俺はエロダンジョンの管理人~女冒険者がイキまくるラビリンス~

暁ノ鳥

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第11章

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 やめろ。
 モニターの中で、黒曜石の拳が、アリシアの頭上へと振り下ろされる。
 やめてくれ。
 俺の、声にならない叫びが、静かな玉座の間に虚しく響く。

 その光景は、まるでスローモーションのように、俺の網膜に焼き付いていた。
 絶望に閉ざされた、聖騎士の美しい顔。
 頬を伝う、一筋の涙。
 そして、全てを砕き、終わらせる、無慈悲な死の鉄槌。

「ご主人様」
 
 不意に、隣に浮かんだモニカが、いつもの軽口とは違う、真剣な声で俺に告げた。
 
「マニュアルには『ストッパーの突破は想定外。放置せよ』と。下手に手を出すと、何が起こるか……」

 ああ、知ってる。分かってるさ。
 俺は、ただの管理人。このダンジョンの法則に従い、侵入者を観察し、記録するだけの、歯車の一つだ。
 俺がすべきことは、何もしないこと。
 それが、正しくて、合理的で、安全な選択だ。

 ――だが。
 俺は、もう一度、モニターの中のアリシアを見た。
 死を覚悟した彼女の表情。
 それは、ただの諦めじゃなかった。
 倒れた仲間たちを、その背中で守るかのような、最後の最後まで、騎士であろうとする、誇り高い覚悟の顔だった。

 その顔を見た瞬間。
 俺の中で、何かが、ぷつりと、音を立てて切れた。

 マニュアル?
 祖父の言いつけ?
 ダンジョンの法則?
 自壊シーケンス?

「――上等だ、クソくらえ」

 俺は、吐き捨てるように呟いた。
 合理性とか、安全性とか、そんなものは、どうでもいい。
 ただ、目の前で、この女の子を、死なせたくない。
 理由は、それだけで十分だった。

「――死なせるもんかよっ!」

 俺は、制止しようとするモニカを振り払い、コンソールへと突進した。
 指が、見慣れたパネルの上を嵐のように踊る。
 安全装置を片っ端から強制的に解除していく。
 コンソールの奥深く、普段は隠されている、ドクロのマークが刻まれた、禍々しいほど巨大な赤いボタンが姿を現した。

 ――『緊急魔力槽・強制解放』。

「ご主人様、それは!」
 
 モニカの悲鳴が聞こえる。
 だが、もう遅い。
 俺は、ためらうことなく、その運命のボタンに、渾身の力で拳を叩きつけていた。

 ◇◆◇

 アリシアの目の前に、死が迫る。
 だが、その瞬間、彼女の体が感じたのは、衝撃ではなく、ふわりとした浮遊感だった。

「え……?」

 彼女が立っていたはずの床が、音もなく消えていた。
 アリシアの体は、暗い奈落へと、吸い込まれていく。
 しかし、落下はすぐに終わった。
 ぽちゃん、という柔らかい音と共に、彼女の体は、温かく、そして粘り気のある、不思議な液体に受け止められた。

「……あ……?」

 そこは、隠された地下の魔力槽。
 満たされていたのは、このダンジョンが、何百年もかけて蓄積してきた、純度百パーセントの「励起魔素(アモーレ・マナ)」の原液。
 黄金色に、きらきらと輝く、快楽そのものと呼ぶべき液体だった。

 その液体が、アリシアの体を、優しく、しかし抗いがたく包み込んでいく。
 傷ついた肌に、破れた服の隙間から、それは、じわり、じわりと染み込んでくる。
 痛みも、苦しみも、絶望も、全てが、蕩けるような甘い感覚に上書きされていく。

「んん……♡」

 体の芯から、脳の奥から、直接的に快感が湧き上がってくる。
 もう、どこをどうされているのか分からない。
 ただ、全身の、細胞の一つ一つが、快感に震え、歓喜の声を上げている。

「あ、あ、あぁ……♡♡」

 思考が、蕩けていく。
 聖騎士としての矜持も、羞恥心も、全てがどうでもよくなっていく。
 
 ただ、気持ちいい。
 もっと、欲しい。
 このまま、この快感の海に、溺れてしまいたい。

「い……ぃ……♡♡♡♡」

 アリシアの口から、もはや言葉にならない、絶頂の喘ぎが漏れた。
 その瞬間だった。

 ――ドォォォォォンッッ!!

 黄金の光の柱が、魔力槽から、アリシアの体そのものから、天に向かって突き上がった。
 それは、これまでのパワーアップとは次元の違う、神々しく、そしてあまりにも暴力的な、純粋なエネルギーの奔流。

 ――究極の『聖絶解放(ホーリー・クライマックス)』。

 光の柱は、ゴーレムの振り下ろされた拳を、まるで紙のように貫いた。
 勢いは止まらない。
 腕を、胴体を、そして頭部を、光が穿つ。

 絶対的な壁であったはずの黒曜石のゴーレムは、悲鳴を上げることさえ許されず、その巨体に無数の亀裂を走らせた。
 そして、内側から溢れ出す黄金の光に包まれ――声もなく、塵となって、崩壊した。

 ◇◆◇

 光が、収まる。
 巨人の広間には、静寂だけが残された。
 俺は、コンソールに手をつき、ぜえぜえと肩で息をしていた。
 モニターには、黒い塵が舞う、がらんとした部屋が映っているだけだ。

 俺は、自分の震える手を見つめた。
 マニュアルを破った。
 法則を、捻じ曲げた。
 俺が、彼女を、救った。
 
 隣で、モニカが呆然と呟くのが聞こえた。
 
「ご主人様……あなたは……」

 その先を、俺は聞きたくなかった。
 俺は、管理人失格だ。
 
 だが、不思議と、後悔はなかった。
 ただ、心臓が、今まで感じたことのないほど、激しく、そして熱く、脈打っていた。
 
 ◇

 静寂。
 あれほどまでに暴れ回っていた黒曜石のゴーレムは、キラキラと輝く黒い塵となって、静かに床へと降り積もっていく。
 広間には、俺の荒い呼吸の音だけが響いていた。

「……やった、のか……?」

 俺は、モニターに映る信じがたい光景に、ただ呆然と呟く。
 やった、じゃない。
 やっちまった、だ。俺が。
 マニュアルを破り、禁断のボタンを押し、あろうことか、侵入者である彼女を、救ってしまった。

 俺が、呆然自失としていると。
 モニターの中、ゴーレムが穿った床の大穴から、ぬるり、と白い手が現れた。
 その手が、穴の縁を掴む。
 そして、もう片方の手も。
 ゆっくりと、まるで生まれたての赤子のように、アリシアが、黄金色に輝く液体の中から、その姿を現した。

「…………あ……」

 俺は、息を呑んだ。
 彼女は、全身、びしょ濡れだった。
 俺が解放した、高純度の励起魔素(アモーレ・マナ)を、その身にたっぷりと浴びて。
 
 彼女の体を守っていた白いチュニックは、今はもう完全に水分を含み、第二の皮膚のように、その完璧な肢体にぴたりと張り付いている。
 豊かな胸の膨らみ、きゅっと締まったくびれ、そして、ほんのりと色づいた下着の輪郭まで、全てが露わになっていた。

 黄金色の雫が、彼女の金色の髪の先から、ぷるん、と震えながら滴り落ちる。
 それは、汗のせいか、それとも快感の余韻のせいか、上気して火照った白い肌を、ゆっくりと伝っていった。
 
 焦点の合わない、潤んだ碧眼。
 半開きの、艶かしい唇。
 
 激しい絶頂の後に残る、気怠さと、無防備な色香。
 その姿は、あまりにも、扇情的だった。

 俺の顔に、カッと熱が集まるのが分かった。
 今まで感じていた、どこか他人事のような興奮じゃない。
 もっと、直接的で、独占欲に近いような、どろりとした感情。

 モニターの中のアリシアは、ふらふらとした足取りで立ち上がると、自分の手を見つめ、そして、塵となったゴーレムの残骸を見た。
 何が起きたのか、まるで理解できていない様子だった。
 
 彼女は、そっと、ダンジョンの壁に手を触れる。
 アリシアは、ぽつりと、誰に言うでもなく、呟いた。

「まるで……ダンジョンが、私たちを助けてくれた、みたい……」

 その声を聞いた瞬間、俺の心臓が、大きく跳ねた。
 違う。ダンジョンじゃない。
 俺が、お前を――。

 ◇◆◇

 その頃。
 世界で最も神聖とされる場所、中央教会「聖天区」。
 その最奥に位置する「神の眼」と呼ばれる観測室は、かつてないほどの混乱に包まれていた。

 部屋の中央に浮かぶ、巨大な宝珠「セラフィム・クリスタル」が、血のような赤黒い光を、狂ったように明滅させている。
 ジリリリリリリッ!と、耳を劈くような警報が、大理石の床と壁に反響していた。

「報告! 第五階層の『調整役』、魔力反応、完全に沈黙!」
「励起魔素の観測値、危険レベルを遥かに突破! このパターンは……伝説の『再臨』級です! ありえません!」

 純白の法衣をまとった神官たちが、悲鳴のような報告を上げる。
 その喧騒を、ただ一人、玉座に座ったまま、冷ややかに見下ろす老人がいた。
 教会の頂点に立つ、最高司祭。その皺だらけの顔には、何の感情も浮かんでいない。

 彼が、ゆっくりと、枯れ木のような手を上げる。
 それだけで、室内の全ての音が、ぴたりと止んだ。

 最高司祭は、その虚ろな目で、赤黒く明滅する水晶を見つめ、氷のように冷たい声で、命じた。

「――『鉄の聖女』とその騎士団を、直ちに派遣せよ」

 その言葉に、神官たちが息を呑む。
 鉄の聖女。それは、教会の最も過激で、最も強力な、異端を狩るためだけの聖騎士団。

 最高司祭は、ゆっくりと立ち上がった。
 その瞳の奥に、初めて、暗く、冷たい怒りの炎が灯る。

「異端の巣は、神の御名において、完全に浄化するのだ」
 
 彼の言葉は、この場にいる全ての者に、そして、まだ何も知らない俺たちの未来に、絶対的な死刑宣告として、響き渡った。

「あの忌まわしき『特異体質』共、一人残らずな」
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