変わり者と呼ばれた貴族は、辺境で自由に生きていきます

染井トリノ

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時間旅行編

163.魔王襲来?

 四月一日。
 雲ひとつない晴天、厳しい日差しが降り注ぐ。
 暑さはさらに強くなり、外に出るのも一苦労な日が続く。
 そんな暑い中、街の皆が外に顔を出している。
 なぜなら今日は、記念すべき日だから。

「ついに……ついにこの日が来ました! 感動でもう……涙が出そうですよ」

「泣くのは早いですよ、ラルクさん。これからなんですから」

「そうですね。頑張らないと!」

 ラルクは拳を力いっぱい握りながらそう言った。
 僕らの前には、改造された空飛ぶ船がある。
 そう、今日は商業船アルゴーの出航日なんだ。
 だから多くの人たちが、記念すべき光景を眺めに来ている。

「それにしても、割とすんなり決まりましたね。他の乗組員」

「ウィリアムさんが乗組員の募集をかけていただいたお陰ですよ。さすがに私一人での航海は、体力がもちませんからね」

 アルゴーに乗車するのは、ラルクを含め十二人。
 集められた十人は、すでに船内でスタンバイしている。
 五日ほど前に募集をかけて、二日前には店員に達していた。
 これから世界各地を巡るアルゴーは、夢を乗せた船であると同時に、危険な旅路でもある。
 もっと怖がって、皆協力を渋るかと不安だったけど、どうやら杞憂だったようだ。
 さて、もうお気づきだろうか?
 乗組員は十二人、ラルクと募集で来た十人を足しても一人足りない。
 実は一人、募集をかける以前から、アルゴーに乗車すると名乗り出た人物がいた。
 それはもちろん――

「シーナさんも、一緒に来てくださること、本当に嬉しいです」

「ワタシが言いだしっぺですからね。それにラルクさん、時々抜けているから心配なんです」

「えぇ……そうなんですか?」

「そうです。不安なので、私も着いていくことにしたんです。この街の未来は、ラルクさんにかかっていますからね」

「が、頑張りますよ!」

 最初は周辺の国や街を回ることになっている。
 一週間から十日を目安に帰還し、船の整備や補充をして再度出発する。
 予定では、これを何度か繰り返していくつもりだ。
 ラルクは元々商人として活動していて、商業組合というところに加入している。
 商業組合に入ると、通行許可証というものが発行され、連携している国々を自由に行き来できるらしい。

「さぁ、そろそろ出発しましょうか! いいかげん、船の中の皆さんも待ちくたびれているでしょうしね」

「そうですね。ウィル様、しばらく留守にします」

「うん、気をつけてね」

「はい」

 二人は並んで船へと入っていった。
 僕は街の皆と一緒に、アルゴーが大地を離れる瞬間を眺めていた。
 そうして、二人を乗せたアルゴーは、空高く昇っていったんだ。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 暗い室内。
 夥しい数のランタンが並んでいながら、火が灯っているのは一箇所だけ。
 不気味な雰囲気の部屋で、玉座に座っている男がいた。
 男の前には水晶が置いていある。
 その水晶には、念じた光景を映し出す力があった。
 水晶に映っていたのは、ウィルの街でアルゴーが飛び立つ光景。
 男はその光景を眺めながらニヤリと笑う。

「クククッ……おもしろいことをやっておるようだな。少し興味が出てきたぞ」

 男は玉座から立ち上がり、ウィルの街がある方向を見つめる。

「どれ? ここは我が、直接足を運んでやるとしようか」

 男は歩き出した。
 暗く見えない道を的確に進み、扉を開け部屋から出て行く。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 それは突然やってきた。
 アルゴーが出発した五日後、出発した日と同じ晴天を黒い光が斬り裂く。

「今の音は!?」

 雷よりも響く音が、街中に木霊した。
 執務室で仕事をしていた僕は、慌てて外へ出る。
 屋敷にいたソラたちと合流して、屋敷から出た僕は言葉を失った。
 僕の声を代弁するように、ソラが絶望の声を上げる。

「そんな……結界が!」

 街を覆う二つの結界。
 その両方に大きな穴が空いていた。
 ガラスをハンマーで殴り割ったように、粉々になっていた。
 遅れてユノが出てきて、同じように空を見上げて険しい顔をする。

「この結界はドラゴンの一撃すら通さん……はずじゃ。どういう――」

「ふっははははは! トカゲ風情と比べられるとは、我も舐められたものだな!」

 天から声が聞こえてくる。
 ずいぶん高いけど男の声だ。

「見て! あそこに誰かいるよ!」

 そう言って、ニーナが穴の開いた場所を指差した。
 太陽の光を背に、人の形をした影が見える。
 確かに誰かいる。

「何者じゃ!」

 ユノが叫ぶと、影が一瞬で消えた。
 そして瞬きしたときには、普通の人にも見える距離に移動していた。
 
 強靭な二本の角。
 ドラゴンに似た黒い羽と、補足鋭い尻尾。
 黒曜石のような瞳は、全てを吸い込んでしまいそうだった。

「鬼……じゃないよね?」

「うむ、鬼ではない。あれは……悪魔じゃ」

「悪魔!? いや、でもあの子……」

「ひれ伏すがよい! 我が名はベルゼビュート! この世界を支配する魔王である!」 

 僕は困惑した。
 魔王と名乗ったことにではなく、彼の見た目に戸惑った。
 だって見るからに十二、三歳の子供なんだもの。
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