探偵注文所

八雲 銀次郎

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ファイルⅤ:探し物

#3

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 豆を挽き始めて10分程経過した。事務所内には、コーヒーの良い香りが広がっていた。危うく、喫茶店か何かだと錯覚してしまう程の、まったりとした空間だった。
 ひたすらミルを回していると、スマホの通知が鳴った。覗き込むと、天木から昼の誘いが来ていた。気が付けば、そろそろ良い時間だ。
 「キリの良い所で終わって良いですよ。」
 カウンターの上に、無造作に置いていた為、宮間に盗み見られた。
 その言葉に甘え、引き出しを開け、挽きたての豆を、フィルターの中に入れた。
 

 「アマキちゃんって、ザキさんと付き合ってるときって、どんな感じだったの?」
 目の前でうどんを啜っている、彼女にそんな質問を投げかけた。想像もしていなかったのか、急に咽始め、慌てた様に、取り繕った。
 「ど、どうしたの、急に?」
 「あたしほら、男性経験無いから、参考までにと思って。」
 「わ、私だって、人並みな恋愛した事ないし…。参考にならない。と思う…。」
 最後のほうは、本当に自信なさげだった。特に恋愛に興味がある訳でもないが、聞いてみた。とは言え、男性経験がないのは事実だし、『異性と付き合う』と言うのに、憧れていない訳ではない。感覚だけでも、どんなものかと、聞いておきたかった。
 「彼と会えたのは本当に、運命だと思ったから、手放したくなかった。本当に、ただそれだけ。
 カエは私と違って、ちゃんと見た目も中身も女の子だし、焦る必要はないと思う。自分の事、ちゃんと見てくれている人は、必ずいると思う…。」
 最後の方は首を傾げながらだったが、意外と真面目な答えだった。しかし、天才・天木涼子でも分からない事もあるのか…。そして、こんな可愛らしい娘を、二年も放っておくとは、罪な人だ…。
 かく言う、私も彼には初めて会ったときから、憧れてはいた。天木に先を越されていなければ、私が…。
 「ちなみに、カエの好きなタイプは?」
 調子が出て来たのか、少しばかり、テンションが上がっている様だった。
 「優しい人。それ一択。」
 「あ、そう…。」
 どういう答えを期待していたのか…。世の中、財力や経済力に目がくらむ女性が多いと思うのだが、私は残念ながら、それに外れる。
 高校にも行けなかった私は、今どきの『青春』とやつも経験していないがため、そんな感覚、どこかに置いて来たのかもしれない。
 ある意味、養殖物の私は、自由になれただけでも、満足だった。
 それでも最近、普通の人と同じ様に、高校に通って、それなりに色恋に目覚めて、毎日楽しく燥いで帰って居たら、どういう世界になっていたのか…。そう思う事が多くなった。
 天木も私と似ていて、途中で挫折せざるを得なかった。それでも彼女は、自分の手で、それに似た世界を勝ち取った。
 やっぱり、羨ましいが、これ以上欲しがると、流石におこがましいと思われる。だから、密かに仕舞っておこうと、思っている。
 
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