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シオンの部屋からエレクトラと共に退出し、そのまま一緒に廊下を歩きながら、わたくしは言った。
「アーテル公爵家は、わたくしが継げばいいと言ったわね。その気持ちは、今も変わらない?」
「ええ。変わらないわ。お姉様」
わたくしの質問の意図が分からないのだろう。怪訝そうな顔をしたがエレクトラは頷いた。
「そう。ならば、わたくしが継ぐわ」
「なぜ突然継ぐ気になったのか、聞かせてもらってもいいかしら?」
「あの男、アーテル公爵を『排除』したいからよ」
このエレクトラであれば、アーテル公爵に告げ口したりはしない。だから、わたくしは、あっさり彼女の疑問に答えた。
「シオンのために?」
その科白で「彼女」はアーテル公爵がシオンに何をしているのか気づいているのだと分かった。今生の記憶を考察したのだろう。
「いいえ。わたくしのためよ」
シオンを苦しめるあの男を他の誰でもない、わたくし自身が「排除」したい。
だから、この手で「排除」する。
それだけだ。
「そう。あなたが何を思って家を継ぐにしろ、よかったわ」
「わたくしは高等部卒業後、アーテル公爵家と縁を切る念書を書いたけど、それは反故させてもらうわ」
「いいんじゃない? 私やあなたと婚約破棄した馬鹿王子はアーテル公爵家を継げなくなるし、私自身も家を継ぐ気は全くないから、あなたしか後継者がいなくなるもの」
「近いうちに、王太子殿下や妃殿下から呼び出しが来ると思う」
「ああ。馬鹿王子がエレクトラの首を絞めた件ね」
エレクトラは、わたくしの話題の転換に驚かなかった上、ちゃんと受け答えした。妹とではありえないスムーズな会話だ。
「その時には、わたくしも同席を求められると思う。……『あなた』となる前の妹だけでは会話が成り立たなかったから」
「……本当に、同じ魂の持ち主とは思えないほど私とは真逆だったね。今生の私は」
エレクトラは苦笑した。
「その時に、一ヶ月後、わたくし達の十八の誕生日にアーテル公爵家を継げるように王太子殿下にお願いするつもりよ」
十八は、この世界の成人年齢だ。
現在国王陛下、わたくしとエレクトラの祖父は、病床で王太子殿下が政務を取り仕切っている。その王太子殿下の了承があれば、アーテル公爵を押しのけて成人したわたくしが家を継げるのだ。
「好きにすればいい。私もそうするから」
素っ気なく言うエレクトラに、わたくしは真剣な顔で向き直った。
「エレクトラ、いえ、トウコと呼ぶべきかしら?」
シオンは彼女を「トウコ」と呼んでいた。それが前世のエレクトラ、「彼女」の名前なのだ。
「今の私は菱崎藤子ではなくエレクトラ・アーテル、あなたの妹よ。だから、エレクトラでいいわ」
「シオンに、今生の彼に復讐しないのは……今生の彼が不幸だから?」
シオンのいない所で訊きたかった。
わたくしが前世で彼女のような目に遭えば、いくら生まれ変わって、その人格が「別人」だと分かっていても復讐しただろう。
「許す気はない」と断言してもシオンに何もしないのは、ただ単に「人格が別だから」というのだけが理由とは思えないのだ。
「別に彼は不幸ではないと思うけど? 健康で、何より、こんなに想ってくれるあなたがいるんだから」
「彼女」からすれば、アーテル公爵がシオンにしている事など、どうでもいいのだと、わたくしは気づいた。
シオンが前世で自分の尊厳を踏みにじった上、死にいたらしめた男の転生だからではない。誰がアーテル公爵の毒牙がかかっていても、彼女には等しく、どうでもいいのだ。
「あいつではない彼に復讐などしない。そんなの理不尽だもの」
頭では分かっていても憎悪故に復讐してしまうだろうに、「彼女」はそれを押し止めるくらい理性と自制心が強いようだ。
「アーテル公爵家は、わたくしが継げばいいと言ったわね。その気持ちは、今も変わらない?」
「ええ。変わらないわ。お姉様」
わたくしの質問の意図が分からないのだろう。怪訝そうな顔をしたがエレクトラは頷いた。
「そう。ならば、わたくしが継ぐわ」
「なぜ突然継ぐ気になったのか、聞かせてもらってもいいかしら?」
「あの男、アーテル公爵を『排除』したいからよ」
このエレクトラであれば、アーテル公爵に告げ口したりはしない。だから、わたくしは、あっさり彼女の疑問に答えた。
「シオンのために?」
その科白で「彼女」はアーテル公爵がシオンに何をしているのか気づいているのだと分かった。今生の記憶を考察したのだろう。
「いいえ。わたくしのためよ」
シオンを苦しめるあの男を他の誰でもない、わたくし自身が「排除」したい。
だから、この手で「排除」する。
それだけだ。
「そう。あなたが何を思って家を継ぐにしろ、よかったわ」
「わたくしは高等部卒業後、アーテル公爵家と縁を切る念書を書いたけど、それは反故させてもらうわ」
「いいんじゃない? 私やあなたと婚約破棄した馬鹿王子はアーテル公爵家を継げなくなるし、私自身も家を継ぐ気は全くないから、あなたしか後継者がいなくなるもの」
「近いうちに、王太子殿下や妃殿下から呼び出しが来ると思う」
「ああ。馬鹿王子がエレクトラの首を絞めた件ね」
エレクトラは、わたくしの話題の転換に驚かなかった上、ちゃんと受け答えした。妹とではありえないスムーズな会話だ。
「その時には、わたくしも同席を求められると思う。……『あなた』となる前の妹だけでは会話が成り立たなかったから」
「……本当に、同じ魂の持ち主とは思えないほど私とは真逆だったね。今生の私は」
エレクトラは苦笑した。
「その時に、一ヶ月後、わたくし達の十八の誕生日にアーテル公爵家を継げるように王太子殿下にお願いするつもりよ」
十八は、この世界の成人年齢だ。
現在国王陛下、わたくしとエレクトラの祖父は、病床で王太子殿下が政務を取り仕切っている。その王太子殿下の了承があれば、アーテル公爵を押しのけて成人したわたくしが家を継げるのだ。
「好きにすればいい。私もそうするから」
素っ気なく言うエレクトラに、わたくしは真剣な顔で向き直った。
「エレクトラ、いえ、トウコと呼ぶべきかしら?」
シオンは彼女を「トウコ」と呼んでいた。それが前世のエレクトラ、「彼女」の名前なのだ。
「今の私は菱崎藤子ではなくエレクトラ・アーテル、あなたの妹よ。だから、エレクトラでいいわ」
「シオンに、今生の彼に復讐しないのは……今生の彼が不幸だから?」
シオンのいない所で訊きたかった。
わたくしが前世で彼女のような目に遭えば、いくら生まれ変わって、その人格が「別人」だと分かっていても復讐しただろう。
「許す気はない」と断言してもシオンに何もしないのは、ただ単に「人格が別だから」というのだけが理由とは思えないのだ。
「別に彼は不幸ではないと思うけど? 健康で、何より、こんなに想ってくれるあなたがいるんだから」
「彼女」からすれば、アーテル公爵がシオンにしている事など、どうでもいいのだと、わたくしは気づいた。
シオンが前世で自分の尊厳を踏みにじった上、死にいたらしめた男の転生だからではない。誰がアーテル公爵の毒牙がかかっていても、彼女には等しく、どうでもいいのだ。
「あいつではない彼に復讐などしない。そんなの理不尽だもの」
頭では分かっていても憎悪故に復讐してしまうだろうに、「彼女」はそれを押し止めるくらい理性と自制心が強いようだ。
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