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第15章(最終章):神の実験の終焉(1)
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王都の門前、豪奢な車列が続き、学院の馬車や賢者軍団、さらに王国騎士団が警護にあたっている。
レイジはセトやリオネ、長老と共に馬車に乗り、町の様子を窓越しに見つめながら複雑な胸中を抱く。
リオネが少し不安げに笑い、「大丈夫よ、いまは学院公認だし、王から正式に招集がかかってるもの。危険はあっても、アリシアさんがちゃんと動いてくれるわ」と励ます。
セトは書類の束を確認しながら、「会議場で『再生理論』を詳細に示せば、王も封印を撤回するはずだ。連合軍の偵察隊も『世界が救われる』となれば安易に戦端は開けないだろう。……ただ、ユダが何を仕掛けてくるか分からないな」と険しい顔をする。
一方、アリシアとガロンは王宮前で待機。
アリシアは胸の奥が熱くなるのを感じつつ、レイジの馬車が到着するのを見て、静かに息を呑む。
ガロンは斧を片手に「やっと合流だな。王の前で下手打たなきゃいいが」と呟くが、内心は嬉しそうだ。
二人は馬車を降りたレイジらに歩み寄り、ほぼ同時に言葉を交わす。
「……無事で何より、レイジ」
「うん。アリシアさんも王都で説得してくれたんだって……ありがとう」
ぎこちなくも、視線には確かな信頼が宿っている。
ほんの少し前まで「排除と逃亡」の関係だった二人だが、いまは互いを守り合う仲間として再会できたのだ。
ガロンがレイジの頭を軽くなぐって「お前、暴走しなくなったならよかったな! オレが斧を振るう手間が減る」とからかい、リオネが「ふふ、あなたも王都で荒っぽくしないように」と笑う。
セトとアリシアは軽く頷き合い、「長老や王もすでに準備は進んでるわ。やり方を誤れば騎士団から捕縛命令が下る可能性もあるけど、私が全力で止める」と言葉を交わす。
長老は小さく溜息をつき、「わしも学院を代表して『破滅封印』より『再生共闘』が有益と主張する。王を納得させるのに手腕が問われるな」と呟く。
王宮の大広間には、玉座にローゼンベルグ王、隣に宰相、左右を取り囲むように貴族・騎士団幹部・学問の代表者、そして連合軍の特使が列席している。
今回の『会合』は、表向きは「連合軍との緊張緩和とレイジの扱い」を議題にしているが、裏では『闇商人の横行』と『学院の再生理論』が主眼となっている。
王は整然とした態度を保ちながら、アリシアらを眺める。
「……そなたたちが学院側と合流したのか」
アリシアが深く一礼して答える。
「はい、陛下。賢者学院の長老とセト、そしてレイジをお連れしました。すでに学院では『封印ではなく再生』を目指す研究が進んでおり、多くの賢者が協力的です。どうか陛下にも、その成果を聞いていただきたい」
王は面持ちを変えず、「話は聞こう。だが、連合軍の特使や騎士団の上層部が納得できるかどうか、分からんぞ?」と低く言う。
宰相が王を制し、「はい、まずは学院の代表が何を申すか、聞いてみましょう。連合軍の特使も来ておりますので、双方の意見を伺ったうえで決定を下すのがよろしいかと」と場を仕切る。
騎士団強硬派の幹部や一部貴族は明らかに不満げな顔をしているが、ユダが今はここにいないためか、一旦は収まり会議が始まる。
賢者学院の長老が杖を突き、厳かな声で口を開く。
「王よ、賢者学院としては『レイジ封印』を不要と判断し、『再生理論』を学問として進めるべきという結論に至りました。すでに本学院ではレイジが暴走せず命輝石を循環活性化させる事例を複数確認しています。これを無碍に封印するのは、世界にとって大損失……」
