変わり者と呼ばれた貴族は、辺境で自由に生きていきます

染井トリノ

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時間旅行編

162.空中商店ラナ

 空飛ぶ船アルゴー。
 フォールグランド探索で大活躍した船だけど、探索が終わってからは出番がなかった。
 飛んで出かけるほどの用事がなかったから、しばらく持て余していた。
 だけど今日、そんなアルゴーの周りが人で賑わっている。

「ラルクさん、これどっちに置けばいい?」

「そこの棚の隣にお願いします! あと、机とテーブルを一式ほしいですね」

「あいよ! 親方に伝えとくぜ」

「助かります!」

 紆余曲折あて、ウィルの街の一員になったラルク。
 この船を使って世界中を飛び回り、うちの街で出来た物を広めていく。
 そうして、この街のことを世界中の人に知ってもらうために。
 現在はアルゴーを商業用の船に改造中。
 作業する人たちは大忙しで、汗だくになって頑張っている。
 すると、作業をするラルクのもとへ、シーナがやってくる。

「ラルクさん、お疲れ様です」

「シーナさんこそ、手伝いまでしてくれて本当に助かります」

「いえ、元はといえばワタシが言い出したことですから」

「そのお陰で、私は夢に大きく近づくことが出来ました。この恩は、一生をかけて代えさせてもらいますよ!」

「そ、そんな大げさですよ。ワタシはただ、手伝いたいと思っただけなので」

「それが何より嬉しいことです」

 ラルクは嬉しそうな笑顔でそう言った。
 シーナは照れくさそうに顔を隠して、小さく微笑んでいた。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 ラルクが街の一員になって三日後の夜。
 僕は一人、屋敷の廊下を歩いていた。
 時刻は夜の二時、皆はとっくに寝静まっている時間だ。
 僕も偶々目が覚めて、何となく散歩をしていた。
 すると、食堂の電気がついていることに気付く。
 
 ソラが仕込みでもしているのかな?
 いや、さすがに早すぎるか。
 誰だろう?

 僕はこそっと覗き込む。
 食堂にいたのは、ラルクとシーナだった。

「この商品はこのくらいでどうですか?」

「う~ん、それだと利益があんまり……もう少し上げたいですね」

 どうやら二人は、店で出す商品の値段や販売方法について話し合っているらしい。
 そういえば、シーナにも相談しているって話していたな。
 シーナはうちの経理も担当しているし、僕らの中で一番お金に強い。
 机の上に並んでいる紙は、販売予定の商品と、それを作るのにかかる費用が書いたものだ。
 アルゴーの改造は手伝えなかったから、出来るだけ助けになればと僕がまとめて渡したものだ。

 こんな夜遅くまで?
 熱心だな……というか、二人とも仲良くなったなぁ。

 そう思いながら、こっそり眺めている。

「そうだシーナさん! そろそろ店の名前を決めたいのですが」

「そうでしたね。良い名前を考えないと」

「はい。そこでお願いなのですが……シーナさん」

「はい?」

「もしよろしければ、あなたの名前をいただけませんか?」

「……えっ、それはどういう……」

「いえ、ですからその……あなたの名前を、そのまま店の名前にしたいんです」

「え……えぇ!?」
 
 シーナは驚いて、僕までビックリするくらい大きな声を出した。

「あ、え、あの……どうして?」

 シーナが尋ねると、ラルクはもったいぶるように間を空けて話し出す。

「あなたが私を見つけてくれたから、こうして今も生きていられる。あなたが提案してくれたから、私は店を出せる。全部あなたがきっかけをくれました。私にとってシーナさんは、幸運の女神なんですよ」

「め、女神なんて……ワタシは人間でもないですから」

「種族なんて関係ありません。私にはあなたが、とても魅力的な女性にしか見えませんよ」

「なっ……」

 シーナは顔を真っ赤にした。
 まるで愛の告白みたいなセリフを、ラルクは普段通りの表情で口にした。
 聞いている僕まで恥ずかしくなりそうだ。

「駄目でしょうか?」

「……えっと、やっぱり恥ずかしいです。ラルクさんのお店なんですし、ラルクさんの名前では駄目なんですか?」

「それでも良いのですが、私はやはりシーナさんの名前にしたいです」

「う……そう言ってもらえるのは嬉しいです。でもやっぱり恥ずかしくて……」

「じゃあ二人の名前を足せば良いんじゃないですか?」

 僕は二人に後ろから声をかけた。

「「わっ!!」」
 
 すると、二人は同じように驚いて声を上げた。

「こんばんは、二人とも」

「ウィル様? いつからそこに?」

「ちょっと前からだよ。名前の話を始める前から」

 本当は静観しているつもりだったけど、ジレッたく思ったから、勝手に体が動いていたよ。
 驚かせて悪いなとは思っている。

「ウィリアムさん、足すっていうのは?」

「いや、そのままが恥ずかしいなら、二人の名前の一部を混ぜて、新しい名前にしちゃえばいいかなって」

「いいですねそれ! そうしましょう!」

「シーナは?」

「そ、それなら何とか……でもどうしますか?」

「う~ん、そうだなぁ~ 例えば、ラルクとシーナでしょ? 【ラナ】っていうのはどう?」

「ラナ、ラナ……良いですね。私は気に入りましたよ! どうですか? シーナさん」

「良いと思います。可愛らしい名前だし、覚えやすいです」

「決まりですね! 店の名前は【ラナ】です!」

 空中商店ラナ。
 それがラルクの店の名前になった。
 店の名前が決まった頃、時計を見ると三時を回っていた。

「じゃあ二人とも、そろそろ寝たほうが良いです」

「あ、こんな時間だったんですね」

「ワタシも気付きませんでした」

 それだけ夢中だったみたいだ。
 傍から見ていても、二人が楽しんでいるのはよくわかった。
 実際にラナで世界を回るときは、ぜひシーナも一緒に行ってほしいと、このとき僕は思った。
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