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学園編 § 編入準備編
第43話 寮にて
しおりを挟む翌朝、寮の部屋で、僕とノリ、ゼンは、ノリのシート(=今のタブレットのようなもの)をのぞき込んでいた。
昨日、僕が取りだした魔法陣は、いずれも何かの手本を素人ががんばって写したようで、何かいろいろおかしな感じがする。僕らザ・チャイルドはそんな風に思い、その点を特に奇妙に思ったんだが、ノリとゼンはその違いが分からないようだ。
そもそもが、魔法陣を日本で見ることは少ないし、彼らは自分の流派の中で英才教育を受けてきたから、他の術式には縁もなかったんだろう。
逆に僕らは幾多の魔法陣を見てきたし、特に僕の場合、いろんな流派、宗派の術式をたたき込まれてきた。AAOや前身の協会時代から、僕の特殊な、色を持たない霊力を、よりハブに使おうと、僕自身が術式を覚えるように教育、後半は強要されたからだ。
術式は意味を知らなければ発動できない。だから、たとえば誰かが描いた術式に僕の霊力を注ぎ込んでも、発動するか、といえば否だ。僕が術者に霊力を分けて、その術者が起動するのなら問題ないが、その術式を僕が起動した方が何倍も早く術が発動する。コンマ1秒を争う戦場でこの差は大きい。
また、世界各地の龍穴付近で霊的な事件は起きることが多いが、その付近には地元の守護が何らかの形で備えられており、その陣や札を起動するにも、その術式の理解が必要となる。その備えられた術を発動して、戦いを有利にするというのは、僕らにとって定番の戦い方。だが、その起動に、その地の術者を共闘させるより、どうせ前に出てる僕が起動させた方が、被害が少ない。そういう意味でも、戦う場所が決まる度、その地のそういった起動方法を覚えさせられたものだ。
そういった意味で、僕は実際に扱える術式の多さでは世界一だと思う。
そんな僕にとって、昨日の魔法陣は一目瞭然。
だけど、それが分からない二人は、相当悔しいらしい。
実際に僕がいろんな術式をたたき込まれているというのは頭では理解していたけど、それがどういうことか、というのを自分の目で見て、ショックだったようだ。
しかも、実際にいろいろ仕込まれた僕だけならまだしも、蓮華や淳平も違和感を感じ取った。そのことに、焦りを感じているよう。
今日は朝から、この魔法陣を都支部に蓮華が持ち込むというのに、昨日頼み込んで写真を取らせて貰っていた。
僕からすると、この写真を取るという方がびっくりだ。
特殊な方法で作られた、魔力を乗せられたこの用紙は、通常のコピーや写真では写らない。ニーチェが撮った写真は念写という技術。直接写真を撮っているわけじゃない。
だけど、この念写と似たような技術をノリが持っていた。どうやら電子的な記録にしかできないらしいが、さとりの能力の一種だという。さとりの能力で、人の心を見たり聞いたりできるが、それを自分以外にも共有できる方法はないか、と、彼らの一族では研究がされていたそうだ。その過程で、電子的記録として静止画や動画、音声録画が出来るようになったらしい。もともとは、術者の脳内を吸い上げられないか、という実験の途中で得た、ノリの特殊技能、ということだ。
ちなみに人の脳に記録されている信号を外部のコンピューターに取り出す、という実験は大昔から行われている。時折、成功した等の報告が噂で上がるが、ノリの話に聞く限り、脳内の記憶を取り出すと言うより、被験者の能力で電子的媒体にコピーした、が、正解だろう、ということだ。彼としては、たまたま自分ができたが、おそらくは、それほど難しい技術ではないらしい。僕もできるはず、ということだが、冗談じゃない。当然遠慮させて貰うよ。
いずれにせよ、昨夜、ノリがねだって、自分のスマートウォッチに魔法陣を写真で写し取ったものを、シートにコピーして、うんうん唸りながら見ているところ、というのが現状だ。
僕は、請われるまま、違いを言うけど、分からないみたいだ。
だから、二人に、自分で描いてみることを勧めた。
仮に二人の魔力が反応しても、僕が消せるだろうとおもってのことだ。
でも、たぶん、何の反応もしないと思うけど。
シートを見ながら、別の紙に書き写した魔法陣。
二人とも、絵が下手なわけでも、集中力がないわけでもないのに、やっぱり違う。
シートの魔法陣と彼らが描いた魔法陣。すべて違う。
僕は二人が描いたものを見て、やっぱり、と思った。
手本を見ながら描いた、微妙な差異と、今回見つかった魔法陣たちの差異は、なんとなく共通点がある。やっぱり、よく分かっていない人が丁寧にお手本を写したんだ。
そんな風に思っていたら、コンコンと、ドアがノックされた。
僕らは顔を見合わせた。
ゼンが立ちあがって、ドアを開ける。
その間にノリがシートと、描いていた魔法陣をしまい込んだ。
「ちわっす。飛鳥います?」
聞き覚えのある声。聖也か。
僕はそちらに行くと、太朗と瑠珂もいた。
「おはよ、飛鳥。教科書取りに行こうぜ。」
教科書?
「あれ、忘れてた?今日か明日までにロビーに取りに行かなくちゃダメなんだよ。」
?
学校のことは、全然頭に入ってないけど、教科書って取りに行くものなのか?制服とか鞄類がすでにこの部屋に用意されていたから、教科書類もどこかにあるものだと思っていたが・・・
「ほらな、やっぱり知らなかった。飛鳥ってほんと、なんか浮き世離れしているよな。」
と言った太朗。
「ホントになぁ。とにかく一緒に行こう。忘れずに学生証持てよ。」
聖也がやれやれ、と肩をすくめながら言った。
「ゼン先輩はどうします?」
聞いた太朗に、
「俺たちも行こう。ノリ!」
「ああ、聞こえてた。はい、二人の学生証。」
ノリが僕とゼンの学生証をそれぞれ渡す。
僕は受け取って、よく分からないまま、みんなとゾロゾロ、ロビーへと向かった。
ロビーでは、学年ごとにブースが作られていて、僕はいったんゼンたちと別れ、聖也たちに引っ張られて、中2のブースにやってきた。
学生証をスタッフに渡すと、それを読み込み、教科書を渡してきて終了、のようだ。
見回すと、親に連れられている者もいるようで、それなりの賑わいだ。
広いと思っていたエントランスのロビーだけど、なるほど、こういう風に使うためか、と、妙な関心を抱く。
その時、
「ASUKA!」
かすれた、日本人ではない発音の声。
教科書の受け渡しブースから少し離れた、ソファーや小さなテーブルがあるスペース。
そこに見知った人物がいるのを見て、僕は思いっきり眉をひそめた。
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