中東のくじら 〜Flying whale〜

立原

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空飛ぶくじら

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 20xx年 紅海上空

ズシンズシンと爆発が機体を揺らす。

We are a hospital aircraft belonging toWRO.  It is not permissible to attack us under the Geneva Agreement.(我々は世界救援機関の医療航空機である。ジョネーブ協定に基づき我々を攻撃することは許されない。)


20xx年2月より遡ること5ヶ月前、中東において新たな火花が確実に生み出されようとしていた。米国ホワイトハウスでは、とある資料が大統領に手渡された。

「ハーバード大学の極秘研究により中東ゴルドバ王国において試験産出される石油に核を超える威力を持つとされる物質が含まれていることが、発見されたとのことです。」

大統領は目の前に置かれた。資料に目をやった。

ファイル名:ニューディールマンハッタン

「今後どのようにするのがベストだと思うかね。」

「ゴルドバは、隣国サファビー共和国と紛争が起きており、国民は苦労を強いられているものと思われます。経済支援の名のもとでアメリカの石油企業を参入させ、アメリカで管理すべきかと思います。」

「なるほど。できるだけさわぎは抑えたい。準備はどうなっているのかね。」

「すでにCIAが現地入りをしています。あとは大統領の署名次第で開始できます。」

大統領は、ペンを取った。

これに伴いアメリカは、石油から成分の分離と極秘実験を開始した。それと同時に開発援助の名の下、積極的にゴルドバの経済支援を開始した。またCIAが派遣した工作員は反米派をまたたく間に鎮圧し油田の調査を開始した。




20xx年2月某日。世界救援機関(WRO)は、人道支援を行うため現地に赴いている。

土を押し固めただけの滑走路に赤地球儀を尾翼に大きく書いた真っ白いC2輸送機が駐機している。WROのC2医療航空機如月機はサウジアラビアとゴルドバの国境にいる。

世界救援機関は、国連の救援を専門とする機関だ。日本支部は国内で病院の運営、医者の育成も行っている。さらに国内で相次ぐ自然災害や地方の病院不足に対処すべく移動式の大型病院の保有を検討した結果、大量の物資を運ぶことができなおかつ迅速に行動ができることから自衛隊の輸送機を改造した医療航空機を3機運用している。

誰もいないコックピットに置かれたラジオからは陽気な音楽が流れてきている。そこを抜けると診察室となっている。その先を更に進むと薬剤室、貨物室兼待合室と続き外に出れるようになっている。そこには赤い国連マークのテントが並び世界救援機関の職員が慌ただしく動いている。一人の白衣を着た日本人が機内の廊下を速歩きで歩いていく。

“通信室”

日本人は、そう書かれた部屋の前で止まった。扉を開けるとヘッドフォンをつけた男が何やら複雑そうな機械の前に座っている。

「如月機長、フライトお疲れ様です。」

日本人に気づくと如月機長は、慌てて手で“だめ”の素振りを見せる。

(しまった。また音楽でも聞いているのかと踏んだのに)

しばらくヘッドフォンに耳を傾けているとなにかを紙にさらさらと書き、パチンと機械のスイッチを切った。ヘッドフォンを置くと白衣を着た日本人の方を向いた。

「機長、ご迷惑でしたか?」

「いや、暇をしてたから構わんよ。可児さんは、大丈夫なのかね」

(今回に限りひましてないだろ)

「私は大丈夫です。予定どおりこちらでトラック隊に3分の2を移します。その後、明日明朝に残りを落下傘でポイントに投下する予定です。」

正直、医者である可児が説明する理由はない。
(どうせ知っているだろう)

「そうか、これで市民に物資を届けられるということか。」

彼はこういう話によく食いつく。

「ええ、うまく行けば二日後に一斉に配布を開始します。 ところでなぜ赤国連マークを変えたのですか?」

可児は、うまいこと話をずらす。尾翼には赤い地球儀マークの真ん中に白うさぎのマークが刻まれていた。


「あれだよ、中東の国の中には国連をいいと思っている国ばかりじゃない。それならば、第二のマークにしたほうがいいと思っただけだよ。」

WROが定める正式なマークは、青地に赤の国連マークであるが、それ以外にも赤地球儀にワンポイントを入れたマークも容認されている。

「なるほど、そうだったんですね。ところで、彼らとのコミュニケーションも大切ですからぜひ外に来てください。」

「すまんすまん。行くよ。」

WROの任務は、物資を届けるだけではない。そこに住む市民と会話をし、交流することもまた重要な任務である。

「機長、先程は何をなされていたのですか?」

可児は、歩きながら聞いた。

「ジブチの基地から情報を受けとっていただけだよ。トルコ政府と折り合いがついたみたいだからね。」

「そうすると、空輸後トルコ入りですか。」

(有給休暇だな)

おえらいさん方があれこれ見ている間、可児がやることは特にない。おまけに給料もでる。

(イスタンブールの観光でもしよう)

「ああ、川崎航空機の設計家がトルコの無人偵察機を視察するそうだよ。その代わりに空飛ぶ病院を見せるそうだよ。」

「あんなものを視察するんですか…アメリカのグローバルなんちゃらだけじゃ足らないんですか?」

基地で毎日見かければ飛行機の名前くらいは覚える。

「グローバルホークは、ブラックボックス化されているところがあるから国産化しにくいみたいだよ。それと比べるとバイラクタルは、汎用性が高いし、トルコは数少ない親日国だからだろうね。」

(はてさてもう少しこちらの支援にも費やしてほしいものである)

可児はそう話そうとしたが機長はすでに機体の周りで子供たちと戯れていた。

(たとえWROだろうとしても結局、我々は日本の戦略のコマの一つでしかないのだろうか?)

そう考えている可児を砂漠の赤い大きな夕日がジリジリと照らした。出発は明日の朝だ。



 
 気温は昼間と打って変わって天の川が照らす砂漠は肌寒いほどに冷え込んだ。夜間監視員がつけたのであろう石油ストーブの光が砂漠に光のシャンデリアを生み出していた。そこに可児の姿があった。

「可児さん、こんなところにいたのかい?」

可児が振り返った先には、魔法瓶を持った如月機長がいた。

(メカマニアがどうして出てきた?)

「如月機長、なぜこちらにいらしたのですか?」

可児がそう思うのも無理はない。本人は否定しているが、はたから見れば機械オタクである。 大体、今回だって、たんまり真空管アンプを作っている。

「なに、星を見に来ただけさ。ここは、日本と意外と似ているんだよ。」

(まぁ言われればそうかもしれない)

「そうなんですね。ゴルドバって砂漠のイメージがありますが、こうやって意外と寒くなるんですね。」

「中東の砂漠は、一日の寒暖差が大きいからね。今夜は晴れてるから一段と冷えるよ。」

機長は、可児の横に座ると魔法瓶の蓋を開けた。ほんわりと出てきた湯気と一緒に甘酸っぱい紅茶の匂いが漂ってきた。

(コヤツ意外と、抜け目がない)

「魔法のランプと違ってなんでも叶えられるわけじゃないけど、何度でも保温してくれるスグレモノだよ。一杯いるかね」

「一杯頂きたいところですが、あいにくコップを持ち合わせてないんですよ。」

「それなら問題ない。紙コップなら手持ちがあるから。」

彼は懐から紙コップを2つ出し、それぞれに紅茶を注いだ。そしてその一方を可児に渡した。

「可児さん、ゴルドバの人たちは僕らのことを、なんて呼んでいると思う?」

「WROと呼んでるんではないですか?」

ストーブの青白い光が静かに揺れている。

「それも間違いじゃないけど、彼らは僕らを“白いくじら”とよんでいるんだよ。」

「白いくじらですか、、私は、白鯨の凶暴なモビィ・ディックを思い浮かべてしまうのですが…」

「僕もはじめはそう思ったよ。あんな歯だけでできた野蛮な生き物とおなじなまえとはね。だけどくじらは、豊漁だったりいいことを連れてくる神様的な一面もあるんだよ。」

「なるほど、、そういう面もあるのですね。それにしても歯だけでできた野蛮な生き物ですか、海底二万里を書いたフランス人がそうつづっていましたよね。」

「よくわかったね。だから僕らは彼らにいいことをもたらす白いくじらになれるようにしなきゃならない、、、さて機体に戻ろう。」

そう言うと機長は、紅茶を飲んで立ち上がった。可児も慌てて飲み干した。



 砂漠の先から朝日が見え始める。分解されたテントがC2に手早く積み込まれる。コックピットでは、送られてきた大量の飛行データに如月機長と青木副機長そして伊藤航空機関士が目をとうしている。後部のハッチが閉じられるといよいよ離陸である。ジープを改造した管制車両からエンジンスタートの許可を得ると2機のエンジンが動き出す。

「機長です。只今より当機は離陸します。路面が荒れていることが予想されます。職員の皆さんは座席にしっかりと座ってください。」

可児は、深く座席に腰掛けシートベルトを絞めた。

❲こちら管制車両、滑走路に障害物なし。WRO医療航空機の離陸を許可する。❳

滑走路から少し離れたところからトラックドライバーや地元の人達がくじらに手を降っている。

❲WRO医療航空機了解した。 ありがとう❳

エンジンがうなりを上げる。くじらはぐんぐんスピードを上げるとまたたく間に空へと舞い上がった。

❲管制車輌より白いくじら。アリガトウ❳

滑走路には、飛行機の代わりに砂煙がほのかに漂っていた。



高度が安定した機内では再び機長がマイクを持った。

「機長の如月です。当機は、現在ゴルドバの領空を飛行中です。サファビーとの国境付近に物資の空中投下後、進路を北にトルコへと向かいます。」

ザーっと無線の音がコックピットに広がる。

Hello,this is the US military.  We are controlling the airspace in the airspace.  We permit the flight of WRO medical aircraft in accordance with the flight plan.(こんにちは!こちらはアメリカ軍です。 当該空域の航空管制を行っています。 飛行計画書に則りWRO医療航空機の飛行を許可します。)

現在紛争が続くゴルドバとサファビー共和国のゴルドバ側の国境付近を米軍が、治安維持を名目に実効支配している。

❲現在、戦闘は起きていませんが、地対空ミサイルに注意してください。❳

C2は、高度を下げ雲の下へと降りていく。

(投下が近いか)

可児は、窓の外を見つめた。

コックピットでは二人のパイロットは身を乗り出し、地表を見渡し始めた。伊藤航空機関士が、操縦の補助に入る。

「あ、、あった。あった。機長見えますか?」

副機長がゆびをさす。

眼下に、大きく地球儀が描かれている。

「機長。地上の職員とコンタクトを開始します。」 青木が、スイッチを入れる。

We looked at it.  Can you confirm?(我々は、そちらを目視した。確認できますか?)
hello!Yeah, I can see it(こんにちは!ええ見えますよ)

機内にアナウンスが入る。

「後部ハッチを開きます。貨物室にいる職員は退避してください。」

与圧を下げることを知らせるベルのけたたましい音が機内に響き渡る。

機体は大きく旋回し、地球のマークを直線状に捉えた。

「レディー、、、now!」

開かれたハッチから物資が投下されてゆく。c2は地球儀のマークをいきよいよく通過するとまた大きく旋回し、再びマークへと向かった。眼下には、パラシュートが、花のように綺麗に咲きながら降下していっていた。
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