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第8章:賢者オーレリアの試練(2)
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カイルは気づくと、一人きりで薄暗い廊下に立っていた。
先ほどのホールも、ライナやエレーナの姿もない。
「え……二人は……ライナ、エレーナ! どこにいるんだ!?」
叫んでも返事はない。
床は冷たい石造りで、どこまでも続く闇の廊下が伸びている。
まるで古い迷宮のようで、ところどころに設置された燭台が青白い灯を揺らしていた。
それだけではなく、壁には見覚えのある彫刻――森での回想を映し出すような場面が刻まれているのだ。
幼少期のカイルがライナと共に遊んでいる姿、エレーナとの出会い、ガレスとの訓練……まるでカイルの人生をなぞっているように見える。
「これ……全部、俺の記憶……?」
思わず手を伸ばすと、彫刻の中のカイルとライナの姿が淡く輝き、次の瞬間、そこから声が聞こえてきた。
『お前は弱いな。何もできない、ただの平凡な奴だ』
懐かしい村の少年の声と重なりつつ、冷ややかな響きに変化していく。
カイルはぎくりと身を竦める。
その声はやがて、暗闇から現れた『もう一人のカイル』の姿と同化するかのように繋がった。
「なっ……なんだよ、これ……」
もう一人のカイルは淡い影法師のような存在で、憎々しい笑みを浮かべている。
「見てみろよ、お前は結局、ルシアスには勝てず、ガレスも守れず、ライナにもエレーナにも期待外れの顔をされてる。小枝の力なんて借り物だろう? お前自身は何の才能もないんだよ」
鋭い言葉が心に突き刺さる。
カイル自身が密かに抱いていた劣等感が凝縮され、こうして敵意をもって迫ってきたような感覚だ。
目を逸らそうとするが、『もう一人のカイル』は執拗に追いすがる。
『ほら、あのときも……ガレスを守れなかった。ライナだって、ルシアスに吹き飛ばされて重傷を負った。エレーナには心配ばかりかけて、結局お前は誰一人助けていない。そんなのに、まだ戦うつもりか?』
「やめろ……やめてくれ……!」
カイルは耳を塞ぐようにして前へ駆け出す。
廊下は延々と続き、角を曲がっても角を曲がっても同じような景色が現れる。
まるで迷路だ。背後からは自分の声とは思えない嫌な嘲笑が追いかけてくる――「諦めたらどうだ?」と。
ライナとエレーナも、別々の空間で似たような『心の迷宮』に囚われていた。
ライナの前には、『もう一人のライナ』が現れ、「お前は強いと自惚れて、結局カイルやガレスに頼りっきりだった」と責め立てる。
幼馴染としての気持ちや自己嫌悪が混ざり合い、出口のない回廊を彷徨い続ける。
エレーナは修道院の姿を映し出した幻の中で、『もう一人のエレーナ』に「教団を裏切った罪で世界を混乱に導く」と言われ、罪悪感を掻き立てられる。
ガレスが倒れるシーンを繰り返し見せられ、「あなたのせいだ」と囁かれる。
三人はそれぞれ孤立したまま、心の闇と向き合わされる形となった。
オーレリアが言っていた「あなたたちの覚悟を試す」というのは、こうした精神的試練を通じて、自分の弱さや恐怖に打ち克てるかどうかを見る狙いだろう。
とはいえ、試練は重苦しいばかりではない。
時折、妙にコミカルな夢や幻影が混ざることもあった。
カイルの迷宮では、村人たちがやたらと大袈裟に「カイルさま万歳!」と担ぎ上げてくる幻が現れ、「これが望みなんじゃないの?」とニヤニヤしながら踊り回る。
カイルは「そんなんじゃない!」と赤面する。
ライナの夢には、なぜかチビ化したカイルとエレーナが「ライナ姐さん、守ってくださーい!」と可愛らしい声で寄ってきて、彼女の『姉御肌』を刺激する。
照れ臭いやらバカらしいやらで混乱していると、幻はあっけなく消える。
エレーナの幻覚では、甘いお菓子が山積みになった祭壇が出現し、「あなたが大好きなスイーツを毎日食べて平穏に暮らしたら?」と誘惑する。
修道院暮らしで甘い物に目がない彼女は思わず目を輝かせるが、「ダメ、ここで流されちゃ……」と懸命に自制する。
