2 / 10
第2章
しおりを挟む
「……ん……」
意識が、ゆっくりと浮上する。
まず感じたのは、背中に広がる無数の粒子の感触。
温かく、さらさらとしていて、指を立てれば僅かに沈み込む。
砂だ、と理解するのに数秒かかった。
次に、耳をくすぐる単調で心地よいリズム。
寄せては返す、優しい波の音。
ザァ……、という音と共に、潮の香りが鼻腔を撫でる。
これは、覚えのある香りだ。
夏休みに一度だけ行った、田舎の海の匂い。
そして、瞼の裏側を焦がすような、強烈な光と熱。
「……まぶしっ」
思わず腕で顔を覆いながら、ゆっくりと目を開ける。
視界に飛び込んできたのは、どこまでも続くエメラルドグリーンの海と、突き抜けるような青い空。
白い砂浜が太陽の光を反射して、キラキラと輝いている。
視線を少し上げれば、切り立った崖の上に、アニメで何度も見た白亜の校舎――マーメイド・アカデミーが、荘厳にそびえ立っていた。
「……え?」
脳が理解を拒む。
なんだ、この解像度の高すぎる夢は。
混乱のまま自分の身体を見下ろして、俺は息を呑んだ。
そこにあるべき、ヨレヨレのTシャツとスウェットじゃない。
目に映るのは、日に焼けていない、ひょろりとした自分の腕と、青と白のボーダー柄の海パン。
手で触れてみれば、ナイロンのつるりとした感触がやけにリアルだ。
「な……んだよ、これ……」
パニックが津波のように押し寄せる。
俺はついに狂ったのか?
思考がまとまらず、心臓が警鐘のように激しく鳴り響く。
その、時だった。
「航太くーん! おっはよー!」
鼓膜を揺らしたのは、この世のあらゆる美しさを凝縮したような、鈴を転がすような声だった。
俺が人生で最も多く聞いた、そして最も愛した声。
バッと顔を上げると、彼女がいた。
逆光を背に、太陽の化身のように輝きながら、こちらに手を振っている。
胸元まである、透き通るような水色のセミロングヘアが潮風にふわりと揺れ、左サイドに結われた小さな三つ編みが可憐に踊る。
深い海の底を思わせる紺碧の瞳が、心配そうに俺を覗き込んでいた。
そして、その身体。
身長は162cmと、小柄な部類に入るだろう。
だが、その肢体は、神が精魂込めて作り上げた最高傑作としか言いようがなかった。
白地に水色の波模様が描かれたビキニは、彼女の白い肌をさらに際立たせる。
そして、その布面積の小さいトップが、張り裂けんばかりに盛り上がった豊かな双丘を必死に支えていた。
公式設定B89。数字だけでは理解しきれなかった、圧倒的な質量と存在感。
谷間に揺れるイルカのチャームが、俺の視線を卑しいまでに釘付けにする。
キュッとくびれた腰から、柔らかな曲線を描いて広がる腰つき。
すらりと伸びた足は、まさにカモシカのようだ。
「……ななせ……なみね……」
俺の唇から、女神の名がこぼれ落ちた。
そうだ、彼女こそが『マーメイド・アカデミア』の絶対的メインヒロイン、七瀬波音。
彼女はこてん、と首を傾げ、完璧なヒロインムーブで俺に顔を近づけてくる。
シャンプーと、太陽と、そして彼女自身の甘い匂いが、俺の理性を焼き切った。
「どうしたの航太くん? まだ寝ぼけてるのー?」
「……っ!」
脳天を殴られたような衝撃。
違う。これは夢じゃない。
夢なら、こんなにリアルな感触も、匂いも、音もない。
パニックも、混乱も、恐怖も、その笑顔一つでどこかへ吹き飛んでしまった。
代わりに、腹の底から、マグマのような歓喜が突き上げてくる。
――俺は、俺の愛したアニメの世界に、本当に来てしまったんだ!
「なんでもない! ちょっと寝ぼけてただけ!」
俺はガバッと起き上がり、人生最高の笑顔で答えた。
もう、どうやって来たかなんてどうでもいい。
これからどうなるかなんて知ったことか。
神よ、ありがとう。
この奇跡を、この楽園を、俺は――登場人物の一人として、骨の髄まで、楽しみ尽くしてやる!
決意を固めた俺の目の前で、波音は「そっか! よかった!」と、再び太陽のような笑顔を咲かせたのだった。
意識が、ゆっくりと浮上する。
まず感じたのは、背中に広がる無数の粒子の感触。
温かく、さらさらとしていて、指を立てれば僅かに沈み込む。
砂だ、と理解するのに数秒かかった。
次に、耳をくすぐる単調で心地よいリズム。
寄せては返す、優しい波の音。
ザァ……、という音と共に、潮の香りが鼻腔を撫でる。
これは、覚えのある香りだ。
夏休みに一度だけ行った、田舎の海の匂い。
そして、瞼の裏側を焦がすような、強烈な光と熱。
「……まぶしっ」
思わず腕で顔を覆いながら、ゆっくりと目を開ける。
視界に飛び込んできたのは、どこまでも続くエメラルドグリーンの海と、突き抜けるような青い空。
白い砂浜が太陽の光を反射して、キラキラと輝いている。
視線を少し上げれば、切り立った崖の上に、アニメで何度も見た白亜の校舎――マーメイド・アカデミーが、荘厳にそびえ立っていた。
「……え?」
脳が理解を拒む。
なんだ、この解像度の高すぎる夢は。
混乱のまま自分の身体を見下ろして、俺は息を呑んだ。
そこにあるべき、ヨレヨレのTシャツとスウェットじゃない。
目に映るのは、日に焼けていない、ひょろりとした自分の腕と、青と白のボーダー柄の海パン。
手で触れてみれば、ナイロンのつるりとした感触がやけにリアルだ。
「な……んだよ、これ……」
パニックが津波のように押し寄せる。
俺はついに狂ったのか?
