5 / 5
第五部【Re:Create】
序章 《Designs》
しおりを挟む
研究室で一仕事終えた彼女は、少し疲労が溜まっていた。ここ数日は睡眠時間を削って対処しているが、それでもタスクは山積みされているのが現状だ。
席を立ち、軽くストレッチを行った。仕事に没頭すると、何時間もデスクで過ごしてしまうので、慢性的な肩こりになっている。
彼女の名はカレン・東郷。組織の『本部』で『適合者』の製造に携わる研究者の1人だ。上からの指示で新世代の戦闘型『適合者』を造らなければならないのだが、具体的なイメージすら未だ固まっていない。
第4世代迄の『適合者』から吸い上げたデータは全てチェックしている。彼女の目には十分な戦力として映っているが、上の者達は満足していないらしい。これ以上、何を強化すれば良いのか、彼女は悩んでいた。
「カレン、コーヒー淹れたけど飲む?」
同僚のヒルダ・ヤーノルドがそう言って、淹れたてのコーヒーを差し出した。
「ありがとうヒルダ。グッドタイミングね」
彼女はそう言って、差し出されたコーヒーを笑顔で受け取る。ヒルダも『本部』で『適合者』の製造に携わっている研究者で、このラボでの付き合いは長い。
組織の『本部』では国籍や性別、年齢も問わず、各分野で優秀な人材が世界中から集められている。彼女達も若くしてその一角であり、本来なら世界のトップ企業や大学の研究所に勤めていてもおかしくないレベルの人材なのだが、破格の高待遇でスカウトされたのだ。
組織の『本部』に勤めるという事は、表舞台から姿を消すという事でもある。そういった事を踏まえて考えても良いと判断出来るだけの高待遇で雇われている。
此処には世界に類を見ない最新鋭の設備が揃っているし、一般社会の研究者達がタブー視している、生命の創造を研究してもいる。彼女達研究者にとって、知的探究心を満たすには最適の環境と言えるだろう。
「カレン、最近仕事で行き詰まっているんじゃないの?私で良ければ相談に乗るよ?」
ヒルダがそう言うが、図星であった。第1世代から第4世代迄、30年以上前から様々な『能力』を与えた『適合者』が、このラボの研究者達の手で製造されている。だが、上層部が求めているのは『新世代の適合者』だ。
具体的な指示は出されていない。自由にやって良いと言われている。しかし、その自由にというのが雲を掴むような話なのだ。せめて方向性ぐらいは示してもらいたい、というのが彼女の本音である。
「ありがとう。正直言って、どうするのが正解なのか分からなくなっちゃってね・・・。ベースはBeastタイプにしようかと思っているのだけど、何か新しい要素をって考えるとねぇ・・・」
彼女はそう言って溜息を吐いた。
「そうねぇ・・・、Beastタイプってのはイケてると思うよ。アレ、強いし。後は新しい要素かぁ~・・・。今迄製造された『適合者』のスペックは、もうチェックしているんだよね?何か適当に、キャラが被らないのを考えるしかないかなぁ~?」
ヒルダはそう、いつも通りの軽いノリで言う。
「う~~~ん・・・。でもねぇ、過去に造られた『適合者』と被らなくて、尚且つ戦力になるモノをってなると、既に粗方出尽くしてるような気がするのよねぇ・・・」
彼女はそう言って、また溜め息を吐く。
今迄に組織で造られた『適合者』は、様々な『能力』を与えられている。戦闘型にしろ環境型にしろ、それぞれが持つ『能力』はバラエティに富んだモノだ。
特に、『戦闘型』というように目的がハッキリしているタイプだと、既にあらゆる局面に特化したタイプが造られているので、新たな方向性を打ち出すのも難しいだろう。
「カレン、悩んだ時は考える前に手を動かすのよ。直感に頼れば閃きがあるかもでしょ?私なんかはいつも、フィーリングでパパ~っとやっちゃうから」
ヒルダはそう言ってウィンクをして見せた。彼女と違ってヒルダは、直感に冴えた研究者だ。その直感で過去に何度も難しい問題を解決しており、これは最早才能と呼ぶべきだろう。だが、だからといって、ヒルダと同じ事が彼女にも出来るとは限らない。
しかし、いくら思考を巡らせても堂々巡りになっている現状では、ヒルダの言うように直感に賭けてみるのもアリかもしれない。
「ありがとう、ヒルダ。ものは試しって言うし、何事もチャレンジしてみないと分からないものね。私の直感で、ユニークな『適合者』を造ってみせるわ」
ヒルダの言葉に背中を押され、彼女は少し気が楽になった。理屈で凝り固まってしまっては何も生み出せないだろう。ヒルダとの会話が、良い気分転換になった。
「カレン、頑張れ~。何だっけ?日本のアレ、神風精神ってヤツ?とにかく、今のカレンには勢いが必要な訳よ。もしかしたらボスが造るみたいに、トンデモ兵器が出来るかもよ?んじゃ、私は仮眠室行くから」
ヒルダは欠伸を噛み殺しながらそう言って、研究室を出て行った。睡眠時間を削っているのは彼女だけではないのだ。
しかし、思わず苦笑してしまったが、ヒルダの口から『神風精神』なんて言葉を聞くとは思わなかった。戦時中に日本で言われていた言葉。今時誰も言わないだろう。
祖国を離れて組織に入り、既に5年経っている。故郷に未練が無い訳ではない。家族や友人の事を時折り思い出す。
だが、彼女は研究者としての道を選んだ。それも、組織の『本部』での研究だ。此処で得た実験結果がどれ程革新的だろうと、表舞台の学会で知られる事は無い。全ては組織の為に利用されるだけだ。
彼女は、それでも構わないと思っている。研究者の本能である知的探究心、此処ではそれに一切制限が無い。それだけでも彼女は十分満足していた。
「さてと、私もヒルダみたいに、フィーリングでパパっとやっちゃおうかな~?」
彼女は端末に向かい、軽く手指をほぐした。『適合者』を製造する際に使用するDNAデザインの専用端末だ。この端末でデザインしたDNAパターンが、ダイレクトに培養カプセルの中で形成されるようになっている。
「新世代の戦闘型『適合者』・・・、戦闘に特化したタイプ・・・。それなら、『ヒト』の形である必要もないのじゃないかしら?第1世代にも肉体の一部が『ヒト』とはかけ離れた『適合者』がいたけど、もっと強靭な肉体で、戦う為だけの身体つきにしても構わないわよね・・・?」
彼女は端末のキーボードを打鍵し始める。頭の中に大まかなイメージが浮かび上がってきた。
DNAは本来、あらゆる生命体が過去より受け継ぎしモノ。このラボではソレに人為的な手を加えて異質なモノへと変化させている。培養カプセルの中では、今まさに新たな『命』が生み出されようとしていた・・・。
席を立ち、軽くストレッチを行った。仕事に没頭すると、何時間もデスクで過ごしてしまうので、慢性的な肩こりになっている。
彼女の名はカレン・東郷。組織の『本部』で『適合者』の製造に携わる研究者の1人だ。上からの指示で新世代の戦闘型『適合者』を造らなければならないのだが、具体的なイメージすら未だ固まっていない。
第4世代迄の『適合者』から吸い上げたデータは全てチェックしている。彼女の目には十分な戦力として映っているが、上の者達は満足していないらしい。これ以上、何を強化すれば良いのか、彼女は悩んでいた。
「カレン、コーヒー淹れたけど飲む?」
同僚のヒルダ・ヤーノルドがそう言って、淹れたてのコーヒーを差し出した。
「ありがとうヒルダ。グッドタイミングね」
彼女はそう言って、差し出されたコーヒーを笑顔で受け取る。ヒルダも『本部』で『適合者』の製造に携わっている研究者で、このラボでの付き合いは長い。
組織の『本部』では国籍や性別、年齢も問わず、各分野で優秀な人材が世界中から集められている。彼女達も若くしてその一角であり、本来なら世界のトップ企業や大学の研究所に勤めていてもおかしくないレベルの人材なのだが、破格の高待遇でスカウトされたのだ。
組織の『本部』に勤めるという事は、表舞台から姿を消すという事でもある。そういった事を踏まえて考えても良いと判断出来るだけの高待遇で雇われている。
此処には世界に類を見ない最新鋭の設備が揃っているし、一般社会の研究者達がタブー視している、生命の創造を研究してもいる。彼女達研究者にとって、知的探究心を満たすには最適の環境と言えるだろう。
「カレン、最近仕事で行き詰まっているんじゃないの?私で良ければ相談に乗るよ?」
ヒルダがそう言うが、図星であった。第1世代から第4世代迄、30年以上前から様々な『能力』を与えた『適合者』が、このラボの研究者達の手で製造されている。だが、上層部が求めているのは『新世代の適合者』だ。
具体的な指示は出されていない。自由にやって良いと言われている。しかし、その自由にというのが雲を掴むような話なのだ。せめて方向性ぐらいは示してもらいたい、というのが彼女の本音である。
「ありがとう。正直言って、どうするのが正解なのか分からなくなっちゃってね・・・。ベースはBeastタイプにしようかと思っているのだけど、何か新しい要素をって考えるとねぇ・・・」
彼女はそう言って溜息を吐いた。
「そうねぇ・・・、Beastタイプってのはイケてると思うよ。アレ、強いし。後は新しい要素かぁ~・・・。今迄製造された『適合者』のスペックは、もうチェックしているんだよね?何か適当に、キャラが被らないのを考えるしかないかなぁ~?」
ヒルダはそう、いつも通りの軽いノリで言う。
「う~~~ん・・・。でもねぇ、過去に造られた『適合者』と被らなくて、尚且つ戦力になるモノをってなると、既に粗方出尽くしてるような気がするのよねぇ・・・」
彼女はそう言って、また溜め息を吐く。
今迄に組織で造られた『適合者』は、様々な『能力』を与えられている。戦闘型にしろ環境型にしろ、それぞれが持つ『能力』はバラエティに富んだモノだ。
特に、『戦闘型』というように目的がハッキリしているタイプだと、既にあらゆる局面に特化したタイプが造られているので、新たな方向性を打ち出すのも難しいだろう。
「カレン、悩んだ時は考える前に手を動かすのよ。直感に頼れば閃きがあるかもでしょ?私なんかはいつも、フィーリングでパパ~っとやっちゃうから」
ヒルダはそう言ってウィンクをして見せた。彼女と違ってヒルダは、直感に冴えた研究者だ。その直感で過去に何度も難しい問題を解決しており、これは最早才能と呼ぶべきだろう。だが、だからといって、ヒルダと同じ事が彼女にも出来るとは限らない。
しかし、いくら思考を巡らせても堂々巡りになっている現状では、ヒルダの言うように直感に賭けてみるのもアリかもしれない。
「ありがとう、ヒルダ。ものは試しって言うし、何事もチャレンジしてみないと分からないものね。私の直感で、ユニークな『適合者』を造ってみせるわ」
ヒルダの言葉に背中を押され、彼女は少し気が楽になった。理屈で凝り固まってしまっては何も生み出せないだろう。ヒルダとの会話が、良い気分転換になった。
「カレン、頑張れ~。何だっけ?日本のアレ、神風精神ってヤツ?とにかく、今のカレンには勢いが必要な訳よ。もしかしたらボスが造るみたいに、トンデモ兵器が出来るかもよ?んじゃ、私は仮眠室行くから」
ヒルダは欠伸を噛み殺しながらそう言って、研究室を出て行った。睡眠時間を削っているのは彼女だけではないのだ。
しかし、思わず苦笑してしまったが、ヒルダの口から『神風精神』なんて言葉を聞くとは思わなかった。戦時中に日本で言われていた言葉。今時誰も言わないだろう。
祖国を離れて組織に入り、既に5年経っている。故郷に未練が無い訳ではない。家族や友人の事を時折り思い出す。
だが、彼女は研究者としての道を選んだ。それも、組織の『本部』での研究だ。此処で得た実験結果がどれ程革新的だろうと、表舞台の学会で知られる事は無い。全ては組織の為に利用されるだけだ。
彼女は、それでも構わないと思っている。研究者の本能である知的探究心、此処ではそれに一切制限が無い。それだけでも彼女は十分満足していた。
「さてと、私もヒルダみたいに、フィーリングでパパっとやっちゃおうかな~?」
彼女は端末に向かい、軽く手指をほぐした。『適合者』を製造する際に使用するDNAデザインの専用端末だ。この端末でデザインしたDNAパターンが、ダイレクトに培養カプセルの中で形成されるようになっている。
「新世代の戦闘型『適合者』・・・、戦闘に特化したタイプ・・・。それなら、『ヒト』の形である必要もないのじゃないかしら?第1世代にも肉体の一部が『ヒト』とはかけ離れた『適合者』がいたけど、もっと強靭な肉体で、戦う為だけの身体つきにしても構わないわよね・・・?」
彼女は端末のキーボードを打鍵し始める。頭の中に大まかなイメージが浮かび上がってきた。
DNAは本来、あらゆる生命体が過去より受け継ぎしモノ。このラボではソレに人為的な手を加えて異質なモノへと変化させている。培養カプセルの中では、今まさに新たな『命』が生み出されようとしていた・・・。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる