転生者の破滅フラグは回避して神をも撃破します!

暁ノ鳥

文字の大きさ
28 / 31

第14章:揺れる王都と賢者会議(1)

しおりを挟む
 朝焼けに染まる王都の石畳を、アリシアとガロンが騎士団の目を避けるように進んでいた。
 すでに下町での準備は整い、王都の内部情報を手に入れた彼らは、ついに王と直接面会するチャンスを掴もうとしている。

 下町で連絡を取り合っていた若い騎士・ロイが、「今日、国王と宰相、騎士団上層部、さらに貴族連中が集う『緊急評定』が開かれる。連合軍の動きや賢者学院の動向を協議する名目だが、実際は『レイジ封印』を最終決定する可能性がある」と知らせてくれたのだ。

「そこに割り込めば、王に直接会えるのか?」

 ガロンが低い声で確認する。
 アリシアは少し険しい表情を浮かべ、「割り込むというか、ロイたちが作った小さな抜け道から、私が評定の場に姿を現すという段取りよ。もちろんリスクは高いけど……王に背中を向けたままでは騎士としての誇りを取り戻せないわ」と意を決する。

 ロイからの伝言によれば、会議室周辺の警備は厳しいが、ガロンとアリシアが別々に行動すれば、騎士団を翻弄しながらアリシアだけが王の前に出ることができる――という作戦らしい。

 ガロンは少し不安げに「要するにオレが囮になるわけか」と苦笑する。
 アリシアは恐縮しつつも、「ごめん、でもあなたの腕力がなければ突破できない場面もあるはず。それに、私はあくまでも『談判』しに行くから、あなたが騒ぎを引き受けてくれれば、私が王に会うまでの時間稼ぎになる」と説明。

 ガロンは斧の柄を叩き、「いいぜ。もともとオレは力押ししか能がねえからな。下手に捕まったらすまねえが……まあ、そんときはお前が王を説得して、オレを解放してくれりゃいい」と豪快に笑った。
 アリシアは微かな笑みを浮かべ、「必ず助けるわ」と誓う。

 こうして二人は王宮の付近まで忍び寄る。
 厳重な見張りがいるが、ロイが裏で手配した騎士や侍従がうまく目を逸らしてくれる手はずだという。



 王宮内では、すでにローゼンベルグ王や宰相、貴族、騎士団幹部が『緊急評定』のために集まり始めている。
 長い大廊下には、金色の装飾が施された鎧を纏う騎士たちが立ち並び、厳粛な空気が漂う。

 ここに王が姿を見せれば、議題として『連合軍の軍事圧力』や『レイジ封印の最終決定』が協議されるだろう――騎士団強硬派は「レイジを捕らえて連合軍への盾とし、王国を守る」と提案するかもしれないし、あるいは「早急に処刑する」など極論が出る可能性もある。どの道、レイジにとって危険でしかない。

 ガロンはそれを察知しながらも、あえて廊下の脇を突っ切ろうとする。
 眼光鋭い騎士数名が「そこの男、何者だ?ここは評定の警戒区域だぞ」と声を上げる。
 ガロンは嘲るように微笑み、「オレはただの傭兵さ。ちょっとこの先に用があってな」と無造作に斧を担ぎ直す。

「危険人物だ、取り押さえろ!」

 騎士たちが剣を抜く瞬間、ガロンは斧を一振りして威嚇。

「へっ、オレに触るとケガじゃすまねえぞ?」と挑発し、一気に騎士たちをおびき寄せる。
「今だ……アリシア、行け!」

 ガロンが声を張り上げると、その隙にアリシアは廊下から別の扉へと滑り込む。
 ここを越えれば、評定の場を司る大広間へつながる回廊があるはずだ。

 ガロンは5~6人の騎士を相手に、斧を豪快に振るって派手に闘う。
 騎士たちは「なんだこいつは……!?」と驚きながらも、あまり大騒ぎすると王の耳に入るため、廊下で取り押さえるのに必死だ。

「くくっ、オレを舐めるなよ。お前らみてえなハリボテ騎士団、いくらでも相手してやる!」

 ガロンはわざと声を張り、罵声を飛ばして騎士の注意を引き続ける。
 『アリシアを通すための囮作戦』は順調に機能している。


 アリシアは奥まった回廊を走り抜け、豪奢な二重扉の前にたどり着いた。
 そこには衛兵が2名立っているが、彼らは先ほどの騒ぎに意識が向いており、不意を突かれたかのように驚き「あ……!?」と声を上げるだけ。

「すみません、緊急の進言があるの。通して」

 アリシアは鋭い目を向けて一括するが、衛兵が「馬鹿な、評定中だ!」と剣を抜きかける。
 そこへ、ロイらしき騎士が駆け寄り、「待て、彼女は……!」と止める様子が見える。

 アリシアは一気に意を決し、扉を押し開く。
 その先に広がるのは豪華な大広間で、玉座のような席に王、周囲に宰相や貴族たちが集い、奥には騎士団の上層部が控えている。
 まさにこれから評定が始まるかというタイミングのようだ。

「陛下!」

 アリシアが声を張り上げ、大広間中の視線を一身に集める。
 一瞬の沈黙の後、宰相が驚愕の面持ちで「アリシア・ヴァイス!?」と叫ぶ。
 騎士団幹部も激昂し、「王の面前に無礼者!」「捕縛せよ!」と怒声が飛ぶ。

 王は金茶色の髪を短く整えたまだ若い姿で、冷たい眼差しをアリシアに向ける。
 アリシアは険しい息をつきながら、騎士としての礼をわずかに取り、真剣に言葉を放つ。

「陛下、私はレイジと辺境へ赴きましたが、彼の力が『破滅』ではなく『再生』に転じた証拠を掴みました。――暴走の恐れは大幅に消え、命輝石を救う方法すらあります。どうか耳を傾けてください!」

 宰相や幹部たちは口々に「嘘だ」「破滅の魔術師がそんな都合よく変わるはずがない」と罵声を浴びせる。
 アリシアは動揺に耐えながらも、ここで引くわけにはいかない。

「私が騎士の誇りに賭けて言います。レイジはもう世界を壊す存在ではありません! あえて封印や処刑などせず、協力を得る道を開けば、王国と連合軍の対立も和らげられます。――どうか、陛下、私の話を聞いてください!」

 王は目を細め、口元を引き結んだまま沈黙する。
 騎士団強硬派が「陛下、お聞きになる必要はありません! 即刻こいつを捕らえて真実を吐かせるべきです!」と詰め寄る。
 宰相も同調するように、「そうです。裏切り者に何の信用があります?」と言うが、王は手を挙げて静止した。

「……あまり大声を出すな。――アリシア、貴様がそこまで言うなら、少し時間を与えよう。私も連合軍の脅威や、学院の動向に悩んでいる。レイジが『再生』をもたらすと言い切る根拠があるなら、ここで話してみろ」

 会場に緊張が走る。
 アリシアは深呼吸し、ロイの姿を確認しながら一歩前に進む。


 一方、賢者学院では約束の日が来て、『賢者会議』が開かれようとしていた。
 広々とした大講堂に学院所属の賢者たちが席を取り、王国代表や連合軍からの数名の使者も座している。
 長老や評議員が壇上に控え、中央にはセトとリオネが立つ。
 そして、レイジは控室に待機している形だ。

 会場はざわめきに包まれている。
 封印派の賢者は「異界の破滅魔術師を連れてくるなんて、正気の沙汰か!」と怒り、中立派は「もし本当に破滅が回避できるなら研究する意義は大きい」と冷静に構え、興味派は「これは歴史的な魔術革命かもしれんぞ」と目を輝かせている。

 連合軍使者は仏頂面で沈黙を守り、「レイジを拘束し連合軍で管理すべき」と考えているようにも見える。
 王国の代理人は、王が差し向けた若い官吏らしき人物が出席しているが、彼はまだ動きを見せていない。
 壇上で長老が杖を突き、静かに会議の開始を告げる。

「諸君、かねてより問題となっている『レイジ』の取り扱いについて、本日は重大な報告がある。――賢者学院の研究者セトが『再生理論』を発表すると申し出ておる。まずはそれを聞こうじゃないか」

 セトは喉を鳴らして緊張を吐き出し、「はい。私は賢者学院所属の研究者、セト・ノースフィールドです。これから、『レイジの魔力が世界を破滅に導かず、むしろ命輝石を再生させる』という学術的根拠を示したいと思います」と口火を切る。


 セトは天才研究者としての面目躍如、長い巻物や図表を用意し、施療院での事例や精霊王との邂逅に基づいた魔力循環の分析を説明する。

 レイジが従来は『無尽蔵の魔力』を暴走させ、命輝石を奪う形だったが、今は精霊王の加護で魔力を循環し、世界へ還元する仕組みが働いている。

 施療院での治療実績として、多数の重傷者を回復に導いた記録があり、その際命輝石に損傷は見られず、むしろ微弱に活性化の傾向がある。

  今後、さらに大規模な研究を進めれば、戦乱で苦しむ人々を救い、世界全体の命輝石再生を後押しする可能性が高い。

 封印派の賢者が声を荒らげて「そんな都合のいい話があるか!どうせ一時的な錯覚だろう」と反論するが、リオネが笑顔で前に出る。

「私は『共鳴の歌』でレイジくんの魔力を補助してきました。実際に施療院でどれだけの人を救ったか、スタッフの署名入りの書類もあります。ここに証拠が――」

 そう言って差し出した文書を、長老が受け取り、評議員たちに回す。
 そこには施療院の代理医師やスタッフが書いた「レイジの魔力による治癒実績レポート」が克明に記されている。
 会場がざわつく。

