無機質のエモーション

冴木シロ

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100回目の可能性

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 周りに誰もいない山奥にポツリとコンクリートで建てられた中くらいの建物が1軒。これが僕の研究所。
 誰からも干渉されたくなかったから、この辺境の地を選んだ。
 そして僕はここで1体の機械を作っている。

「コマンドネーム『P100』……全てのシステムを起動中」

 薄暗い部屋の中で人の形をした機械が1体。淡々と女性の声を発しながらソファーに座っていた。
 長い黒髪、フリルが装飾されている黒いロングドレスを着た姿は人間にしか見えない。
 P100の人間のような白い肌から、いくつもの細かい穴が現れる。その穴からは大量の白い煙が勢いよく噴射され、閉ざされていた瞳が開かれた。
 その瞳は底がなく、ずっと沈んでしまいそうな深い蒼だった。

「……視覚システムオンライン」
「おはよう、P100。僕が分かるかい?」

 P100の瞳が開いたのを確認したと同時に、向かいのソファーで声をかける。
 白衣姿の男性が僕だということを判別してくれただろう。数秒経ち、彼女が口を開いた。

「……記憶システムオンライン。マイマスター『カロ』ですね。おはようございます」
「記憶も視覚も良好だね。それじゃあ身体は動かせるかい?」

 僕は持っている手帳にメモを書き加える。
 P100はぎこちなく首を動かして、自身の身体を見つめる。
 まず指先がカクカクと動き出し、次に手首、そして腕が動き出す。P100の身体はスムーズに動き出した。

「身体駆動システム良好、問題なく駆動することができます」

 ソファーから立ち上がり、歩き回るなどして、全身が動くことを見せてくれた。僕は頷きながら、さらに研究メモを手帳に書き加えた。

「マスター、私の役割を教えてください」

 僕を真っすぐ見つめながらP100が尋ねてくる。
メモを書き終えると、手帳をパタンと閉じ、口を開く。

「そうだなぁ……僕の、手伝いをしてほしい」

 ボサボサの黒髪を掻きながらP100に優しく微笑む。
P100は100回目にしてようやくできた僕の希望の可能性だ。
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