諦めることを諦めてみた

ゆい

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付き人編

6

「師匠、森で薬草を取ってきたよ」

「ああ、机に置いておいて。今、手が離せないから」

「……師匠、まだ朝ごはん食べてないじゃないか。もう昼だよ?体壊すよ?」

神と人間の距離が近い時代のことだった。
魔法使いの師匠が魔法神になる前の頃だ。
魔力量が多かった僕は、両親と離れて師匠に弟子入りをした。
毎日毎日、師匠の元で訓練をして、師匠の世話をして過ごしていた。





「師匠、あっちの大陸にいる魔法使い、物凄く強い魔法使いがいるんだって」

「へぇ。そんなに強いのなら、魔物なんてすぐ倒せそうだね」

「でも、……交戦的だって聞いた。隣の大陸から、攻めて来ないといいな」

僕が師匠に弟子入りして、10年が過ぎた頃だった。





「師匠、やっぱり隣の大陸の奴らが戦争を仕掛けてきたって!逃げよう、師匠!」

「ダメだよ。魔法使いは他の人を守るために魔法を使わないと。私利私欲で魔法を使うと、神様に怒られるからね。だから、逃げてはいけないよ」

隣の大陸から戦争の開戦を申し込まれ、圧倒的な武力で、あっという間に、こちらの大陸の国々は滅ぼされた。





「し、師匠、……やだ、死なないで!まだ、師匠から、全部、学んで、ない!あっ、やだ、こっちに来るな!痛い!離せ‼︎師匠!師匠‼︎」

「……***、に、げ……。……い、き…ろ」

師匠も村の人々を守るために戦った。
でも、多勢に無勢で、師匠の強固な魔法の盾は、質量であっさりと壊された。僕たちは攻撃魔法を展開する前に、膨大な攻撃魔法で、師匠は僕を庇い散っていった。





「やぁ、やめ、ろ、……こんな、こと、を、……され、ても、僕は、……屈しない、から!」

「ははっ、いつまで持つかな?」

生き残った人たちは捕虜となり、奴隷にされた。
僕を含めた魔法使いの人たちは、隣の大陸一の魔法使いの奴隷となった。
僕たちの魔力は、魔法使いに吸い取られる。年老いた魔法使いは、魔力枯渇まで魔力を吸い取られ、そのまま命まで奪われた。若く見目の良い者から、魔法使いによって身体を弄ばれていった。
見目が良くても、魔法使いが飽きたら、簡単に命も奪われた。





「やぁ……、もう……」

「まだ、私に反抗するというのか?おまえは何も考えずに私に従えばよい。……さっさと快楽に溺れてしまえば、楽になるぞ」

「……っ」

「言葉を発しなくとも、まだ私を睨むのか。早く私の元に堕ちてこい。身体は私を受け入れているぞ。ほら!」

「っっ‼︎‼︎」

僕は抵抗した。とことん抵抗した。最後の一人になっても。
僕の魔力も身体も蹂躙し尽くされても、心は魔法使いにやることはしなかった。
魔法使いは僕に飽きなかった。僕は、殺されなかった。





「……」

「ははっ、おまえは本当にすごいな。まだ精神が壊れていないのか!……気に入った!魔力も心地良いし、身体の相性も良い。絶対に私のものにしてやる!」

「……だ、れが、……なる、も、の、……か」

「はっ、直ぐにそんな口を叩けなくしてやる!さぁ、躾の時間だ」

しかし、暗闇の牢獄に囚われた。陽が射さない、時間感覚がない闇の中。あの魔法使いに蹂躙し続けられる監獄。
いつか絶対に逃げ出す!と、ずっと思って、機会を伺っていた。





「……」

「自我が保てない癖にまだ反抗するか。……長期戦で私に挑むのか?……いいだろう。私はおまえの魂を縛る。お前が輪廻転生をし続ける限り、最高のプレゼントを用意しよう。有難く受け取れよ?……おまえが私に堕ちてくるか、抗い続けるか、楽しみだな、クククッ」

「……や、……」

「さぁ、魂に刻んだぞ。私とおまえの繋がりができた。私がかけた魔法だ。簡単には断ち切れんぞ。……私はあまり気が長い方ではないから、待たせ過ぎるようなら、迎えに行くからな。早く私のモノになると宣言した方が、楽だぞ」

逃げ出す前に僕の身体が持たなかった。魔法使いにとって、魔力は生命の源。搾取され続けた身体はボロボロだった。
死ぬことで、やっとコイツから解放されると思ったら、死ぬことは怖くなかった。
なのに、魂をコイツに縛られた。縛られてしまったら、何処にもいけない。
僕がこの魔法を解析して解呪するには、時間がかかる。一万年?百万年?
ダメだ!時間をそこまでかけられない。
死で逃げられても、今度捕まってしまったら、永久に閉じ込められる。また、朝も昼もなく、時間も存在しない無限の牢獄に。
尊厳も何もかもを失って。

しかし、僕は諦めない。絶対にこの繋がりを断ち切って、僕は逃げるんだ!












気がつけば、何もない白い空間にいた。
そして、目の前に師匠が立っていた。

「師匠、魔法神になられていたんですね。やっぱり、師匠はすごいや‼︎」

「***、いや、ユーク、諦めないでよく頑張っているね。……助けてあげられなくて、ごめん。……不甲斐ない師匠だね」

「そんなことないです!僕は、師匠が教えてくれた魔法使いの信念を、最後まで貫き通します!」

「っ、ありがとう。……やっと君に会えた。ずっと邪魔をされていたから。やっと、君に加護を授けられる。他の神たちにもお願いをしたんだ。神たちからの加護を受け取って……」

「師匠?どういう、こと、ですか?」

「……もう、時間だ。今は何も話せなくて、ごめん。……また、少しの間だけ、私のこと、昔のことを忘れてくれ。……私の愛弟子、我が愛し子よ。……決して、諦めないで」

「師匠?……師匠⁈」














目が覚めたら、何故か泣きたくなった。
夢で、大好きで大切な人に会えたと思った。
大切な人から、大事なことを言われた。
でも、何も思い出せなくて。

「ユーク?目が覚めた?」

「なお、さ、ま?」

尚様は、少しやつれたように見えた。

「良かったぁ。中々目を覚さないから、心配したよ。痛いところはないかい?」

「……痛くないです。でも、……胸が、心が、何故か、苦しいんです」

涙がこめかみを伝い、枕を濡らしていく。
尚様は、何も言わずに僕の頭を撫でてくれる。優しく、労わるように。
今は、大事な誰かは思い出せないけど、大切な人を想って泣きたかった。

泣き疲れた僕は、また眠ってしまった。






僕が洗礼の儀を受けたその日、ネメティス家は消えた。
文字通り、家族や使用人、屋敷が忽然と消えた。
屋敷があった場所は、何年もほったらかしにされて、草が伸び切った空き地に変わっていた。
貴族名鑑にも、ネメティス家の家系、爵位が記載されてあるページは見つからなかった。
でも、貴族の誰もが確かにネメティス家があったことを覚えている。
確かに、お茶会に参加をしていたし、学園にも通っていた。
しかし、ネメティス家に関する記述は、何一つ残っていなかった。
国全体が、煙に巻かれたような出来事となった。
しかし、時間が経つにつれて、人々は忘れていく。その年月は長くはないのに、一週間も経つ頃には、ネメティス家があったことすら、誰も覚えていなかった。



一人残された僕が、一番困惑をした。
次に目を覚ました時には、僕は道で倒れていた住所不明、家族がいない孤児になっていた。
大司教、ロンバウト神官やロア様も、誰もが僕の名前を覚えていなかった。
そして、みんなが初対面であるかのように、名前を聞いてきた。

唯一、僕を覚えていた者が、尚様だけだった。
尚様も、ネメティス家が忽然と消えた状況を奇妙に感じてはいたけど、僕の名前を誰も知らないと言い出した時は、愕然としたらしい。
僕が倒れて一週間の間に、事態はどんどんと変わっていったらしく、尚様も理解が追いつかなかった。
僕が目を覚ましたことで、変化が止まったと言っていた。

僕は、尚様の侍従見習いとして、働き出した。
でも、みんなから、孤児を神子様の侍従にはできないと、反対をされた。
僕は、洗礼の儀を受けていないことになっていたから、もう一度受け直すことになった。
僕は、神のご加護を幾つか授かっていた。これには立ち会った神官、皇宮から派遣をされた文官をはじめ、僕が複数の加護持ちとわかった人たちは一様に驚いた。
尚様が『神の思し召しだね』と一言言えば、反対をする者はいなくなった。








「ユークの家族って、結局どうなったんだろうね?」

と、尚様が言う。
僕は、尚様の前に紅茶の入ったティーカップを置き、

「私が知るわけがない、です」

と、答える。

「あれから、8年か。もうすっかり、ユークは大人になったね」

「ええ、尚様はアラサーになりましたし」

「しかも、口が悪くなった。可愛いにゃんこのユークは、どこにいったのやら」

尚様は用意した焼き菓子を一つつまみ、サクッと一口齧る。
僕は、尚様の侍従になり、8年が経つ。
あれから様々なことがあった。
しかし、僕に関する謎は、未だにわかっていない。
今世は家族がいないせいなのか、尚様が近くにいるおかげか、僕は自ら命を断つ真似はしていない。

「さぁ?尚様がいじめるから、逃げ出したのかも知れません」

「いじめていないんだけどなぁ。可愛がっているだけだよぉ」

「フッ、……どうだか」

「ほんと、可愛くなくなったな‼︎」









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