盗んだ能力で異世界無双～最強を狙え、最弱の能力で～

第３２章 魂の誓約

「 リラのインストール能力が『知識を取り込む』力なら、俺のQRコード能力は『情報をコード化して固定する』力だ！ 　相性は悪くないはず！」
　
　俺は一瞬の逡巡の後、決断した。
　この荒療治が成功する保証はない。
　だが、何もしなければリラは確実に破滅する。

　俺は、リラの前に立ちはだかり、彼女の暴走する魔力と、周囲に荒れ狂う禁断の知識の奔流に、真っ向から対峙する。
　そして、俺は両手を「知の源流」と、そこから溢れ出しリラに流れ込もうとする知識の奔流へと突き出し、意識を集中させる。
　
　するとどうだ。
　俺の手のひらから、無数のQRコードのようなパターンが溢れ出し、それがまるで意志を持ったかのように、「知の源流」から溢れ出す禁断の知識を、リラに到達する前に次から次へと吸い込み、小さな黒い立方体のデータクリスタルへと変換していく！
　
　もちろん、全ての知識をコード化できるわけじゃない。
　だが、少なくとも、今この場で暴走している余剰なエネルギーと、特に危険な情報の奔流は、この方法で一時的に封じ込めることができる！

「あなた、一体何を……？」

　リラが、かろうじて意識を取り戻し、驚愕の表情で俺を見つめている。
　
「黙って見てろ。あんたを縛るそのクソったれな運命ごと、俺がハッキングしてやるよ！」

　数十分にも感じられた、濃密な時間の後。

　あれほど荒れ狂っていた「知の源流」は、その輝きを幾分か穏やかなものへと変え、暴走は完全に鎮圧された。
　俺の手元には、ずっしりと重い、数十個の黒いデータクリスタルが残されていた。
　これがあの禁断の知識の塊か……。
　迂闊に読み込んだら、こっちまでおかしくなりそうだぜ。

　図書館全体を揺るがしていた振動も収まり、後に残ったのは、俺とリラの荒い息遣いだけだった。

「……終わった、のか……？」

　俺は、その場にへたり込みそうになるのを、なんとか堪える。
　全身の力を使い果たし、頭がガンガンと痛む。
　だが、それ以上に、とてつもない達成感が胸を満たしていた。

　リラもまた、激しい消耗と引き換えに、暴走の危機から救い出され、穏やかな寝息を立てていた。
　俺が彼女を抱きかかえ、安全な場所へ運ぼうとすると、彼女がゆっくりと目を覚ます。
　
「あなたは、わたしの……わたしたちの図書館を、そしてわたし自身をも、救ってくれたのですね……」
　
　彼女は、影時に心からの感謝と、そしてどこか畏敬にも似た念を浮かべて、深々と頭を下げた。

「わたしは、この図書館に縛られ、知識に翻弄され、そして時には、その力で人を傷つけることすらありました。でも……あなたは、そんなわたしを、そしてこの暴走しかけた知識の奔流をも、その機転と力で救ってくださった……。影時さん、この『千の才能』……もしよろしければ、あなたの目的のために使っていただけませんか？」

　その申し出は、あまりにも魅力的だった。
　彼女の知識と能力があれば、俺の「仕事」は格段に捗るだろう。

　俺は、差し出された彼女の小さな手を、力強く握り返した。

「ああ、よろしく頼むぜ、リラ先生。あんたほどの頭脳と能力があれば、百人力だ。ただし、俺のやり方は、少々荒っぽいからな。覚悟しておけよ？」

　リラは、俺の言葉に、ふわりと花が咲くように微笑んだ。
　
　こうして、俺の旅に、初めて（ミーアを除けば）心から信頼し、その能力を預けられる仲間が加わった。
　「千の才能を持つ者」リラ・ノヴァ。
　彼女の加入は、今後の情報収集、潜入、暗号解読、異文化理解、そして時には戦闘サポートにおいて、計り知れない力となるだろう。