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第三部
「––––セックス、でしょ?」
『ぁんっ、ぁあっ、ぁっぁっ……ぁあんっ!』
雲行きが怪しくなったのは、ジムの浮気を疑ったジェシーが家に乗り込んだ時だった。
「…………」
画面の向こうでは、ジムの浮気相手が激しい嬌声を漏らしていて。二人は何をしているのか。行為の行方は、カーテンに仕切られていてシルエットしか見えないけれど。
ベッドの軋む音に合わせて上下する二つの黒い影を見れば、それは考えるまでもないことだった。
ジェシーは何も言えずに、その光景をじっと見つめている。私も全く同じ状況だった。
「すごいねー。こんなところまで見せちゃうんだ」
若菜さんは、どこか感心したように一人頷いているけれど。
私は、完全に油断していた。若菜さんが一緒に映画を観ようなんて言うから。特に警戒もしていなかったのだけれど。それが間違いだったのだ。
『あっ、あんっ。だめよジム、そんなところ……っ!』
「…………」
そもそも、若菜さんがただ黙って映画を見るなんてあり得ない。そんなこと、とっくの昔に分かっていたはずなのに。
「あれ? 佐奈、どうしたの? 随分大人しいけど。もしかして、興奮しちゃった?」
本当に、私はもっとあらゆる可能性を視野に入れておくべきだったのだ。
突き刺すような、若菜さんの確信に満ちた瞳を見て。私は気づかれないよう、小さく息を吐いた。
「……まさか。だってこれ、普通の映画でしょ? 面白いね。つい、見入っちゃうよ」
別に、内容はラブ&ドラマって感じで面白いのだ。だからこれは、誤魔化しているわけじゃない。
なのに。若菜さんは、わざとらしく唇に指を当てて。試すように、横目で私の瞳を捉えてくる。
「でも、日本の映画だとこういうシーンはあんまり見ないよね? なんて言うんだっけ、こういうの」
にやり、と口の端を持ち上げて。快楽に溺れる二人の喘ぎ声を背景に、若菜さんはゆっくりと口にしていく。
「ほら。こんなふうに、愛し合った二人が身体を重ねるやつ」
絶対に分かっているくせに。若菜さんは、あくまで思い出せないといった風を装う。
「"セ"から始まるのは覚えてるんだけどなぁー。佐奈は知ってるよね?」
"言ってごらんよ"そんな意味の込められた、挑発的な瞳だった。
えっちな映画を見せて。若菜さんは、私が戸惑う姿を見たいだけなのだ。
誘惑とも言えない、ただ若菜さんが楽しみたいだけの行為には少しだけ腹が立つ。
「……どうかな。でも––––」
だから。若菜さんの問いに対する答えは、言葉では意味がないと思った。
私は、テレビの前で佇む若菜さんに覆い被さって。そのまま、硬い床へと身体を押し付けた。
「––––やってみれば、思い出すんじゃない?」
見下ろす視界の中で、私は若菜さんの瞳をはっきりと捉える。
口の端を持ち上げて。若菜さんの下半身を、左右に切り開いていく。
「……そうかも」
若菜さんは、既に身体から力を抜いていて。小さく息を漏らすと、少しだけ虚な瞳で私を見つめ返した。
きっと、若菜さんは画面の向こう以上に激しく甘い声を聞かせてくれるのだろう。
そんな確信にも似た感情とともに、私は若菜さんの下着を取り除いていく。
自分の最奥を包む布地すらも、その役割を放棄させて。
若菜さんの内股に手を添えると、軽く開かせた脚の間に身体を差し込んだ。
「……っ」
若菜さんの中に、私の温度を流し込むみたいに。差し込んだ身体を、少しずつ前に進めていく。
「……?」
やがて、私の身体は若菜さんの最奥に重なる。
けれどそこは、私が想像していたものとは違っていた。
僅かな湿り気を帯びた空気が、ねっとりと私に絡みついたのを感じたから。
「––––ふふっ」
思わず、細い息が漏れた。雰囲気に合っていなかったかもしれないけれど。
ふとももの内側を、優しくなぞって。若菜さんの瞳を覗き込む。
「興奮してたのは、どっちだろうね?」
「っ。や、やめてよ……」
「んーん。やめなーい」
いたずらっぽく口にして。若菜さんの最奥に触れさせたそこを、軽く持ち上げるように上下させる。
「––––んっ」
リビングの床は硬いから、あまり激しくはできないけれど。
少しの動きで、最大の快楽を得られるように。私は力加減を調整しながら、若菜さんと一つになっていく。
「んぅっ、はぁっ」
「はぁっ、んぁっ」
画面の向こうで生まれていた甘い声は、やがて私たちの漏れ出る感情に上書きされていく。
私も、若菜さんも。同じ快楽を、同時に感じている。
「……若菜さん、ずるいよね?」
「……なにが?」
腰を振る動きを一度止めて。若菜さんに擦り付けるように、深く身体を押し込む。
二人の熱いところが強く触れ合ってから、感触を確かめるみたいに、腰を突き上げる。
「ぁっ、んぁぁっ……!」
「若菜さん、これがしたくて私のこと挑発してきたんでしょ?」
こんなふうに二人のものを擦り合わせるなんてこと、したことがなかったから。
あまりの気持ちよさに、頭がどうにかなってしまいそうだった。
きっと、若菜さんもこれを望んでいて。おざなりな挑発も、私を誘うためのものだったのだろう。
「べ、べつにそんなことは––––––あんっ」
若菜さんは、素直じゃない。こんなに気持ちいいのに。それでも、毅然とした態度を取り繕うのだ。
「そっか。なら––––」
だから。私は若菜さんを、素直な身体にしてあげなければならない。
若菜さんの腰を掴んで。力一杯、私の方に引き寄せる。若菜さんの肉厚なところが、押しつぶされるように私と重なる。
それでも私は、更に強く自分の最奥を若菜さんに押し付けた。
「んぁぁぁぁ……っ!! な、にこれ……っ! 佐奈、おかし––––あっ、っ!!」
それだけでもう、若菜さんは身体を小刻みに震わせて。熱い吐息が、細く開いた口元から漏れ出ていた。
けれど。きっと、映画で見たような行為はこんなものではないはずだ。
二つの気持ちいいところを激しく擦り合わせて。二人が果てるまで、身体は一つに重なったままのはずなのだ。
「はぁっはぁっ、ぁぁ……ぅ! さな、ちょっときゅうけ––––」
私はまだ、最後までできていない。
今度は、私が一番気持ちよくなれるように。若菜さんの上で、私はそこを上下に擦り合わせる。
コリコリと音が鳴って。硬く膨らんだところが、若菜さんの熱を帯びていく。
じわじわと湧き上がってくるような快感。より強く感じられるところに身体をずらすと、痺れるように鋭い刺激が下腹部を突き刺す。
「んっ、んぅ……っ! ……気持ちいいね? 映画と同じだよ?」
時々、私は若菜さんから身体を離して。糸を引く熱い液体が二人を繋げているのを確認してから、また触れ合う。
じゃれ合うみたいに、くちゅくちゅと音を立てながら。左右に腰を振ってみたりなんかして。私は、若菜さんと溶け合っていく。
「それで? そろそろ思い出せた?」
下半身に意識を集中させたまま、そう問いかけてみるけれど。若菜さんは私にされるがまま、脚を開くだけで。
「……私は、思い出したよ」
埒が開かない。そう判断した私は、若菜さんの耳元に唇を近づけた。
囁くように、優しく。若菜さんの頬を撫でながら、言葉を流し込む。
「––––セックス、でしょ?」
「……っ!」
その瞬間。若菜さんは堪えていたものを吐き出すように、激しく身体を震わせた。
硬い床に腰を打ちつけるみたいに。何度も、何度も。
やがて若菜さんは、ぐったりと身体を寝かせて。熱っぽく潤んだ瞳を隠すように、腕を顔の上に乗せた。
「ふふっ。そこまで映画の真似しなくてもいいんだよ?」
画面の向こうでは、熱っぽく潤んだ瞳を天井に向けたジェシーがベッドに横たわっている。
浮気を確信した後でもジムを愛し続けた彼女は、快楽に抗えずにその身を焦がし続けたらしい。
「……好きだよ、若菜さん。これは、一途な想いだから」
私は小さく息を吐いて。少しだけ濡れた床をティッシュペーパーで拭きながら、たった一人の彼女を愛おしく眺めた。
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