怪盗ダーク ―5人の怪盗、世界を欺く―

七梨

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1st DARK

第11話 1st DARK outside ②

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「きゃあっ!?」

 閃光の光で視界を奪われた中、女性の悲鳴が響き渡った。

「今、頭を触られたような……」

 少しずつ視力が回復していくと、叫んで狼狽えていたのは鷲尾夫人だ。
 しかし、夫人の頭にはちゃんとティアラが乗っている。

 ……そうか、まさか“カネイロ”の宝とは……!

「鷲尾さんっ、ティアラは?」

 遠くにいる夫人に対して青山は叫んでいた。

「え?」

 夫人は一瞬ギョッとして、頭にそれが乗っていることを確認した。
 それがあることを確認してから、何言ってるの見れば分かるでしょ。なんて目で訴えてくる。

「それは、本物ですか?」

「は!?」

「貸しなさい」

 鷲尾が夫人の頭から、ヒョイとティアラを取り上げて、まじまじと見つめる。
 そしてみるみる顔色が変わっていった。

「に……っ」

「え?」

「偽物だ! すり替えられた!?」

「嘘!?」

 やっぱり……。よく考えてみれば、怪盗だって小さくて価値のある物を盗みたいに決まってる。
 この会場を見渡すと、一番価値のあるのは断然夫人のティアラだ。
 ……それはそうだろう、結婚記念パーティの主役のプレゼントより、高価なモノを身に付けてくる客はいない。

 “カネイロの宝”とは、やはり色を示すのではなく、金目のモノという解釈だったか……!

 その時。

「怪盗だっ!!」

 誰かが叫んだ。
 叫んだ人間は、大広間の出入口で外の廊下を指差している。

 怪盗……!
 まじかよ本当に出やがった……!

 青山は期待9割不安1割で、大広間を飛び出した。
 後から部下たちと、野次馬と化した客たちが続く。

 飛び出した廊下の十メートル程向こうに、それは立っていた。

 黒いシルクハットとタキシード。そして純白の手袋に、シンプルに装飾の入った口元だけを見せる仮面。
 黒と白のコントラスト。

 誰がどう見ても、あれが怪盗ダークだと言わざるを得なかった。

「改めて初めまして皆さん。突然パーティの邪魔をし、申し訳ありません」

 怪盗は小柄な方で、男とも女ともいえる体格。
 口は動いているものの、声はやはり機械を通して変えられていて、それが何故か会場のスピーカーから発せられる。肉声は全く聞き取れない。

「ティアラは」

 先陣を切っていた青山が問うと、ダークはほくそ笑んで、タキシードの大きなポケットに手を入れる。
 取り出して見せびらかしたのは、やはり先程まで夫人の頭に乗っていたティアラだ。
 ……遠目なので、偽物かどうかは定かではないが。

「それを返せ」

 何で言っても応じないことは承知だが、一応言ってみる。
 そしてやはりダークは、その笑みを絶やすことはない。

「まさか……、お前ここから逃げられると思ってないだろうな?」

 その言葉と同時に、俺は腰から麻酔銃を抜き取って、銃口をダークに向けた。
 その形を見た途端、口々に悲鳴をあげる客。

「えぇ。逃げ切れると思っての発言です」

「たわけ……!」

「最後に、刑事さん。あなたの名を知っておきたい。次にお会いするとき、“敬意”を込めて呼ぶために」

 青山は一瞬、答えようかと迷った挙句、

「青山……青山春樹だ」

 言ってから後悔した。
 どうせこれから捕まえる相手なのに。挑発に乗せられた。

「そうですか。ありがとうございます、青山刑事。……では、そろそろ失礼します」

 と言ったと同時に、ダークは踵を返す。
 そして猛ダッシュで走り出した。

「なっ、追うぞっ!」

「はいっ」

 青山は走りながら、ダークに向けて麻酔弾を放った。そしてそれは、確実に奴を仕留めた。
 あれは即効性、数秒もすれば全身に麻酔がまわり、立っていられなくなるだろう。相手がノーマルな人間であれば。

 ひたすら真っ直ぐな長い廊下を、怪盗と警察の追いかけっこが始まる。
 マントを翻し、怪盗は走る走る走る……。

 ……って、待て。
 何故倒れない!?

 麻酔弾は確実に当てた、なのに倒れないということは、奴はこれを想定し“抗麻酔剤”を服用している。

 しかも何だ? あいつの尋常じゃない脚力は!
 とにかくすばしっこい。

 青山(30歳)だって運動神経は良い方で、100メートル走の自己ベストは13秒台前半だ。
 しかしダークはそれ以上のスピードで駆け抜けて行く。
 このままじゃ到底追いつけない。

