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学園編 § 学校生活編

第59話 絵本

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 「あ、ちなみに、あの絵本ですが、ここの小学校の図書館に収蔵されています。ご存じでしたか?」
 今日一番の衝撃発言。

 AAOはそれなりの権力を持っている。
 世界的組織であり、裏の世界に精通するもの。
 そして、、でもある。
 AAOの理念と言って良いのかどうか、一般人に世界の真実を告げるには、社会が成熟していない、というのが、彼らの主張だ。
 化け物は存在しない。非科学的なものだ。超能力?厨二病かい?そういって笑い飛ばして貰えば良い。あくまで化け物どもも、それと戦う者達も、フィクションでだけ許される存在。
 そのために、情報を操作し、隠蔽し、適度に情報をチラ見せしては、そこにたどり着いた者達に、、だのだの、だの、と言った解答を与えるのが、大きな仕事の1つだと言っても良い。

 そんなAAOだからこそ、表現の自由から禁止されているはずの検閲、なんて行為も、こっそりと行われている。これは世界基準で、ていう話だ。
 その検閲で社会に出すことを禁じられ、AAO内のみで出版OK、なんていう、うさんくさい本、しかも子供向け絵本、なんていうものが、誰の目にでも触れうる場所=図書館なんていう場所に存在する、というのは、僕らからしたら、信じられない話である。

 おそらく完全に禁書扱いにならず、AAO内だけで重版を重ねている、というのは、正しい使い道としては、ゼンのものが正解なんだろう。つまりは、霊能者として、あこがれの者と共闘するという夢を抱かせる、そういう教育資料としては有用だと思う。その素材が僕だ、という羞恥をどうしてくれる、という個人的な心情は別にすると、ということだけど。

 それとも、こんなたいした話じゃなくて、出版当初はAAO内のみ、ということだったが、自体を経て、今はフィクションとして大々的に販売されている、という線も捨てきれないか。

 「飛鳥、それは違います。今でも、あれはAAOのみで扱いが許可されているものです。」
 僕の気持ちを読んだのであろうノリが、そんな風に言った。

 「ん?ノリ先輩、ひょっとして噂に聞くテレパシーですか?飛鳥、何も言ってなかったけど、俺、はぶるために超能力で話してた、とか?」
 普通にノリに視線を送ったけど、確かに普通考えれば、ヘンな会話だよな。
 多分太朗は僕たちみんなAAOの人間で、超能力者というか霊能者だって勘付いてるだろうから、顔をしかめる程度で終わってるけど、ノリの発言は、浅はかすぎる。
 実際、しまったって顔してるけど、さとりがそんな風にポーカーフェイスを崩すのって、なんか新鮮でもあるな。この寮生活が始まってからは、よく見る光景ではあるけれど。

 「ほんと、素人は使えないわね。なんであんたたちの教育に、私たち全員がかり出されなきゃならないのかしら。ガキの面倒は一人で十分大変なんだけども?」
 蓮華がノリをギロリと睨みながら言った。
 そのガキってのは、僕のことなんだろうけど、おかんむりの様子なのに、こいつらには手がでないんだな、と、妙なことで感心する。
 『飛鳥と違って、あちらさんはお得意さん扱いだからな?』
 ヒヒヒ、と軽く笑い、念話で僕に言ってきたのは淳平だ。聞こえてはいないはずだけど、蓮華が僕と淳平をギロリと睨む。

 「まぁ、いいわ。鈴木君。その絵本のことだけど、図書館にある、ということは、かなりの人が読んだのかしら。小学生にもなって絵本がそんなにも読まれてる、なんてことはないと思いたいんだけど。」
 「あぁ、そういう意味では、ごめんなさい、ですね。毎年起こること、らしいんですが、絵本を知っている子が各学年にいたりするんですよ。で、これは実話なんだって自慢する。お前たちはこんなことも知らないのかってね。自分は将来この『勇者アスカ』の横に立って世界を作るエリートなんだ、そんなことを言う馬鹿者が毎年出現する、って話です。」

 勇者アスカって・・・
 僕は、あきれて太朗を見た。
 「あ、その絵本の主人公は『勇者アスカ』ってんだ。名字は出てない。ちなみに俺がフルネームを知っているのは、両親の影響だから。転校生のアスカ君が腰までの長髪ってだけで、テンション上がるやつは、結構いるんだぜ。」
 ・・・
 「ちなみに、クライマックスで、世界中からの期待と応援を一身に受けて、勇者アスカの髪は腰まで伸び、全身が光り輝くんだ。後光のように髪を舞わせて、神に斬りかかる、いやぁ、何度読んでも感動したねぇ。」
 僕は、みんなの顔を確かめるようにゆっくりと見回した。
 みんな、困ったような顔をしつつ、肯定のいらえを返す。
 なんだ、それ。
 「よっぽど偏屈じゃない限り、小学校出身者は、あの絵本を一度は目にしていると思うぜ。」

 学校、登校拒否していいかな?
 正直メンタル削られ過ぎだよ。
 なんだ、それ。
 ほとんど、デフォルメだけで真実から離れてないってのが、余計に

 「なんつーか、俺も昔読んだけど、ほぼノンフィクションだからなぁ。読んだときは腹抱えて笑ったけど、AAO的には、確かに拙いんだろうな。回収、するか?」
 「あの、センセ。今更、な気がしますよ。ちなみにうちの親が通ってたときにはすでにあったそうですし。」
 再びの爆弾発言。太朗の親が通っていたときにはあった?
 一体誰が何の目的で入れたんだ?
 書かれてほぼすぐ、ってことは蘭子がこっそりあちこちにばらまいて、なんてことにはならないよな?
 何が拙いって、「神に敵対した」ということが、AAO的には隠したいこと、だそうだ。まぁ、神と相対するのは悪魔だったり、悪者って相場が決まってるからな。しかもお陰で呪われた、なんてのも同じ意味でタブーだ。かつ、このタブーがタブーじゃない人にとっても、不死、というのは人類が発生して以来追い求めたタブーってこと。
 僕らは、なんだ。
 ヒーロー?ばっかじゃない?てことさ。


 パンパン。

 僕らはおもいおもい、思索にふけっていると、蓮華がでっかい音を立てて手を叩いた。
 「はいはい。この話はここでおしまい。いい?私たちの仕事とは関係ないからね?飛鳥が思った以上に身バレしてるかも、と言っても、鈴木君ほど絵本を信じてる子がいるとは思えない。ようは、飛鳥がどんくさいことをしなきゃいいってこと。いい、飛鳥?あんた足引っ張ったら承知しないからね。」
 いや、これ、僕のせいか?
 「てことで、私たちはやることをやる。ちんたらしてる暇はないの。全然仕事すすんでないんだからね。あ、そうそう、鈴木君、もし飛鳥の役に立ちたい、なんて殊勝なこと思ってるんだったら、この馬鹿のお守り頼むわ。長いこと生きてても、相当世間知らずだし、甘いところがあるしね。できたら、その絵本、フィクションで通してほしいわ。」
 「らじゃ!おまかせを!」
 「ちょっと待って!いくらなんでも一般人の、しかも子供を巻き込むなよ。」
 「あら、あんただって、中2の頃は巻き込まれてたわよね?」
 「それとこれとは別だろ!」
 「私は鈴木君にあんたほど無茶なことをしろって言ってないわ。そもそも、あんた、鈴木君に害が及びそうなときに指をくわえているつもり?そんな状況が起こったら、私は許すつもりはないわよ?」
 「それは!?・・・まぁそうだけど・・・」
 「まぁまぁ飛鳥。俺は一般人から飛鳥を守る。飛鳥はやばいやつから俺を守る。ギブアンドテイク。そうですよね、四天寺センセ。」
 「あら、よく分かってるじゃない。飛鳥よりよっぽど使えるわ。」
 「ありがとやーす!」

 機嫌良さげになった蓮華と太朗が、あの事件や僕のことを楽しそうに話しているのを見ながら、普通の人ならストレスで胃をやられているんだろうな、と、あられもないことを思い、ため息をついた。 
 
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