そこで宰相が口を挟み、「しかし、賢者学院は王国の法を逸脱して、勝手にレイジを保護しているのではありませんか? そんな行為を見過ごせば、王の威光が失墜しますぞ」と強い調子で反論する。
セトが冷静に応じる。
「宰相殿、私たちは王国を否定しているのではなく、王国に利する手立てを求めているんです。もしレイジの力を上手く使えば、闇商人の被害や連合軍の脅威も和らげられる可能性がある。むやみに封印すれば、戦乱の火種がますます大きくなるだけかもしれません」
連合軍特使も声を張る。
「ふん、しかし我が連合としては、レイジが王国の味方になれば脅威です。つまり、学院が彼を『兵器』として鍛えるのではないかと疑っている。やはり我々の管理下に置くべきだ」
会場が一斉にざわめき、激しい意見が飛び交う。
王は「静まれ」と制し、次にレイジへ視線を向ける。
「お前はどうしたい? 王国に尽くすのか、連合に渡るのか、それとも賢者学院に引きこもるのか……」
レイジは少し緊張を浮かべつつ、はっきり答える。
「俺はどこにも属するつもりはありません。ただ、この世界を救うために『再生の力』を使いたいだけなんです。王国や連合軍が協力してくれるなら、分け隔てなく手を差し伸べます。――国とか政治とかではなく、人々を守りたいだけです」
王は軽く目を見開き、宰相や貴族たちが「甘い!」「どこまでも独善的だ!」と糾弾するが、アリシアが声を上げる。
「陛下、私に『監視役』を任せると言いましたよね? だったらレイジは王国への脅威にならないと保証できます。むしろ、連合軍との戦争を回避する切り札になるんです!」
ガロンも大声で補足。
「レイジは破滅じゃなく、暴走もしねえ。オレが付き合ってみりゃ分かるが、こいつは人助けばかり考えてるバカだ。騎士や軍が理解してくれりゃ、簡単に『利用』じゃなく『協力』ができるって話だろうが!」
その時、王宮の外で急な騒ぎが起こる。
「闇商人が大軍勢を率いて王都を襲撃している!」という報告が飛び込んできたのだ。
連合軍や騎士団も驚愕し、「何だと?闇商人がこんな大規模に……?」と混乱する。
宰相は慌て、「賊如きに大軍勢? まさかユダ・ブラッディが正面から王都を攻めるというのか!?」と声を上げ、騎士団強硬派は「い、いかん、連合軍と結託してるのでは……」と恐怖する。
連合特使も「我々の軍とは関係ない!」と否定する。
そこへ甲冑を鳴らしながら衛兵が駆け込み、「ユダの私兵が外郭で騎士団と交戦を開始……!自称『破滅を降す救世主』を名乗っているとか、混乱を煽って王都を陥落させると言ってる……」と報告する。
レイジは「そんな馬鹿な……」と呟く。
『破滅を降す救世主』――まさにレイジへの皮肉な称号だ。
ユダが嘘を振りかざし、自分こそ『本物のレイジだ』とでも吹聴しているのかもしれない。
王は怒りで顔を歪め、「ユダの思惑がここまでか!騎士団を総動員して迎撃しろ!……いや、連合軍に背後を突かれる恐れもあるぞ……どうする……」と悩む。
するとアリシアとガロンが同時に声を上げる。
「我々が出ます! ユダの私兵など、実際はそこまで規律もないでしょう!」
騎士団の幹部たちが「勝手はさせん!」と止めようとするが、王が「待て、アリシアは私の名のもとに動くのだ。ガロンと共に敵を探り、もしユダが本当に破滅を起こそうとしているなら止めてこい!」と命じる。
アリシアは敬礼し、「はい、必ず王都を守ります。その上で、レイジが破滅の象徴ではないと証明してみせます!」と気迫を込めた声を放つ。
ここで賢者学院側(長老やセト)が「我々も協力を。王都が混乱すれば学院も無事でいられない」と申し出る。
王は少し躊躇うが、宰相が「もはや一大事です。学院と連携してユダを鎮圧するほうが得策でしょう」と助言。
結果、王が『学院との共同戦線』を承認する流れとなった。
レイジは騎士団上層部の視線に一瞬怯むが、王の威令が下される以上、封印は現段階で保留。
「お前の力が本当に再生へ向いたなら証明してみせろ。ユダを止めてみせるがいい」と冷たい命令を受ける。
レイジは静かに頷く。
「分かりました。ユダの破滅を煽る行為を止めなきゃならない。王都を守ります!」
王都外郭へ急行したアリシア・ガロン、レイジ・セト・リオネ、さらに王国騎士団や学院の賢者たちが合流し、ユダの私兵が包囲する場所へ向かう。
そこは広大な市場跡で、密集した倉庫や路地が多く、闇商人の拠点として使われていたらしい。
そびえ立つ壁の上から、不気味な男の笑い声が響く。
「やあ、王都の皆さん、初めまして。私は『破滅の救世主』だ。レイジなどという偽物に騙される愚かな世界に『本当の破滅』を届けに来たのさ!」
その男は黒い礼服に身を包んだユダ・ブラッディだ。
顔におぞましいほどの嘲笑を浮かべ、背後に多数の私兵が控えている。
禁呪や魔道爆弾を携えた者も少なくないようだ。
さらに、複数の連合軍装備らしき兵が混ざっている――ユダが金と偽情報で取り込んだ連合軍の裏切り兵かもしれない。
「くそ……ユダが直接出てきたか!」
ガロンが斧を構え、アリシアは厳しい眼差しで「破滅の救世主? ふざけないで……レイジを陥れるためにそんな茶番を」と憤る。
そこへレイジとセトが合流。
「ユダ……!」レイジは名前を呼び、相手を睨む。
ユダは優雅にお辞儀するかたちをとり、「ああ、レイジくん。久しぶりだね。君が再生だなんて面白くもない。ならば私が『破滅』を成し遂げましょう。世界が混沌に陥れば、商機は無限大だからね」と薄笑いを浮かべる。
リオネが悲痛な声で「世界を壊すなんて、あなたには何の得があるの!? こんな狂気をやめて……」と叫ぶが、ユダは首をかしげる。「得? もちろん得があるよ。戦争、崩壊、混沌……それらが市場を最大限に動かす。私には金の流れこそが人生のすべてさ」
セトが唇を噛み、「ユダめ、連合軍にも騎士団内部にも手を回し、この王都を戦火に巻き込む気だ……」と声を震わせる。
すでに一部の騎士団兵もユダと内通し、物資や禁呪を取引しているらしい。
その裏証拠を掴もうと王や学院が動き始めたが間に合わなかった。
ユダは高笑いを響かせ、「そう、私には仲間がたくさんいるよ。連合軍の強硬派も私の兵器を買いたいと言うし、王国の腐敗騎士も金次第で寝返る。世界が滅びるかどうかなんて関係ないのさ。レイジくん、君もまだ『破滅』を望めば金になるのだがね?」と挑発を投げかける。
レイジは歯を食いしばり、「断る。世界を壊したくなんてない。あなたの商売を終わらせるよ、ここで!」と強い口調で応じる。
私兵がわらわらと武器を構え、王都&学院連合軍が武装を整える。
辺りは一触即発の大規模戦闘の様相だ。
アリシアは騎士仲間を鼓舞し、「破滅を煽る闇商人を放置すれば、王都と国民が犠牲になる。彼らを止める!」と声を上げる。
ガロンも「まとめて斧で片付けてやる」と気勢を上げる。
レイジはアリシアの姿を横目に、内心の恐れを振りほどく。
「暴走はしない。もう、『再生の力』で守り抜くんだ……!」と決意した。
いよいよ交戦が始まろうとしたその刹那、レイジの頭の奥に微かに響く声があった。
「観察は続いているぞ……。お前がどう振る舞おうと、人間同士の争いは終わらないのではないか?」