思考がまとまらず、心臓が警鐘のように激しく鳴り響く。
その、時だった。
「航太くーん! おっはよー!」
鼓膜を揺らしたのは、この世のあらゆる美しさを凝縮したような、鈴を転がすような声だった。
俺が人生で最も多く聞いた、そして最も愛した声。
バッと顔を上げると、彼女がいた。
逆光を背に、太陽の化身のように輝きながら、こちらに手を振っている。
胸元まである、透き通るような水色のセミロングヘアが潮風にふわりと揺れ、左サイドに結われた小さな三つ編みが可憐に踊る。
深い海の底を思わせる紺碧の瞳が、心配そうに俺を覗き込んでいた。
そして、その身体。
身長は162cmと、小柄な部類に入るだろう。
だが、その肢体は、神が精魂込めて作り上げた最高傑作としか言いようがなかった。
白地に水色の波模様が描かれたビキニは、彼女の白い肌をさらに際立たせる。
そして、その布面積の小さいトップが、張り裂けんばかりに盛り上がった豊かな双丘を必死に支えていた。
公式設定B89。数字だけでは理解しきれなかった、圧倒的な質量と存在感。
谷間に揺れるイルカのチャームが、俺の視線を卑しいまでに釘付けにする。
キュッとくびれた腰から、柔らかな曲線を描いて広がる腰つき。
すらりと伸びた足は、まさにカモシカのようだ。
「……ななせ……なみね……」
俺の唇から、女神の名がこぼれ落ちた。
そうだ、彼女こそが『マーメイド・アカデミア』の絶対的メインヒロイン、七瀬波音。
彼女はこてん、と首を傾げ、完璧なヒロインムーブで俺に顔を近づけてくる。
シャンプーと、太陽と、そして彼女自身の甘い匂いが、俺の理性を焼き切った。
「どうしたの航太くん? まだ寝ぼけてるのー?」
「……っ!」
脳天を殴られたような衝撃。
違う。これは夢じゃない。
夢なら、こんなにリアルな感触も、匂いも、音もない。
パニックも、混乱も、恐怖も、その笑顔一つでどこかへ吹き飛んでしまった。
代わりに、腹の底から、マグマのような歓喜が突き上げてくる。
――俺は、俺の愛したアニメの世界に、本当に来てしまったんだ!
「なんでもない! ちょっと寝ぼけてただけ!」
俺はガバッと起き上がり、人生最高の笑顔で答えた。
もう、どうやって来たかなんてどうでもいい。
これからどうなるかなんて知ったことか。
神よ、ありがとう。
この奇跡を、この楽園を、俺は――登場人物の一人として、骨の髄まで、楽しみ尽くしてやる!
決意を固めた俺の目の前で、波音は「そっか! よかった!」と、再び太陽のような笑顔を咲かせたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
異世界宇宙SFの建艦記 ――最強の宇宙戦艦を建造せよ――
黒鯛の刺身♪
SF
主人公の飯富晴信(16)はしがない高校生。
ある朝目覚めると、そこは見たことのない工場の中だった。
この工場は宇宙船を作るための設備であり、材料さえあれば巨大な宇宙船を造ることもできた。
未知の世界を開拓しながら、主人公は現地の生物達とも交流。
そして時には、戦乱にも巻き込まれ……。
陰キャの俺が学園のアイドルがびしょびしょに濡れているのを見てしまった件
暁ノ鳥
キャラ文芸
陰キャの俺は見てしまった。雨の日、校舎裏で制服を濡らし恍惚とする学園アイドルの姿を。「見ちゃったのね」――その日から俺は彼女の“秘密の共犯者”に!? 特殊な性癖を持つ彼女の無茶な「実験」に振り回され、身も心も支配される日々の始まり。二人の禁断の関係の行方は?。二人の禁断の関係が今、始まる!
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
天城の夢幻ダンジョン攻略と無限の神空間で超絶レベリング ~ガチャスキルに目覚めた俺は無職だけどダンジョンを攻略してトップの探索士を目指す~
仮実谷 望
ファンタジー
無職になってしまった摩廻天重郎はある日ガチャを引くスキルを得る。ガチャで得た鍛錬の神鍵で無限の神空間にたどり着く。そこで色々な異世界の住人との出会いもある。神空間で色んなユニットを配置できるようになり自分自身だけレベリングが可能になりどんどんレベルが上がっていく。可愛いヒロイン多数登場予定です。ガチャから出てくるユニットも可愛くて強いキャラが出てくる中、300年の時を生きる謎の少女が暗躍していた。ダンジョンが一般に知られるようになり動き出す政府の動向を観察しつつ我先へとダンジョンに入りたいと願う一般人たちを跳ね除けて天重郎はトップの探索士を目指して生きていく。次々と美少女の探索士が天重郎のところに集まってくる。天重郎は最強の探索士を目指していく。他の雑草のような奴らを跳ね除けて天重郎は最強への道を歩み続ける。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる