怪盗ダーク ―5人の怪盗、世界を欺く―

七梨

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第56話 情に絆された

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 ひかるが去って行ったの知りつつ、俺はさくら号に戻った。

「おい高英、ひかるは?」

 まさかりさんが聞いて来るのに無視して、俺は見取り図をベッドの上に放り投げた。
 キッチンに行って、水を飲む。

 ……本当にバカだなあいつは。
 さっきから俺は嘘しか言ってないのに、何一つ見抜けないなんて。

 情にほだされた。
 俺の中で、これは一番の禁忌だ。

 あの夜、俺が全てを打ち明けた夜。
 ひかるは曇りなき目で『タカの笑顔を見ることが夢だ』と言った。

 それがどうしようもなく、……嬉しかった。

 あいつはわざわざ地元から男装までしてここまでやって来て、高校を転校してまでさくら号に引っ越して、俺が“殺人犯の息子”であると知りつつも、ダークに一番に協力してくれて。

 全部、海に飛び込もうとした俺を救う為だったのか。

 初回のダークで、俺はひかるがしくじれば見捨てる腹づもりだったんだぞ?
 こんなの……、もう。無理だ。

 俺はもう、ひかるに非情になれなかった。

 ひかるが撃たれた時のうめき声と、直後の生気を失ったひかるの顔と、捨てられたガーゼの量を思い出して。

 俺はもう、ひかるに銃口が向く作戦を立てることが、どうしても出来なくなった。

 ……。

 ……分かっていたハズだった。
 俺は、俺を守る為に死んだ糸原高成の息子だ。

 あの時鷲尾に引き金を引けなかった、あの男の血を引いている。
 完全に非情になれない。甘さを捨てきれない。

 だから特にダークの4人とは、距離を置かなければならなかった。
 情に絆されてしまえば、俺は恐らく冷静な判断が出来なくなる。

 鷲尾と闘うことはそんな甘い事ではない。
 俺は絶対に、親父の為に事を成す。それは絶対だ。

 しかしもう、遅い。
 ひかるに全部打ち明けてしまった。

 もう、俺はひかるが傷つくのを見たくないと思ってしまっている。
 情に手足を取られて、蜘蛛の巣に絡め取られたように自由に動けなくなった。
 ……本当に、何で話してしまったんだろう。

 だったらもう、ひかるを前線に立たせない作戦を組むしかないだろう。
 本当はダークに参加すらして欲しくなかった。が、そう言ったところでアイツは納得しないだろう。

 ……しかしまあ、あそこまでの言葉を浴びせたらきっと、もうひかるはさくら号に居られないだろう。
 心は傷つけたが、一過性のものだろう。
 前向きなアイツならいずれ俺の事なんて忘れて立ち直る。

