9 / 19
第二章 意味のない祈りと偽物聖女③
しおりを挟む
来る日も来る日も意味のない祈りを繰り返す日々。
それなのに、偶然天候が良くなったと、偶然病の流行が治まったと、何故かサラの元に称賛の声が集まってしまうのだ。
その声が高まれば高まるほど、教会内でのサラの立場は悪くなる一方だった。
食事の質はスラムに居た頃のランドールのスープが上等なものに思えるほど酷いものだった。
温いお湯に塩が少々(塩が入っていない時の方が多い)、道端の雑草(虫付きが基本)と敢えて焦がした炭のようなパン。
これが日に二回。祈りの依頼があった場合は、祈りを終えるのを許されるまで食事はなし。
サラは、空腹を誤魔化すように、祈力を練って、周辺に感じる結界を修復するのだ。
そうすると、僅かばかりではあるが気がまぎれたのだ。
祈力を練るとき、周囲の気と呼ばれるエネルギーを体内に取り込むのだが、その時に僅かに気力が回復するのだ。
しかし、空腹が紛れても腹は減るのだ。
それでも、ランドールの無事を願い決して逃げ出すことはせずに祈り続ける。
そんなある日のことだった。
ここ数週間止まない長雨のために祈りを捧げるようにと教皇からの依頼があったのは。
「サラさん。貴女には王都を中心にして降り続ける長雨が止む様に祈りを捧げていただきたいのです」
このやり取りが七年も続けば、サラもいちいち口答えするのが面倒になってしまっても仕方がないと言えよう。
サラは、ただ頷いて自ら祈禱室に向かった。
そんなサラの背中に向かって、教皇は今回もとんでもない期間を簡単に告げたのだ。
「そうですね。期間は五日くらいが妥当でしょうか? サラさんならそれ位問題ないでしょう?」
反論してもどうしようもないことは分かり切っていたサラは、立ち止まらずにそのまま祈祷室に向かった。
そして、七年間で身に着けた浅い眠りの状態で長い祈りという名の無駄な時間をやり過ごす。
祈力を練りながら浅い眠り状態を維持し、時折結界の修復に練りすぎた祈力を使って、力の均衡を保つ。
こうすることで長い時間を耐えることができたのだ。
それでも、解放された時の疲労感は途轍もなく体を蝕んだ。
雨の降りしきる中、教皇によって祈禱室から連れ出された。
向かった先は、教皇の執務室だった。
質素に見える室内ではあったが、所々に上質な織物や置物が置かれていた。
教皇は座り心地のよさそうなソファーに座り、立たせたままのサラに言い放ったのだ。
「七年。とても長い時間だと思いませんか?」
教皇の問いかけの意味が分からないサラはただ美しい織物を見つめるだけで何の反応も示さなかった。
そんなサラに構わず、教皇は話を続けていた。
「はぁ……。まんまと騙されてしまいましたよ。貴重な万能薬まで使ってしまいました……。この偽物め!!」
「…………?」
「聖女を名乗るなど、なんと不届きな!!」
「な……んのことだ?」
本当に何を言っているのか、サラは理解できなかった。
偽物?
