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学園編 § 学校生活編

第48話 始業式

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 新学期。
 昨日は、入学式だったようだ。
 僕も、ノリたちも2年次への編入ということで、この辺は免除。蓮華と淳平は先生と言うことで参加させられたらしい。おまけに新任ということで、挨拶させられた、と、特に蓮華がプリプリしていた。

 そうして、9月に入って、新学年の始まりが今日、というわけらしい。
 一応、オリエンテーリングで、ほとんどの人とは顔を合わせている。
 少なくとも、僕に関しては、全員が認識済み、ということみたいだ。
 静かにすごそう、という思惑は当初から崩れてしまった。
 転校生なんかは珍しいのだろう、妙に注目されて、気が滅入る。
 しかも、例の魔法陣、見つけてしまったし。

 今日は始業式のみ、ということで、担任が挨拶がてら入ってきたようだ。
 担任、といっても、淳平だが。
 飄々と入ってきて、すでに風呂場で親交を深めた男子どもを中心に軽口を叩いているが、やつもすぐに気づいたんだろう。一瞬、鋭い意識をデタラメな魔法陣に向ける。
 それは、教卓、というのだろうか、教師が使う中央の机の天板裏に描かれていた。

 どうするんだろう。
 見ていると、バシッという霊視ならぬ霊聴が聞こえた。
 強引に霊力を流し込んで壊したらしい。
 『何、放置してんだ?』
 テレパシーで言ってくるけど、壊す暇、なかったんだから仕方ない。それに僕の場合上手く壊せるか怪しいしな。

 どうも学校で見つかる魔法陣もどきは、つまんない霊を呼び出すみたいで、霊力自体はたいしたことがない。だから、呪詛汚染とかを気にせず、霊力をぶつけて崩壊させることができるようだ。けど、僕の場合は、なんか発動させてしまうことがあるようで・・・
 反発しないから、逆に霊力に任せて強引に発動、みたいになる場合があるんだ。全部が全部そうなるわけでもないのがやっかいなところ。
 どうしてわかるか。
 当然、今朝からいくつもあった魔法陣もどきで試しているからだ。

 そう、オリエンテーリングの時にもあった、あの怪しい素人っぽい魔法陣やお札が、至る所に設置されていた。いずれも、違和感あるいびつなもの。よく知らない人間がお手本を写しただけのような、霊力なんてほとんどない落書きのようなレベル。
 とりあえずは、見回って、設置の瞬間を押さえるべきかもしれない。
 僕は、いやがらせのような淳平のテレパシーを無視して、今後の対応を考えていた。


 「なお、いや、田口飛鳥君だね。同級生とは光栄だ。ハハハ。」
 始業式、という名の伝達事項のみを終えて、その日は終了だ。
 淳平が解散を言って教室を出ると同時に、角刈りの偉そうな男子が、そんな風に言いながら近寄ってきた。
 なお、ってなんだよ。明らかに「直江」をわざわさ言い直してやったぞ、と言ってるんだろうが、ひょっとして、そんなことでマウントを取れるとでも思ってるんだろうか。
 「知ってると思うが、僕は養老千暮ようろうちぐれだ。」
 そう言いながら、握手だろうか?手を差し出してくる。
 いや、知らねぇよ。嘘だけど。

 一応、蓮華が渡して来た覚えるべき人物の上位に入っていた。クラスメートの全員はそのデータにあるが、特に気をつけるのは、僕の正体を知っているだろう大物の子弟。渡されたデータではこのクラスに男女各々1名ずつ。その男がこいつ養老千暮ってわけだ。
 親からむやみに接触しないよう言われてないのか?

 「誰?知らないけど。」
 僕は、握手の手をギロッと見るだけ見て、放置した。
 よくもまあ霊能者と知って握手なんて考えるな。ノリほどじゃなくても、触れれば素人の思考なんて、ザ・チャイルドならほとんど読み取れるぞ。まぁ、僕はそっちはそんなに得意じゃないし、わざわざ人の思考を読んでへこたれるほど、物好きでもない。でもやろうと思ったらできないことはないんだ。

 「帰国子女、の、つもりなんだったら、握手の一つぐらいできないのか。」
 ドスをきかせてる、つもりなんだろうけど、怖くはない。所詮ガキががなってるだけだ。でも、周りは違うんだろうな。こっちをチラチラ伺っていた女の子が「ひっ。」て言って怯えてる。

 「ちょっとちょっと、何やってるんだかなぁ。養老よ、転校生いじめとか、格好悪いぜ。」
 様子を見てこっちにやってきた太朗が、僕の前に立って言った。
 「いじめだ?ふざけんな。握手してやろう、としただけだろうが。大体この僕が面倒見てやろうって言うんだ、こんなやつ、ありがたがって当然だろう!」
 「はぁ?何言ってんの?ひょっとして出遅れたから焦ってるぅ?わかるなぁ。飛鳥、かわいいもんなぁ、お近づきになりたい、よなぁ。ほとんどの奴、すでに裸のつきあいだもんなぁ、へへへ。」
 聖也もやってきて、なんか分かんないフォローをしてるようだ。なんだよ裸のつきあいって。いや、風呂に一緒に入ったことだろうけど・・・

 そうこうしてると、他のクラスメイトも、こっちに注目してくる。何人かは聖也たちと一緒に僕の前に立って、養老を非難し始めた。
 あんまり騒ぎにしたくないんだけど。
 僕は、そう思って、こっそりとため息をついた。

 その様子を、養老に見られたんだろう。ギャラリーを無視して、僕にすごんでくる。
 「おい、飛鳥。僕は、全部知ってるんだぞ。それで手伝ってやろう、って言ってるんだ。ありがたがってついてくるのが当然だと思わないか。僕は養老だぞ?」
 いつ手伝ってやろうって言ったんだろう。そもそも素人の手伝いなんて邪魔なだけだし。って、何を手伝うつもり?何が出来る?
 確かに養老、と言えば知る人ぞ知る、の家系だろう。占い屋、なんて言われているが、その手の力で富を築いた一族として知られているんだ。だけど、その力は女系に継がれる、てのも有名な話。

 「おいおい生徒会。生徒会が一般生徒を脅してどうするの。何をそんなに怒ってるか知らないけど、今日の所は私に免じてお開きにしてよね。はい、みんな解散解散。」
 委員長が、ちょっと険悪になった中、割り込んできた。
 おかげで、養老も振り上げた拳を降ろすきっかけにできたのだろう。
 「お前に免じて許してやるよ。」
 そう言うと、ドンドンと当たり散らすように足音を立てながら乱暴に出ていった。


 やれやれ。初日から面倒なのに絡まれたな。
 上手く対応できない僕に非がある、とか言われそうだ。
 それにしても、一体何がやりたかったのか分からない子だったな。あれが要注意人物なのは分かるけど、これって上に上げる事案、なのか不明だ。
 しばらく様子見するか、そう思った僕の判断は果たして正しかったのだろうか。
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