1 / 1
① 胡蝶にあらずな幻影
しおりを挟む神龍と、魔神の加護の元で竜王国と、魔帝国の長い争いが続いていた。
俺は、ゾニア。
ゾニアガルズ・ドラゴニア。
竜王国の第二王子にして、竜王の称号を授かる、天才剣士である。
兄にして、第一王子の、"戦神"ファブル、正しくはファブルズ・ドラゴニアには、今はまだ及ばないが、そのうち追い抜いてみせる。奴の持つ、"神龍之加護"さえ俺に移れば。
加護は真の勇気を持つ者に宿るとされており、戦場で帝国の魔族を何匹も討っている俺に移るのも時間の問題だろう。
ましてや、あの"出涸らし"ライミスに移るはずなんて有り得ない。
目障りに無駄に努力をして、
親父と兄貴に目をかけられているだけの、妾の子供であるライミス=ドラゴニアなんかには。
そう思っていたのに…
「ゾニア兄さん、いや凶星に心を売った魔帝よ、覚悟はできているな」
初めてだった。
あの出涸らしが、こんなに強い言葉を使うのも、
そして、俺が誰かを恐れるということも。
あの戦神との戦いの最中ですら、ここまで臆することなどなかったというのに。
「ライミス、最後だ。貴様、この戦いがファブルの仇などとつまらないことを言うなよ?」
ーーファブル。
それは、俺が越えられなかった壁。
そして、嫉妬に狂った俺はついに、魔神に魂を売り、力を得た。
英雄を殺し、願いは叶った。
思えば、罪の多い人生だった。
傲慢な立ち居振る舞い。
そして、嫉妬に燃えて闇に墜ちるような浅はかさ。
こうなるのも、必然か。
「ああ、もちろん。いつだって悪いのはこの世界だよ…」
そこには神竜の勇者と、その決戦に敗北した逆竜の魔帝がいた。
「罵倒しても文句は出ないと言うのに、甘いヤツだ、ライミス。」
そして、神々しく輝くつるぎは、雷のように俺に振り下ろされた。
「ーーーーまたね、ゾニア兄さん」
最期にそんな言葉が、聞こえた気がした。
そこで、傲慢でエゴの塊のような性格だけではなく、立派な兄をも闇落ちすることで手にかけて、あげく、勇者となった弟に倒され幕を引いた第二王子。
ーーーーーという夢を見た。
なんて、長い夢だろうか。
もしかして、起床予定時刻を超過しているのではと思い、時計をちらと見るがまだ数分前だ。
寝汗で気持ち悪いベットを後に、鏡に向かう。
間違いない、俺は俺だ。
俺の名前は、ゾニアではないし、ましてや王子でもない。
天官 菓芯。それが俺の名前、両親から貰ったものである。
そもそも、竜王国とか魔帝国ではなくここは日本だ。人権が保証され、治安もよく、戦争を放棄した平和な国だ。
つまり異様ににリアルな夢であったと、そう結論付けて良いだろうし、ライトノベルの読みすぎかもしれないから少し控えてみるのもいいだろう。
だが、それなのにまだ、こころになにか引っかかるような感じがしていた。
すると、部屋の隅に気配を感じた。
「おはよう、カシン。相変わらず変な名前だよね。」
そちらの方を見ると、メイド服の美少女がこちらへ一礼し、挨拶に余計な一言を加えた。
……え?
「メイド服の美少女がこちらへ一礼し、挨拶に余計な一言を加えた!?!?!?!?」
「なんとまあ、それはびっくりだよね。なんで解説口調なのかは置いといて、声が大きいよね。」
眠そうな瞳は、少し見開かれて、青みがかった髪は無造作なまま。気の抜けた表情はどこかあどけない。
「って、クラスメイトのヒスイさんだよね???」
「そうだよね。てか、今更だよね。まあ、ほとんど初絡みだししかないんだけどね。」
緋彗、緋彗 氷。
同じクラスだが、話したことは無いし、いわゆるカーストが違うと言うやつで、僕が教室の端で本好きで集まってるのに対して、ヒスイさんは、教室の中央にいつも1人でいる。
顔がいいと言うのはそれだけで、確かな優位性を持っている。
特に誰とも話さず、バイトで忙しいらしく誰とも放課後の予定を立てたりしない、それなのに彼女はみんなから、排斥されることも虐げられることも無く、むしろ尊敬されている。
もちろんそれは、美少女と言うだけではない。
完璧とまでは行かずとも、器用貧乏よりはなんでもこなすオールラウンダーであるからだ。
それは、勉強、運動、オシャレなど多岐にわたる。
しかし、彼女の私生活はずっと謎に包まれてきた。
一部男子は、その秘密が気になって夜も眠れないとか。
その秘密が、まさかこんな…
「カシン、君は勘違いをしているよね。」
「え、なにが??」
「わたしは毎朝メイド服を着てただのクラスメイトの家に突撃している訳では無いんだよね。」
つまりそれは、俺のことが好きということになるのだろうか。
「まだ、勘違いしているよね。」
「じゃあなんで、今日の朝に限って、メイド服を着て、俺の家にいるということになるんだ?」
「そんなの分からない」
…わからない!?
何故か、少しムスッとしたヒスイさん。
「ただ、おそらくは昨日の夢が原因だと思うんだよね。」
……………夢、か。
これは偶然、なわけないよな。
「その夢っていうのはもしかして竜王国に関係したりするか?」
「こんな時に、カシンの厨二病に付き合う気は無いんだよね。」
そう冷たく言って、ヒスイさんの表情がくもる。
冷たい表情が似合うと言ったら、変かもしれないが美麗さが際立つのだった。
…というか、誤解だったのか?
「なんてね。やっぱ、カシンも関係してたのか。」
ヒスイさんはそう言って、悪戯な笑みを浮かべる。
「その顔、好きだな。」
「………」
「………」
あれ、今俺なんて言った?
というより、さっきからだ。なぜ、この状況で俺はこんなに落ち着いていられるんだ。
いつもは、クラスで女子と話すにも緊張するのに。
ましてや、今は2人きりだし、俺の部屋だ。
そして、今のチャラ男みたいな発言。
いやチャラいわけじゃないんだが。つまり、なんかいつもより気が大きくなっているような。
心に引っかかていたものの正体。
前世とでも言えそうな、鮮明な記憶による影響。
前世、か。
そういえば、あいつは王子だったよな…
そして、ヒスイさんの服装、これはメイド服だが、この意味するところは……
「ヒスイさん、その夢っていうのは…」
そこで、ヒスイさんの頬が赤くなっているのに気づいた。
「下心出しすぎ…だよね…」
口元を手で隠し、目をそらす。
その向きのまま、続ける。
「えっと、確か……クズ王子の専任メイド、フリース・ルコアだった。シンデレラストーリーと見せかけてからの、クズ王子の落差が凄かったんだよね。」
フリース・ルコア。
もちろん、知っている。
クズ王子というのは無論俺のことを指しているだろう。それだけの、嫌がらせをゾニアはやってきた。
しかし、弁明する訳では無いが、それには理由がある。
「カシンは、どんな夢を?」
「………」
「まさか…だよね?」
ーーーそれは、ゾニアはメイドであるフリースのことが好きだったからである。
「俺は…俺はそのクズ王子だ。だが、あれには理由があったんだ。それはフリースを好きだったからなんだ。もちろん、フリースの気を引くためという理由もあったが、第一は平民の出身であるフリースを政治絡みのいざこざに巻き込みたくなかったからなんだ。身分の壁などなければ、あんなことはしていなかった。」
「カシン…?」
「そして、大事なことを言わないといけない。この世界には、少なくともこの国には、身分の違いなどは無い。だから、ヒスイ 、君に、なんのしがらみもなく思いを伝えることができる。先に言っておくが、これは天官 菓芯が、緋彗 氷へ向けた思いなんだ。」
「……ん」
「ヒスイ、好きだ!結婚を前提に付き合ってくれ!」
………………ヒスイ、好きだ!結婚を前提に付き合ってくれ!?!?!?
まただ、あの前世の暴走。
いや、この前世には自我と呼ぶべきものがある。
つまり魂のような何か、
少し格好つけて呼ばせてもらうとするなら『幻影』である。
そして、俺が幻影の言葉を訂正しようとした時、ヒスイさんがまたあの、悪戯な笑みを浮かべる。
「んふふ、言質とったよね♪」
「お前もか、フリース!!!!」
ーーーその日は2人揃って遅刻したのだった。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります
内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品]
冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた!
物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。
職人ギルドから追放された美少女ソフィア。
逃亡中の魔法使いノエル。
騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。
彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。
カクヨムにて完結済み。
( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
宮廷から追放された聖女の回復魔法は最強でした。後から戻って来いと言われても今更遅いです
ダイナイ
ファンタジー
「お前が聖女だな、お前はいらないからクビだ」
宮廷に派遣されていた聖女メアリーは、お金の無駄だお前の代わりはいくらでもいるから、と宮廷を追放されてしまった。
聖国から王国に派遣されていた聖女は、この先どうしようか迷ってしまう。とりあえず、冒険者が集まる都市に行って仕事をしようと考えた。
しかし聖女は自分の回復魔法が異常であることを知らなかった。
冒険者都市に行った聖女は、自分の回復魔法が周囲に知られて大変なことになってしまう。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる