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第三部
「気持ちいいの、バレバレだよ?」
「佐奈って耳、動かせるよね?」
「え?」
間の抜けた声を口から漏らして、私は隣を歩く若菜さんに視線を向けた。
「あれ? 違った?」
若菜さんは、不思議そうに首を傾げるけれど。私には覚えがなかった。
試しに力を入れてみるけれど、やっぱり私の耳は動かない。
「あはは。佐奈、なんか変な顔になってるよ?」
「いや、若菜さんが変なこと言うから……」
けれど、若菜さんは未だ腑に落ちないような表情で。
「んー。前は動かせてたんだけどなぁ」
「前?」
聞き返してみるけれど、若菜さんは何も答えてはくれない。
それどころか、見せつけるように頬を持ち上げる始末だ。
若菜さんはそのまま、甘い香りを揺らしながら、私との距離を詰めてくる。
「試してみる?」
若菜さんの細い吐息が、私の耳をくすぐって。何か熱いものが込み上げてくるのと同時に、私は若菜さんに包み込まれた。
「っ! ちょっと……!」
私の静止なんて、きっと若菜さんには意味がないのだろう。
若菜さんは舌を這わせながら、欲望のままに私の耳を啄むから。
それは、あの日の夜を彷彿とさせるような。若菜さんの色気をたっぷりと孕んだ、熱い吐息だった。
「んっ、んぁ……っ! まだ外だよっ……! 見られちゃうって……!」
今はあの日とは違う。外はまだ明るいし、人通りだってそれほど少なくはない。
なのに、私は若菜さんを乱暴に引き剥がすことなんかできなくて。
若菜さんが、私に蕩けそうな快楽を流し込んでくるから。
私はただ、身を捩ることしかできない。
「……んっ。佐奈が堂々としていれば、バレないよ?」
「んんぅ……っ! む、無理だって……!」
いたずらに刺激されて。私だって、若菜さんに気持ちよくして欲しいのに。それを我慢して歩くなんて、私にはできない。
もうこのまま、私たちの行いが誰かに見られてしまうのかもしれない。そんな危機感を抱いた時だった。
「ほら。やっぱり動いてる」
若菜さんは私から唇を離すと、満足げに濡れた私の耳を見つめていた。
若菜さんの温度が突如として離れていくに連れ、冷たい空気だけが私の耳を撫でるようになる。
若菜さんの言葉を理解するのに、私は少しの時間を要したと思う。
「え……?」
確認するように、私は若菜さんに啄まれた耳に手を当てる。
若菜さんに濡らされて。僅かな異物感の残るそれは、小刻みに震えていた。
若菜さんは私にそれを自覚させるために、こんなことをしたのだと。
気がついた時、私は若菜さんを鋭く睨みつけていた。
「あはは。佐奈、そこ弱いもんね?」
「ちがっ……! 若菜さんが、刺激するから……!」
私の抗議をかわすように、若菜さんは軽快に歩き出した。
私は、若菜さんに弄ばれたのだ。
文字通り、若菜さんは私で遊んだだけ。
その証拠に、若菜さんの表情はひどく晴れやかなものだったから。
それがなんだか腑に落ちなくて、私は若菜さんの耳にかぶりついた。
「っ!?」
若菜さんは、歩くのをやめざるを得ないはずだ。
立ち止まって、なにするの? そんな瞳を私に向ける。
けれどもう、そんなのには答えてあげない。
私はひたすらに、若菜さんの耳を啄んだ。
若菜さんが、少しでも早く快感を得られるように。必死になって、その肉感を蹂躙していく。
「あっん、ぁぁ……っ!」
舌先で軽く叩くみたいに、若菜さんの肌を何度も沈ませる。
迷路みたいに歪な形をした若菜さんのそこを。一つずつ確かめるように、私は刺激していく。
「あっぁぁああっ……! さ、佐奈っ……! やめてっ、外だよ? これはさすがに、バレちゃうって……!」
若菜さんは、堪えるように身を捩るけれど。それは、私も同じだったから。
私は一度だけ若菜さんから唇を離して、冷たく突き放すように言葉を向ける。
「若菜さんが、堂々としていればいいんだよ?」
「っ!」
私の言葉が若菜さんに届いたのを感じて。私はまた、若菜さんに唇を押し当てる。
「っ、っ! ~~っぁ……! っん……!」
「だめだよ? 若菜さん、まだ声出てる」
若菜さんは、必死に声を堪えようとするけれど。
抑えきれない快楽は、若菜さんの身体から漏れ出るのをやめられない。
膝は弱々しく震えて。若菜さんの下半身は、だらしなく崩れそうになっている。
「ほら。身体、動かさないで? 気持ちいいの、バレバレだよ?」
他の人には分からなくても。若菜さんが気持ちよくなっているのは、私には丸分かりだ。
それに少しだけ溜飲を下げた私は、若菜さんを優しく包むように撫でてあげる。
「っ……。はぁっはぁっ……。っぁ……」
僅かにずらされた若菜さんの瞳は、虚に私を見つめてくる。
それは、私に何かを訴えかけているようにも見えたから。
唇を離してあげると、私から漏れたそれでびっしょりと濡れた若菜さんの耳が視界に映った。
私は少しだけ胸が跳ねるのを感じながら、若菜さんに試すような瞳を向ける。
「耳、触ってみて?」
若菜さんは誘われるままに、手を動かした。
きっと、耳に触れたその手には僅かな振動が伝わっているはずで。
若菜さんは火照った顔を私に向けて、小さく唇を動かした。
「……佐奈が気持ちいいこと、してくるから……」
「よかった。若菜さん、気持ちよかったんだ?」
答えは分かっていたけれど。若菜さんの反応を確かめたくて、私はつい訊いてしまった。
若菜さんが小さく頷いたのを見て、私の胸が更に激しく跳ねるのを感じた。
もっと。もっと、若菜さんを気持ちよくしたい。そんな欲望が、私を突き動かす。
若菜さんの耳元は、私の体液で薄く光を浴びている。
目に映るそれを前に我慢ができなくなった私は、もう一度だけ唇を近づけた。
「……今度は、中に入れちゃおうか?」
若菜さんの耳が、一度だけ大きく跳ねたのを見て。
私は今度こそ、若菜さんから身体を離して歩き出した。いつも以上に軽快で、余裕に満ちた足取りだ。
若菜さんが正気を取り戻して突っかかってくるまでは、鼻歌なんか歌ってみたりして。
本当に幸せだなぁ、なんて。色ボケもここまでくると、自然と受け入れてしまうものだ。
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