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時間旅行編
180.良い街を目指して
ブーツ大陸の七割、魔王によって支配されている場所を魔界と呼んでいる。
魔界には悪魔族という特徴的な種族が暮らしている。
だが――
魔界にはもっと大きな特徴がある。
それは昼がないこと。
魔界には太陽の光が一切届かない。
一日を通してずっと夜なんだ。
大陸上空に入った時点で、その変化は感じていた。
面白いくらいバッサリと、太陽の光が届かなくなった。
一日中真っ暗な夜が続く。
人間なら耐えられないだろうと察した。
「あそこに降りてくれ!」
城まで近づくと、ベルゼがベランダを指差した。
車が着陸できるスペースがある。
部屋の明りは所々ついているみたいだけど、ベランダのあった部屋は真っ暗だ。
「了解」
僕は指定された場所に車を停める。
車から降りて、久しぶりに吸う空気は、ちょっと嫌な感じがした。
ベランダから城下町が少し見えている。
時間的には正午を過ぎた頃なのに、街の明りは少なく、活気がありそうには見えなかった。
「さぁ扉とやらを繋いでもらえるか?」
「ユノ、お願い」
「うむ」
ベランダから部屋に入る扉を、一時的に屋敷へ通じる扉へ変える。
屋敷へ戻った僕は、ソラたち皆を呼んだ。
ただ、さすがに全員が屋敷を留守に出来ないということで、今回は代表としてサトラが来ることに。
「ようこそサトラ! ここが我が城だ!」
サトラはぐるっと周りを見渡す。
「王国のお城より広そうだわ。お掃除が大変そうね」
「サトラらしい感想だね」
完全にメイドの視点だった。
確かにその通りで、ここの管理は誰がやっているのか疑問に思った。
まぁ少なくともベルゼ本人じゃないな。
「中を見ても良いかしら?」
「もちろんだとも! さぁさぁ入ってくれ!」
僕らはベルゼに誘われ、ベランダから室内へと入る。
部屋は真っ暗だったので、ベルゼが明りをつけてくれた。
彼曰く、この城の設備は全て魔力で動いているらしい。
さすが魔王の城だ。
ガチャ――
部屋から出ようと歩き出したとき、廊下へ続く扉が先に開いた。
現れたのは背の高い男の悪魔だった。
「魔王様、先ほど妙な音が聞こえましたが――」
男と視線が合う。
途端、鬼のような形相になる。
「貴様ら! 魔王様から離れろ!」
刹那。
男は襲い掛かってきた。
大方僕らを、外から来た敵だと誤認したのだろう。
彼は一直線に突っ込んできた。
狙ったのは、ベルゼの隣を歩いていたサトラだ。
彼女に攻撃がせまりくる。
僕とユノは止めようと動いたけど、速すぎて間に合わないと悟る。
それを難なく片手で止めたのは、ベルゼだった。
「魔王様? 何を――」
空気が軋む。
寒気すら感じてしまうほど重く、冷たい魔力が満ちる。
ベルゼは明らかに激怒していた。
「おいネビロス、貴様こそ何をしておる? この者は将来、我の妻になる女性だぞ? 丁重にもてなせ」
「はっ、し、失礼しました!」
男は咄嗟に離れて頭を下げた。
臨戦態勢に入りかけていたベルゼも、ギリギリで踏みとどまったって感じだ。
その場にいたみんなが肝を冷やしたけど、特に僕とユノは安堵した。
ベルゼが最初に街へ訪れたとき、本気で戦わなくて良かった……と。
「私は魔王様の世話役、魔王軍の参謀を勤めさせていただいております。ネビロスと申します。先ほどは大変無礼を働いてしまい」
「そんなに謝らないでください。私は大丈夫でしたので」
「ふんっ、サトラの寛大さに感謝するが良い」
「はっ! しかし魔王様、いずれ招待するとは伺っておりましたが、今日とは聞いておりませんよ」
「え、あ……そうだったぁーかもしれん」
全員の視線がベルゼに集まる。
お前も悪いんだぞ、と言っている視線が。