「おい、徹底的に奴の出口を塞げ! 姿を見つけたら麻酔弾を撃ちこみまくれ! それでも倒れないなら素手で捕まえろ。可能な限り」

 青山は無線に叫んだ。
『可能な限り』というのは、当然諦めろと言う訳ではない。

 青山は走りながら、やむを得ず拳銃を取り出した。
 確実に奴を生きたまま捕まえるには、足を狙うしかない。

 もうすぐこの長い廊下も終わる。
 正面には上りの階段が見えるが、まさか上には上がらないだろう。
 怪盗は階段を上らず、そのまま玄関か非常口を目指す筈だ。

「止まれ怪盗ぉぉ!」

 青山は拳銃の引き金を引いた。
 ただし、銃声はなく、無音。
 そしてこの銃の最大の特徴は、撃つモノである。
 銃口から放たれたのは、実体のある弾丸ではなく、光。

 そう。これはなのだ。

 長所は、弾丸と違って充電が切れるまではリロードせずに何発も撃つことが出来る。

 もう1つ、光線は高温で標的を焼く。
 出血が無いため、弾より殺傷能力が低い割に相手の動きを確実に鈍らせることが出来る。
 即ち、急所に当てない限り相手を死なせずに捕まえることが出来る。

 利便性がいいのと比較的軽量なため、かつての弾の銃(旧式銃と呼ばれている)はほぼ廃れ、現在では光線銃が主流になっている。

 ただし、光線は引き金を引いたその瞬間しか出ない。
 よって、光線を出しながら銃口を動かしリーチを広げる、なんてことは出来ない。

「ちっ」

 青山が放った光線は、狙った怪盗の足を掠めることなく、壁を焦がした。
 ……あぁ、後で鷲尾に叱られるな。

 怪盗がチラリとこちらを振り向いたのが見えた。

 そして奴はあろうことか、逃げ道などない筈の階段を上り始めたのである。

「なっ……、上ったぁ??」

 ちょっと待て。窓からでも飛び下りる気か?
 それとも屋上まで上り、まさかまさかのグライダーを使って飛び下りるか?

「青山さんっ」

 無線だ。

「なんだ!?」

「上空にヘリが!」

「ヘリぃ? んなもん何時だって飛んで――」

 まさか。
 怪盗お決まりの逃走シーンの1つと言えば。

 ヘリから縄はしご。か?

「ゆっくり下降してます! やはり屋上に着陸する気ですっ」

 そして警備を全て下に向けさせたため、屋上の警備は、皆無。
 ちなみにこの無線の相手も、屋外の下からヘリを見たのだろう。
 確かに、ヘリコプターのプロペラの音が聞こえる。

「……まじかよ」

 やばい。まずいだろこれは。
 この建物は3階建て、その上に屋上。
 ヘリを着陸離陸させるスペースは十分ある。

 階段を上る怪盗を追いかけるが、踊り場を曲がる度に姿がチラリと見えたり見えなくなったり。
 しかし3階から屋上にかかる階段ではもう、ダークの姿をチラリとも見ることが出来なかった。

 ヘリのプロペラの音はかなり近い。既に前方にはダークの姿は見えない。
 が、ヘリに乗るならヘリはある程度高度を下げなければならない。……例え縄はしごに掴まるだけであったとしても。
 そして再び浮上するのにも、時間を要する筈だ。

 つまりまだヘリが上空に上がりきってないうちに、身柄を抑えることは可能じゃないか!?

 青山達は肩で息をしながらも、最後の力を振り絞って全力で階段を駆け上がった。
 勢いよく、屋上の扉を開ける。

「はぁ、はぁ……っ、げほっ」

 両膝に手をついて、絶望した。
 ヘリの機体はもう既に、手が届く届かないなんて言えない程に浮上していた。
 ヘリからは縄はしごが垂れ下がっていて、ダークはそれにぶら下がっている。

 有り得、ない。
 ダークとの距離に、あそこまでの時間差はなかった筈だぞ!?

「お疲れ様です。青山さん、警察のみなさん。わざわざ此方に来てくださり、ありがとうございます。追いかけっこ、とても楽しめました」

 壁のスピーカーから聞こえる声。
 まるで馬鹿にする様に平然と言う。しかも青山たちとほとんど同じ距離を走ったに関わらず、全く息が切れてない。

 信じられない……、超人かよ……!?

「このティアラは、大切に皆さんのために活用させて頂きます。では皆さん、またお会いしましょう」

 そう言って、奴は縄を握っていない手で手を振る。
 その手に握られていた、何か光る物。
 おそらくティアラだろう。

 最初に照明が消えてから、およそ2分弱の犯行。

「はは、あははは……っ」

 青山は、思わず笑っていた。
 これは取り逃した失望ではない。逆だ。
 気持ちが昂って踊っている。

 “12月の国会事件”から、たった5ヶ月。

 また鷲尾に抗う者が現れ、そして今度は成功させてみせた……!
 自らが“害刑制度”によって裁かれるリスクを冒しつつ、しかも誰も傷つけずに。

 よくもここまで、やってくれたな……!

 悔しいが、敵ながら青山は心の中で賞賛した。
 だが、この手で捕まえてみせる──それが自分の刑事としての正義だからだ。

 青山達は、遠ざかっていくヘリをいつまでも見ていた。

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