魔力ゼロでも諦めない! 転生エンジニアがITスキルで挑む異世界革命

暁ノ鳥

文字の大きさ
5 / 32

【第4章】「エレナとフレイア――仲間たちとの出会い」

しおりを挟む
「やめときな、そっちに行くと命はないよ!」

 砂煙の舞う街外れで、鋭い声が響き渡った。
 如月ケイとアリアが足を止めて振り向くと、そこには革の軽装鎧をまとった女剣士が立っていた。
 夕陽に赤く染まる荒地には、ところどころに低い灌木が生えるばかりで、モンスターの通り道としても知られる危険地帯である。

「その先の村から、『モンスターの群れが出た』って報告があった。あんたたち、丸腰で突っ込むつもり?」
「いや、そういうわけじゃ……」

 彼女――エレナと名乗った剣士は、まるで人を寄せ付けない雰囲気をまとっていた。
 愛用の片手剣を握る手には、ささくれ立った皮の手袋。
 燃えるような怒りと苛立ちが、その瞳の奥に宿っているのがケイにも分かる。

「引き返しなさい。あたしは村を偵察する。余計なお荷物は勘弁なのよね」
「お荷物って……俺には戦う術はないが、なにか協力できるかもしれないだろ」

 ケイがそう答えると、アリアも控えめに口を開く。
 数日前に出会ったばかりの見習い魔術師だが、彼女の表情には決意が宿っていた。

「私、見習い魔術師なんです。詠唱は遅いけど、火力系の呪文なら多少は使えます」

 エレナが冷たい目をしながらも、わずかに剣を下ろす。
 どうやら即座に斬りかかるつもりはないらしい。

「村が危険だっていうなら、なおさら放っておけないよ。行くなら俺たちも一緒に」
 
 ケイの訴えに、アリアもうなずいてみせる。

「そうです。モンスターが出ているなら、役に立てるかもしれません」
「勝手にしなさい。ただし、あたしがあんたたち守る義理はないからね」
「わかった。それでもいい。現状を見ておきたいんだ」

 エレナは不機嫌そうに剣を収めると、そっけなく先へ歩き出した。
 ケイとアリアは目を合わせて息を飲みながら、その後を追う。

 村へ向かう道中、風が強く吹き荒れ、乾いた地面が砂塵を巻き上げる。
 足元には小さな足跡が点在していた。どうやら小型のモンスターが通った痕跡らしい。

「ねえ、どうしてこんなことに首を突っ込むの?」

 先を歩くエレナが、ちらりと二人を振り返る。
 その声には、怒りというより苛立ちとも疲労ともつかない響きが混じっていた。

「放っておけないから……って言うと、きれいごとかもしれない。でも、保護費を払えない村がモンスターに襲われてる話を最近耳にして……」

 ケイが答えると、アリアも短く息をつきながら言葉を継ぐ。

「私も同じです。見捨てていい理由なんて、どこにもないと思うから……」

 エレナの瞳がわずかに揺れる。
 街の結界を維持する保護費を払えない――それはすなわち、モンスターの脅威から見放されることを意味していた。
 聞けばエレナの故郷も、まさに同じ理由で悲惨な結末を迎えたのだという。

「あたしの村は保護費が払えず、結界を張れなかった。結果、家族を失ったの。もうあんな思いはごめんだから」

 言葉こそきっぱりしているが、その瞳には炎のような決意が宿っていた。
 ケイとアリアはそれ以上問い返さず、黙ってうなずく。
 いつか何かの形で、彼女の過去を救う術を見つけられないか――そんな思いがケイの胸をよぎった。

 村に着くと、あちこちにモンスターの荒らした痕跡が見られた。
 倉庫の扉が外れ、家畜の小屋は半壊し、人々の顔には疲労と不安が漂う。
 何人かが血まみれの布を手にしており、負傷者も出ているようだ。

「酷い……」

 アリアは思わず息を呑む。

「領主に掛け合っても、保護費を払えって言われるだけ。結界が弱くなってるのに……」

 エレナはため息をつき、倒れかけた板壁を直そうとしている村人のところへ駆け寄った。
 ケイやアリアも加勢しようとするが、どこから手をつければいいか分からない。

「ケイさん、私が炎の魔法を小出しにして、壊れた板を焼いていきます」
「ありがとう、じゃあ小さな炎だけで頼む。暴発したら大変だから気をつけてね」

 以前、暗記式の簡易呪文を試したときに間違って暴発しかけたことがあったのだ。
 アリアは困った表情を浮かべつつも、暗記式の簡易呪文を唱える。
 いつもの長い詠唱とは別に、ほんの短めの構文を用いて炎を生み出し、板の割れ端を処理していく。
 
「どうかな……私なりに少し暗記式を分割してみたんだけど」
「おお、すごい! 詠唱がだいぶ短くなってるじゃないか。バグ……もとい暴発しそうな感じもないし」

 ケイは感心したように頷く。
 アリアの顔には小さな達成感が浮かんでいた。

「少しでも成功例があると、やっぱり自信が出ますね……。コード魔法って、こういう方向で発展させられないかな」

 モンスター対策としては不十分かもしれないが、暗記式を分割するアイデアが、アリアの中で新たな可能性を芽生えさせているようだ。
 そんな様子を遠目に見ていたエレナは、口にこそ出さないが、ほんの少しだけ表情を緩めていた。
 剣しか取り柄がないと思っていた自分と、魔力ゼロでも何とか役立とうとするケイたち――その対比が妙にまぶしい。

「少しでも村人を安心させてあげて。あたしは念のため村の奥を見回ってくる。もっと大きな群れが来てたら厄介だからね」
「わかった。エレナも気をつけて」

 アリアが小さく手を振ると、エレナは剣を下げて村の裏手へ向かった。

 村の外れで、古びた廃墟のような建物を発見したのは、その直後だ。
 そこにはローブ姿の女性が壁を熱心に眺めていた。
 この建物は、ケイとアリアが瓦礫の片づけを手伝っていた村人から、「昔は学者が使ってた施設」と聞かされていた。

「すみません、あなたはここで何を?」

 ケイが声をかけると、女性は落ち着いた眼差しを向ける。

「私はフレイア。考古学と魔術史の研究者よ。ここには大厄災直後の文献が眠っている可能性があるらしいのよ」

 彼女は指先で壁の古めかしい文字をなぞる。
 その仕草には学者らしい冷静さと好奇心が滲み出ている。

「大厄災って、具体的にどんなことが起きたんです?」

 アリアが興味を示すと、フレイアは巻物を広げながら説明を始める。
 ケイも大厄災については詳細を知りたいを思っていた。

「三百年前、世界を滅亡寸前まで追い詰めたモンスターの大群が現れたの。封印術によって何とか食い止めたけど、完全には封印できていなかったらしい。ここにはその研究資料があると言われてるの」
「もし封印が不完全なら、また災厄が起こるかもしれない……?」

 ケイが思わず息を呑むと、フレイアは静かに頷いた。

「そう。そして保護費制度も、本来は結界維持を強化するために生まれた仕組み。でも今じゃ腐敗して、お金を払えない者は見殺しにされてる……。歪みが大きすぎるのよ」
「俺も、この世界の仕組みを変えたいと思ってます。みんなが幸せに暮らせる方法を探したい」

 ケイが力を込めて言うと、アリアもうなずいてみせる。

「私も研究を進めれば、封印術や保護費制度の根底を見直せるんじゃないかと考えてるわ」

 フレイアの瞳には探究心が宿っていた。
 そんな時、足音が近づき、エレナが息を切らしながら戻ってくる。

「ケイ、アリア、モンスターは一旦引いたみたいだ。そっちは……誰だ?」

 フレイアの存在に気づくと、エレナは剣を下げたまま警戒の色を解かない。

「私はフレイア。考古学者で、大厄災の研究をしているの」
「エレナよ。あたしはモンスターを斬る以外に能がないけど、まあ……よろしく」

 エレナはつっけんどんな態度ながら、軽く会釈をする。
 フレイアは穏やかな微笑みで応じた。

「なあ、この建物を拠点にしないか? 外壁は壊れてるけど、ちゃんと修繕すれば村人が避難できる場所にはなるかも」
 
 ケイが提案すると、アリアが嬉しそうに声を上げた。

「賛成です。研究に使える施設があれば、暗記式を『コード魔法』に変える実験だってやりやすくなるはず!」
 
 フレイアも「研究の拠点がほしかったのよ」と笑みを深める。
 こうして見習い魔術師アリア、剣士エレナ、考古学者フレイア、そして魔力ゼロのケイ――。
 背景も目的も違う四人が、『廃墟の拠点化』へと動き出す。
 エレナは村の見回りを続け、アリアは暗記式の呪文をコード化するための準備を始め、フレイアは古代文字の解読に没頭する。
 ケイもまた、その管理や調整役に奔走することになるだろう。

「結界もない場所だけど、村から少し離れてるからかえってモンスター対策もしやすいし、村人が避難してくる場合も見張りを立てやすいわ」

 エレナが廃墟の外壁を叩きながら言う。
 多少不安は残るが、足りない部分はみんなで協力し合えば何とかなるかもしれない。

「よし、じゃあさっそく始めよう。アリアは応急の警戒魔法、エレナは周辺警備、フレイアは調査記録。俺は拠点整備の手伝いをしながら、コード魔法の設計を考えるよ」
「ケイさん、私『分割詠唱』の実験をしたいです! 今度は小規模な火球や治癒魔法を組み合わせてみたい!」

 アリアの瞳が期待に輝く。
 エレナは少し離れたところで「……変な連中だけど、悪くないかもね」とぼそりとつぶやく。
 夕陽が沈む空の下、四つの意志が交差する。
 まだまだ荒れ地とモンスターの脅威、腐敗した保護費制度や大厄災の謎は山積みだ。
 けれどケイは、前の世界で果たせなかった“チームを大事にする夢を思い返しながら、仲間たちと共に小さな一歩を踏み出したのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい

ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。 強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。 ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

異世界転生日録〜生活魔法は無限大!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
☆感想の受付開始しました。 【あらすじ】   異世界に転生したルイは、5歳の高熱を境に、記憶を取り戻す。一度は言ってみたい「ステータス・オープン」で、ステータスを見れることに気付いた。スキル「生活魔法∞(無限大)」を発見。その意味を知るルイは、仄かに期待を抱いた。  それと同時に、今世の出自である農家の四男は、長男大事な両親の態度に、未来はないと確信。  家族に隠れて、ステータスにあったスキルの一つ「鑑定」を使い、村のお婆(薬師)相手に、金策を開始。  十歳の時に行われたスキル鑑定の結果を父に伝えたが、農家向きのスキルではなかったルイは「家の役には立たない」と判断され、早々に家を追い出される。   だが、追放ありがとう!とばかりに、生活魔法を知るべく、図書館がある街を目指すことにしたルイ。  最初に訪れた街・ゼントで、冒険者登録を済ませる。だがそのギルドの資料室で、前世の文字である漢字が、この世界の魔法文字だという事実を知ることになる。  この世界の魔法文字を試したルイは、魔法文字の奥深さに気づいてしまった。バレないように慎重に……と行動しているつもりのルイだが、そんな彼に奇妙な称号が増えて行く。  そして、冒険者ギルドのギルドマスターや、魔法具師のバレンと共に過ごすうちに、バレンのお師匠様の危機を知る。  そして彼に会いにいくことになったが、その目的地が、図書館がある魔法都市アルティメットだった。  旅の道中もさることながら、魔法都市についても、色々な人に巻き込まれる運命にあるルイだったが……それを知るのは、まだ先である。 ☆見切り発車のため、後日変更・追記する場合があります。体調が不安定のため、かける時に書くスタイルです。不定期更新。 ☆カクヨム様(吉野 ひな)でも先行投稿しております。

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

魔力0の貴族次男に転生しましたが、気功スキルで補った魔力で強い魔法を使い無双します

burazu
ファンタジー
事故で命を落とした青年はジュン・ラオールという貴族の次男として生まれ変わるが魔力0という鑑定を受け次男であるにもかかわらず継承権最下位へと降格してしまう。事実上継承権を失ったジュンは騎士団長メイルより剣の指導を受け、剣に気を込める気功スキルを学ぶ。 その気功スキルの才能が開花し、自然界より魔力を吸収し強力な魔法のような力を次から次へと使用し父達を驚愕させる。

異世界ほのぼの牧場生活〜女神の加護でスローライフ始めました〜』

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業で心も体もすり減らしていた青年・悠翔(はると)。 日々の疲れを癒してくれていたのは、幼い頃から大好きだったゲーム『ほのぼの牧場ライフ』だけだった。 両親を早くに亡くし、年の離れた妹・ひなのを守りながら、限界寸前の生活を続けていたある日―― 「目を覚ますと、そこは……ゲームの中そっくりの世界だった!?」 女神様いわく、「疲れ果てたあなたに、癒しの世界を贈ります」とのこと。 目の前には、自分がかつて何百時間も遊んだ“あの牧場”が広がっていた。 作物を育て、動物たちと暮らし、時には村人の悩みを解決しながら、のんびりと過ごす毎日。 けれどもこの世界には、ゲームにはなかった“出会い”があった。 ――獣人の少女、恥ずかしがり屋の魔法使い、村の頼れるお姉さん。 誰かと心を通わせるたびに、はるとの日常は少しずつ色づいていく。 そして、残された妹・ひなのにも、ある“転機”が訪れようとしていた……。 ほっこり、のんびり、時々ドキドキ。 癒しと恋と成長の、異世界牧場スローライフ、始まります!

処理中です...