まるで、サラが自ら聖女と名乗り、教会を騙していたような言い草だった。
サラは、お前たちが勝手にその立場を押し付けたと、怒りが込み上げたが、それよりも先に教皇が怒りの声を上げたのだ。
「しらを切ろうとは!! お前が偽の聖女だから、祈りが届かず国は安定しなかったのです!! その証拠に雨が……」
意味のない祈りを捧げるように強要しておいてその言い草は何だと思っていたサラだったが、偽物の理由に出した雨が偶然にも止んだことがおかしくて口元がゆがんだ。
「雨がどうしたんだ?」
「くっ……」
サラが笑ったことに気が付いた教皇は、さっと顔を赤くし怒りの声を上げる。
「ぐっ……偶然です!! いや、この場に真の聖女たる聖女マリエッタがいるから雨が止んだのです!!」
そう言って、部屋の奥にいた女性を示したのだ。
サラは、今までそこに人がいたことに全く気が付いておらず、ぼんやりとした視界で教皇が示した方を一瞬だけ見てすぐに視界を元に戻していた。
一瞬ではあったが、綺麗な女性がサラの視界に入っていた。
波打つ豊かな金の髪とエメラルドをはめ込んだ様な美しい瞳。そして、病的に白い肌。
「はあぁ……」
心底疲れていたサラは大きな欠伸をしてしまっていた。
偽物でも本物でもどうでもよかったのだ。
今は一刻も早く横になって眠りたかったのだ。
しかし、サラのそんな態度に教皇は声を荒げて言うのだ。
「くっ! 何ですかその態度は!!」
「ふああぁぁ……。すまない……。わたしは疲れている。すまないが話は後にしてくれないか」
本心から、後にして欲しいと思っていたサラは、ギャーギャーとうるさく騒ぐ教皇に背を向けていた。
後ろ手に手を振り、よろよろとした足取りでその場を後にしたのだ。
今はとにかく休みたかった。
起きた時、自分がどうなっていてもどうでもよかった。
それでも、自分が教会にとって用無しになれば今まで不自由な思いをさせていたランドールはきっと解放されるだろう。
そんなことを考えながら数日ぶりの自室のベッドにどさりと横になった。
それなのに、偶然天候が良くなったと、偶然病の流行が治まったと、何故かサラの元に称賛の声が集まってしまうのだ。
その声が高まれば高まるほど、教会内でのサラの立場は悪くなる一方だった。
食事の質はスラムに居た頃のランドールのスープが上等なものに思えるほど酷いものだった。
温いお湯に塩が少々(塩が入っていない時の方が多い)、道端の雑草(虫付きが基本)と敢えて焦がした炭のようなパン。
これが日に二回。祈りの依頼があった場合は、祈りを終えるのを許されるまで食事はなし。
サラは、空腹を誤魔化すように、祈力を練って、周辺に感じる結界を修復するのだ。
そうすると、僅かばかりではあるが気がまぎれたのだ。
祈力を練るとき、周囲の気と呼ばれるエネルギーを体内に取り込むのだが、その時に僅かに気力が回復するのだ。
しかし、空腹が紛れても腹は減るのだ。
それでも、ランドールの無事を願い決して逃げ出すことはせずに祈り続ける。
そんなある日のことだった。
ここ数週間止まない長雨のために祈りを捧げるようにと教皇からの依頼があったのは。
「サラさん。貴女には王都を中心にして降り続ける長雨が止む様に祈りを捧げていただきたいのです」
このやり取りが七年も続けば、サラもいちいち口答えするのが面倒になってしまっても仕方がないと言えよう。
サラは、ただ頷いて自ら祈禱室に向かった。
そんなサラの背中に向かって、教皇は今回もとんでもない期間を簡単に告げたのだ。
「そうですね。期間は五日くらいが妥当でしょうか? サラさんならそれ位問題ないでしょう?」
反論してもどうしようもないことは分かり切っていたサラは、立ち止まらずにそのまま祈祷室に向かった。
そして、七年間で身に着けた浅い眠りの状態で長い祈りという名の無駄な時間をやり過ごす。
祈力を練りながら浅い眠り状態を維持し、時折結界の修復に練りすぎた祈力を使って、力の均衡を保つ。
こうすることで長い時間を耐えることができたのだ。
それでも、解放された時の疲労感は途轍もなく体を蝕んだ。
雨の降りしきる中、教皇によって祈禱室から連れ出された。
向かった先は、教皇の執務室だった。
質素に見える室内ではあったが、所々に上質な織物や置物が置かれていた。
教皇は座り心地のよさそうなソファーに座り、立たせたままのサラに言い放ったのだ。
「七年。とても長い時間だと思いませんか?」
教皇の問いかけの意味が分からないサラはただ美しい織物を見つめるだけで何の反応も示さなかった。
そんなサラに構わず、教皇は話を続けていた。
「はぁ……。まんまと騙されてしまいましたよ。貴重な万能薬まで使ってしまいました……。この偽物め!!」
「…………?」
「聖女を名乗るなど、なんと不届きな!!」
「な……んのことだ?」
本当に何を言っているのか、サラは理解できなかった。
偽物?
まるで、サラが自ら聖女と名乗り、教会を騙していたような言い草だった。
サラは、お前たちが勝手にその立場を押し付けたと、怒りが込み上げたが、それよりも先に教皇が怒りの声を上げたのだ。
「しらを切ろうとは!! お前が偽の聖女だから、祈りが届かず国は安定しなかったのです!! その証拠に雨が……」
意味のない祈りを捧げるように強要しておいてその言い草は何だと思っていたサラだったが、偽物の理由に出した雨が偶然にも止んだことがおかしくて口元がゆがんだ。
「雨がどうしたんだ?」
「くっ……」
サラが笑ったことに気が付いた教皇は、さっと顔を赤くし怒りの声を上げる。
「ぐっ……偶然です!! いや、この場に真の聖女たる聖女マリエッタがいるから雨が止んだのです!!」
そう言って、部屋の奥にいた女性を示したのだ。
サラは、今までそこに人がいたことに全く気が付いておらず、ぼんやりとした視界で教皇が示した方を一瞬だけ見てすぐに視界を元に戻していた。
一瞬ではあったが、綺麗な女性がサラの視界に入っていた。
波打つ豊かな金の髪とエメラルドをはめ込んだ様な美しい瞳。そして、病的に白い肌。
「はあぁ……」
心底疲れていたサラは大きな欠伸をしてしまっていた。
偽物でも本物でもどうでもよかったのだ。
今は一刻も早く横になって眠りたかったのだ。
しかし、サラのそんな態度に教皇は声を荒げて言うのだ。
「くっ! 何ですかその態度は!!」
「ふああぁぁ……。すまない……。わたしは疲れている。すまないが話は後にしてくれないか」
本心から、後にして欲しいと思っていたサラは、ギャーギャーとうるさく騒ぐ教皇に背を向けていた。
後ろ手に手を振り、よろよろとした足取りでその場を後にしたのだ。
今はとにかく休みたかった。
起きた時、自分がどうなっていてもどうでもよかった。
それでも、自分が教会にとって用無しになれば今まで不自由な思いをさせていたランドールはきっと解放されるだろう。
そんなことを考えながら数日ぶりの自室のベッドにどさりと横になった。
16
あなたにおすすめの小説
冷酷騎士団長に『出来損ない』と捨てられましたが、どうやら私の力が覚醒したらしく、ヤンデレ化した彼に執着されています
放浪人
恋愛
平凡な毎日を送っていたはずの私、橘 莉奈(たちばな りな)は、突然、眩い光に包まれ異世界『エルドラ』に召喚されてしまう。 伝説の『聖女』として迎えられたのも束の間、魔力測定で「魔力ゼロ」と判定され、『出来損ない』の烙印を押されてしまった。
希望を失った私を引き取ったのは、氷のように冷たい瞳を持つ、この国の騎士団長カイン・アシュフォード。 「お前はここで、俺の命令だけを聞いていればいい」 物置のような部屋に押し込められ、彼から向けられるのは侮蔑の視線と冷たい言葉だけ。
元の世界に帰ることもできず、絶望的な日々が続くと思っていた。
──しかし、ある出来事をきっかけに、私の中に眠っていた〝本当の力〟が目覚め始める。 その瞬間から、私を見るカインの目が変わり始めた。
「リリア、お前は俺だけのものだ」 「どこへも行かせない。永遠に、俺のそばにいろ」
かつての冷酷さはどこへやら、彼は私に異常なまでの執着を見せ、甘く、そして狂気的な愛情で私を束縛しようとしてくる。 これは本当に愛情なの? それともただの執着?
優しい第二王子エリアスは私に手を差し伸べてくれるけれど、カインの嫉妬の炎は燃え盛るばかり。 逃げ場のない城の中、歪んだ愛の檻に、私は囚われていく──。
私は、聖女っていう柄じゃない
波間柏
恋愛
夜勤明け、お風呂上がりに愚痴れば床が抜けた。
いや、マンションでそれはない。聖女様とか寒気がはしる呼ばれ方も気になるけど、とりあえず一番の鳥肌の元を消したい。私は、弦も矢もない弓を掴んだ。
20〜番外編としてその後が続きます。気に入って頂けましたら幸いです。
読んで下さり、ありがとうございました(*^^*)
召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?
浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。
「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」
ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。
傷物の大聖女は盲目の皇子に見染められ祖国を捨てる~失ったことで滅びに瀕する祖国。今更求められても遅すぎです~
たらふくごん
恋愛
聖女の力に目覚めたフィアリーナ。
彼女には人に言えない過去があった。
淑女としてのデビューを祝うデビュタントの日、そこはまさに断罪の場へと様相を変えてしまう。
実父がいきなり暴露するフィアリーナの過去。
彼女いきなり不幸のどん底へと落とされる。
やがて絶望し命を自ら断つ彼女。
しかし運命の出会いにより彼女は命を取り留めた。
そして出会う盲目の皇子アレリッド。
心を通わせ二人は恋に落ちていく。
孤島送りになった聖女は、新生活を楽しみます
天宮有
恋愛
聖女の私ミレッサは、アールド国を聖女の力で平和にしていた。
それなのに国王は、平和なのは私が人々を生贄に力をつけているからと罪を捏造する。
公爵令嬢リノスを新しい聖女にしたいようで、私は孤島送りとなってしまう。
島から出られない呪いを受けてから、転移魔法で私は孤島に飛ばさていた。
その後――孤島で新しい生活を楽しんでいると、アールド国の惨状を知る。
私の罪が捏造だと判明して国王は苦しんでいるようだけど、戻る気はなかった。
妹に裏切られた聖女は娼館で競りにかけられてハーレムに迎えられる~あれ? ハーレムの主人って妹が執心してた相手じゃね?~
サイコちゃん
恋愛
妹に裏切られたアナベルは聖女として娼館で競りにかけられていた。聖女に恨みがある男達は殺気立った様子で競り続ける。そんな中、謎の美青年が驚くべき値段でアナベルを身請けした。彼はアナベルをハーレムへ迎えると言い、船に乗せて隣国へと運んだ。そこで出会ったのは妹が執心してた隣国の王子――彼がこのハーレムの主人だったのだ。外交と称して、隣国の王子を落とそうとやってきた妹は彼の寵姫となった姉を見て、気も狂わんばかりに怒り散らす……それを見詰める王子の目に軽蔑の色が浮かんでいることに気付かぬまま――
私が偽聖女ですって? そもそも聖女なんて名乗ってないわよ!
Mag_Mel
恋愛
「聖女」として国を支えてきたミレイユは、突如現れた"真の聖女"にその座を奪われ、「偽聖女」として王子との婚約破棄を言い渡される。だが当の本人は――「やっとお役御免!」とばかりに、清々しい笑顔を浮かべていた。
なにせ彼女は、異世界からやってきた強大な魔力を持つ『魔女』にすぎないのだから。自ら聖女を名乗った覚えなど、一度たりともない。
そんな彼女に振り回されながらも、ひたむきに寄り添い続けた一人の少年。投獄されたミレイユと共に、ふたりが見届けた国の末路とは――?
*小説家になろうにも投稿しています
【完結】溺愛してくれる夫と離婚なんてしたくない!〜離婚を仕向けるために義父様の配下が私に呪いをかけてきたようですが、治癒魔法で解呪します〜
よどら文鳥
恋愛
公爵家に嫁いだものの、なかなか子供が授からないミリア。
王族にとって子孫ができないことは死活問題だった。
そのため、旦那であるベイルハルトの両親からは離婚するよう圧がかかる。
ミリアもベイルハルトも離れ離れになりたくはなかった。
ミリアは治癒魔法の会得を試みて子供が授かる身体になることを決意した。
だが、治癒魔法は禁呪とも言われ、会得する前に死んでしまうことがほとんどだ。
それでもミリアはベイルハルトとずっと一緒にいたいがために治癒魔法を会得することに。
一方、ミリアに子供が授からないように呪いをかけた魔導師と、その黒幕はミリアが治癒魔法を会得しようとしていることを知って……?
※はじめてのショートショート投稿で、全7話完結です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる