諦めることを諦めてみた

ゆい

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にゃんこ編

1

「ねぇ、そういえばさ、この世界って、にゃんこいないの?」

と、尚様がロア様に問いかけていた。
今は皇宮から教会へ帰る途中の馬車の中。
尚様曰く、『俺が空気清浄機になる日』。尚様が二週間毎に皇宮に通う日がある。今日はその日だった。
馬車の中は、尚様、ロア様、僕の三人だけだから、尚様の言葉遣いは普段より砕けている。元からそんなに丁寧ではないけど、元の職業柄、公私の使い分けは完璧だった。

「実は、神子様が『にゃんこ』とよく言われていますが、それはどういったモノか、私たちは、誰もわかっていなかったのです」

ロア様は、すまなそうにそう言う。

「えぇ!今更それを聞く?!『にゃんこ』は猫のことだよ!この世界、猫がいないの?って聞いているの!」

少しお怒り口調の尚様。
この世界に来て、やっと猫を見ていないことに気がついたらしい。
僕は知っていたけど、敢えて言わなかった。だって、尚様に嫌われたくないから。

「ねこ?ですか?そのようなモノは聞いたことないです」

「早くそういうことは教えてよ!……ユーク!!今すぐに、にゃんこの絵に描いて!!コイツに説明してやって‼︎」

なんでそうなるのかな?猫を説明するって結構な難題だよ。
しかも、馬車の中で絵を描けとは、全く持って優しくないご主人様である。

「……尚様、私への無茶振りが過ぎますよ。……ちなみに、写実的、アニメ的、イラスト的と、尚様のお好みの絵はどれでしょうか?」

「……おまえね、わかっていて、言わなかったんだよね。しかし、思っていた以上に、優秀な侍従になったね。絵まで描けるんだ。……うーむ、全部、だね」

「かしこまりました。前以てご用意した物がこちらになります」

僕は亜空間収納から、猫を描いた紙を取り出し、尚様に渡す。
いつかのために用意していたものが、日の目を見る時が来た。来なくても良かったんだけどね。

「にゃんこぉぉぉ!!!!」

受け取った尚様は、絵を見た瞬間、大喜びをして、『かわいい!』とか『このミケ感がいいよねぇ』とか言い出していた。
ロア様は、尚様の手にある僕の絵を、覗き込んで見る。

「?可愛いのか?」

と、ロア様は紙を指差して、私に聞いてくる。
猫、可愛いでしょ?ロア様の求める可愛さとは違う次元なの?それとも、僕の絵が下手なの?

「グランベル様は、私の描いた猫が『可愛くない』と仰るのですね。……尚様、グランベル様は、猫を可愛いとは思わないようです。グランベル様のお目汚しとなりますので、こちらは仕舞いましょうね」

と、尚様に渡した紙を、僕は取り上げてまた亜空間に仕舞おうとした。

「えぇ!!ロアフォルト!俺の侍従を苛めないでよ!」

「えぇぇ!私も貴方の騎士なのですけど?差別は良くないですよ?」

最近では、ロア様も砕けた話し方になってきた。確実に、尚様に染まってきている。

「仕方ないじゃん!にゃんこ様のためだもん!!」

「いい大人が【もん】って言うなよ。……尚様、言葉遣いが乱れておりますよ?」

「……ほんと、ユークは可愛くなくなったよね」

尚様は呆れながら言う。
僕ももう17歳になったから、『可愛い』から『格好いい』と言われたい年頃なのに。
尚様は、事あるごとに僕に可愛いさを求めてくる。いい加減にやめてもらいたい。





尚様が学園を卒業したの同時に、ロア様が尚様の護衛聖騎士に就任された。
教会からあまり出ない尚様だけど、学園や皇宮に向かう際に護衛として聖騎士たちは付いて来ていた。
学園を卒業されてから、神子様が国の各地に巡礼をするために、増員する話が持ち上がっていた。
ロア様は侯爵子息であり、実力も十二分に認められていたので、教会上層部はすぐにロア様の就任を認められた。
僕は、ロア様と入れ替わりで、皇宮で侍従の修行をすることになった。

皇子殿下の侍従シュルク=ゲードル様に付いて、侍従の基礎を学びに弟子入りをした。
ゲードル様の家系は、代々皇族に侍従として仕える家柄なので、侍従の見習いを受け入れる制度があるらしい。
ただ誰でも受け入れる訳ではなく、その門戸は狭い。当たり前だけど、神子様の侍従見習いだからと、簡単には受け入れてもらえなかった。
尚様のコネで、まずはゲードル様に一年だけ付くことができた。それだけで、妬みの対象となった。皇宮では、幾度なく嫌がらせをされた。
僕は、今度はそれを受け入れることはなく、やられたらやり返すようになった。
何故かわからないけど、あんなに内気だった性格が変化していた。
『家族がいなくなったから、心の重石が取れたのかな?それか、一周回って、やり返すようになったのかも』と、尚様が笑いながら、僕を分析していた。
自分でも性格の変化には驚いているのに、笑い事にしないで欲しい。

僕はそれはもう貪欲に学んだ。寝る時間も惜しいとばかりに勉強をしたし、技術を盗もうとゲードル様の観察を怠らなかった。必死に出来ることは何でもした。
その甲斐あって、一年後にはゲードル様の父、皇帝の侍従長の伯爵の元に付くことができた。
侍従長が、僕を一人前として認めてくれたのは、13歳になる手前だった。
修行の間、尚様は皇宮に来る度に僕にも会いに来てくれたから、あまり離れているという気はしなかった。





あれから約5年。戻ってきた僕は、尚様の元を離れたことはなかった。
どこに行くにも、僕は尚様に付いて行くし、尚様も僕を連れて行く。
内緒で、二人で街に遊びに行くことだってある。まだ見つかったことはないけど。
でも、遊んでばかりいるわけではない。国立図書館に行ったり、皇都の小さな教会に行ったりと、僕たちは自分たちの現象についても調べている。成果は芳しくない。
皇宮の書庫も、尚様が調べてくれたけど、それらしき記述がある書物はなかったようだ。

この世界、猫がいないように、【転生】という考え方もない。
儚くなったら、神の 御許みもとへ帰ると言われている。新たに生まれ変わるという発想はなかった。
尚様は、宗教が違えば、考え方も違うから、ジャンルを問わず、探す範囲を広げていこうと言った。それでも、知りたいことは、一欠片も見つかっていない。
それに相変わらず、尚様の名前がきちんと聞き取れない、言えないことも、おかしな現象だ。異世界なのに言葉が通じる。なのに、名前が通じないとは、これ如何に?まるで何者かに、認識を阻害されているかのように思える。何者かの目的も未だにわからないままだ。






「ユーク、この世界、猫がいないことを知っていて、何で僕に教えなかったの?」

と、尚様に問われる。僕お手製のネコのぬいぐるみをぎゅっと抱きしめながら。
どうやら気に入ってくれたようだ。

「尚様がいつ気付くかな?と楽しみにしていました。思っていたより、結構長い間、気がつきませんでしたね」

「んー、まぁ、そのうち見れるかなぁ、くらいの感覚だったんだよ。って、楽しんでいたの?ひどい!」

「犬、というか、狼はいるんですよね。猫がいないだけなんです、この世界」

「……これから、俺は何を楽しみにしていけばいいんだろう、よよよっ」

尚様は、悲劇の人を演じ始めた。
そこまで猫好きだったら、もう少し早く気がついてなくない?
まぁ、尚様もそこまで余裕はなかったのだろうけど。
しかし、時代劇ではないのだから、『よよよっ』は、古いと思う。

「でも、そのねこ、というものは、そんなに大きい生き物なのですか?」

と、ロア様はぬいぐるみを指差しながら聞いてくる。
兼抱き枕用に縫製したので、成人男性が抱えるくらいには大きく作ってある。

「種類によりけりだよ。流石にこの大きさの猫はいないけど」

尚様は、ロア様に身振り手振りで、大きさを説明した。

「そのねこは、人にどのような益をもたらしてくれるのですか?」

ロア様はとんでもないことを聞いてきた。

「「……」」

僕と尚様は無言になる。
僕たちは心の中で、『コイツ、猫の何たるかを知る気はないな』と思った。
猫はそこにいるだけで癒しなのに。

「……ユーク、長毛種のぬいぐるみとか作れない?」

「えっ?無視?」

「……毛皮が手に入りましたら、挑戦してみます」

「いや、ちょっと、無視はしないで」

「あと、猫型ロボットは、にゃんこには含まれないと思う」

尚様は紙の束をきちんと見ていたようだ。

「ねぇ、聞いて?」

「尚様が好きかと思いまして」

「いや、私、悪いことを言った?」

「国民的アニメだから、好きだけどさ。何気にタマも描いているし。しかも、オープニングの最後の踊っているシーンだし」

「二人だけで会話をしないで」

「気がついてもらえましたか。描いてみると微妙に違って、コレが一番苦労しました」

「私もいれて!」


僕たちは教会に着くまで、ロア様をいないもの扱いをして、二人、猫の話で盛り上がりながら帰路についた。


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