妹は謝らない

青葉めいこ

文字の大きさ
19 / 27

19

しおりを挟む
 シオンの部屋からエレクトラと共に退出し、そのまま一緒に廊下を歩きながら、わたくしは言った。

「アーテル公爵家は、わたくしが継げばいいと言ったわね。その気持ちは、今も変わらない?」

「ええ。変わらないわ。お姉様」

 わたくしの質問の意図が分からないのだろう。怪訝そうな顔をしたがエレクトラは頷いた。

「そう。ならば、わたくしが継ぐわ」

「なぜ突然継ぐ気になったのか、聞かせてもらってもいいかしら?」

「あの男、アーテル公爵を『排除』したいからよ」

 エレクトラであれば、アーテル公爵あの男に告げ口したりはしない。だから、わたくしは、あっさり彼女の疑問に答えた。

「シオンのために?」

 その科白で「彼女」はアーテル公爵がシオンに何をしているのか気づいているのだと分かった。今生の記憶を考察したのだろう。

「いいえ。わたくしのためよ」

 シオンを苦しめるあの男を他の誰でもない、わたくし自身が「排除」したい。

 だから、この手で「排除」する。

 それだけだ。

「そう。あなたが何を思って家を継ぐにしろ、よかったわ」

「わたくしは高等部卒業後、アーテル公爵家と縁を切る念書を書いたけど、それは反故させてもらうわ」

「いいんじゃない? 私やあなたと婚約破棄した馬鹿王子はアーテル公爵家を継げなくなるし、私自身も家を継ぐ気は全くないから、あなたしか後継者がいなくなるもの」

「近いうちに、王太子殿下や妃殿下から呼び出しが来ると思う」

「ああ。馬鹿王子がエレクトラわたしの首を絞めた件ね」

 エレクトラは、わたくしの話題の転換に驚かなかった上、ちゃんと受け答えした。妹とではありえないスムーズな会話だ。

「その時には、わたくしも同席を求められると思う。……『あなた』となる前の妹だけでは会話が成り立たなかったから」

「……本当に、同じ魂の持ち主とは思えないほど私とは真逆だったね。今生の私エレクトラは」

 エレクトラは苦笑した。

「その時に、一ヶ月後、わたくし達の十八の誕生日にアーテル公爵家を継げるように王太子殿下にお願いするつもりよ」

 十八は、この世界の成人年齢だ。

 現在国王陛下、わたくしとエレクトラの祖父は、病床で王太子殿下が政務を取り仕切っている。その王太子殿下の了承があれば、アーテル公爵あの男を押しのけて成人したわたくしが家を継げるのだ。

「好きにすればいい。私もそうするから」

 素っ気なく言うエレクトラに、わたくしは真剣な顔で向き直った。

「エレクトラ、いえ、トウコと呼ぶべきかしら?」

 シオンは彼女を「トウコ」と呼んでいた。それが前世のエレクトラ、「彼女」の名前なのだ。

「今の私は菱崎藤子ではなくエレクトラ・アーテル、あなたの妹よ。だから、エレクトラでいいわ」

「シオンに、今生の彼に復讐しないのは……今生の彼が不幸だから?」

 シオンのいない所で訊きたかった。

 わたくしが前世で彼女のような目に遭えば、いくら生まれ変わって、その人格が「別人」だと分かっていても復讐しただろう。

「許す気はない」と断言してもシオンに何もしないのは、ただ単に「人格が別だから」というのだけが理由とは思えないのだ。

「別に彼は不幸ではないと思うけど? 健康で、何より、こんなに想ってくれるあなたがいるんだから」

「彼女」からすれば、アーテル公爵がシオンにしている事など、どうでもいいのだと、わたくしは気づいた。

 シオンが前世で自分の尊厳を踏みにじった上、死にいたらしめた男の転生だからではない。誰がアーテル公爵の毒牙がかかっていても、彼女には等しく、どうでもいいのだ。

「あいつではない彼に復讐などしない。そんなの理不尽だもの」

 頭では分かっていても憎悪故に復讐してしまうだろうに、「彼女」はそれを押し止めるくらい理性と自制心が強いようだ。








 






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】私の婚約者は妹のおさがりです

葉桜鹿乃
恋愛
「もう要らないわ、お姉様にあげる」 サリバン辺境伯領の領主代行として領地に籠もりがちな私リリーに対し、王都の社交界で華々しく活動……悪く言えば男をとっかえひっかえ……していた妹ローズが、そう言って寄越したのは、それまで送ってきていたドレスでも宝飾品でもなく、私の初恋の方でした。 ローズのせいで広まっていたサリバン辺境伯家の悪評を止めるために、彼は敢えてローズに近付き一切身体を許さず私を待っていてくれていた。 そして彼の初恋も私で、私はクールな彼にいつのまにか溺愛されて……? 妹のおさがりばかりを貰っていた私は、初めて本でも家庭教師でも実権でもないものを、両親にねだる。 「お父様、お母様、私この方と婚約したいです」 リリーの大事なものを守る為に奮闘する侯爵家次男レイノルズと、領地を大事に思うリリー。そしてリリーと自分を比べ、態と奔放に振る舞い続けた妹ローズがハッピーエンドを目指す物語。 小説家になろう様でも別名義にて連載しています。 ※感想の取り扱いについては近況ボードを参照ください。(10/27追記)

エメラインの結婚紋

サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢エメラインと侯爵ブッチャーの婚儀にて結婚紋が光った。この国では結婚をすると重婚などを防ぐために結婚紋が刻まれるのだ。それが婚儀で光るということは重婚の証だと人々は騒ぐ。ブッチャーに夫は誰だと問われたエメラインは「夫は三十分後に来る」と言う。さら問い詰められて結婚の経緯を語るエメラインだったが、手を上げられそうになる。その時、駆けつけたのは一団を率いたこの国の第一王子ライオネスだった――

【完結】婚約破棄したのに殿下が何かと絡んでくる

冬月光輝
恋愛
「お前とは婚約破棄したけど友達でいたい」 第三王子のカールと五歳の頃から婚約していた公爵令嬢のシーラ。 しかし、カールは妖艶で美しいと評判の子爵家の次女マリーナに夢中になり強引に婚約破棄して、彼女を新たな婚約者にした。 カールとシーラは幼いときより交流があるので気心の知れた関係でカールは彼女に何でも相談していた。 カールは婚約破棄した後も当然のようにシーラを相談があると毎日のように訪ねる。

わたしを捨てた騎士様の末路

夜桜
恋愛
 令嬢エレナは、騎士フレンと婚約を交わしていた。  ある日、フレンはエレナに婚約破棄を言い渡す。その意外な理由にエレナは冷静に対処した。フレンの行動は全て筒抜けだったのだ。 ※連載

この子、貴方の子供です。私とは寝てない? いいえ、貴方と妹の子です。

サイコちゃん
恋愛
貧乏暮らしをしていたエルティアナは赤ん坊を連れて、オーガスト伯爵の屋敷を訪ねた。その赤ん坊をオーガストの子供だと言い張るが、彼は身に覚えがない。するとエルティアナはこの赤ん坊は妹メルティアナとオーガストの子供だと告げる。当時、妹は第一王子の婚約者であり、現在はこの国の王妃である。ようやく事態を理解したオーガストは動揺し、彼女を追い返そうとするが――

元婚約者がマウント取ってきますが、私は王子殿下と婚約しています

マルローネ
恋愛
「私は侯爵令嬢のメリナと婚約することにした! 伯爵令嬢のお前はもう必要ない!」 「そ、そんな……!」 伯爵令嬢のリディア・フォルスタは婚約者のディノス・カンブリア侯爵令息に婚約破棄されてしまった。 リディアは突然の婚約破棄に悲しむが、それを救ったのは幼馴染の王子殿下であった。 その後、ディノスとメリナの二人は、惨めに悲しんでいるリディアにマウントを取る為に接触してくるが……。

【完結】妹が私から何でも奪おうとするので、敢えて傲慢な悪徳王子と婚約してみた〜お姉様の選んだ人が欲しい?分かりました、後悔しても遅いですよ

冬月光輝
恋愛
ファウスト侯爵家の長女であるイリアには、姉のものを何でも欲しがり、奪っていく妹のローザがいた。 それでも両親は妹のローザの方を可愛がり、イリアには「姉なのだから我慢しなさい」と反論を許さない。 妹の欲しがりは増長して、遂にはイリアの婚約者を奪おうとした上で破談に追いやってしまう。 「だって、お姉様の選んだ人なら間違いないでしょう? 譲ってくれても良いじゃないですか」 大事な縁談が壊れたにも関わらず、悪びれない妹に頭を抱えていた頃、傲慢でモラハラ気質が原因で何人もの婚約者を精神的に追い詰めて破談に導いたという、この国の第二王子ダミアンがイリアに見惚れて求婚をする。 「ローザが私のモノを何でも欲しがるのならいっそのこと――」 イリアは、あることを思いついてダミアンと婚約することを決意した。 「毒を以て毒を制す」――この物語はそんなお話。

お父様、お母様、わたくしが妖精姫だとお忘れですか?

サイコちゃん
恋愛
リジューレ伯爵家のリリウムは養女を理由に家を追い出されることになった。姉リリウムの婚約者は妹ロサへ譲り、家督もロサが継ぐらしい。 「お父様も、お母様も、わたくしが妖精姫だとすっかりお忘れなのですね? 今まで莫大な幸運を与えてきたことに気づいていなかったのですね? それなら、もういいです。わたくしはわたくしで自由に生きますから」 リリウムは家を出て、新たな人生を歩む。一方、リジューレ伯爵家は幸運を失い、急速に傾いていった。

処理中です...