こうした奇妙な幻覚が挟まれるのは、オーレリアの計らいなのか、それとも迷宮の不規則な作用なのか不明だが、重いテーマの合間にくすっと笑わせる時間が設けられているようでもあった。
◇◇◇
迷宮を彷徨い始めてどれほど経ったか分からない頃、三人はそれぞれ無意識に『仲間の存在』を強く求めるようになる。
カイルは「ライナとエレーナに会わなきゃ……あの二人を守るって決めたんだ」と何度も自分に言い聞かせる。
心の闇が「お前には無理だ」と嘲笑しても、「ライナが、エレーナが待ってるから……」と口にすると、その嘲笑がわずかに弱まる。
ライナは「カイルとエレーナがいないと、私はただ剣を振るうだけの空っぽの存在……いや、そうじゃない。あいつらがいてくれるからこそ、私も前を向ける!」と叫びながら、迷宮の壁を剣で切り裂き、少しずつ幻を打ち破っていく。
エレーナは、「自分のせいでみんなが……」という罪悪感に苛まれながらも、「カイルやライナが必要としてくれるなら、私はこの力で助けたい。二人を救うためなら、恐怖に立ち向かえる……!」と涙を流しながら祈り、障壁を光で溶かしていく。
三人は、それぞれの迷宮の奥底でやっと合流を果たす。
視界が開けた先は、白い空間に広がる円形の広場のような場所。
そこにライナが剣を携え、エレーナが杖を抱え、カイルが小枝を手にして同時に出現する。
「ライナ! エレーナ!」
「カイル……! あんた無事だったのね……!」
「二人とも、会えてよかった……!」
三人は互いの姿を確認し、まるで再会を喜ぶように駆け寄る。
長い時間探し合ってきたかのような安心感が胸に広がった。
各々の不安や孤独を振り払うように、しっかりと抱き合い、声を掛け合う。
「私……もう逃げない。カイル、ライナ、ありがとう……!」
「私も……カイルがいてくれるから、エレーナがいてくれるから、頑張れるんだ……」
その瞬間、カイルの小枝が柔らかな光を放ち始める。
三人が強く『共感』し合ったことで、枝に宿る力が呼応したのだ。
まるで迷宮を照らすかのように、一筋の光が宙へ伸びていく。
白い空間がさらに明るさを増し、やがてゆっくりと形状を変化させていく。
気づけば三人は元の古代図書館のホールに戻っていた。
オーレリアがそこに立ち、微笑みを浮かべている。
「おかえりなさい。どうやら、自分の心の闇と向き合い、仲間への思いを確かなものにしたようね」
オーレリアは神秘的な瞳で三人を見渡す。
ライナもエレーナも汗だくになりながら、しかしどこかすっきりとした表情で頷いた。
カイルは小枝を見つめ、先ほどまで感じていた力の余韻を口にする。
「今……三人の気持ちが一つになったとき、不思議なほど小枝が応えてくれた気がします。以前よりも強く共鳴できたような……」
「それが『仲間との融合』の入り口よ。より深い絆が生む力……あなたたちの意思が、本当の魔力を呼び覚ますかもしれない」
オーレリアはそう言うと、静かに杖を掲げ、ホールの中心で小さな光の球を生み出す。
透明度の高いその光球の中には、古代文字が流れるように揺らめいている。
オーレリアは光球をカイルへ向けて送り出し、それがまるで小枝に吸収されるように融合すると、枝が淡い輝きを増す。
「一部だけど、私の知識をその小枝に託しておくわ。世界にはまだ多くの謎と危機があり、あなたたちの旅路も続くでしょう。闇の力に対抗するには、あなたたちが協力し合って、この力を高めていく必要がある」
ライナは目を丸くしながら、「それじゃあ、この枝がさらに強くなるの?」と尋ねる。
オーレリアは頷いて応じる。
「今はまだ、基礎の段階に過ぎないけれど。例えば、仲間が同時に攻撃や防御の意思を重ねたとき、枝がそのエネルギーを融合させ、単なる増幅ではなく『新たな力』として放つことができるようになる可能性があるわ……ただし、それには相当な信頼関係と練習が必要だけどね」
エレーナは希望の光が差し込むような安堵を覚える。
ガレスを守れなかった悔しさや、教団に狙われる恐怖があっても、この先に打開策があるのなら頑張れる気がしていた。
ライナも拳を握り、「よし、練習ならいくらでもやってやるわ。あいつ――ルシアスに次こそ一矢報いるためにも!」と力強く宣言する。
オーレリアは厳かな面持ちで、最後に忠告を与える。
「ただし、その力は諸刃の剣でもあるわ。強い感情が暴走すれば、仲間同士で共鳴を乱し、制御不能に陥る恐れもある。愛も憎しみも、極まれば表裏一体……あなたたちが心を一つにしていなければ、ルシアスの闇に飲み込まれるだけよ」
カイルたちは改めて身を引き締める。
先ほどの『心の迷宮』を思えば、どんなに固い絆でも揺らぐ時は揺らいでしまう。
だが、だからこそ日々を重ね、互いを理解する努力を続ける必要があるのだ。
オーレリアは少し寂しげな微笑を浮かべると、白金色の髪を一振りした。
「私ができるのは、ここまでよ。これ以上は、あなたたち自身の意志で切り開くしかない。闇の儀式を阻止し、ルシアスという猛威を止めたいなら、なおさらね。――さあ、私に言いたいことがあるならどうぞ。もう長くはここに留まれないの」
エレーナが一歩前に出て、深く頭を下げる。
「オーレリア様……私たちは、世界の秩序を守りたいだけじゃなく、大切な人を守りたいんです。あなたが仰るように、仲間との共感を大事にしながら……今はまだ弱いかもしれない。でも、必ずやり遂げてみせます」
「いい目をしてるわ。行きなさい。私もあなたたちがどんな選択をするのか見守っているから」
その言葉とともに、オーレリアの姿が白い光の粒子となって消え始める。
図書館のホールに再び静寂が訪れる。
まるで、すべてが幻だったかのようだ。
だが、小枝に宿った新たな力の兆し、そして三人が再会した精神の迷宮の記憶は確かに残っている。
「行こう、ライナ、エレーナ。賢者オーレリアが力を与えてくれたのなら、次にルシアスが何を企んでも、もう逃げるわけにはいかない」
カイルが静かな決意を固め、力強く宣言する。
ライナも剣の柄を握り、エレーナも杖を抱え直し、お互いに頷き合った。
「うん! 私たちなら、きっとできるよ……!」
「そうよ、ちゃんと気持ちを合わせれば、どんな強敵だって倒せるはずなんだから!」
こうして、カイルたちは『試練の迷宮』を乗り越え、賢者オーレリアの力の一端を受け取った。
心が一段強く結ばれた今、彼らはルシアスと再び対峙するための大切な一歩を踏み出す。
確かにルシアスは恐ろしく強大で、その背後には教団の闇や王国の政争が渦巻いている。
しかし、カイルたちはもう逃げない。
小枝に秘められた『仲間との融合』の力を覚醒させ、世界の運命を変える可能性を掴むために――再び歩を進めるのだった。
先ほどのホールも、ライナやエレーナの姿もない。
「え……二人は……ライナ、エレーナ! どこにいるんだ!?」
叫んでも返事はない。
床は冷たい石造りで、どこまでも続く闇の廊下が伸びている。
まるで古い迷宮のようで、ところどころに設置された燭台が青白い灯を揺らしていた。
それだけではなく、壁には見覚えのある彫刻――森での回想を映し出すような場面が刻まれているのだ。
幼少期のカイルがライナと共に遊んでいる姿、エレーナとの出会い、ガレスとの訓練……まるでカイルの人生をなぞっているように見える。
「これ……全部、俺の記憶……?」
思わず手を伸ばすと、彫刻の中のカイルとライナの姿が淡く輝き、次の瞬間、そこから声が聞こえてきた。
『お前は弱いな。何もできない、ただの平凡な奴だ』
懐かしい村の少年の声と重なりつつ、冷ややかな響きに変化していく。
カイルはぎくりと身を竦める。
その声はやがて、暗闇から現れた『もう一人のカイル』の姿と同化するかのように繋がった。
「なっ……なんだよ、これ……」
もう一人のカイルは淡い影法師のような存在で、憎々しい笑みを浮かべている。
「見てみろよ、お前は結局、ルシアスには勝てず、ガレスも守れず、ライナにもエレーナにも期待外れの顔をされてる。小枝の力なんて借り物だろう? お前自身は何の才能もないんだよ」
鋭い言葉が心に突き刺さる。
カイル自身が密かに抱いていた劣等感が凝縮され、こうして敵意をもって迫ってきたような感覚だ。
目を逸らそうとするが、『もう一人のカイル』は執拗に追いすがる。
『ほら、あのときも……ガレスを守れなかった。ライナだって、ルシアスに吹き飛ばされて重傷を負った。エレーナには心配ばかりかけて、結局お前は誰一人助けていない。そんなのに、まだ戦うつもりか?』
「やめろ……やめてくれ……!」
カイルは耳を塞ぐようにして前へ駆け出す。