「こんなに多くの患者が……」
「魔力が『破滅』でなく、回復に使われたと……?」

 連合軍使者は腕を組み、「だが、連合軍が受けた被害をどう償う? レイジは闇商人との争いでも爆炎を振るったはずだ」と食い下がる。
 リオネは言葉を選びながら、「あれは戦闘のやむを得ない場面でしたが、いまはむしろ闇商人の破壊を阻止している立場です。殺戮を好んで行うのではなく、世界を守るために戦ったのです」と答える。


 そんな中、長老が合図し、レイジが壇上へ姿を現す。
 あちこちから一斉にどよめきが起こり、「あの『破滅の魔術師』が!」「危険だ、騎士団を呼べ!」など、場が騒然となる。

 長老が杖を鳴らし、「静粛に。ここは学院の会議じゃ。無用な私的暴力は許さん。――レイジ、そなたが『再生』に転じた真相を自ら語るがよい」と促す。

 レイジは冷や汗を浮かべつつ深呼吸し、「はい……。俺はかつて、暴走しかけて世界を壊す寸前でした。でも、仲間が止めてくれた。精霊王との邂逅で力を制御する術を学び、施療院などで人々を救う活動をしてきました。もう、封印や処刑の必要はないんです……」と訴える。

 すると、封印派の中心人物と思しき老賢者が立ち上がり、「偽りだ!破滅の魔術師は騙しているだけだ。精霊王の力を『乗っ取る』可能性がある。王国が『レイジ封印』を決めようとしているのに、学院だけが勝手な判断をしてよいのか!」と非難を浴びせる。

 数名の賢者が一斉に「そうだ、レイジを封印しろ」「今すぐ拘束しなければ!」と声を上げ、壇上へ詰め寄る。

 リオネが「やめて!」と叫ぶが、勢いは止まらない。
 誰かが魔道具を手に取り、封印呪文の陣を敷こうとする。

「やはり、こうなるか……」

 セトが青ざめるが、そのとき長老が強い魔力で結界を展開し、封印派の勢いを制止した。

「静まれ!ここは学術を論じる場、議論無く暴力に訴えるのは学院の方針に反する!」と鋭い口調で怒鳴る。

 封印派が怯む中、長老はレイジに目をやり、「……レイジ、そなたが暴走しない証拠をここで示せるか?」と投げかける。

 レイジは一瞬躊躇し、「そんな大規模魔法は使えませんが、小さな回復魔法なら……」と手のひらをかざす。
 すると封印派の老賢者が「ほら見ろ、魔力を使い始めた!」と叫び、警戒態勢を取る。

 だが、レイジは深い息をつき、落ち着いた態度で切り傷を負った賢者に向け、穏やかな回復魔法を施す。
 『世界を蝕む』どころか、その場に柔らかな光が広がり、傷がふさがる。

「う……うそだろ?痛みが消えた……」

 怪我した賢者が驚嘆の声を上げる。
 封印派も言葉を失い、会場全体に沈黙が落ちる。
 レイジの魔力が以前の破壊的な波動を感じさせないことが、誰の目にも明らかになったのだ。

「……どうやら、ただのデマではないようじゃな」

 長老が納得しかけた瞬間、大講堂の扉が乱雑に開き、騎士の甲冑を着た男と連合軍の士官らしき数名が現れる。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~

ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。 休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。 啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。 異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。 これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

【最強モブの努力無双】~ゲームで名前も登場しないようなモブに転生したオレ、一途な努力とゲーム知識で最強になる~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
アベル・ヴィアラットは、五歳の時、ベッドから転げ落ちてその拍子に前世の記憶を思い出した。 大人気ゲーム『ヒーローズ・ジャーニー』の世界に転生したアベルは、ゲームの知識を使って全男の子の憧れである“最強”になることを決意する。 そのために努力を続け、順調に強くなっていくアベル。 しかしこの世界にはゲームには無かった知識ばかり。 戦闘もただスキルをブッパすればいいだけのゲームとはまったく違っていた。 「面白いじゃん?」 アベルはめげることなく、辺境最強の父と優しい母に見守られてすくすくと成長していくのだった。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...