変わり者と呼ばれた貴族は、辺境で自由に生きていきます

染井トリノ

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時間旅行編

164.腹ペコ魔王

 ベルゼビュートは不敵な笑みを浮かべたまま、空中から僕らを見下ろしている。
 僕はというと、発言の外見のギャップに困惑し、どう反応しようか迷っていた。
 そんな僕にユノが言う。

「気を抜かんほうが良いぞ」

「ユノ?」

「見た目はどうあれ、あ奴が強いことは事実じゃ」

「……確かに」

 ベルゼビュートからは膨大な量の魔力が感じられる。
 まるで激流のように荒々しくて、全てを呑み込み破壊してしまいそうなほど恐ろしい。
 周りを見渡せば、すでに何人かはその魔力に怯えている。

「貴様ら二人」

 ベルゼビュートが僕とユノを指差す。

「名を聞こうか」

「ウィリアム」

「ユノじゃ」

「ふむ、貴様らからは面白い気配を感じる。他の者らとは明らかに違う……異質の気配だ。中々に興味深いなぁ」

「それがどうかしたの?」

「何をしに来たんじゃ?」

 僕とユノは真剣な表情で彼に問いかけた。
 すると、ベルゼビュートは笑みを浮かべ――

「生意気な目をする……良かろう。本当は戦うつもりはなかったが、貴様らの力を確かめたくなった!」

 そう言い、魔力を拡散させた。
 空気が軋み、大地が揺れる。
 強大な力を前に、多くの人たちが怯え震える。
 ベルゼビュートは攻撃的な目をして、僕らを睨んでいる。

「さぁ、貴様らの力を見せてみろ! 見事力を示したなら、我が配下に加えてやってもよいぞ!」

「誰が主の部下になるか。そんなのはお断りじゃ」

「ほう……ならば死ぬしかないぞ?」

「ワシを殺せるつもりか? 魔王風情がしゃしゃりおるわ」

 なぜかユノも好戦的な態度をとっている。
 今にも戦いが始まってしまいそうな状況。
 僕は二人に待ったをかける。

「ちょっと待って! ここで戦ったら街に被害でるよ! 戦うならせめて外に出て――」

「我には関係ない! さぁ、こないならこちらから行くぞ!」

「ちょっ――」

 あーもう!
 全然話を聞いてくれない。
 こうなったら戦うしかないのか?

 半分諦めかけていたとき、ぐぅ~という大きな音が街中に鳴り響いた。
 とても大きな……空腹音だった。
 そして――

「え?」

「う……」

 魔王ベルゼビュートは落下した。
 地面に激突して、そのままうつ伏せで倒れている。
 僕とユノは顔を見合わせ首をかしげる。
 すると、もう一回大きな空腹音が聞こえてきた。
 今度はさらに大きくハッキリ、彼のほうから聞こえたとわかった。

「腹がぁ……」

「もしかして、お腹減ってるの?」

「ずっと何も食べておらんのだ。さっきまで忘れておったが、急に……」

 ぐぅー……
 三回目の音が響く。
 ベルゼビュートは空腹で動けなくなっていた。
 ユノは呆れ、拍子抜けしてしまっている。

「どうするのじゃ?」

「う~ん……」

 僕は倒れている彼を見ながら考えた。
 本当に動けない様子だし、このまま外に出してしまえば良いんだろうけど……。
 空腹で苦しむ姿を見ていると、どうにも放っておけない気分になる。

「食事を用意しても良いけど」

「なっ! ほ、本当か!?」

「ええ、ただし条件があるよ。街の中で暴れたり、僕らを攻撃したりしないと誓ってくれるなら」

「誓う! 誓おう! 我は約束を守る男だ!」

 食事という単語を聞いてから、ベルゼビュートは目を輝かせていた。
 そういうところは子供みたいで、さっきまでが嘘のようだ。

「わかったよ。じゃあ準備してもらおう」

 まだ信用したわけじゃないけど、何となく暴れたりはしないような気がした。
 一応、もしものときの対応も考えておいておこう。
 僕は動けない彼を抱きかかえて、屋敷へと戻った。
 
 一時間後――

「美味い! 美味いぞ!」

 用意された食事にがっつくベルゼビュート。
 僕らはその様子を眺めている。

「豪快な食べっぷりじゃのう」

「本当にね。見てるこっちもお腹が減ってくるよ」

「いやー助かったぞ! 五日ほど何も口にしておらんかったからなぁ」

「そんなに食べてなかったんだね」

 どうりで……納得の食べっぷりだ。
 ベルゼビュートはあっという間に平らげてしまった。

「ふぅ~ 我は満足だ~ こんなに美味い食事は初めてだ。これを作ったのは誰なのだ?」

「この料理を作ったのは彼女だよ」

 サトラは微笑みながらお辞儀した。
 いつもはソラも一緒に作るんだけど、生憎今は他の作業で忙しいらしく、頼めたのはサトラだけだった。

「名はなんと言うのだ?」

「サトラです」

「サトラか、良い名だな。気に入ったぞ! 我の部下にしてやろう!」

「それは困りますね。私はウィル様のメイドですから」

「ウィル? あぁ、貴様のことか。こんな美味いものを毎日食べておるとは……羨ましい限りだな」

「あははは……それで、えっとベルゼビュート……」

「ベルゼで良いぞ」

「じゃあベルゼ、君はどうしてこの街に来たんだい?」

「む? 単に面白そうだったから遊びに来ただけだが?」

「遊びに?」

「そうだぞ」

 予想外の答えに、僕を含むその場の皆が驚いていた。

「でも、ベルゼは王様なんだよね?」

「うむ! 我は魔王であるぞ!」

「一人で来て大丈夫なの?」

「……まぁ良くはないな」

「じゃあどうして?」

「退屈だったのだ!」

「えぇ……」

 僕は呆れてしまった。
 さらに突き詰めて聞いてみることに。
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