「す、すまん」
ベルゼは素直に謝った。
ネビロス曰く、彼がこうも素直になったのは、僕らの街に来て依頼だという。
大変感謝され、自分も会いたいと思ってくれていたそうだ。
それから僕らは、ネビロスとベルゼの案内で城下町へ降りることに。
実際に見て、どこを変えるべきなのか知りたいそうだ。
「到着しました」
ネビロスがそう言って立ち止まる。
城下町……イメージと少し違う。いや、上空から見た時点で何となく気付いていた。
建物は綺麗だけど、暮らしている悪魔たちは楽しそうじゃない。
衣服もボロボロのものが多く、飲食店などもない。
城下町なんて王都みたいなものなんだから、もっと賑わっていても不思議じゃないのに。
「先代の魔王様が亡くなられてから、魔界は紛争期にはいりました。その影響で、食料を含む物資が不足しております。暮らしに不満を抱き、ここから出て行ってしまった悪魔も少なくありません」
ネビロスはそう語った。
何とか尽力を尽くしたが、好戦的な悪魔が多くまとまらなかったそうだ。
彼の言葉と表情から、苦労がにじみ出ている。
「で、どうだ? 何が足りない?」
「えっとね、まぁ……全部かな」
「全部だと!?」
「うん。だって最低限の衣食住すらギリギリなんでしょ? だったら先にそっちをやらなきゃ」
人口を増やすとか、設備を整えるとか。
そういったものは二の次だろうね。
まず今でも暮らしている悪魔たちが、普通に生活できる環境を作らないと始まらない。
僕らが荒れた荒野を少しずつ開拓していったように、この町も一緒なんだ。
「そうか……ならばもっと詳しく教えてくれ! ウィルたちがどうしたのか知りたい! 我も実践できることがあるはずだ!」
「もちろん、僕たちの経験で良ければ」
魔界はこれから大変そうだ。
ベルゼがやる気になったとして、どこまでまとまるのか。
ネビロスの苦労が増えないか心配だよ。
魔界には悪魔族という特徴的な種族が暮らしている。
だが――
魔界にはもっと大きな特徴がある。
それは昼がないこと。
魔界には太陽の光が一切届かない。
一日を通してずっと夜なんだ。
大陸上空に入った時点で、その変化は感じていた。
面白いくらいバッサリと、太陽の光が届かなくなった。
一日中真っ暗な夜が続く。
人間なら耐えられないだろうと察した。
「あそこに降りてくれ!」
城まで近づくと、ベルゼがベランダを指差した。
車が着陸できるスペースがある。
部屋の明りは所々ついているみたいだけど、ベランダのあった部屋は真っ暗だ。
「了解」
僕は指定された場所に車を停める。
車から降りて、久しぶりに吸う空気は、ちょっと嫌な感じがした。
ベランダから城下町が少し見えている。
時間的には正午を過ぎた頃なのに、街の明りは少なく、活気がありそうには見えなかった。
「さぁ扉とやらを繋いでもらえるか?」
「ユノ、お願い」
「うむ」
ベランダから部屋に入る扉を、一時的に屋敷へ通じる扉へ変える。
屋敷へ戻った僕は、ソラたち皆を呼んだ。
ただ、さすがに全員が屋敷を留守に出来ないということで、今回は代表としてサトラが来ることに。
「ようこそサトラ! ここが我が城だ!」
サトラはぐるっと周りを見渡す。
「王国のお城より広そうだわ。お掃除が大変そうね」
「サトラらしい感想だね」
完全にメイドの視点だった。
確かにその通りで、ここの管理は誰がやっているのか疑問に思った。
まぁ少なくともベルゼ本人じゃないな。
「中を見ても良いかしら?」
「もちろんだとも! さぁさぁ入ってくれ!」
僕らはベルゼに誘われ、ベランダから室内へと入る。
部屋は真っ暗だったので、ベルゼが明りをつけてくれた。
彼曰く、この城の設備は全て魔力で動いているらしい。
さすが魔王の城だ。
ガチャ――
部屋から出ようと歩き出したとき、廊下へ続く扉が先に開いた。
現れたのは背の高い男の悪魔だった。
「魔王様、先ほど妙な音が聞こえましたが――」
男と視線が合う。
途端、鬼のような形相になる。
「貴様ら! 魔王様から離れろ!」
刹那。
男は襲い掛かってきた。
大方僕らを、外から来た敵だと誤認したのだろう。
彼は一直線に突っ込んできた。
狙ったのは、ベルゼの隣を歩いていたサトラだ。
彼女に攻撃がせまりくる。
僕とユノは止めようと動いたけど、速すぎて間に合わないと悟る。
それを難なく片手で止めたのは、ベルゼだった。
「魔王様? 何を――」
空気が軋む。
寒気すら感じてしまうほど重く、冷たい魔力が満ちる。
ベルゼは明らかに激怒していた。
「おいネビロス、貴様こそ何をしておる? この者は将来、我の妻になる女性だぞ? 丁重にもてなせ」
「はっ、し、失礼しました!」
男は咄嗟に離れて頭を下げた。
臨戦態勢に入りかけていたベルゼも、ギリギリで踏みとどまったって感じだ。
その場にいたみんなが肝を冷やしたけど、特に僕とユノは安堵した。
ベルゼが最初に街へ訪れたとき、本気で戦わなくて良かった……と。
「私は魔王様の世話役、魔王軍の参謀を勤めさせていただいております。ネビロスと申します。先ほどは大変無礼を働いてしまい」
「そんなに謝らないでください。私は大丈夫でしたので」
「ふんっ、サトラの寛大さに感謝するが良い」
「はっ! しかし魔王様、いずれ招待するとは伺っておりましたが、今日とは聞いておりませんよ」
「え、あ……そうだったぁーかもしれん」
全員の視線がベルゼに集まる。
お前も悪いんだぞ、と言っている視線が。
「す、すまん」
ベルゼは素直に謝った。
ネビロス曰く、彼がこうも素直になったのは、僕らの街に来て依頼だという。
大変感謝され、自分も会いたいと思ってくれていたそうだ。
それから僕らは、ネビロスとベルゼの案内で城下町へ降りることに。
実際に見て、どこを変えるべきなのか知りたいそうだ。
「到着しました」
ネビロスがそう言って立ち止まる。
城下町……イメージと少し違う。いや、上空から見た時点で何となく気付いていた。
建物は綺麗だけど、暮らしている悪魔たちは楽しそうじゃない。
衣服もボロボロのものが多く、飲食店などもない。
城下町なんて王都みたいなものなんだから、もっと賑わっていても不思議じゃないのに。
「先代の魔王様が亡くなられてから、魔界は紛争期にはいりました。その影響で、食料を含む物資が不足しております。暮らしに不満を抱き、ここから出て行ってしまった悪魔も少なくありません」
ネビロスはそう語った。
何とか尽力を尽くしたが、好戦的な悪魔が多くまとまらなかったそうだ。
彼の言葉と表情から、苦労がにじみ出ている。
「で、どうだ? 何が足りない?」
「えっとね、まぁ……全部かな」
「全部だと!?」
「うん。だって最低限の衣食住すらギリギリなんでしょ? だったら先にそっちをやらなきゃ」
人口を増やすとか、設備を整えるとか。
そういったものは二の次だろうね。
まず今でも暮らしている悪魔たちが、普通に生活できる環境を作らないと始まらない。
僕らが荒れた荒野を少しずつ開拓していったように、この町も一緒なんだ。
「そうか……ならばもっと詳しく教えてくれ! ウィルたちがどうしたのか知りたい! 我も実践できることがあるはずだ!」
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魔界はこれから大変そうだ。
ベルゼがやる気になったとして、どこまでまとまるのか。
ネビロスの苦労が増えないか心配だよ。
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