カーラスの主張だった。
それは、つまり……あたしの家が解体されて存在しなくなるって事くらい、分かっている。
堰を切ったように、エトオノを裏切ったカーラスの話に飛びつく、元エトオノファミリー達。パパが、アダム・エトオノが居なければこの闘技場は持ち堪える事が出来ない、そのアダムが何らかの不祥事で殺されたとあってはもう、終わりだ。そう判断したファミリーは……エトオノを、正しくは多分……あたし、アベル・エトオノを見限ったのだ。
あたしはその中でどうすればいいのか分からずに右往左往だった。
すでにずっと前から、カーラスの切り崩し計画は進行していたのだと今更気が付く。
エトオノを敵視していたクルエセルも何やら、色々やっているらしいのはこっそりテリーから聞いてはいたけれど……。
パパを失ってしまって、その血を引いているあたしに何かを期待する人など誰一人いなくって。
今守らなければならないのは抱えていた戦士達の今後だ、それを保証しなければどうなるか。押さえつける手綱が緩んでしまった今、剣闘士達が暴動を起こしてエトオノを、物理的に破壊する事もありえるだろう。そうなってしまえば本格的にエトオノは終わりだわ……政府から、闘技場経営権をはく奪される。
そんな中、クルエセルから差し出された救いの手を受け、元ファミリー達の働き先を確保した様に見えるカーラスに、流れが傾く。元々アイツはあたしの許嫁だ、パパに替わってエトオノを取り仕切って行くはずの男だ。
カーラス、アイツの所為だ。
あたしがようやくそれに気が付いた時、トドメとばかりに届く報告に、私は……今、病室に駆け込んだという訳だ。
パパを殺したのはジムだという噂と、そのジムが規則を破った事で刑罰を受けたという話。
パパの死因は分からない、ジムを疑う訳でもないし、ジムが犯人ではないと信じている訳でもない。
そもそも、まだパパの死に立ち会っても居ないのだ。死んだ、殺されたという話だけが飛び込んで来た。どこでの凶行なのかもわからず、人が居るだろう屋敷に戻ろうとする中暴動が起きて身動きが取れなくなってしまったんだ。
あたしが今、死んでしまったパパの隣に駆け寄る前にここに来た理由は……。
どの話が真実であるのかを確かめる為に、そして正直に彼が『何』で刑罰を受けたのか察してしまった故に心配だったからだ。
だって、死んだ人は何も語らない。死体を見たって欲しい答えは得られないじゃない。
パパの事を確認したくとも何処に居るのか分からないのだもの。だったら、はっきりどこに居るのか分かる奴に事を訊ねた方が良い。
幸い、病室方面は暴動から遠く、近づきやすかった事もある。
……ジムが刑罰を受けた、という話は本当のようだ。
体を起こしているのは彼が覚醒しているから、ではなくって。
背中が傷だらけで、ベッド背を付けて寝る事が出来ないからだ。
あたしに向けられている背中はこの混乱の中、まだ適切な処置も成されていなくて……ずたずたに鞭打たれた傷がそのままになっている。血は、すでに流れていない、痛々しい傷が乾いた血で固められたようになっている。
時間は相当立っているみたいだ、ジムの刑罰による怪我と、パパの死因の因果関係がよく分からない。
あたしは医者の居ない病室から飛び出し、詰所に駆け込んだ。そこでは、どうすればいいのか分からずに額を集めて相談していた医者達が居て、私の姿を見て驚いて顔を上げる。言葉通り、強引に彼らを引っ張って行きながら、ジムの処置をするように頼んだ。
我に返ったように医者の数人が動き出す。
エトオノの長が死んだという話と、経営がクルエセルに渡りそうだという話で自分たちの先を心配していて、きっとジムの事なんか忘れていたんだわ。
怪我人が居ればそれを助けるのが仕事である専属の医者たちは、素早くジムの怪我の程度を見て、消毒やら魔法治癒やらを施して行く。今後どうなるのか良く分からないが、一先ずここで安静にと言い残して彼らは病室から逃げる様に去って行った。
あたしは、それを黙って見ていた。突然静かになって、遠くで聞こえる歓声か、怒号か、何らかの騒音が耳まで届く。
「……噂、変な噂が……あって」
「ああ……信じるかどうかは勝手だが俺じゃぁないぞ。イシュタルトに誓わない殺しなんかもうしない、したくない」
「……ジム」
じゃぁ何が捻じ曲がってそんな、『GMが長を殺した』などという噂になるというのだろう?
