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第一部
第十話 君のためじゃない
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ノルンのことが好きだという気持ちを隠そうともしないアーレスを城内の者は陰で笑っていた。
アーレスは、言いたい奴には言わせておけばいいと、まったく気にしていなかったが、ノルンはそう言う訳にはいかなかったのだ。
好きな人が自分の所為で笑われているのだ。
しかも、ノルンが頑なに老人の姿でい続けることが原因でだ。
だからと言って、本来の姿に戻ることにも抵抗があったノルンは、毎日どうしたらいいのかと悩むことしかできなかったのだ。
アーレスの父親であるアーノルドに、一度相談したことがあったのだ。
しかし、アーノルドは、にっこりと笑って言うのだ。
「私としては、愛する息子と大好きな先生が幸せならば見守るだけだですよ」
「えっ? ほら、アーレスが私の所為で爺専とか枯れ専とか……。って、それよりも男同士なんだが? アーレスは、王太子なのだろう? 駄目だろう普通に考えて」
「うーん。でも、先生って、五百年は生きているのですから、間違いではないと。それに、同性でも問題ないですよ。世継ぎはどうにでもなりますから」
「えぇぇ……」
そんな感じで、アーノルドはのほほんとした答えしか返さなかったのだ。
ノルンは、胸がモヤモヤして居てもたってもいられなかった。
好きな人が自分の所為で悪く言われているのだ。見過ごすことなど出来なかった。
湯あみを済ませたノルンは、いつも着ている白いローブを身に着けてしっかりと前を向いて部屋を後にした。
その姿は、老人のものはなく、ノルン本来の姿だった。
堂々とした足取りでノルンが向かった先は、アーレスの執務室だった。
そこにたどり着くまでに、すれ違うもの全員がノルンのことを頬を赤らめながら見送っていた。
ノルンとしては、見覚えのない今の姿に咎められるのではないのかと思ったが、そうはならなかったことに胸をなでおろしていた。
コツコツと、軽いノックの音をさせると、中からアーレスの声が聞こえてくる。
「入れ」
いつもは聞かない、アーレスの凛々しい声に胸が高鳴る。ごくりと唾をのんだノルンは、まっすぐに前だけを向いて部屋の中に入っていた。
部屋の奥に置かれた大きな机には、書類が積み重なり、アーレスがそれに忙しそうに目を通していた。
ノルンは、静かに部屋に入っていくが、アーレスは勢いよく顔を上げたのだ。
そして、驚いたような表情でノルンを見つめる。
なんとなく、気まずいように思ったノルンは、そっぽを向きながら言い訳のような言葉を口にするのだ。
「別に、アーレスのためじゃない……。私がしたくてこうして、素の姿でいるんだ……」
「ノルン……」
「そんなに驚くことではない。それに、そんなに見ないでくれ……、恥ずかしい……」
熱い視線に全身を焦がされるような思いでそう口にしたノルンだったが、机を飛び越えてきたアーレスによって口を塞ぐことになった。
ぎゅっと、強い力で抱きしめられたノルンは、何も言わずにアーレスを抱きしめ返す。
そして、胸いっぱいにアーレスの匂いを嗅いで、ほっと息を吐くのだ。
「アーレス、そろそろ放して?」
「いやだ。これは夢かも知れない。ノルンから僕に会いに来るなんて……。夢じゃないって実感したい」
「こらこら……」
「ノルンノルン。好き。大好き」
「はいはい」
アーレスに強く抱きしめられていたノルンは、いつの間にか服の中に手を入れられていることに気が付き動揺する。
「ちょっ! アーレス? な、何してるんだ!」
「ノルンに触ってる」
「ハグ以外は駄目だって言ったよな?」
ノルンが強い口調でそう言うと、アーレスはガッカリした表情を隠そうともせずに言うのだ。
「なんだ……。素の姿を見せてくれたから、てっきりエッチなこと解禁されたのかと思ったのに……」
「なっ! 違う!!」
「じゃぁ、なんで?」
理由を口にするのが恥ずかしかったノルンは、そっぽを向いて適当なことを口にするのだ。
「そういう気分だったんだ! いちいち変身するのが面倒だったんだ」
今まで、数十年も続けてきたことを今やめる理由が、自分のためなのだとすぐに気が付いたアーレスは、心が温かくなっていった。
そして、ノルンのことが好きで好きで堪らないとさらに思うようになるのだ。
「そっか。ノルン、ありがとう。大好き」
「ふん。別に、お前のためじゃない。そういう気分だったんだよ」
「へへへ。うん。分かった」
不機嫌そうな表情のノルンと晴れやかな笑顔のアーレス。
アーレスは思った。自分たちが、心と体を深く結びつける日もそう遠くはないことだろう。
アーレスは、言いたい奴には言わせておけばいいと、まったく気にしていなかったが、ノルンはそう言う訳にはいかなかったのだ。
好きな人が自分の所為で笑われているのだ。
しかも、ノルンが頑なに老人の姿でい続けることが原因でだ。
だからと言って、本来の姿に戻ることにも抵抗があったノルンは、毎日どうしたらいいのかと悩むことしかできなかったのだ。
アーレスの父親であるアーノルドに、一度相談したことがあったのだ。
しかし、アーノルドは、にっこりと笑って言うのだ。
「私としては、愛する息子と大好きな先生が幸せならば見守るだけだですよ」
「えっ? ほら、アーレスが私の所為で爺専とか枯れ専とか……。って、それよりも男同士なんだが? アーレスは、王太子なのだろう? 駄目だろう普通に考えて」
「うーん。でも、先生って、五百年は生きているのですから、間違いではないと。それに、同性でも問題ないですよ。世継ぎはどうにでもなりますから」
「えぇぇ……」
そんな感じで、アーノルドはのほほんとした答えしか返さなかったのだ。
ノルンは、胸がモヤモヤして居てもたってもいられなかった。
好きな人が自分の所為で悪く言われているのだ。見過ごすことなど出来なかった。
湯あみを済ませたノルンは、いつも着ている白いローブを身に着けてしっかりと前を向いて部屋を後にした。
その姿は、老人のものはなく、ノルン本来の姿だった。
堂々とした足取りでノルンが向かった先は、アーレスの執務室だった。
そこにたどり着くまでに、すれ違うもの全員がノルンのことを頬を赤らめながら見送っていた。
ノルンとしては、見覚えのない今の姿に咎められるのではないのかと思ったが、そうはならなかったことに胸をなでおろしていた。
コツコツと、軽いノックの音をさせると、中からアーレスの声が聞こえてくる。
「入れ」
いつもは聞かない、アーレスの凛々しい声に胸が高鳴る。ごくりと唾をのんだノルンは、まっすぐに前だけを向いて部屋の中に入っていた。
部屋の奥に置かれた大きな机には、書類が積み重なり、アーレスがそれに忙しそうに目を通していた。
ノルンは、静かに部屋に入っていくが、アーレスは勢いよく顔を上げたのだ。
そして、驚いたような表情でノルンを見つめる。
なんとなく、気まずいように思ったノルンは、そっぽを向きながら言い訳のような言葉を口にするのだ。
「別に、アーレスのためじゃない……。私がしたくてこうして、素の姿でいるんだ……」
「ノルン……」
「そんなに驚くことではない。それに、そんなに見ないでくれ……、恥ずかしい……」
熱い視線に全身を焦がされるような思いでそう口にしたノルンだったが、机を飛び越えてきたアーレスによって口を塞ぐことになった。
ぎゅっと、強い力で抱きしめられたノルンは、何も言わずにアーレスを抱きしめ返す。
そして、胸いっぱいにアーレスの匂いを嗅いで、ほっと息を吐くのだ。
「アーレス、そろそろ放して?」
「いやだ。これは夢かも知れない。ノルンから僕に会いに来るなんて……。夢じゃないって実感したい」
「こらこら……」
「ノルンノルン。好き。大好き」
「はいはい」
アーレスに強く抱きしめられていたノルンは、いつの間にか服の中に手を入れられていることに気が付き動揺する。
「ちょっ! アーレス? な、何してるんだ!」
「ノルンに触ってる」
「ハグ以外は駄目だって言ったよな?」
ノルンが強い口調でそう言うと、アーレスはガッカリした表情を隠そうともせずに言うのだ。
「なんだ……。素の姿を見せてくれたから、てっきりエッチなこと解禁されたのかと思ったのに……」
「なっ! 違う!!」
「じゃぁ、なんで?」
理由を口にするのが恥ずかしかったノルンは、そっぽを向いて適当なことを口にするのだ。
「そういう気分だったんだ! いちいち変身するのが面倒だったんだ」
今まで、数十年も続けてきたことを今やめる理由が、自分のためなのだとすぐに気が付いたアーレスは、心が温かくなっていった。
そして、ノルンのことが好きで好きで堪らないとさらに思うようになるのだ。
「そっか。ノルン、ありがとう。大好き」
「ふん。別に、お前のためじゃない。そういう気分だったんだよ」
「へへへ。うん。分かった」
不機嫌そうな表情のノルンと晴れやかな笑顔のアーレス。
アーレスは思った。自分たちが、心と体を深く結びつける日もそう遠くはないことだろう。
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インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます
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中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
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