小笠原沖600km

立原

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サンゴ広がる島の秘密

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青く透明な海の中にたくさんのサンゴが静かにきらめいていた。調査船「あけぼの」はきらめく海を静かに進んでいく。サンゴ礁のあちらこちらに沈んだ沈没船の周りをイルカが泳いでいく。 



この静かな緑あふれる島はすっかり傷跡を消し、鳥たちの楽園となっている。あけぼのは、小さな砂浜の沖合に錨をおろした。 



「船長。上陸の準備が整いました。」



ガッチリとした体つきの船員が船長に、通達した。

「そうか、わかった。すまないが、中野くんを呼んでくれるかな?」

それからすぐ、甲板を歩く一人の男の姿があった。

(船長がお呼びとは何事だろう?)

中野は、出発の荷物の再確認をしているとドタドタと足音が聞こえ、つまみ出されるがごとくここへ連れてこられた。

「中野くん突然呼んでしまって申し訳ない。」

艦長は、軽く会釈した。

(礼儀正しい艦長だな)

「こちらこそ艦長は、多忙かと存じ上げます。なにか疑問点などございましたか?」

本来中野は、これほど堅苦しくないのだが、目上となると大人がびっくりするほど丁重になってしまう。

「私は、そこまでの敬語を使ってもらう人間じゃないよ。」

「すみません。癖になってしまっていますので…」

「敬語を使いこなせるのはいいことだよ。それは置いといて、一つ頼みたいことがある」

艦長は、服の裏に手を入れるとゴソゴソと何かを取り出した。

「見てのとおりただの年期が入った巾着だ。これを君に託す。島についたら開けるといいきっと調査を面白くしてくれるだろう。」

艦長は、それ以上は、何も話さなかった。潮風が二人の間を通り過ぎていった。



それからすぐ上陸許可が出た。

船の後ろからゴムボートが降ろされると中野や、それ以外にもそれぞれのエキスパートがボートに乗り込んだ。

ブロロロロ 80馬力のエンジンが音をたてると調査船からあっという間にとうざかっていつた。

相変わらず甲板に艦長が立っていた。彼はそれを見送ると船の中へと速歩きで消えて行ってしまった。彼はただ一つ島を見つめていた。

中野の頭に資料が思い返される。島は今から80年前太平洋戦争のさなか祖国を守るべく名もなき2万人もの人々が戦死した島である。

中野は、その手にあった巾着をぎゅと握りしめた。

ボートは、大きな茶色い鉄の塊を横目に砂浜へと向かった。

(確か、これは大戦中米軍が、港を作るために沈めた戦艦ではなかろうか?)

さんご礁の上に2つにも3つにも分かれた船体があちらこちらにその船体を海に埋めている。

中野は振り返るとあけぼのがいた海を見た。ボートのエンジン音も聞こえなくなった。

中野の目には大きな灰色の船が何隻も写った。海は灰色の船により真っ黒に染まり海が死んでしまったかのように見えた。

思わずまばたきをするとそこにはあけぼのただ一隻がたたずんでいた。



艦長は、懐中時計で時間を確認すると少し急ぎ足で艦長室へと向かった。彼が部屋から出て来るとその手には、氷の入った水があった。船の汽笛が9時を知らせると同時に島のほうに向かって水を海へと注ぎ敬礼をした。

この島は、緑美しくクジラやイルカがいて有名だが、今なお島で戦い、命を奪われた人々が忘れられ、取り残された島なのである。そして今なお1万1千人が取り残されているのだ。我々は、すっかり忘れてしまい今日この日に至るまで忘れ果ててしまっていた島なのである。

艦長は、胸元から一冊の手帳を取り出すと日陰に置かれた椅子に腰掛けた。まな板のような島にそびえる一つの山を彼は見ていた。そして何かに思いふけっているのであった。



ドドン、ドドンと、塹壕を、戦艦大和にも匹敵するアイオワの艦砲射撃の砲弾が絶えずゆらし続ける。壕の中は、まるで砂漠にあるサウナのごとく猛烈な熱気に包まれていた。そうこの島はかつて活火山だったのだ。地表に、木は生えず、背の低い木がまばらに生えているばかりであった。ところどころから煙が立ち上がり硫黄の匂いが、鼻をつついた。米軍は、次々と上陸できる小さな砂浜へと船を送り込んだ。12隻のLCI(上陸用舟艇)は、我が物顔で、海を突き進んだ。彼らには自信があったミッドウェー以来この東洋の黄色い猿に圧勝し続けていたのだ。これから起こることなど想像もつかなかった。だが日本軍の砲台は、しっかりその艦影を捉えていた。島で最も見晴らしのいい場所にあるからだからだ。煙を上げる摺鉢山は、重火器で武装され、活火山という天然の要塞は、難攻不落の城となっていた。

「撃てー」

その一言を皮切りに摺鉢山中腹から大きな音とともに白煙が上がった。遠くから見ればまるで活火山が活動し始めたようにしか見えなかっただろう。しかしその数秒後には、巨大な噴石の如くLCIの周りになにかが落下し水柱が立ち上がった。LCIの海兵がことの重大性に気づいた頃には、山は2回目の噴火を起こしていた。先程の結果を元により絞られた攻撃は、いくつかの船を貫通した。砲弾を浴び上陸する前に9隻が撃沈3隻が命からがら沖江と逃げ帰ることとなった。



中野を乗せたボートは、島唯一の砂浜へと迫っていた。

(ああ、、これが噂の砂浜か)

彼の目の前には濃赤の砂浜が波に打たれていた。

「血に染められた砂浜か…」



戦艦アリゾナは、摺鉢山に砲弾の雨を降らせた。
ドドド、ドドド
凄まじい攻撃にとうとう山は耐えかねた。濃赤の山は土煙をたてガラガラと音を立て山の半分が崩れた。土から少しだけ顔を出す大砲や、無残に散らかった銃身が辺りに散らばり、まだ所々から土煙が上がり焦げ臭い匂いがあたりを覆った。その土は、黒かった。火薬のせいか、それとも血だろうか。しかしその場にいたとしてもそれを考える余裕があったろうか?

中野は、降り立った砂浜へとゴムボートを引きずり上げる。

そして海岸もまた黒く染まっていた。もともと黒かったのかもしれないが、その上に倒れた人や、人の血がよりいっそう海岸を黒く染めていた。まだこれは序の口に過ぎないのだ。



「艦長。潮の流れが強くなっています。」

船員がふけっている艦長を現実世界へと戻した。

「あ、ああわかった。行こう。」

調査船調査船あけぼのは、朝の波音に揺らされている。だが潮の流れが強いこの海域は、魔の海域でもある。この船のようにしっかりと錨を降ろさなければ、夜のうちに暗礁にでも、乗り上げてしまうだろう。調査も長い間はできない。こそこらじゅうにさんご礁と沈没船と言うなの暗礁が広がっているのだ。

「艦長、お見事でしたね。もう怖くてボートなんて出せませんよ。」

一日4回潮の流れが穏やかになる時間がある。しかし想像以上に複雑な海流を読むのは並大抵の人にはできない。

「ここは、玄人でもうまくいかないことがある。恐ろしい場所だ」

艦長は、外とは打って変わって涼しい操舵室へ入った。

「これ以上ここにはいられない場所を変える。」

艦長は、そうひとこというと舵を自ら握った。

「前進微速」

2つのスクリューが回り始める。

「錨をあげ」

海の底へ続く錨がどんどん吸い上げられてゆく。
それと同時に船は右へ左へ蛇行するように動き始めた。強い潮の流れが船を押し流そうとしているのだ。それに合わせ船長は、左右に舵をきる。

「両舷前進12度」

巻き終えると同時に船は、前進を始めた。

調査船は、9000トンの大型船にも関わらず見事に暗礁の迷路を進んでいった。

「JAMSTECが、よく許可を出しものだ。」

双眼鏡を覗きながら、副船長は、苦笑いをした。
もちろん、JAMSTECがやすやすと許可を出したわけではないのだが、そこは読者の想像におまかせする。


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