31 / 32
【第30章】「対決:破壊を選んだ男と改革を選ぶ者」
しおりを挟む
「ここがローガンの最終拠点か。結界石の制御コードが、古代術士の封印術とこんなにも複雑に混じり合っているなんて」
ケイは岩壁に刻まれたルーンを見つめながら、端末を握りしめた。
古い術式の形跡と、まるでAPIのように書き換え可能な部分が融合しており、彼が提案したコード魔法の理屈がここでも通じるのではないかと感じさせる。
「ほんの数十年前までは、こういう遺跡は古代術士が一方的に結界を張って封印したってききました。でも、ローガンはここまで見事にプログラム的に術式を改ざんできるですね」
アリアが端末を操作しながら呟く。
画面には錯綜するルーン同士をどう再統合するかというレビュー用のマップが映し出されていた。
「ローガンは大厄災を解放するために、あえて古い封印術式を逆手に取っているのね」
フレイアが足元の石版をなぞり、そこに刻まれた文字を読み取る。
「古代術士たちは、かつて世界規模の脅威に追い詰められていた。大厄災によって多くの都市が滅びかけ、最後の力で未完成の封印を作り上げたの。でも、十分な資料もなくつぎはぎだったせいで、後世の改ざんに弱い部分があるのね」
城壁のようにそびえ立つ石柱からは陰鬱な魔力が滴り落ち、封印されたはずの大厄災が再び呼び起こされる危険を漂わせていた。
「やっと見つけましたよ、ケイさん。こっちの通路、魔導結界が見えます。さっき見つけた管理ルーンと通信してるみたいです」
ラヴィニアが慌ただしく駆け寄り、通信クリスタルを差し出す。
「ローガンが大厄災を解放することだけは絶対に阻止しなきゃならない。破壊で再構築なんて、そんな命を無視した手段は許されるはずがない」
ケイは苦い表情で端末を覗き込む。
世界を壊すか、それとも修正しながら変えていくか――ケイたちが選んだ道は後者だった。
「進むしかありませんね。みんなでチェックした結界上書きパッチもあるんだし、ローガンの改ざんを解除して封印を安定化できるかもしれません」
アリアが小さく息を飲みながら微笑む。
少し前の大都市での大失敗を思い出すが、今回はみんなでレビューを重ねてきたコードだ。
自分たちなら乗り越えられると信じたかった。
「やばい感じがするな」
エレナが進行方向を睨むと、一筋の冷気が頬をかすめる。
そこから黒い霧が広がり、うごめく影が見え隠れしていた。
「これは、ローガンの気配?」
フレイアが首を振る。
「いえ、古代術士が張った無断侵入者撃退用の罠かもしれないわ。それをローガンが独自の術式で拡張している、相当厄介よ。みんな気を付けて」
奥へ進むと、床にはめ込まれた大きな魔法陣が一面に広がっていた。
そこから湧き出す小型のモンスターが、四方八方に襲いかかってくる。
インプ状のものから、ヘビのようにうねるものまで、その多様性はまるでコードバグの集合体のように見えた。
「ちょっと多すぎるだろ! くっ、これじゃ先に進めない!」
エレナが前へ出て剣を構える。
彼女の剣先にはコード強化術でアップデートしたばかりのルーンが光り、以前よりエネルギー消費を抑えつつ高出力の斬撃を繰り出せる。
「これでも喰らえ!」
モンスターの群れが一度に襲いかかるが、エレナは迷いなく突撃し、素早いフットワークで横に回り込むと、剣から放たれる斬撃が数体をまとめて切り裂いた。
「いまのうちに、わたしとフレイアでこの術式を止めますね!」
アリアが端末を操作し、床の魔法陣を解析する。
古代術士が構築したオリジナル部分と、ローガンの術式が張り付いている部分の二重構造らしい。
「なるほど、これは旧来の魔力制御に改ざんが入っているんですね」
アリアは唸りながらルーンの対応表を探し、該当コードを無効化できそうなブロックを見つけだす。
「フレイアさん、古代側のルーン封鎖キーってどれですか?」
「これよ。アグラ=ディスって文字が壁画に描かれてる。ここにローガンが妨害用の術式を仕込んでるわね」
フレイアが落ちついた声で説明し、端末の画面上に古代ルーンを打ち込むと、魔法陣がビリビリと振動し始めた。
アリアは素早く端末を操作し術式を上書きし、モンスター召喚を強制停止へ移行させた。
「いける、あとちょっとで結界の緊急停止が効きます!」
アリアが叫ぶと、エレナは「了解!」と短く返事し、強力な一撃で残るモンスターを吹き飛ばす。
「さて、この奥でローガンが待ってる可能性大だね」
「今のところ術式の一部しか無効化できていない。ローガンのメイン改ざん箇所はまだ先にあるはず」
ケイは端末を握り、とアリアに目配せする。
「じゃあ、俺たちの強みを活かして進もう。エレナは前衛で罠やモンスターを切り開いて、フレイアは古代術式の解析。俺とアリアでローガンの改ざんの無効化をする。ラヴィニアは外部の連携隊をまとめてくれ」
ケイが静かに言うと、皆がうなずく。
さらに奥へ進むと、大きな広間の入口に漆黒のバリアが立ちはだかった。
魔力が波紋のように広がり、不気味な低音が耳をふるわせる。
「これは完全にローガン独自の改ざん術式だわ。古代術士も想定していないものね」
フレイアが苦々しい声を漏らす。
「もしかすると、ローガンは自分の家族を失った恨みだけじゃなく、この世界そのものを心底から否定し、術式の根幹に裂け目を入れてるんでしょうね」
「わたし、ローガンさんがここまで追い詰められたのは、保護費制度やギルドの腐敗に加え、だれも彼を救わなかったからだと思うんです。だからこそ、悲しい」
アリアが瞳を潤ませる。
ローガンの絶望は理解しつつも、破壊という道を選ばれたことが辛かったのだ。
「同情しても仕方ない。あいつを止めなきゃ、ほんとに世界は終わる。あたしたちは修正で乗り越えてみせる――そこのバリア、ぶち壊すか、術式を書き換えるかどっちがいい?」
エレナが剣を構えつつそう言うが、ケイは首を振る。
「書き換えよう。物理的に破壊すると、暴走するかもしれない」
先へ進んだ先には、果たしてローガンが待っていた。
結界の中心にある封印石へ両手を当て、その呪力を解放しようとしている。
「来たか。だが、もう遅い。大厄災はもうすぐそこまで……」
ローガンが低く呟くと、封印石の周囲に複雑なルーン模様が走り、大地がうごめくように振動する。
「やめてください! それを破壊すれば、大厄災が世界中に溢れてしまう!」
アリアが絶叫し、フレイアも走り寄ろうとするが、黒いバリアが彼らを阻む。
「またバリアか!」
エレナが割り込んでバリアを斬ろうとするが、逆に大きく弾かれる。
「この世界は破壊するしかない。腐敗のない世界など、存在し得ないんだ」
ローガンは冷たく笑う。
しかし、その笑顔の奥には悲壮感が浮かんでいるようにも見える。
「そんなことはない。システムは壊さなくたって直せる。保護費だって、ギルドだって、分業やレビューでコードを刷新するように、改革は可能なんだ!」
ケイが端末を掲げ、背後でアリアが術式を準備する。
バリアにコード上書きを適用しようとしているのだ。
「ふん、無駄だ」
ローガンは目を伏せ、最後の力で結界石を破壊しようと魔力を高めている。
空間が震え、衝撃波がケイたちに押し寄せる。
「エレナ、わたしがバリアの一部を解呪します! その一瞬で突破してください!」
アリアが声を張り上げ、端末を操作する。
「了解っ! あたしの剣で突き破る!」
エレナが剣に力をこめ、アリアの宣言どおりバリアがほんの一瞬だけ弱まった瞬間に、迷いなく突撃する。
厚い壁のようだった黒い膜がズバッと斬れ、一気にローガンの目前へ到達した。
「ローガン、世界が全部腐ってるわけじゃない。あたしも腐敗で家族を失ったけど、それでも仲間がいれば立ち直れるんだ!」
エレナは剣を振りかざすが、その先にあるのはローガンの悲しみに満ちた瞳だった。
彼女は斬撃を止め、刃先をギリギリで引く。
「なぜここで引く? とどめを刺せばいいだろうに……」
ローガンは動揺し、封印石への力を少し緩める。
まるでその刹那の甘えが大厄災を引き留めているかのようだ。
「仲間ってのは、簡単に見つかるもんじゃない。けど、見捨てなくてもいいじゃない? アンタだって、まだ救われるはずだろ」
エレナは悔しさに滲む声を抑えながら、ローガンをまっすぐ見つめる。
彼女もかつて家族を失った共通点を抱えているからこそ、共感と怒りが同居する。
「バカな……っ、そんな……違う、世界が……世界が諦めたんだ、私を……」
ローガンの呟きは苦痛に満ちていた。
封印石への強い魔力干渉が揺らぎ、残存していたバリアも崩壊しかかっている。
「ケイ、今よ! この隙に封印術を書き換えて!」
フレイアが叫び、ケイは端末に向き直る。
今度こそ、ローガンの結界改ざんを無力化し、封印補強パッチを台座に反映できるはずだ。
「これで終わりにする。世界を壊さず、修正しながら変えていけるって、俺たちが証明してみせる――!」
ケイが全力で端末を操作し、闇のルーンを解除しつつ、古代術士が残したルーンに新しい魔術コードを継ぎ足す。
仲間全員がレビューで磨いたプログラムだ。
凄まじい光と共に、封印石が白い輝きを放った。
大地の震動が静まり、黒い魔力の奔流が空気中へ霧散していく。
封印が正常に立ち直った合図だった。
「……世界は……崩壊しない……」
ローガンは呆然と呟き、膝をついている。
大厄災の門は完全に閉ざされ、大モンスターたちの気配も消えていた。
「もし世界が少しでも変わるなら、もう一度生きてみませんか? 壊すより、誰かを救う道を試してもいいんじゃないでしょうか」
アリアが潤んだ瞳でそう語りかける。
エレナは剣をしまい、「あたしも同意見だ。ここで殺したって、あんたが抱えてた絶望は消えないし。自分の手で改革を見届けるほうがよっぽど有意義だよ」と息を吐く。
ローガンはうなだれたまま、苦悶の表情を浮かべる。
だが、さっきまでの破壊衝動はどこか萎え始めていた。
「行こう、みんな。封印は安定した。保護費制度だって、ギルド改革だって、あたしたちが戻ってちゃんと進めれば、ローガンが見た地獄を変えられると思う」
エレナが振り向き、ケイやアリア、フレイア、そして遠巻きに控えるラヴィニアへ呼びかける。
皆が深く頷いた。
「そうだな。改革も、世界規模の封印補強も、まだ入り口にすぎない。焦らず、みんなで進もう」
仲間の力を信じ、腐敗と不条理を少しずつ壊していく。
それがケイたちの選択した未来だった。
遺跡の外には、改革派が待機していた。
保守派の混乱もあり、まだ道は遠いが、少なくとも大厄災は再封印され、ローガンが掲げた破壊のシナリオは一旦止まった。
「さあ、帰ろう。ここからが本当の戦いだ」
ケイが仲間たちを振り向き、エリナが意気込むように剣の柄を握り直す。
ラヴィニアも微笑んでそれに応え、フレイアは古代遺跡の文献を守るように抱え、アリアは端末を大事そうに胸に当てる。
「ローガン、いつかあなたがこの世界をもう一度見直せる日が来ると、俺は信じているよ」
ケイは小さく呟きながら、倒れ込むローガンをそっと見下ろした。
彼に何を言っても今は空虚かもしれないが、少なくとも大厄災を止めた証がここにある。
「ケイさん、ローガンが見捨てた世界を、わたしたちが救いましょう」
アリアが微笑みかけると、ケイも前を向いて言葉を返す。
「そうだな、改革がただの言葉で終わらないように、社会の腐敗も一緒に直していくんだ。家族を失った人が二度と出ないように」
ケイがそう誓った瞬間、遺跡の入り口から差し込む光が、それぞれの顔を照らした。
暗く重かった空気がいくらか軽くなったように感じる。
「さ、行こうか。長い道のりだけど、もう迷わない」
エレナがローガンの腕を支え、ラヴィニアがギルドの者たちへ指示を送る。
フレイアは外の天候を確認しつつ、警戒を続ける。
アリアは端末を携え、そっと微笑んだままみんなに続く。
こうして大厄災の門は閉ざされ、ローガンの破壊計画はくじかれた。
だが、彼の内なる絶望がいつ解けるかは分からない。
保護費の腐敗が根絶されるにはまだ時間がかかるだろう。
それでも、ケイたちは社会を変えていくことを選んだ。
大厄災さえも修正可能だったのなら、不条理な制度を改善することだって不可能じゃないはず――そんな小さな希望を胸に、ケイたちは遺跡を後にするのだった。
ケイは岩壁に刻まれたルーンを見つめながら、端末を握りしめた。
古い術式の形跡と、まるでAPIのように書き換え可能な部分が融合しており、彼が提案したコード魔法の理屈がここでも通じるのではないかと感じさせる。
「ほんの数十年前までは、こういう遺跡は古代術士が一方的に結界を張って封印したってききました。でも、ローガンはここまで見事にプログラム的に術式を改ざんできるですね」
アリアが端末を操作しながら呟く。
画面には錯綜するルーン同士をどう再統合するかというレビュー用のマップが映し出されていた。