 ……そうで、あって欲しい。
 これで良かったんだ。

「じゃあおれは帰ろうかなー。エリンギー?」

「ア、送る送ル」

 雷鳴が遠くで聞こえて来た。
 もうすぐ雨が降る。

 俺が皆のいる和室に戻ろうとすると、けいがやって来る。

「タカ、ひかるは?」

「……知らない」

「えー。せっかくばいばい言おうと思ったのに……」

「けい? 行くヨ」

「はーい。じゃーねタカ~」

 慌ただしくけいとエリンギが出て行くと、今度はまさかりさんとじーさんが俺に迫る。

「おい、まじでひかるどこ行ったんだよ」

「タカ、こんなに暗いのにひかるを置いていくのは良くないぞ?」

「……。出て行った。ダークをやめると言って」

「はぁ!?」

 まさかりさんとじーさんは、驚きと怒りの口調で更に詰め寄る。

「何故じゃ? どうして突然やめるなどと……」

「それより探しに行こうぜじーさん! もう日は落ちてるのに、一人って……。しかも雨降るぜコレ」

「ひかるは特に……、あれじゃからの」

「は?」

「や、とにかく行くぞじーさん」

「いや、待て」

「あぁ!?」

 俺がまさかりさんの腕を掴むと、睨んで来た。

「見つけたとして、あいつは帰らない。餓鬼じゃないんだ、プライドがある」

「そういう問題じゃねーだろ……!」

「それに、見ろ」

 俺はひかるのベッドの上を指差す。

「携帯しか持って行ってなくてアイツは手ぶらだ。すぐにでも帰るだろ」

「だからそういう問題じゃねーって! 何かあってからじゃ遅いんだぜ!?」

「じゃあ何かとは何だ? ダーク絡みならまだ顔は割れてない。心配は……」

「お前、どーせまたキツイこと言ったんだろ!? どーすんだよあいつがもし身投げしたら!」

「……!?」

 身投げ……?
 一瞬、自身の光景が脳裏を掠めた。
 まさか、あいつが。

「何で当のお前がひかるの気持ちに気づかねーんだよ! バッカじゃねーのお前は! あいつは繊細なんだよ!  特にお前の言葉にはな!」

 まさかりさんの剣幕に、俺は黙った。

「つーか、ふつーはお前が率先して探しに行くべきだろ? 何が原因でこうなったのかは、後でちゃんと話してもらうからな!」

 まさかりさんは俺の腕を振りほどいて、さくら号を出て行った。

「タカ、これはちゃんとわしらにも説明しなさいよ」

 そしてじーさんも後を追った。

 俺は先程の『身投げ』という言葉がずっと頭から離れなかった。
 いや……、あいつはあれくらいでそんなことになる程、メンタルの弱い人間ではない。それは心配ないだろ。

 しかし、何故だろう。遠くから聞こえる雷鳴のせいか?

 少しだけ、胸騒ぎがした。

「……」





 1時間もすると、エリンギも含め全員が帰って来た。
 夜8時過ぎ。外は豪雨になった。

「どこ行ったんだよひかる……」

 見つからなかったらしい。
 てっきり、探したらすぐに見つかる場所にいるのかと思っていた。

 ああいう時、第三者に探して欲しいものだろ。特に女は。
 しかもこの豪雨。

 俺はほんの少しだけ、ほんの……少しだけ、心配になった。

「タカ、結局喧嘩の原因は何なノ?」

「そうだ! オレも聞きたかった」

 3人が睨むように俺に視線を集める。
 ……本当のことは、言うべきでない。

「あいつがこのダークは賛成できないと煩いから、はっきりと、いらないと言ってやった」

「はぁ!?」

「ひかるが怒るのはおかしいだろ。前回足を引っ張ったのはあいつだ。俺は使えない駒に配慮する程寛大じゃない――」

 ~♪

 俺の携帯に着信。
 相手は――、

「……ひかる?」

「エ! ひかる!?」

「まさかタカにかけてくるとはの……」

 俺も“藤井ひかる”の文字を見ながらほっとしたのも半分、驚き出るのを躊躇った。

 じーさんの言う通り、何故俺に電話を?
 いや普通……、この状況でかけないだろ。

 謝るなら直接。ひかるはそういう常識はある筈。
 緊急事態なら、他の3人にかければいいだろ……?

 普通なら絶対無視するが、こいつらがいる前じゃ……。

「ちょ、お前早く出ろよっ」

「……切る」

「ざっけんな!」

 まさかりさんは俺の手から携帯をひったくって、電話に応答した。

「もしもしひかる!? お前今どこに……。……?」

 まさかりさんは突然黙りこんだと思ったら、訝しげに通話のまま俺に携帯を渡す。

「……誰?」

「は?」

「ひかるじゃねぇ……」

「ひかるじゃなイ?」

 誰? と言われても、俺にも全く心当たりがない。
 怪訝に思いつつも、携帯を耳に当てる。

「……もしもし」

「おっ。お前がキタニタカフミくん?」

 聞こえてきたのは見知らぬ男の声。

 ……偽名で聞いてきた。
 俺はその質問に答えなかった。答える義務などない。

「誰だあんた? どこでその携帯を?」

「オレ? オレのことはまー、谷田貝やたがいって呼んでくれたらいい」

「谷田貝……?」

「ククク……、ずーっとお前と話したかったんだぜえ? やっと話せて嬉しーよ」

 ……俺と話したかった?
 そして谷田貝は、衝撃的な言葉を口にする。

「まー簡潔に言うわ。藤井ひかるくんはオレが誘拐した。返して欲しかったらオレの言うことに従え」

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