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死中に活あり……か?
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スラヴァ砦はそのままレーモン伯爵に任せた。彼は留守居を拒んだが、フレデリカ皇女が見事に説得してくれた。
「後顧の憂いがあっては兵は全力を尽くせません。貴方ほどの方が本拠を守っていてくれる。そう思えば兵たちも心強いでしょう。無論、本拠を守り抜くことは大きな功績と考えております。それに、若い皆さんに手柄を立てる機会を与えてあげてください」
「皇女殿下も人が悪い。吾輩の反論の目をすべてつぶしてくれましたな?」
「いえいえ、そんなことは。けれど、留守番というのもなかなか難しいのです。信頼のおける方にしか任せられませんからね」
「合い分かり申した。吾輩が後顧の憂いをすべて断ち切って見せましょうぞ! 無論後詰も含めて、ですがな」
「そこの判断はお任せします。歴戦のレーモン伯爵ならば安心してお任せできます」
「御意!」
この頑固おやじに自分の意見を通す。なかなかできることではない。見事すぎて開いた口がふさがらなかった。
「では出陣する。帝国の興廃、この一戦にありだ。皆の奮戦を期待する」
「功績を立てた方は褒美に期待していいですよ。ブラウンシュヴァイク公以外の大貴族が軒並み没落してますからね。新たな藩屏を大募集です!」
おどけた口調で言うことじゃないよなあ。
ま、兵隊は盛り上がっているからいいとしようか。まずは勝ってから考えよう。
斥候を出しつつ進軍する。軍勢は色々集まって15000だ。輜重兵3000と合わせてもかなりの大軍である。
王都付近でにらみ合っていた両皇子の兵が合わせて3万。どっちかの陣営となら互角に渡り合えるわけだ。
ちなみに、先日のぼろ負けした時の数は3万。半減したわけだが、有象無象がいなくなった分軍としての質は上がっている。
正直、戦闘力としても高いのではないかと思う。
奇襲を避けるため、軍を大まかに分けての進軍だ。本隊はフレデリカ皇女率いるこの部隊。俺の傭兵団はずっと近衛扱いである。同時にスラヴァの獣人兵もこの部隊だ。合わせて3000。
側衛として、スラヴァ近隣領主の連合軍。こちらも3000。ルック男爵ハンスが率いる。レーモン伯爵寄子軍ともいう。
そして一番大規模なのがブラウンシュヴァイク軍。本隊9000を二分し公自身が直卒の5000と、クラウス将軍率いる4000。
輜重もブラウンシュヴァイク公が準備している。
要するに、俺たちはブラウンシュヴァイク公におんぶにだっこということだ。
「帝国宰相の地位でも用意するべきですかねえ?」
「仕事を増やすなって言いそうですがね」
「なんにせよ、勝った後はその後始末が大量に発生する。宰相じゃなくても大貴族である彼には……」
「ええ、本当にそうですね。ましてや新たな皇帝となれば……」
意味ありげな目で俺を見てくるフレデリカ皇女。
「ふふ、もう皇女なんてつけなくてもいいのに」
「人の心を読まないでいただきたい」
「いいえ、アルはわかりやすいからですよ」
そんなにわかりやすいか? 戦いの場でこちらの意図を読まれることは死を意味する。とりあえず、表情がどうなっているのかわからないのでペタペタと顔を触っていると、フレデリカが吹き出した。
散発的な襲撃はあった。特に輜重は大量の物資を運搬しているので目立つからだろう。毎日のように小競り合いが発生している。
「らちがあかん。ブラウンシュヴァイク公、敵を一網打尽にできないか?」
「……殿下を囮に使えと言うのかね?」
「それだ!」
「殿下を危険にさらすんだよ?」
「俺が守るんだぞ?」
「ああ、もう勝手にしてください……」
策としてはおおざっぱだが、敵の密偵をわざと通過させ、殿下の居場所を筒抜けにする。
そうして、空っぽの陣営を作り、その背後に兵を伏せる。
あとは敵をせん滅するだけの簡単なお仕事……だった。
「うん、これでだいぶ減ったね」
「ああ、こうまで簡単にはまるとは」
「功を焦ってたからねえ。ほら、先日の負け戦。あれでかなり投降した連中がいたから」
「なるほど、ね」
時間を稼げば稼ぐほどに相手は有利になる。だからこそ敵はこっちを少しでも足止めしようとしていたわけだ。
大規模な決戦を行えば、一撃で蹴散らされる。となればゲリラ戦術が一番遅延先頭に向いている。
やってることはだまし討ちだ。そこには御大層な騎士の誇り、とか言ったものはない。
それは同時に手柄にもならない。
いまだに一騎打ちで敵を仕留めることが騎士の誉れとか言っているのだ。ある意味扱いやすい。
ただ、そういった連中を除外して、俺と同等の戦術思考を持つガイウスが有利な地形と条件をもって俺を待ち受ける。
……逃げられないよなあ。なぜかはわからんが、あいつの狙いは俺だ。それも自らの手で仕留めないといけないくらいの執着だ。
幸福を許さないとしたのも、俺と最もかかわりの深い人間を名指ししたのもそういうことだろう。
そうすれば俺が逃げないと知っているから。
追撃に向かう兵を見送りながら彼らの武運を祈る。
ガイウスは実際俺より上手だ。剣を取っても兵を率いても策を巡らせても。
その時の実力が勝敗を分けるものではないと理解はしていても、震える。
夜が明けて出立の準備を整える。斥候からは絶望的な報告が上がっていた。
敵本陣は帝都にあり。出城が築かれていて、そこにはヴァレンシュタイン候の旌旗が掲げられている。さらに野戦兵力が1万。
死地がそこに在った。
「後顧の憂いがあっては兵は全力を尽くせません。貴方ほどの方が本拠を守っていてくれる。そう思えば兵たちも心強いでしょう。無論、本拠を守り抜くことは大きな功績と考えております。それに、若い皆さんに手柄を立てる機会を与えてあげてください」
「皇女殿下も人が悪い。吾輩の反論の目をすべてつぶしてくれましたな?」
「いえいえ、そんなことは。けれど、留守番というのもなかなか難しいのです。信頼のおける方にしか任せられませんからね」
「合い分かり申した。吾輩が後顧の憂いをすべて断ち切って見せましょうぞ! 無論後詰も含めて、ですがな」
「そこの判断はお任せします。歴戦のレーモン伯爵ならば安心してお任せできます」
「御意!」
この頑固おやじに自分の意見を通す。なかなかできることではない。見事すぎて開いた口がふさがらなかった。
「では出陣する。帝国の興廃、この一戦にありだ。皆の奮戦を期待する」
「功績を立てた方は褒美に期待していいですよ。ブラウンシュヴァイク公以外の大貴族が軒並み没落してますからね。新たな藩屏を大募集です!」
おどけた口調で言うことじゃないよなあ。
ま、兵隊は盛り上がっているからいいとしようか。まずは勝ってから考えよう。
斥候を出しつつ進軍する。軍勢は色々集まって15000だ。輜重兵3000と合わせてもかなりの大軍である。
王都付近でにらみ合っていた両皇子の兵が合わせて3万。どっちかの陣営となら互角に渡り合えるわけだ。
ちなみに、先日のぼろ負けした時の数は3万。半減したわけだが、有象無象がいなくなった分軍としての質は上がっている。
正直、戦闘力としても高いのではないかと思う。
奇襲を避けるため、軍を大まかに分けての進軍だ。本隊はフレデリカ皇女率いるこの部隊。俺の傭兵団はずっと近衛扱いである。同時にスラヴァの獣人兵もこの部隊だ。合わせて3000。
側衛として、スラヴァ近隣領主の連合軍。こちらも3000。ルック男爵ハンスが率いる。レーモン伯爵寄子軍ともいう。
そして一番大規模なのがブラウンシュヴァイク軍。本隊9000を二分し公自身が直卒の5000と、クラウス将軍率いる4000。
輜重もブラウンシュヴァイク公が準備している。
要するに、俺たちはブラウンシュヴァイク公におんぶにだっこということだ。
「帝国宰相の地位でも用意するべきですかねえ?」
「仕事を増やすなって言いそうですがね」
「なんにせよ、勝った後はその後始末が大量に発生する。宰相じゃなくても大貴族である彼には……」
「ええ、本当にそうですね。ましてや新たな皇帝となれば……」
意味ありげな目で俺を見てくるフレデリカ皇女。
「ふふ、もう皇女なんてつけなくてもいいのに」
「人の心を読まないでいただきたい」
「いいえ、アルはわかりやすいからですよ」
そんなにわかりやすいか? 戦いの場でこちらの意図を読まれることは死を意味する。とりあえず、表情がどうなっているのかわからないのでペタペタと顔を触っていると、フレデリカが吹き出した。
散発的な襲撃はあった。特に輜重は大量の物資を運搬しているので目立つからだろう。毎日のように小競り合いが発生している。
「らちがあかん。ブラウンシュヴァイク公、敵を一網打尽にできないか?」
「……殿下を囮に使えと言うのかね?」
「それだ!」
「殿下を危険にさらすんだよ?」
「俺が守るんだぞ?」
「ああ、もう勝手にしてください……」
策としてはおおざっぱだが、敵の密偵をわざと通過させ、殿下の居場所を筒抜けにする。
そうして、空っぽの陣営を作り、その背後に兵を伏せる。
あとは敵をせん滅するだけの簡単なお仕事……だった。
「うん、これでだいぶ減ったね」
「ああ、こうまで簡単にはまるとは」
「功を焦ってたからねえ。ほら、先日の負け戦。あれでかなり投降した連中がいたから」
「なるほど、ね」
時間を稼げば稼ぐほどに相手は有利になる。だからこそ敵はこっちを少しでも足止めしようとしていたわけだ。
大規模な決戦を行えば、一撃で蹴散らされる。となればゲリラ戦術が一番遅延先頭に向いている。
やってることはだまし討ちだ。そこには御大層な騎士の誇り、とか言ったものはない。
それは同時に手柄にもならない。
いまだに一騎打ちで敵を仕留めることが騎士の誉れとか言っているのだ。ある意味扱いやすい。
ただ、そういった連中を除外して、俺と同等の戦術思考を持つガイウスが有利な地形と条件をもって俺を待ち受ける。
……逃げられないよなあ。なぜかはわからんが、あいつの狙いは俺だ。それも自らの手で仕留めないといけないくらいの執着だ。
幸福を許さないとしたのも、俺と最もかかわりの深い人間を名指ししたのもそういうことだろう。
そうすれば俺が逃げないと知っているから。
追撃に向かう兵を見送りながら彼らの武運を祈る。
ガイウスは実際俺より上手だ。剣を取っても兵を率いても策を巡らせても。
その時の実力が勝敗を分けるものではないと理解はしていても、震える。
夜が明けて出立の準備を整える。斥候からは絶望的な報告が上がっていた。
敵本陣は帝都にあり。出城が築かれていて、そこにはヴァレンシュタイン候の旌旗が掲げられている。さらに野戦兵力が1万。
死地がそこに在った。
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