「ローガンは大厄災を解放するために、あえて古い封印術式を逆手に取っているのね」
フレイアが足元の石版をなぞり、そこに刻まれた文字を読み取る。
「古代術士たちは、かつて世界規模の脅威に追い詰められていた。大厄災によって多くの都市が滅びかけ、最後の力で未完成の封印を作り上げたの。でも、十分な資料もなくつぎはぎだったせいで、後世の改ざんに弱い部分があるのね」
城壁のようにそびえ立つ石柱からは陰鬱な魔力が滴り落ち、封印されたはずの大厄災が再び呼び起こされる危険を漂わせていた。
「やっと見つけましたよ、ケイさん。こっちの通路、魔導結界が見えます。さっき見つけた管理ルーンと通信してるみたいです」
ラヴィニアが慌ただしく駆け寄り、通信クリスタルを差し出す。
「ローガンが大厄災を解放することだけは絶対に阻止しなきゃならない。破壊で再構築なんて、そんな命を無視した手段は許されるはずがない」
ケイは苦い表情で端末を覗き込む。
世界を壊すか、それとも修正しながら変えていくか――ケイたちが選んだ道は後者だった。
「進むしかありませんね。みんなでチェックした結界上書きパッチもあるんだし、ローガンの改ざんを解除して封印を安定化できるかもしれません」
アリアが小さく息を飲みながら微笑む。
少し前の大都市での大失敗を思い出すが、今回はみんなでレビューを重ねてきたコードだ。
自分たちなら乗り越えられると信じたかった。
「やばい感じがするな」
エレナが進行方向を睨むと、一筋の冷気が頬をかすめる。
そこから黒い霧が広がり、うごめく影が見え隠れしていた。
「これは、ローガンの気配?」
フレイアが首を振る。
「いえ、古代術士が張った無断侵入者撃退用の罠かもしれないわ。それをローガンが独自の術式で拡張している、相当厄介よ。みんな気を付けて」
奥へ進むと、床にはめ込まれた大きな魔法陣が一面に広がっていた。
そこから湧き出す小型のモンスターが、四方八方に襲いかかってくる。
インプ状のものから、ヘビのようにうねるものまで、その多様性はまるでコードバグの集合体のように見えた。
「ちょっと多すぎるだろ! くっ、これじゃ先に進めない!」
エレナが前へ出て剣を構える。
彼女の剣先にはコード強化術でアップデートしたばかりのルーンが光り、以前よりエネルギー消費を抑えつつ高出力の斬撃を繰り出せる。
「これでも喰らえ!」
モンスターの群れが一度に襲いかかるが、エレナは迷いなく突撃し、素早いフットワークで横に回り込むと、剣から放たれる斬撃が数体をまとめて切り裂いた。
「いまのうちに、わたしとフレイアでこの術式を止めますね!」
アリアが端末を操作し、床の魔法陣を解析する。
古代術士が構築したオリジナル部分と、ローガンの術式が張り付いている部分の二重構造らしい。
「なるほど、これは旧来の魔力制御に改ざんが入っているんですね」
アリアは唸りながらルーンの対応表を探し、該当コードを無効化できそうなブロックを見つけだす。
「フレイアさん、古代側のルーン封鎖キーってどれですか?」
「これよ。アグラ=ディスって文字が壁画に描かれてる。ここにローガンが妨害用の術式を仕込んでるわね」
フレイアが落ちついた声で説明し、端末の画面上に古代ルーンを打ち込むと、魔法陣がビリビリと振動し始めた。
アリアは素早く端末を操作し術式を上書きし、モンスター召喚を強制停止へ移行させた。
「いける、あとちょっとで結界の緊急停止が効きます!」
アリアが叫ぶと、エレナは「了解!」と短く返事し、強力な一撃で残るモンスターを吹き飛ばす。
「さて、この奥でローガンが待ってる可能性大だね」
「今のところ術式の一部しか無効化できていない。ローガンのメイン改ざん箇所はまだ先にあるはず」
ケイは端末を握り、とアリアに目配せする。
「じゃあ、俺たちの強みを活かして進もう。エレナは前衛で罠やモンスターを切り開いて、フレイアは古代術式の解析。俺とアリアでローガンの改ざんの無効化をする。ラヴィニアは外部の連携隊をまとめてくれ」
ケイが静かに言うと、皆がうなずく。
さらに奥へ進むと、大きな広間の入口に漆黒のバリアが立ちはだかった。
魔力が波紋のように広がり、不気味な低音が耳をふるわせる。
「これは完全にローガン独自の改ざん術式だわ。古代術士も想定していないものね」
フレイアが苦々しい声を漏らす。
「もしかすると、ローガンは自分の家族を失った恨みだけじゃなく、この世界そのものを心底から否定し、術式の根幹に裂け目を入れてるんでしょうね」
「わたし、ローガンさんがここまで追い詰められたのは、保護費制度やギルドの腐敗に加え、だれも彼を救わなかったからだと思うんです。だからこそ、悲しい」
アリアが瞳を潤ませる。
ローガンの絶望は理解しつつも、破壊という道を選ばれたことが辛かったのだ。
「同情しても仕方ない。あいつを止めなきゃ、ほんとに世界は終わる。あたしたちは修正で乗り越えてみせる――そこのバリア、ぶち壊すか、術式を書き換えるかどっちがいい?」
エレナが剣を構えつつそう言うが、ケイは首を振る。
「書き換えよう。物理的に破壊すると、暴走するかもしれない」
先へ進んだ先には、果たしてローガンが待っていた。
結界の中心にある封印石へ両手を当て、その呪力を解放しようとしている。
「来たか。だが、もう遅い。大厄災はもうすぐそこまで……」
ローガンが低く呟くと、封印石の周囲に複雑なルーン模様が走り、大地がうごめくように振動する。
「やめてください! それを破壊すれば、大厄災が世界中に溢れてしまう!」
アリアが絶叫し、フレイアも走り寄ろうとするが、黒いバリアが彼らを阻む。
「またバリアか!」
エレナが割り込んでバリアを斬ろうとするが、逆に大きく弾かれる。
「この世界は破壊するしかない。腐敗のない世界など、存在し得ないんだ」
ローガンは冷たく笑う。
しかし、その笑顔の奥には悲壮感が浮かんでいるようにも見える。
「そんなことはない。システムは壊さなくたって直せる。保護費だって、ギルドだって、分業やレビューでコードを刷新するように、改革は可能なんだ!」
ケイが端末を掲げ、背後でアリアが術式を準備する。
バリアにコード上書きを適用しようとしているのだ。
「ふん、無駄だ」
ローガンは目を伏せ、最後の力で結界石を破壊しようと魔力を高めている。
空間が震え、衝撃波がケイたちに押し寄せる。
「エレナ、わたしがバリアの一部を解呪します! その一瞬で突破してください!」
アリアが声を張り上げ、端末を操作する。
「了解っ! あたしの剣で突き破る!」
エレナが剣に力をこめ、アリアの宣言どおりバリアがほんの一瞬だけ弱まった瞬間に、迷いなく突撃する。
厚い壁のようだった黒い膜がズバッと斬れ、一気にローガンの目前へ到達した。
「ローガン、世界が全部腐ってるわけじゃない。あたしも腐敗で家族を失ったけど、それでも仲間がいれば立ち直れるんだ!」
エレナは剣を振りかざすが、その先にあるのはローガンの悲しみに満ちた瞳だった。
彼女は斬撃を止め、刃先をギリギリで引く。
「なぜここで引く? とどめを刺せばいいだろうに……」
ローガンは動揺し、封印石への力を少し緩める。
まるでその刹那の甘えが大厄災を引き留めているかのようだ。
「仲間ってのは、簡単に見つかるもんじゃない。けど、見捨てなくてもいいじゃない? アンタだって、まだ救われるはずだろ」
エレナは悔しさに滲む声を抑えながら、ローガンをまっすぐ見つめる。
彼女もかつて家族を失った共通点を抱えているからこそ、共感と怒りが同居する。
「バカな……っ、そんな……違う、世界が……世界が諦めたんだ、私を……」
ローガンの呟きは苦痛に満ちていた。
封印石への強い魔力干渉が揺らぎ、残存していたバリアも崩壊しかかっている。
「ケイ、今よ! この隙に封印術を書き換えて!」
フレイアが叫び、ケイは端末に向き直る。
今度こそ、ローガンの結界改ざんを無力化し、封印補強パッチを台座に反映できるはずだ。
「これで終わりにする。世界を壊さず、修正しながら変えていけるって、俺たちが証明してみせる――!」
ケイが全力で端末を操作し、闇のルーンを解除しつつ、古代術士が残したルーンに新しい魔術コードを継ぎ足す。
仲間全員がレビューで磨いたプログラムだ。
凄まじい光と共に、封印石が白い輝きを放った。
大地の震動が静まり、黒い魔力の奔流が空気中へ霧散していく。
封印が正常に立ち直った合図だった。
「……世界は……崩壊しない……」
ローガンは呆然と呟き、膝をついている。
大厄災の門は完全に閉ざされ、大モンスターたちの気配も消えていた。
「もし世界が少しでも変わるなら、もう一度生きてみませんか? 壊すより、誰かを救う道を試してもいいんじゃないでしょうか」
アリアが潤んだ瞳でそう語りかける。
エレナは剣をしまい、「あたしも同意見だ。ここで殺したって、あんたが抱えてた絶望は消えないし。自分の手で改革を見届けるほうがよっぽど有意義だよ」と息を吐く。
ローガンはうなだれたまま、苦悶の表情を浮かべる。
だが、さっきまでの破壊衝動はどこか萎え始めていた。
「行こう、みんな。封印は安定した。保護費制度だって、ギルド改革だって、あたしたちが戻ってちゃんと進めれば、ローガンが見た地獄を変えられると思う」
エレナが振り向き、ケイやアリア、フレイア、そして遠巻きに控えるラヴィニアへ呼びかける。
皆が深く頷いた。
「そうだな。改革も、世界規模の封印補強も、まだ入り口にすぎない。焦らず、みんなで進もう」
仲間の力を信じ、腐敗と不条理を少しずつ壊していく。
それがケイたちの選択した未来だった。
遺跡の外には、改革派が待機していた。
保守派の混乱もあり、まだ道は遠いが、少なくとも大厄災は再封印され、ローガンが掲げた破壊のシナリオは一旦止まった。
「さあ、帰ろう。ここからが本当の戦いだ」
ケイが仲間たちを振り向き、エリナが意気込むように剣の柄を握り直す。
ラヴィニアも微笑んでそれに応え、フレイアは古代遺跡の文献を守るように抱え、アリアは端末を大事そうに胸に当てる。
「ローガン、いつかあなたがこの世界をもう一度見直せる日が来ると、俺は信じているよ」
ケイは小さく呟きながら、倒れ込むローガンをそっと見下ろした。
彼に何を言っても今は空虚かもしれないが、少なくとも大厄災を止めた証がここにある。
「ケイさん、ローガンが見捨てた世界を、わたしたちが救いましょう」
アリアが微笑みかけると、ケイも前を向いて言葉を返す。
「そうだな、改革がただの言葉で終わらないように、社会の腐敗も一緒に直していくんだ。家族を失った人が二度と出ないように」
ケイがそう誓った瞬間、遺跡の入り口から差し込む光が、それぞれの顔を照らした。
暗く重かった空気がいくらか軽くなったように感じる。
「さ、行こうか。長い道のりだけど、もう迷わない」
エレナがローガンの腕を支え、ラヴィニアがギルドの者たちへ指示を送る。
フレイアは外の天候を確認しつつ、警戒を続ける。
アリアは端末を携え、そっと微笑んだままみんなに続く。
こうして大厄災の門は閉ざされ、ローガンの破壊計画はくじかれた。
だが、彼の内なる絶望がいつ解けるかは分からない。
保護費の腐敗が根絶されるにはまだ時間がかかるだろう。
それでも、ケイたちは社会を変えていくことを選んだ。
大厄災さえも修正可能だったのなら、不条理な制度を改善することだって不可能じゃないはず――そんな小さな希望を胸に、ケイたちは遺跡を後にするのだった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~
きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。
前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
異世界転生日録〜生活魔法は無限大!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
☆感想の受付開始しました。
【あらすじ】
異世界に転生したルイは、5歳の高熱を境に、記憶を取り戻す。一度は言ってみたい「ステータス・オープン」で、ステータスを見れることに気付いた。スキル「生活魔法∞(無限大)」を発見。その意味を知るルイは、仄かに期待を抱いた。
それと同時に、今世の出自である農家の四男は、長男大事な両親の態度に、未来はないと確信。
家族に隠れて、ステータスにあったスキルの一つ「鑑定」を使い、村のお婆(薬師)相手に、金策を開始。
十歳の時に行われたスキル鑑定の結果を父に伝えたが、農家向きのスキルではなかったルイは「家の役には立たない」と判断され、早々に家を追い出される。
だが、追放ありがとう!とばかりに、生活魔法を知るべく、図書館がある街を目指すことにしたルイ。
最初に訪れた街・ゼントで、冒険者登録を済ませる。だがそのギルドの資料室で、前世の文字である漢字が、この世界の魔法文字だという事実を知ることになる。
この世界の魔法文字を試したルイは、魔法文字の奥深さに気づいてしまった。バレないように慎重に……と行動しているつもりのルイだが、そんな彼に奇妙な称号が増えて行く。
そして、冒険者ギルドのギルドマスターや、魔法具師のバレンと共に過ごすうちに、バレンのお師匠様の危機を知る。
そして彼に会いにいくことになったが、その目的地が、図書館がある魔法都市アルティメットだった。
旅の道中もさることながら、魔法都市についても、色々な人に巻き込まれる運命にあるルイだったが……それを知るのは、まだ先である。
☆見切り発車のため、後日変更・追記する場合があります。体調が不安定のため、かける時に書くスタイルです。不定期更新。
☆カクヨム様(吉野 ひな)でも先行投稿しております。
ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語
Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。
チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。
その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。
さぁ、どん底から這い上がろうか
そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。
少年は英雄への道を歩き始めるのだった。
※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。
外れスキルは、レベル1!~異世界転生したのに、外れスキルでした!
武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生したユウトは、十三歳になり成人の儀式を受け神様からスキルを授かった。
しかし、授かったスキルは『レベル1』という聞いたこともないスキルだった。
『ハズレスキルだ!』
同世代の仲間からバカにされるが、ユウトが冒険者として活動を始めると『レベル1』はとんでもないチートスキルだった。ユウトは仲間と一緒にダンジョンを探索し成り上がっていく。
そんなユウトたちに一人の少女た頼み事をする。『お父さんを助けて!』
異世界ほのぼの牧場生活〜女神の加護でスローライフ始めました〜』
チャチャ
ファンタジー
ブラック企業で心も体もすり減らしていた青年・悠翔(はると)。
日々の疲れを癒してくれていたのは、幼い頃から大好きだったゲーム『ほのぼの牧場ライフ』だけだった。
両親を早くに亡くし、年の離れた妹・ひなのを守りながら、限界寸前の生活を続けていたある日――
「目を覚ますと、そこは……ゲームの中そっくりの世界だった!?」
女神様いわく、「疲れ果てたあなたに、癒しの世界を贈ります」とのこと。
目の前には、自分がかつて何百時間も遊んだ“あの牧場”が広がっていた。
作物を育て、動物たちと暮らし、時には村人の悩みを解決しながら、のんびりと過ごす毎日。
けれどもこの世界には、ゲームにはなかった“出会い”があった。
――獣人の少女、恥ずかしがり屋の魔法使い、村の頼れるお姉さん。
誰かと心を通わせるたびに、はるとの日常は少しずつ色づいていく。
そして、残された妹・ひなのにも、ある“転機”が訪れようとしていた……。
ほっこり、のんびり、時々ドキドキ。
癒しと恋と成長の、異世界牧場スローライフ、始まります!
異世界遺跡巡り ~ロマンを求めて異世界冒険~
小狸日
ファンタジー
交通事故に巻き込まれて、異世界に転移した拓(タク)と浩司(コウジ)
そこは、剣と魔法の世界だった。
2千年以上昔の勇者の物語、そこに出てくる勇者の遺産。
新しい世界で遺跡探検と異世界料理を楽しもうと思っていたのだが・・・
気に入らない異世界の常識に小さな喧嘩を売ることにした。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる