異世界転移したら傭兵団を率いることになりました

響 恭也

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乱戦

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 進軍を再開する。茂みなどを使った小規模な襲撃で嫌がらせを受け、こちらの神経を削る作戦に出ていることは明白だった。
 物陰から射こまれる矢で兵が負傷する。これでいっそ死んでくれていればいいのだが、ご丁寧に足を狙って負傷させるので、負傷兵の世話でさらに戦力が削られる。
 また、深追いした騎士の首が投げ込まれるなど、こちらの神経を逆なでする行動を仕掛けられていた。

「軍師殿。出撃の許可を!」
「そうだ! 奴らは腰抜けだ!」
「正面切って攻撃してこないようなクズどもをせん滅してくれる」

「だめ!」
 俺の返答に出撃許可を求めてきたどっかの男爵だの騎士だのがぽかんとした表情を見せた。「ハニワみたいだな」とつぶやくと、隣にいたフレデリカ皇女が必死で笑いをこらえて肩を震わせる。

「貴様! 我らは小遣いをもらいに来た子供か!」
「もっとたちが悪い。相手は我々を挑発している。その目的は何だ?」
「真っ向から勝負して勝てないから小細工を企んでいるんだろうが?」
「そう、その通り。その小細工次第では負ける事もありうると言っている」
「戦う前から負けるなどと、この臆病者が!」
「敵の罠にはまって死ぬ阿呆よりましだ!」
「貴様、皇女殿下の威を借りるしか能がない癖に」
「ふん、子供の砂山ほどの根拠もないプライドを振りかざす無能が、死ぬなら一人で死ね! こちらを巻き込むな!」
 頭から湯気でも吹きそうな勢いで、怒り心頭といった風情だ。
「ならば、出撃は許可できないということだな?」
「最初からそう言っているだろうがこの間抜けが」
「もういい! 我らは敵の背後に食らいつく!」
「皇女殿下の命は待機だが?」
「貴様がそれを偽っていない証は?」
「では、俺が皇女の命を偽っている証拠を出してもらおう。疑惑はかけた側が証拠を提出するものだと思うがね?」
「ぬううう、ああ言えばこう言う!」
「とにかく待機だ! 抜け駆けは重罪と心得てもらいたい」
 彼らは外套を翻し、皇女殿下の天幕から出て行った。

「……わざとやりました?」
「どうせ下手に出ても同じです。なら今夜というタイミングで抜け駆けをさせるべきかなと」
「だからあえて「抜け駆け」と口にしたんですね」
「まあ、そういうことです。せいぜいうまく踊ってもらいましょう」

 俺は直属の部隊に指示を下した。
「前衛は切り離す。奴らが包囲されているところの背後を衝くぞ」
「……君もなかなかにあくどいね。あーあー、徴兵された農民兵もいるのに」
「全滅よりましだ」
「ふふふ、いい図太さだ。いいね。君に任せて正解だったよ」
「そいつは、どうもありがとう」
 礼のセリフが棒読み気味だったのは仕方ないと思う。

「進め! 一番槍は儂がもらう!」
 予想通り一隊が突出した。それにつられる形で、我先にと前衛部隊が速度を速める。斥候の報告してきた会敵予定地点はもう少し先だった。
 狭い道が続く。その中でこちらの前衛部隊は横に押し合いへし合いで密集しつつ何とか進んでいた。
 そして少し開けた場所で、100名ほどの騎兵を率いて、ガイウスがニヤリとした笑みを浮かべて立っていたのだ。

「おお、これは皇女とは名ばかりの小娘に尻尾を振る忠犬諸君。よく来た」
 犬呼ばわりに、すぐに頭に血が上る阿呆ども。怒りに任せて一人の騎士が、部下も引き連れず突貫し……複数の矢に射抜かれて倒れた。
「卑怯者! 騎士の名誉をなんとこころえ……がはっ!」
 罵ろうとしていた別の騎士の喉首にクロスボウから放たれた矢が突き立った。

「ん? 最近は犬っころにも誇りだとか何だかがあるのか。世の中変わったもんだ」
 ガイウスがすごくいい笑みを浮かべて手をひらひらと振る。
 すると、騎兵たちは一斉に持っていたクロスボウで射撃をしてきた。
「ぐあ!」
「ぐふっ!」
「ウボァー」
 一斉に射撃を受けた前衛の兵たちが断末魔を上げ倒れていく。一〇〇ほどの敵兵による射撃だが、密集していたためそれなりの命中精度となってしまった。

「おっと、怒らせてしまったな。者ども、逃げろ!」
 人を食ったような口調で、逃げろと命じられた敵兵は馬首を返して逃げ始める。前衛は混乱しつつも、一部の兵が敵兵を追撃し始めた。
 伏兵に側面を叩かれ、追撃は失敗に終わる。貴族たちにとっては敗北感としてやられた屈辱に眠れない夜だったのか、再び翌朝には元気いっぱいで追撃を開始した……はずが敵の足取りが全くつかめず、野営した場所がすでに罠だった。

 ある程度開けた場所だが、周囲は茂みなどが多く、灌木も多い。そしてお約束のように……火が放たれた。

 前衛部隊は大混乱に陥り、多少距離を取っていた本陣にも敵の襲撃がやってきた。
 後衛にもご丁寧に火矢が放たれ、混乱している。そして前衛にはガイウス率いる精鋭が突入してきた。
「蹂躙せよ!」

 前衛部隊はすでに軍としての体をなさず、逃げまどっていた。大口をたたいていた連中は悲鳴を上げて逃げまどい、馬蹄にかけられている。

「アル! 離脱だ!」
「ケネス! 部隊をまとめてくれ! シーマ!」
「ハイにゃ!」
「ガイウスを狙撃してくれ!」
「ニャ!? たぶん無駄ニャよ?」
「構わん。一瞬でも動きが止まればいい!」
「らじゃったニャ!」
 シーマは近くの木によじ登ると周囲を見渡す。
 猫族の彼女は夜目が効く。そして、迷いのない手つきで弓を引き絞って……放った。

 カーンと矢が鎧などにはじかれた音がする。
「将軍を守れ!」
 ガイウス周辺に騎兵がまとまった。

「いまだ! 突破せよ!」
 足を止めた騎兵などただの木偶だ。俺は先陣を切って茂みに潜む敵兵を斬り倒す。

「主殿。震天雷じゃ!」
「ガイウスに手の内を見せられない」
「しかし!」
「じゃあこれだ! ……輝きよ!」
 腰に付けた袋から金属粉をつかんでばらまく。
 そこに弱い電撃の魔法を叩きつけると、金属粉はまばゆい光を放って燃焼した。

「いまだ、走れ!」

 こうして俺たちはまんまと離脱に成功した。ほぼすべての味方を置き去りにして。
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