廊下は延々と続き、角を曲がっても角を曲がっても同じような景色が現れる。
まるで迷路だ。背後からは自分の声とは思えない嫌な嘲笑が追いかけてくる――「諦めたらどうだ?」と。
ライナとエレーナも、別々の空間で似たような『心の迷宮』に囚われていた。
ライナの前には、『もう一人のライナ』が現れ、「お前は強いと自惚れて、結局カイルやガレスに頼りっきりだった」と責め立てる。
幼馴染としての気持ちや自己嫌悪が混ざり合い、出口のない回廊を彷徨い続ける。
エレーナは修道院の姿を映し出した幻の中で、『もう一人のエレーナ』に「教団を裏切った罪で世界を混乱に導く」と言われ、罪悪感を掻き立てられる。
ガレスが倒れるシーンを繰り返し見せられ、「あなたのせいだ」と囁かれる。
三人はそれぞれ孤立したまま、心の闇と向き合わされる形となった。
オーレリアが言っていた「あなたたちの覚悟を試す」というのは、こうした精神的試練を通じて、自分の弱さや恐怖に打ち克てるかどうかを見る狙いだろう。
とはいえ、試練は重苦しいばかりではない。
時折、妙にコミカルな夢や幻影が混ざることもあった。
カイルの迷宮では、村人たちがやたらと大袈裟に「カイルさま万歳!」と担ぎ上げてくる幻が現れ、「これが望みなんじゃないの?」とニヤニヤしながら踊り回る。
カイルは「そんなんじゃない!」と赤面する。
ライナの夢には、なぜかチビ化したカイルとエレーナが「ライナ姐さん、守ってくださーい!」と可愛らしい声で寄ってきて、彼女の『姉御肌』を刺激する。
照れ臭いやらバカらしいやらで混乱していると、幻はあっけなく消える。
エレーナの幻覚では、甘いお菓子が山積みになった祭壇が出現し、「あなたが大好きなスイーツを毎日食べて平穏に暮らしたら?」と誘惑する。
修道院暮らしで甘い物に目がない彼女は思わず目を輝かせるが、「ダメ、ここで流されちゃ……」と懸命に自制する。
こうした奇妙な幻覚が挟まれるのは、オーレリアの計らいなのか、それとも迷宮の不規則な作用なのか不明だが、重いテーマの合間にくすっと笑わせる時間が設けられているようでもあった。
◇◇◇
迷宮を彷徨い始めてどれほど経ったか分からない頃、三人はそれぞれ無意識に『仲間の存在』を強く求めるようになる。
カイルは「ライナとエレーナに会わなきゃ……あの二人を守るって決めたんだ」と何度も自分に言い聞かせる。
心の闇が「お前には無理だ」と嘲笑しても、「ライナが、エレーナが待ってるから……」と口にすると、その嘲笑がわずかに弱まる。
ライナは「カイルとエレーナがいないと、私はただ剣を振るうだけの空っぽの存在……いや、そうじゃない。あいつらがいてくれるからこそ、私も前を向ける!」と叫びながら、迷宮の壁を剣で切り裂き、少しずつ幻を打ち破っていく。
エレーナは、「自分のせいでみんなが……」という罪悪感に苛まれながらも、「カイルやライナが必要としてくれるなら、私はこの力で助けたい。二人を救うためなら、恐怖に立ち向かえる……!」と涙を流しながら祈り、障壁を光で溶かしていく。
三人は、それぞれの迷宮の奥底でやっと合流を果たす。
視界が開けた先は、白い空間に広がる円形の広場のような場所。
そこにライナが剣を携え、エレーナが杖を抱え、カイルが小枝を手にして同時に出現する。
「ライナ! エレーナ!」
「カイル……! あんた無事だったのね……!」
「二人とも、会えてよかった……!」
三人は互いの姿を確認し、まるで再会を喜ぶように駆け寄る。
長い時間探し合ってきたかのような安心感が胸に広がった。
各々の不安や孤独を振り払うように、しっかりと抱き合い、声を掛け合う。
「私……もう逃げない。カイル、ライナ、ありがとう……!」
「私も……カイルがいてくれるから、エレーナがいてくれるから、頑張れるんだ……」
その瞬間、カイルの小枝が柔らかな光を放ち始める。
三人が強く『共感』し合ったことで、枝に宿る力が呼応したのだ。
まるで迷宮を照らすかのように、一筋の光が宙へ伸びていく。
白い空間がさらに明るさを増し、やがてゆっくりと形状を変化させていく。
気づけば三人は元の古代図書館のホールに戻っていた。
オーレリアがそこに立ち、微笑みを浮かべている。
「おかえりなさい。どうやら、自分の心の闇と向き合い、仲間への思いを確かなものにしたようね」
オーレリアは神秘的な瞳で三人を見渡す。
ライナもエレーナも汗だくになりながら、しかしどこかすっきりとした表情で頷いた。
カイルは小枝を見つめ、先ほどまで感じていた力の余韻を口にする。
「今……三人の気持ちが一つになったとき、不思議なほど小枝が応えてくれた気がします。以前よりも強く共鳴できたような……」
「それが『仲間との融合』の入り口よ。より深い絆が生む力……あなたたちの意思が、本当の魔力を呼び覚ますかもしれない」
オーレリアはそう言うと、静かに杖を掲げ、ホールの中心で小さな光の球を生み出す。
透明度の高いその光球の中には、古代文字が流れるように揺らめいている。
オーレリアは光球をカイルへ向けて送り出し、それがまるで小枝に吸収されるように融合すると、枝が淡い輝きを増す。
「一部だけど、私の知識をその小枝に託しておくわ。世界にはまだ多くの謎と危機があり、あなたたちの旅路も続くでしょう。闇の力に対抗するには、あなたたちが協力し合って、この力を高めていく必要がある」
ライナは目を丸くしながら、「それじゃあ、この枝がさらに強くなるの?」と尋ねる。
オーレリアは頷いて応じる。
「今はまだ、基礎の段階に過ぎないけれど。例えば、仲間が同時に攻撃や防御の意思を重ねたとき、枝がそのエネルギーを融合させ、単なる増幅ではなく『新たな力』として放つことができるようになる可能性があるわ……ただし、それには相当な信頼関係と練習が必要だけどね」
エレーナは希望の光が差し込むような安堵を覚える。
ガレスを守れなかった悔しさや、教団に狙われる恐怖があっても、この先に打開策があるのなら頑張れる気がしていた。
ライナも拳を握り、「よし、練習ならいくらでもやってやるわ。あいつ――ルシアスに次こそ一矢報いるためにも!」と力強く宣言する。
オーレリアは厳かな面持ちで、最後に忠告を与える。
「ただし、その力は諸刃の剣でもあるわ。強い感情が暴走すれば、仲間同士で共鳴を乱し、制御不能に陥る恐れもある。愛も憎しみも、極まれば表裏一体……あなたたちが心を一つにしていなければ、ルシアスの闇に飲み込まれるだけよ」
カイルたちは改めて身を引き締める。
先ほどの『心の迷宮』を思えば、どんなに固い絆でも揺らぐ時は揺らいでしまう。
だが、だからこそ日々を重ね、互いを理解する努力を続ける必要があるのだ。
オーレリアは少し寂しげな微笑を浮かべると、白金色の髪を一振りした。
「私ができるのは、ここまでよ。これ以上は、あなたたち自身の意志で切り開くしかない。闇の儀式を阻止し、ルシアスという猛威を止めたいなら、なおさらね。――さあ、私に言いたいことがあるならどうぞ。もう長くはここに留まれないの」
エレーナが一歩前に出て、深く頭を下げる。
「オーレリア様……私たちは、世界の秩序を守りたいだけじゃなく、大切な人を守りたいんです。あなたが仰るように、仲間との共感を大事にしながら……今はまだ弱いかもしれない。でも、必ずやり遂げてみせます」
「いい目をしてるわ。行きなさい。私もあなたたちがどんな選択をするのか見守っているから」
その言葉とともに、オーレリアの姿が白い光の粒子となって消え始める。
図書館のホールに再び静寂が訪れる。
まるで、すべてが幻だったかのようだ。
だが、小枝に宿った新たな力の兆し、そして三人が再会した精神の迷宮の記憶は確かに残っている。
「行こう、ライナ、エレーナ。賢者オーレリアが力を与えてくれたのなら、次にルシアスが何を企んでも、もう逃げるわけにはいかない」
カイルが静かな決意を固め、力強く宣言する。
ライナも剣の柄を握り、エレーナも杖を抱え直し、お互いに頷き合った。
「うん! 私たちなら、きっとできるよ……!」
「そうよ、ちゃんと気持ちを合わせれば、どんな強敵だって倒せるはずなんだから!」
こうして、カイルたちは『試練の迷宮』を乗り越え、賢者オーレリアの力の一端を受け取った。
心が一段強く結ばれた今、彼らはルシアスと再び対峙するための大切な一歩を踏み出す。
確かにルシアスは恐ろしく強大で、その背後には教団の闇や王国の政争が渦巻いている。
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