神の冷笑が記憶をかすめる。
レイジは胸を苦しめられながらも、強く目を閉じ、「……違う。俺はここで終わらせる。世界を滅ぼすのは、人の欲かもしれないけど、それを止めるのもまた人の意思なんだ!」と心の中で叫んだ。
レイジはセトやリオネ、長老と共に馬車に乗り、町の様子を窓越しに見つめながら複雑な胸中を抱く。
リオネが少し不安げに笑い、「大丈夫よ、いまは学院公認だし、王から正式に招集がかかってるもの。危険はあっても、アリシアさんがちゃんと動いてくれるわ」と励ます。
セトは書類の束を確認しながら、「会議場で『再生理論』を詳細に示せば、王も封印を撤回するはずだ。連合軍の偵察隊も『世界が救われる』となれば安易に戦端は開けないだろう。……ただ、ユダが何を仕掛けてくるか分からないな」と険しい顔をする。
一方、アリシアとガロンは王宮前で待機。
アリシアは胸の奥が熱くなるのを感じつつ、レイジの馬車が到着するのを見て、静かに息を呑む。
ガロンは斧を片手に「やっと合流だな。王の前で下手打たなきゃいいが」と呟くが、内心は嬉しそうだ。
二人は馬車を降りたレイジらに歩み寄り、ほぼ同時に言葉を交わす。
「……無事で何より、レイジ」
「うん。アリシアさんも王都で説得してくれたんだって……ありがとう」
ぎこちなくも、視線には確かな信頼が宿っている。
ほんの少し前まで「排除と逃亡」の関係だった二人だが、いまは互いを守り合う仲間として再会できたのだ。
ガロンがレイジの頭を軽くなぐって「お前、暴走しなくなったならよかったな! オレが斧を振るう手間が減る」とからかい、リオネが「ふふ、あなたも王都で荒っぽくしないように」と笑う。
セトとアリシアは軽く頷き合い、「長老や王もすでに準備は進んでるわ。やり方を誤れば騎士団から捕縛命令が下る可能性もあるけど、私が全力で止める」と言葉を交わす。
長老は小さく溜息をつき、「わしも学院を代表して『破滅封印』より『再生共闘』が有益と主張する。王を納得させるのに手腕が問われるな」と呟く。
王宮の大広間には、玉座にローゼンベルグ王、隣に宰相、左右を取り囲むように貴族・騎士団幹部・学問の代表者、そして連合軍の特使が列席している。
今回の『会合』は、表向きは「連合軍との緊張緩和とレイジの扱い」を議題にしているが、裏では『闇商人の横行』と『学院の再生理論』が主眼となっている。
王は整然とした態度を保ちながら、アリシアらを眺める。
「……そなたたちが学院側と合流したのか」
アリシアが深く一礼して答える。
「はい、陛下。賢者学院の長老とセト、そしてレイジをお連れしました。すでに学院では『封印ではなく再生』を目指す研究が進んでおり、多くの賢者が協力的です。どうか陛下にも、その成果を聞いていただきたい」
王は面持ちを変えず、「話は聞こう。だが、連合軍の特使や騎士団の上層部が納得できるかどうか、分からんぞ?」と低く言う。
宰相が王を制し、「はい、まずは学院の代表が何を申すか、聞いてみましょう。連合軍の特使も来ておりますので、双方の意見を伺ったうえで決定を下すのがよろしいかと」と場を仕切る。
騎士団強硬派の幹部や一部貴族は明らかに不満げな顔をしているが、ユダが今はここにいないためか、一旦は収まり会議が始まる。
賢者学院の長老が杖を突き、厳かな声で口を開く。
「王よ、賢者学院としては『レイジ封印』を不要と判断し、『再生理論』を学問として進めるべきという結論に至りました。すでに本学院ではレイジが暴走せず命輝石を循環活性化させる事例を複数確認しています。これを無碍に封印するのは、世界にとって大損失……」
そこで宰相が口を挟み、「しかし、賢者学院は王国の法を逸脱して、勝手にレイジを保護しているのではありませんか? そんな行為を見過ごせば、王の威光が失墜しますぞ」と強い調子で反論する。
セトが冷静に応じる。
「宰相殿、私たちは王国を否定しているのではなく、王国に利する手立てを求めているんです。もしレイジの力を上手く使えば、闇商人の被害や連合軍の脅威も和らげられる可能性がある。むやみに封印すれば、戦乱の火種がますます大きくなるだけかもしれません」
連合軍特使も声を張る。
「ふん、しかし我が連合としては、レイジが王国の味方になれば脅威です。つまり、学院が彼を『兵器』として鍛えるのではないかと疑っている。やはり我々の管理下に置くべきだ」
会場が一斉にざわめき、激しい意見が飛び交う。
王は「静まれ」と制し、次にレイジへ視線を向ける。
「お前はどうしたい? 王国に尽くすのか、連合に渡るのか、それとも賢者学院に引きこもるのか……」
レイジは少し緊張を浮かべつつ、はっきり答える。
「俺はどこにも属するつもりはありません。ただ、この世界を救うために『再生の力』を使いたいだけなんです。王国や連合軍が協力してくれるなら、分け隔てなく手を差し伸べます。――国とか政治とかではなく、人々を守りたいだけです」
王は軽く目を見開き、宰相や貴族たちが「甘い!」「どこまでも独善的だ!」と糾弾するが、アリシアが声を上げる。
「陛下、私に『監視役』を任せると言いましたよね? だったらレイジは王国への脅威にならないと保証できます。むしろ、連合軍との戦争を回避する切り札になるんです!」
ガロンも大声で補足。
「レイジは破滅じゃなく、暴走もしねえ。オレが付き合ってみりゃ分かるが、こいつは人助けばかり考えてるバカだ。騎士や軍が理解してくれりゃ、簡単に『利用』じゃなく『協力』ができるって話だろうが!」
その時、王宮の外で急な騒ぎが起こる。
「闇商人が大軍勢を率いて王都を襲撃している!」という報告が飛び込んできたのだ。
連合軍や騎士団も驚愕し、「何だと?闇商人がこんな大規模に……?」と混乱する。
宰相は慌て、「賊如きに大軍勢? まさかユダ・ブラッディが正面から王都を攻めるというのか!?」と声を上げ、騎士団強硬派は「い、いかん、連合軍と結託してるのでは……」と恐怖する。
連合特使も「我々の軍とは関係ない!」と否定する。
そこへ甲冑を鳴らしながら衛兵が駆け込み、「ユダの私兵が外郭で騎士団と交戦を開始……!自称『破滅を降す救世主』を名乗っているとか、混乱を煽って王都を陥落させると言ってる……」と報告する。
レイジは「そんな馬鹿な……」と呟く。
『破滅を降す救世主』――まさにレイジへの皮肉な称号だ。
ユダが嘘を振りかざし、自分こそ『本物のレイジだ』とでも吹聴しているのかもしれない。
王は怒りで顔を歪め、「ユダの思惑がここまでか!騎士団を総動員して迎撃しろ!……いや、連合軍に背後を突かれる恐れもあるぞ……どうする……」と悩む。
するとアリシアとガロンが同時に声を上げる。
「我々が出ます! ユダの私兵など、実際はそこまで規律もないでしょう!」
騎士団の幹部たちが「勝手はさせん!」と止めようとするが、王が「待て、アリシアは私の名のもとに動くのだ。ガロンと共に敵を探り、もしユダが本当に破滅を起こそうとしているなら止めてこい!」と命じる。
アリシアは敬礼し、「はい、必ず王都を守ります。その上で、レイジが破滅の象徴ではないと証明してみせます!」と気迫を込めた声を放つ。
ここで賢者学院側(長老やセト)が「我々も協力を。王都が混乱すれば学院も無事でいられない」と申し出る。
王は少し躊躇うが、宰相が「もはや一大事です。学院と連携してユダを鎮圧するほうが得策でしょう」と助言。
結果、王が『学院との共同戦線』を承認する流れとなった。
レイジは騎士団上層部の視線に一瞬怯むが、王の威令が下される以上、封印は現段階で保留。
「お前の力が本当に再生へ向いたなら証明してみせろ。ユダを止めてみせるがいい」と冷たい命令を受ける。
レイジは静かに頷く。
「分かりました。ユダの破滅を煽る行為を止めなきゃならない。王都を守ります!」
王都外郭へ急行したアリシア・ガロン、レイジ・セト・リオネ、さらに王国騎士団や学院の賢者たちが合流し、ユダの私兵が包囲する場所へ向かう。
そこは広大な市場跡で、密集した倉庫や路地が多く、闇商人の拠点として使われていたらしい。
そびえ立つ壁の上から、不気味な男の笑い声が響く。
「やあ、王都の皆さん、初めまして。私は『破滅の救世主』だ。レイジなどという偽物に騙される愚かな世界に『本当の破滅』を届けに来たのさ!」
その男は黒い礼服に身を包んだユダ・ブラッディだ。
顔におぞましいほどの嘲笑を浮かべ、背後に多数の私兵が控えている。
禁呪や魔道爆弾を携えた者も少なくないようだ。
さらに、複数の連合軍装備らしき兵が混ざっている――ユダが金と偽情報で取り込んだ連合軍の裏切り兵かもしれない。
「くそ……ユダが直接出てきたか!」
ガロンが斧を構え、アリシアは厳しい眼差しで「破滅の救世主? ふざけないで……レイジを陥れるためにそんな茶番を」と憤る。
そこへレイジとセトが合流。
「ユダ……!」レイジは名前を呼び、相手を睨む。
ユダは優雅にお辞儀するかたちをとり、「ああ、レイジくん。久しぶりだね。君が再生だなんて面白くもない。ならば私が『破滅』を成し遂げましょう。世界が混沌に陥れば、商機は無限大だからね」と薄笑いを浮かべる。
リオネが悲痛な声で「世界を壊すなんて、あなたには何の得があるの!? こんな狂気をやめて……」と叫ぶが、ユダは首をかしげる。「得? もちろん得があるよ。戦争、崩壊、混沌……それらが市場を最大限に動かす。私には金の流れこそが人生のすべてさ」
セトが唇を噛み、「ユダめ、連合軍にも騎士団内部にも手を回し、この王都を戦火に巻き込む気だ……」と声を震わせる。
すでに一部の騎士団兵もユダと内通し、物資や禁呪を取引しているらしい。
その裏証拠を掴もうと王や学院が動き始めたが間に合わなかった。
ユダは高笑いを響かせ、「そう、私には仲間がたくさんいるよ。連合軍の強硬派も私の兵器を買いたいと言うし、王国の腐敗騎士も金次第で寝返る。世界が滅びるかどうかなんて関係ないのさ。レイジくん、君もまだ『破滅』を望めば金になるのだがね?」と挑発を投げかける。
レイジは歯を食いしばり、「断る。世界を壊したくなんてない。あなたの商売を終わらせるよ、ここで!」と強い口調で応じる。
私兵がわらわらと武器を構え、王都&学院連合軍が武装を整える。
辺りは一触即発の大規模戦闘の様相だ。
アリシアは騎士仲間を鼓舞し、「破滅を煽る闇商人を放置すれば、王都と国民が犠牲になる。彼らを止める!」と声を上げる。
ガロンも「まとめて斧で片付けてやる」と気勢を上げる。
レイジはアリシアの姿を横目に、内心の恐れを振りほどく。
「暴走はしない。もう、『再生の力』で守り抜くんだ……!」と決意した。
いよいよ交戦が始まろうとしたその刹那、レイジの頭の奥に微かに響く声があった。
「観察は続いているぞ……。お前がどう振る舞おうと、人間同士の争いは終わらないのではないか?」
神の冷笑が記憶をかすめる。
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