あたしは、頭がこんがらがっていて上手く物事を考えられない。
「してやられたな、カーラスに」
ああ、やっぱりそうなのか。全てはアイツの所為なのか。
そう思うも、何故か感情がついて来ない。怒りとか、そういうのを感じて然るべきなのに……なんだか無駄に無気力であたしは、ジムの居る病室の壁際で自分の腕を抱いていた。
「……あたし、」
「逃げろよ、今度こそヤバいぞ」
ジムの冷たい声にあたしは、額を押さえた。
「やだ……あたし、これじゃぁ…………逃げられないじゃない」
「何でだよ」
ようやく振り返り、ジムは少しだけ優しく疑問を投げかけてきた。
「あたし、だって、このまま逃げたら」
「酷い娘だと後ろ指差されるのが怖いのか。父親の死も弔わずに、責任を全て投げ捨てて逃げ出したって、多くの人から妬まれるのが、指を指されて忌まわしいと笑われるのが?」
ジムは笑った。自嘲の笑みだ。
何故彼が自分を笑ったのかあたしには、良くわかる。
酷い奴だと指を指され、多くの人から疎まれて。忌まわしいと笑われて今まで戦ってきたのだ、ジムは。
あたしはそんな境遇にあるジムに同情して、上から見下ろしていた。
今あたしは全てから勝利して上に立つジムを、かつて彼が居た場所から見下ろしている。
「いいじゃないか。逃げればいい。……俺は逃げたんだ」
静かにジムは告げる。
「俺は逃げた。その時俺にはそれしか出来なかったから。だから……逃げ出した先でもう逃げずに戦う事を選んだんだ」
相変わらず前髪に隠された顔があたしを、まっすぐに見ていた。
間違いなくその奥にある緑色の瞳はあたしを見ている。
「今は逃げて、これから逃げずに戦い続ければいい。お前はきっと俺なんかよりずっと強くなるよ」
「でもッ」
「とりあえず……カーラスの取った手段は俺らにとっては都合はいいんだぜ。テリーらと一緒になって企んでいたのは……つまり、こういう事なんだからな」
あたしは、その計画を知らない訳じゃぁなかった。
ジムが常勝を続けた理由、それは彼らが自由になる為じゃない。
自分より上に立つ剣闘士を排除する為だ。その為に強くなり、勝ちを続けて、年季の入った戦士と当たって……必死に食らいつき、彼らを潰していったんだ。
テリーやジムら、若い剣闘士達が結託してやっていたのは、腐敗し始めた闘技場の清浄活動。本来あるべき闘技場の理念を捻じ曲げ、賭博の方向性の強い経営を始めた闘技場が昨今多くなったんだわ、エトオノとクルエセルは特にそれが顕著で、でもだからこそ二大人気の大闘技場と謳われていた。
闇討ち等による裏工作、八百長行為に、勝ち星操作……そう、そういうのが平然とまかり通っていた。あたしもそれは知っていた、でも、そういう汚い部分も内包したものが闘技場の常なのだと思ってたのよ。
でも、それは正しくないのだ、という思想を掲げて結託していた若い集団が居る事も知っていた。
テリーは、そういうのをあたしに隠さなかった。ジムも、あたしに向けては隠す必要は無いだろうと判断してくれた。あたしもまた、そういう風に血気盛んに腐敗経営と戦おうとする動きを傍観していた。
危険思想だとは思わなかったし、それが自分の家に火をつける物だと気が付いていながら、全く危機感を抱いていなかったのよ、理想を掲げて戦うのをどうとも思わない、それで闘技場という頑丈な箱が壊れる事なんて起こるはずもないから可能性すら考えていなかった。
経営の健全化を、神聖なる儀式である闘技の健全化を図ろう。
その為に、不正を働く戦士達を潰して行こう。
エズでの、剣闘士待遇に激しい階層化が起きてるのもあたしは、知っていた。
剣闘士が飽和状態である事、格差があるのは、一部の上位剣士達が闘技場経営者と結託している事だとすでに調べがついていた。つまり……陰での脅し、力や金による八百長、そういうものが剣闘士同士の話ではなく、経営側で一枚噛んでいる事態を……最底辺にある若い剣闘士達が知ってしまっていた。
若くして実力ある者達が、この不正を正そうと唱え始めた。それは、底辺層にあって徹底的に隠されて来た。ジムだけがこういう事をしたのではない。クルエセルではテリーが、そしてこの二人の計画に賛同する多くの若い同士達がそれぞれに努力を重ねたはずだ。
純粋に『戦い』を神聖な儀式として捧げる事が……そうね、美しい……とでも言うのかしら。とにかくそれが美徳というか、唯一この殺伐とした人工の惨劇の中での救いとして輝いて見えたのかもしれない。若い剣闘士達には……ね。
神聖なる戦いを、汚い手段で操作しようとする連中をエズから追い出すにはどうしたらいいのか。
かくして、若くて実力のある剣闘士達は裏でこっそり徒党を組み、対抗すべく方法を模索していた。
それが、ジムが言っている『企み』の事だ、知ってた。あたしは、知っていた。
それで言うなら……。
カーラスは、あれは酷く嫌な奴ではあるけれど。そういう経営の汚い面も当然知っているから、志としてはテリーやジム達と同じだったのかもしれない。今の経営の時に汚いやり口に批判的だったもの、それでもエトオノには逆らえないからと従順なフリをしていたけれど、自分が全面的に切り盛りする時には絶対にこんなことはやらない、とかグチっているのを知っている。
密かに手回しして今のエトノオ経営陣を一気に引きずり下ろして均したのは……クルエセルから唆されたというよりは、そういう意図を早回ししての事 だったりして……。
あたしは途端に思い出したように、その為にパパが死んだという事実を理解する。
今まで『死んだ』という意味をちゃんと理解していなかった。
たった今あたしはそれを理解したかのように、勝手に涙が溢れてきて止まらない。
「……分かった。なんでアンタがパパを殺しただなんて噂が流れたのか」
カーラスの悪意があってそういう悪評が立っている可能性が高いのだろうけれど、でも結局こうやって古い体制を打ち壊そうと戦っていたジムの行動は、終局的には……あたしのパパを殺してしまうという意味に繋がっているんだ。
彼ら若い剣闘士達が密かに描いた計画は、実は……あたしの家を、揺るがないと思っていた箱を壊してしまうものだった。知っていてもそうなる未来に気付く事は無い、だから……テリーはあたしにこの事を隠さずに置いたって事?ジムも、曰くあたしが『あほ』だから、自分の家が壊れる事に、その時が来るまで気が付かないと思っていた?
ジムは……最終的にパパを『殺す』事になるのに気が付いていたのだろうか。戦いバカのコイツは、いずれ自分が買われている箱庭を壊すって事、分かっていたのだろうか?
あふれ出る涙を止められずに懸命に腕で拭った、別に感情に波が立たないのに。涙だけが溢れてくる。
「気が晴れるなら、そういう事にしておいてもいいんだぜ」
「バカ!」
あたしは短く吼えた。
「あんた、どうすんのよ!明日……大大会の決勝戦でしょ?」
混乱の最もたる所以はここかもしれない。
今は、一年で一番重要で一番盛り上がる、そして一番緊張を齎すであろう大大会の真っ最中で、しかも決勝戦を目前と控えていたのだ。
さらに、その舞台に進んだ戦士の一人がジムだという事。
「どうすんの……どうすんのよ!?そんな……怪我負って……相手はテリーじゃないのよ?手を抜いてくれるとは限らないし……」
大大会決勝戦の結末が、不戦勝になるなんていうのは『神聖』な儀式においてありえない。
どんな理由も棄権には至らない。
たとえ選手が死んでいても、その遺体が舞台に上がる。
……エズの大大会における最終決戦とは……そういうもので在るのをあたしは、知っている。
「死んだらそれまでだ。俺はそれをイシュタルトに誓ってるんだからな」
あっさりと言って、何時もの様に笑う。
ジムは変な奴だ、自分の命の危険を顧みない。死を恐れない。
エトオノ闘技場に来た子供の頃から変わらない、普通の人は持ち合わせない、変な特性。
「でも……問題ない」
そしていつでも明るく笑う。
目は相変わらず髪の毛の中に隠れているけれど多分、目は真面目を語っているのだろうと思う。口元を笑わせて極めて明るくいつも言うのだ。
「戦うからには勝つ、勝つ気が無かったら勝てないだろ?」
もうずっと、ずぅっと昔に彼があたしに言った言葉を変わらずに宣言する。
「心配すんなよ」
バカね。
あたしは何故か安心して……涙が止まった事に気が付く。それで今更高ぶる心を押さえつけてあたしは口の中で呟いた。
「誰が、あんたの心配なんか」
それを聞いて、傷の痛みさえ感じさせないほど。
ジムは笑う。
その笑みを見ているとあたしは途端、憎らしくなるのは何故だろう。
その笑みに、あたしはいつしか騙されているから?騙されて安堵してしまうから?
