変わり者と呼ばれた貴族は、辺境で自由に生きていきます

染井トリノ

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花嫁編

223.初出店

 時を遡ること数ヶ月前。
 ベルゼが初めてウィルの街を訪れた日。
 その数日前に、もう一つ大きなイベントがあったことを思い出してほしい。
 
 そう、空中商店ラナの出航だ。
 シーナとラルク、二人と若干名の乗組員を乗せ、生まれ変わったアルゴーが飛び立った。
 これは彼女たちのお話。
 初めての航空が、二人に強い絆をもたらす。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 アルゴーに乗り飛び立った二人は、甲板に出てウィルの街を見つめる。
 徐々に遠のいていく街を眺めるシーナに、ラルクが尋ねる。

「やはり不安ですか?」

「はい、ちょっとだけ」

「そう……ですよね」

 ラルクは申し訳なさそうに下を向く。
 すると、シーナが――
 
「でも、後悔はしていませんよ?」

 そう言って振り向く。
 ラルクは顔をあげ、二人は目を合わせる。
 シーナは穏やかに微笑みながら、ラルクに伝える。

「これはワタシが選んだことです。一緒に行きたい……そう思ったから、ここにいます。だから、そんな顔をしないでください」

「シーナさん……」

「商人は笑顔が大事! そう教えてくれたのは、ラルクさんですよ?」

「……そうですね! 笑顔でいましょう!」

 シーナに元気付けられ、ラルクは笑顔になる。
 出会ってから日が浅いにも関わらず、二人は通じ合っているように見える。
 よほど相性がいいのだろう、と周りの乗務員は微笑ましそうに眺めていた。

「ラルクさん、最初はどこへ行くんですか?」

「ユナンという街です。ここから北へ数十キロ上ったところにある街ですね」

「ユナン、どんな街なんですか?」

「そうですね~ 一言で表すなら『のどか』という感じです」

 ラルク曰く、ユナンのある場所は、他に人工物のない自然豊かな土地らしい。
 森や川、近くには山もあり、数多くの動物が生息している。
 奇跡的というのか、魔物は一切確認されていないという話だ。
 そして、豊かな土地を生かし、農業で発展した街でもある。

「以前から交流のある街です。何度も訪れているので、他の街より顔が利きますよ」

「そうなんですね」

「はい。これから向かうことも、事前に手紙で伝えてあります。いきなり大きな船が飛んで来たら、誰でも驚いてしまいますから」

「ふふっ、確かにそうでうね」

 準備は万端という感じだった。
 ただ一つだけ、シーナには不安があった。
 ふと、その不安をシーナが口にする。

「ラルクさん」

「はい?」

「亜人のワタシたちを、皆さんはどう思うのでしょうか?」

「それは……」

 ラルクは言葉を詰まらせた。
 その理由を、シーナが察して諭すように言う。

「気を使わないでください。むしろ、こういうことはハッキリと言ってほしいです」

 商売なんだから、とシーナがさらに付け足す。
 すると、ラルクは腹をくくり、唇を噛んでから話す。

「快くは思われない……と、思います」

「……」

「亜人種に対する偏見は、どの国でも変わっていません。商人として多くの方々と接してきて、そこは強く感じています」

「……やっぱり、ワタシはいないほうが――」

「それは違います!」

 落ち込むシーナの手を、ラルクは力強く握る。
 少し痛いと感じたのか、シーナはマユを潜める。

「あっ、す、すいません」
 
 と言いながら、ラルクは握る力を緩める。

「シーナさん……」

「良いんです。事実ですから……仕方ありません」

 シーナはラルクの手を優しく解く。
 くるりと回り、船内のほうへ向いてしまう。
 服についていたフードを被り、エルフの特徴である耳を隠す。

「こうしていたほうが良いですよね?」

「そんな! 私は別にそこまで……」

「ワタシたちの所為で、ラルクさんが困る姿は見たくありませんから」

 そう言って、シーナは船内へと歩いてく。
 ラルクは何も言えなかった。
 そのことが不甲斐なくて、彼は拳を力いっぱいに握る。

 一時間後。
 二人を乗せた船は、ユナンの近くにある草原に到着した。
 草原から街までは少し距離がある。
 ただ、歩いて移動できないほど遠くもないので、草原に停船することになった。
 ゆっくりと下降し、船を地に着ける。
 到着してラルクが船から下りると、数人の男性が集まってきていた。

「おぉ~ 本当に船で来るとは……」

「これは立派だ」

 物見客、というわけではなく、彼らはユナンにいる商人たちだった。
 今回の件で連絡を入れ、街の人たちとの間を取り持ってくれることになっている。
 ラルクが彼らに近寄り、挨拶をする。

「お久しぶりです皆さん。今日から数日間、よろしくお願いします」

「いやいやこちらこそ。期待しておりますよ」

 男の一人が船を見上げる。

「手紙を見たときは、何かの冗談かと思いましたが……」

「はははっ、そうでしょうね」

 ラルクは自慢げに笑う。

「期待していますよ?」

「ええ、応えてみせます!」

 そう言って、握手を交わす二人。
 その様子を船の中から、シーナはじっと見つめている。
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