俺だけアニメの水着回が無限に続く件

暁ノ鳥

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第2章

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「……ん……」

 意識が、ゆっくりと浮上する。

 まず感じたのは、背中に広がる無数の粒子の感触。
 温かく、さらさらとしていて、指を立てれば僅かに沈み込む。
 砂だ、と理解するのに数秒かかった。

 次に、耳をくすぐる単調で心地よいリズム。
 寄せては返す、優しい波の音。
 
 ザァ……、という音と共に、潮の香りが鼻腔を撫でる。
 これは、覚えのある香りだ。
 夏休みに一度だけ行った、田舎の海の匂い。

 そして、瞼の裏側を焦がすような、強烈な光と熱。

「……まぶしっ」

 思わず腕で顔を覆いながら、ゆっくりと目を開ける。

 視界に飛び込んできたのは、どこまでも続くエメラルドグリーンの海と、突き抜けるような青い空。
 白い砂浜が太陽の光を反射して、キラキラと輝いている。
 視線を少し上げれば、切り立った崖の上に、アニメで何度も見た白亜の校舎――マーメイド・アカデミーが、荘厳にそびえ立っていた。

「……え?」

 脳が理解を拒む。
 なんだ、この解像度の高すぎる夢は。

 混乱のまま自分の身体を見下ろして、俺は息を呑んだ。

 そこにあるべき、ヨレヨレのTシャツとスウェットじゃない。
 目に映るのは、日に焼けていない、ひょろりとした自分の腕と、青と白のボーダー柄の海パン。
 手で触れてみれば、ナイロンのつるりとした感触がやけにリアルだ。

「な……んだよ、これ……」
 
 パニックが津波のように押し寄せる。
 俺はついに狂ったのか?
 思考がまとまらず、心臓が警鐘のように激しく鳴り響く。

 その、時だった。

「航太くーん! おっはよー!」

 鼓膜を揺らしたのは、この世のあらゆる美しさを凝縮したような、鈴を転がすような声だった。
 俺が人生で最も多く聞いた、そして最も愛した声。

 バッと顔を上げると、彼女がいた。

 逆光を背に、太陽の化身のように輝きながら、こちらに手を振っている。
 胸元まである、透き通るような水色のセミロングヘアが潮風にふわりと揺れ、左サイドに結われた小さな三つ編みが可憐に踊る。
 深い海の底を思わせる紺碧の瞳が、心配そうに俺を覗き込んでいた。

 そして、その身体。

 身長は162cmと、小柄な部類に入るだろう。
 だが、その肢体は、神が精魂込めて作り上げた最高傑作としか言いようがなかった。

 白地に水色の波模様が描かれたビキニは、彼女の白い肌をさらに際立たせる。
 そして、その布面積の小さいトップが、張り裂けんばかりに盛り上がった豊かな双丘を必死に支えていた。
 公式設定B89。数字だけでは理解しきれなかった、圧倒的な質量と存在感。
 
 谷間に揺れるイルカのチャームが、俺の視線を卑しいまでに釘付けにする。
 キュッとくびれた腰から、柔らかな曲線を描いて広がる腰つき。
 すらりと伸びた足は、まさにカモシカのようだ。

「……ななせ……なみね……」

 俺の唇から、女神の名がこぼれ落ちた。
 そうだ、彼女こそが『マーメイド・アカデミア』の絶対的メインヒロイン、七瀬波音。

 彼女はこてん、と首を傾げ、完璧なヒロインムーブで俺に顔を近づけてくる。
 シャンプーと、太陽と、そして彼女自身の甘い匂いが、俺の理性を焼き切った。

「どうしたの航太くん? まだ寝ぼけてるのー?」
「……っ!」

 脳天を殴られたような衝撃。

 違う。これは夢じゃない。
 夢なら、こんなにリアルな感触も、匂いも、音もない。

 パニックも、混乱も、恐怖も、その笑顔一つでどこかへ吹き飛んでしまった。
 代わりに、腹の底から、マグマのような歓喜が突き上げてくる。

 ――俺は、俺の愛したアニメの世界に、本当に来てしまったんだ!

「なんでもない! ちょっと寝ぼけてただけ!」

 俺はガバッと起き上がり、人生最高の笑顔で答えた。
 もう、どうやって来たかなんてどうでもいい。
 これからどうなるかなんて知ったことか。

 神よ、ありがとう。
 この奇跡を、この楽園を、俺は――登場人物の一人として、骨の髄まで、楽しみ尽くしてやる!

 決意を固めた俺の目の前で、波音は「そっか! よかった!」と、再び太陽のような笑顔を咲かせたのだった。
 
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