でも、騙せるなら騙して欲しい。
あたしは今、素直にそう思う。
※これは、10~11章頃に閲覧推奨の、アベル視点の番外編です※
あたしはこんな未来が訪れる事など、全く想像する事が出来ないで居た。
右肩下がりの帳簿を眺めている時でさえまだ楽観的に、状況は一時的な事だろうと、あたしは。
全てが悪意に満ちた計画の一部だと、あたしはこれっぽっちも察する事は出来なかったのだ。
だから突然訪れた墜落の言葉を理解する事が出来ず、その聞こえた音の意味する事が分からずにいて、まるで異国の言語のようにあたしの耳から耳へと突き抜けていった。
唐突に突然の事が起こりすぎた。
でもそれさえ『計画』の一つだったのだろう。その時はただ突然吹き荒れた突風に成す術も無く立ちすくみ、何が起きたのか理解したのは全部片付いてからだと思う。
沢山の事を一気に起こして全体的な混乱を誘う。そうして、騒ぎでボロボロになった所を『連中』は、見事な程の手際でこちらの全てを刈り取ったのだ。
でもそんな、自然災害の様に吹き荒れた嵐の中、あたしが一番最初に選んだのは……病室へ行く事だった。
「ジム!」
つい大声で名前を呼び、そういえば……そんな風に名前を呼ぶ事すら殆ど無かったのだなと今更気が付く。
「……」
しかしジムは返答をしなかった。
出来ない訳ではないのだ。
彼は、したくなかったのだろうと思う。
「……何で、どうして、否定くらいしなさいよ!」
暫く黙って口を閉じて、半身起き上がらせていたジムはあたしには一瞥もくれずに窓の外を見ていた。
「ジム!答えなさい!」
「……こんな所に、何しに来てんだよ、」
低い呟き声の冷たさにあたしはハッとなり、眉を潜めた。
「お前が来るべき所はここじゃないだろ!?お前はここより先に、行くべき場所があるだろう!」
振り返らずに強く、ジムは吐き捨てる。
パパが、死んだ。
エトオノの長アダムが……殺害された。
殺されたという可能性が高いらしいけれど、何が何だか有耶無耶にされていて良く分からない状態だ。
その混乱に乗じて隣のクルエセルが買収を仕掛けてきた。
この大事に、そんな動きに、誰が乗るというのだろう?
だが、それに……カーラスが応じた。
応じてしまった?
違う。
すでにそうなる段取りがついていたのだ。
申し合わせた様に隷属剣闘士達がエトノオ経営陣の管理を逃れ、カーラスの動向に賛同する。
今のエトオノでは喰っていけない、剣闘士達にとって、闘技場の存続は死活問題だ。エトオノを建て直すにはエトオノというブランドに縋っている場合ではない。抱える剣闘士達を『生かす』には、そんな事に拘っている状況では無いというのが、カーラスの主張だった。
それは、つまり……あたしの家が解体されて存在しなくなるって事くらい、分かっている。
堰を切ったように、エトオノを裏切ったカーラスの話に飛びつく、元エトオノファミリー達。パパが、アダム・エトオノが居なければこの闘技場は持ち堪える事が出来ない、そのアダムが何らかの不祥事で殺されたとあってはもう、終わりだ。そう判断したファミリーは……エトオノを、正しくは多分……あたし、アベル・エトオノを見限ったのだ。
あたしはその中でどうすればいいのか分からずに右往左往だった。
すでにずっと前から、カーラスの切り崩し計画は進行していたのだと今更気が付く。
エトオノを敵視していたクルエセルも何やら、色々やっているらしいのはこっそりテリーから聞いてはいたけれど……。
パパを失ってしまって、その血を引いているあたしに何かを期待する人など誰一人いなくって。
今守らなければならないのは抱えていた戦士達の今後だ、それを保証しなければどうなるか。押さえつける手綱が緩んでしまった今、剣闘士達が暴動を起こしてエトオノを、物理的に破壊する事もありえるだろう。そうなってしまえば本格的にエトオノは終わりだわ……政府から、闘技場経営権をはく奪される。
そんな中、クルエセルから差し出された救いの手を受け、元ファミリー達の働き先を確保した様に見えるカーラスに、流れが傾く。元々アイツはあたしの許嫁だ、パパに替わってエトオノを取り仕切って行くはずの男だ。
カーラス、アイツの所為だ。
あたしがようやくそれに気が付いた時、トドメとばかりに届く報告に、私は……今、病室に駆け込んだという訳だ。
パパを殺したのはジムだという噂と、そのジムが規則を破った事で刑罰を受けたという話。
パパの死因は分からない、ジムを疑う訳でもないし、ジムが犯人ではないと信じている訳でもない。
そもそも、まだパパの死に立ち会っても居ないのだ。死んだ、殺されたという話だけが飛び込んで来た。どこでの凶行なのかもわからず、人が居るだろう屋敷に戻ろうとする中暴動が起きて身動きが取れなくなってしまったんだ。
あたしが今、死んでしまったパパの隣に駆け寄る前にここに来た理由は……。
どの話が真実であるのかを確かめる為に、そして正直に彼が『何』で刑罰を受けたのか察してしまった故に心配だったからだ。
だって、死んだ人は何も語らない。死体を見たって欲しい答えは得られないじゃない。
パパの事を確認したくとも何処に居るのか分からないのだもの。だったら、はっきりどこに居るのか分かる奴に事を訊ねた方が良い。
幸い、病室方面は暴動から遠く、近づきやすかった事もある。
……ジムが刑罰を受けた、という話は本当のようだ。
体を起こしているのは彼が覚醒しているから、ではなくって。
背中が傷だらけで、ベッド背を付けて寝る事が出来ないからだ。
あたしに向けられている背中はこの混乱の中、まだ適切な処置も成されていなくて……ずたずたに鞭打たれた傷がそのままになっている。血は、すでに流れていない、痛々しい傷が乾いた血で固められたようになっている。
時間は相当立っているみたいだ、ジムの刑罰による怪我と、パパの死因の因果関係がよく分からない。
あたしは医者の居ない病室から飛び出し、詰所に駆け込んだ。そこでは、どうすればいいのか分からずに額を集めて相談していた医者達が居て、私の姿を見て驚いて顔を上げる。言葉通り、強引に彼らを引っ張って行きながら、ジムの処置をするように頼んだ。
我に返ったように医者の数人が動き出す。
エトオノの長が死んだという話と、経営がクルエセルに渡りそうだという話で自分たちの先を心配していて、きっとジムの事なんか忘れていたんだわ。
怪我人が居ればそれを助けるのが仕事である専属の医者たちは、素早くジムの怪我の程度を見て、消毒やら魔法治癒やらを施して行く。今後どうなるのか良く分からないが、一先ずここで安静にと言い残して彼らは病室から逃げる様に去って行った。
あたしは、それを黙って見ていた。突然静かになって、遠くで聞こえる歓声か、怒号か、何らかの騒音が耳まで届く。
「……噂、変な噂が……あって」
「ああ……信じるかどうかは勝手だが俺じゃぁないぞ。イシュタルトに誓わない殺しなんかもうしない、したくない」
「……ジム」
じゃぁ何が捻じ曲がってそんな、『GMが長を殺した』などという噂になるというのだろう?
あたしは、頭がこんがらがっていて上手く物事を考えられない。
「してやられたな、カーラスに」
ああ、やっぱりそうなのか。全てはアイツの所為なのか。
そう思うも、何故か感情がついて来ない。怒りとか、そういうのを感じて然るべきなのに……なんだか無駄に無気力であたしは、ジムの居る病室の壁際で自分の腕を抱いていた。
「……あたし、」
「逃げろよ、今度こそヤバいぞ」
ジムの冷たい声にあたしは、額を押さえた。
「やだ……あたし、これじゃぁ…………逃げられないじゃない」
「何でだよ」
ようやく振り返り、ジムは少しだけ優しく疑問を投げかけてきた。
「あたし、だって、このまま逃げたら」
「酷い娘だと後ろ指差されるのが怖いのか。父親の死も弔わずに、責任を全て投げ捨てて逃げ出したって、多くの人から妬まれるのが、指を指されて忌まわしいと笑われるのが?」
ジムは笑った。自嘲の笑みだ。
何故彼が自分を笑ったのかあたしには、良くわかる。
酷い奴だと指を指され、多くの人から疎まれて。忌まわしいと笑われて今まで戦ってきたのだ、ジムは。
あたしはそんな境遇にあるジムに同情して、上から見下ろしていた。
今あたしは全てから勝利して上に立つジムを、かつて彼が居た場所から見下ろしている。
「いいじゃないか。逃げればいい。……俺は逃げたんだ」
静かにジムは告げる。
「俺は逃げた。その時俺にはそれしか出来なかったから。だから……逃げ出した先でもう逃げずに戦う事を選んだんだ」
相変わらず前髪に隠された顔があたしを、まっすぐに見ていた。
間違いなくその奥にある緑色の瞳はあたしを見ている。
「今は逃げて、これから逃げずに戦い続ければいい。お前はきっと俺なんかよりずっと強くなるよ」
「でもッ」
「とりあえず……カーラスの取った手段は俺らにとっては都合はいいんだぜ。テリーらと一緒になって企んでいたのは……つまり、こういう事なんだからな」
あたしは、その計画を知らない訳じゃぁなかった。
ジムが常勝を続けた理由、それは彼らが自由になる為じゃない。
自分より上に立つ剣闘士を排除する為だ。その為に強くなり、勝ちを続けて、年季の入った戦士と当たって……必死に食らいつき、彼らを潰していったんだ。
テリーやジムら、若い剣闘士達が結託してやっていたのは、腐敗し始めた闘技場の清浄活動。本来あるべき闘技場の理念を捻じ曲げ、賭博の方向性の強い経営を始めた闘技場が昨今多くなったんだわ、エトオノとクルエセルは特にそれが顕著で、でもだからこそ二大人気の大闘技場と謳われていた。
闇討ち等による裏工作、八百長行為に、勝ち星操作……そう、そういうのが平然とまかり通っていた。あたしもそれは知っていた、でも、そういう汚い部分も内包したものが闘技場の常なのだと思ってたのよ。
でも、それは正しくないのだ、という思想を掲げて結託していた若い集団が居る事も知っていた。
テリーは、そういうのをあたしに隠さなかった。ジムも、あたしに向けては隠す必要は無いだろうと判断してくれた。あたしもまた、そういう風に血気盛んに腐敗経営と戦おうとする動きを傍観していた。
危険思想だとは思わなかったし、それが自分の家に火をつける物だと気が付いていながら、全く危機感を抱いていなかったのよ、理想を掲げて戦うのをどうとも思わない、それで闘技場という頑丈な箱が壊れる事なんて起こるはずもないから可能性すら考えていなかった。
経営の健全化を、神聖なる儀式である闘技の健全化を図ろう。
その為に、不正を働く戦士達を潰して行こう。
エズでの、剣闘士待遇に激しい階層化が起きてるのもあたしは、知っていた。
剣闘士が飽和状態である事、格差があるのは、一部の上位剣士達が闘技場経営者と結託している事だとすでに調べがついていた。つまり……陰での脅し、力や金による八百長、そういうものが剣闘士同士の話ではなく、経営側で一枚噛んでいる事態を……最底辺にある若い剣闘士達が知ってしまっていた。
若くして実力ある者達が、この不正を正そうと唱え始めた。それは、底辺層にあって徹底的に隠されて来た。ジムだけがこういう事をしたのではない。クルエセルではテリーが、そしてこの二人の計画に賛同する多くの若い同士達がそれぞれに努力を重ねたはずだ。
純粋に『戦い』を神聖な儀式として捧げる事が……そうね、美しい……とでも言うのかしら。とにかくそれが美徳というか、唯一この殺伐とした人工の惨劇の中での救いとして輝いて見えたのかもしれない。若い剣闘士達には……ね。
神聖なる戦いを、汚い手段で操作しようとする連中をエズから追い出すにはどうしたらいいのか。
かくして、若くて実力のある剣闘士達は裏でこっそり徒党を組み、対抗すべく方法を模索していた。
それが、ジムが言っている『企み』の事だ、知ってた。あたしは、知っていた。
それで言うなら……。
カーラスは、あれは酷く嫌な奴ではあるけれど。そういう経営の汚い面も当然知っているから、志としてはテリーやジム達と同じだったのかもしれない。今の経営の時に汚いやり口に批判的だったもの、それでもエトオノには逆らえないからと従順なフリをしていたけれど、自分が全面的に切り盛りする時には絶対にこんなことはやらない、とかグチっているのを知っている。
密かに手回しして今のエトノオ経営陣を一気に引きずり下ろして均したのは……クルエセルから唆されたというよりは、そういう意図を早回ししての事 だったりして……。
あたしは途端に思い出したように、その為にパパが死んだという事実を理解する。
今まで『死んだ』という意味をちゃんと理解していなかった。
たった今あたしはそれを理解したかのように、勝手に涙が溢れてきて止まらない。
「……分かった。なんでアンタがパパを殺しただなんて噂が流れたのか」
カーラスの悪意があってそういう悪評が立っている可能性が高いのだろうけれど、でも結局こうやって古い体制を打ち壊そうと戦っていたジムの行動は、終局的には……あたしのパパを殺してしまうという意味に繋がっているんだ。
彼ら若い剣闘士達が密かに描いた計画は、実は……あたしの家を、揺るがないと思っていた箱を壊してしまうものだった。知っていてもそうなる未来に気付く事は無い、だから……テリーはあたしにこの事を隠さずに置いたって事?ジムも、曰くあたしが『あほ』だから、自分の家が壊れる事に、その時が来るまで気が付かないと思っていた?
ジムは……最終的にパパを『殺す』事になるのに気が付いていたのだろうか。戦いバカのコイツは、いずれ自分が買われている箱庭を壊すって事、分かっていたのだろうか?
あふれ出る涙を止められずに懸命に腕で拭った、別に感情に波が立たないのに。涙だけが溢れてくる。
「気が晴れるなら、そういう事にしておいてもいいんだぜ」
「バカ!」
あたしは短く吼えた。
「あんた、どうすんのよ!明日……大大会の決勝戦でしょ?」
混乱の最もたる所以はここかもしれない。
今は、一年で一番重要で一番盛り上がる、そして一番緊張を齎すであろう大大会の真っ最中で、しかも決勝戦を目前と控えていたのだ。
さらに、その舞台に進んだ戦士の一人がジムだという事。
「どうすんの……どうすんのよ!?そんな……怪我負って……相手はテリーじゃないのよ?手を抜いてくれるとは限らないし……」
大大会決勝戦の結末が、不戦勝になるなんていうのは『神聖』な儀式においてありえない。
どんな理由も棄権には至らない。
たとえ選手が死んでいても、その遺体が舞台に上がる。
……エズの大大会における最終決戦とは……そういうもので在るのをあたしは、知っている。
「死んだらそれまでだ。俺はそれをイシュタルトに誓ってるんだからな」
あっさりと言って、何時もの様に笑う。
ジムは変な奴だ、自分の命の危険を顧みない。死を恐れない。
エトオノ闘技場に来た子供の頃から変わらない、普通の人は持ち合わせない、変な特性。
「でも……問題ない」
そしていつでも明るく笑う。
目は相変わらず髪の毛の中に隠れているけれど多分、目は真面目を語っているのだろうと思う。口元を笑わせて極めて明るくいつも言うのだ。
「戦うからには勝つ、勝つ気が無かったら勝てないだろ?」
もうずっと、ずぅっと昔に彼があたしに言った言葉を変わらずに宣言する。
「心配すんなよ」
バカね。
あたしは何故か安心して……涙が止まった事に気が付く。それで今更高ぶる心を押さえつけてあたしは口の中で呟いた。
「誰が、あんたの心配なんか」
それを聞いて、傷の痛みさえ感じさせないほど。
ジムは笑う。
その笑みを見ているとあたしは途端、憎らしくなるのは何故だろう。
その笑みに、あたしはいつしか騙されているから?騙されて安堵してしまうから?
でも、騙せるなら騙して欲しい。
あたしは今、素直にそう思う。
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