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赤川頼朝救出計画
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赤川頼朝は、何者かに跡をつけられていた。
いつからなのかはわからない。ただ、仕事のために寄った店を出てから、ずっと同じ人物が彼女の背後にいる。
──まずいな、これは。
赤川は、心の中で舌打ちした。
──仲間の一人ぐらい、連れてくればよかった。
彼女は職業柄、敵が多い。おまけに、過去に起こした事件のせいで、何百もの人間から恨まれている。
普段ならば付き合いの長い部下や、やけにかまってくる幼馴染とともに外出していたのだが、たまには一人で……と置いてきたのが間違いだったようだ。
──まあ、護身用の武器は携帯しているから、いいんだけどね。
赤川は、細いワイヤーが仕込まれたグローブをはめ直す。
そして、わざと人気のない路地裏へと入った。
「君、私に何の用かな?」
未だについてきていた人物に向かって、赤川はそう尋ねた。その人物は、目深に帽子を被った男性だった。
その男性は、赤川の問いに答えようとしない。今度は強い口調で再び尋ねる。
「私に、何の用だ」
「──やはり、私のことは覚えていないのか。赤川幹部」
「──生憎、そちらの世界からは足を洗っているし、組織も解体済みだ。せめて『元』をつけて」
脳裏に、思い出したくもない自身の父親の顔が浮かぶ。赤川はそれを振り払うかのように、右腕を大きく振った。
空気を裂くような音とともに、彼女の指先からワイヤーが放たれて、男性の背後に見事な「蜘蛛の巣」を作り上げる。
用件によっては直ぐに縛り上げる──それは、彼女なりの警告であったのだが、男性はひるんだ様子を見せない。
「──ああ、あなたはまだその武器を使っている。数分にして一つの組織を崩壊させたあの武器だ。……ふふ、『毒蜘蛛』はどこへ行こうと『毒蜘蛛』か」
「それ、挑発のつもりかい?」
「失礼失礼。そのつもりは全くない。私はただ、あなたのその力と残虐性を見込んで、お願いに来たまでだ。私たちは、あなたの力を借りたい。……ついてきてくれないだろうか?」
「──私が、簡単に君についていくとでも?」
怪しさと暴力性のあるその勧誘に、赤川が乗るわけがない。
それならば……と男性は胸ポケットから一枚の写真を取り出し、赤川に見せつける。
「これなら、どうだ? 彼のことは流石にあなたもわかるはずだ。……あなたが素直に私たちの要求を飲まないと──彼を殺す」
赤川の、目の色が変わった。
ワイヤーを元に戻すと、グローブを脱いで地面に捨てる。
「──分かった──言うことを……きく……だから、彼には何もしないで──」
赤川の言葉に、男性は満足げに笑った。
これが、この騒動の始まり。
誰にも気付かれることのなく、ひっそりと物語は幕を開けた。
いつからなのかはわからない。ただ、仕事のために寄った店を出てから、ずっと同じ人物が彼女の背後にいる。
──まずいな、これは。
赤川は、心の中で舌打ちした。
──仲間の一人ぐらい、連れてくればよかった。
彼女は職業柄、敵が多い。おまけに、過去に起こした事件のせいで、何百もの人間から恨まれている。
普段ならば付き合いの長い部下や、やけにかまってくる幼馴染とともに外出していたのだが、たまには一人で……と置いてきたのが間違いだったようだ。
──まあ、護身用の武器は携帯しているから、いいんだけどね。
赤川は、細いワイヤーが仕込まれたグローブをはめ直す。
そして、わざと人気のない路地裏へと入った。
「君、私に何の用かな?」
未だについてきていた人物に向かって、赤川はそう尋ねた。その人物は、目深に帽子を被った男性だった。
その男性は、赤川の問いに答えようとしない。今度は強い口調で再び尋ねる。
「私に、何の用だ」
「──やはり、私のことは覚えていないのか。赤川幹部」
「──生憎、そちらの世界からは足を洗っているし、組織も解体済みだ。せめて『元』をつけて」
脳裏に、思い出したくもない自身の父親の顔が浮かぶ。赤川はそれを振り払うかのように、右腕を大きく振った。
空気を裂くような音とともに、彼女の指先からワイヤーが放たれて、男性の背後に見事な「蜘蛛の巣」を作り上げる。
用件によっては直ぐに縛り上げる──それは、彼女なりの警告であったのだが、男性はひるんだ様子を見せない。
「──ああ、あなたはまだその武器を使っている。数分にして一つの組織を崩壊させたあの武器だ。……ふふ、『毒蜘蛛』はどこへ行こうと『毒蜘蛛』か」
「それ、挑発のつもりかい?」
「失礼失礼。そのつもりは全くない。私はただ、あなたのその力と残虐性を見込んで、お願いに来たまでだ。私たちは、あなたの力を借りたい。……ついてきてくれないだろうか?」
「──私が、簡単に君についていくとでも?」
怪しさと暴力性のあるその勧誘に、赤川が乗るわけがない。
それならば……と男性は胸ポケットから一枚の写真を取り出し、赤川に見せつける。
「これなら、どうだ? 彼のことは流石にあなたもわかるはずだ。……あなたが素直に私たちの要求を飲まないと──彼を殺す」
赤川の、目の色が変わった。
ワイヤーを元に戻すと、グローブを脱いで地面に捨てる。
「──分かった──言うことを……きく……だから、彼には何もしないで──」
赤川の言葉に、男性は満足げに笑った。
これが、この騒動の始まり。
誰にも気付かれることのなく、ひっそりと物語は幕を開けた。
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