変わり者と呼ばれた貴族は、辺境で自由に生きていきます

染井トリノ

文字の大きさ
133 / 159
花嫁編

234.三度目の正直

 翌日の早朝。
 太陽が昇りきる前に起床し、テントを片付ける。
 午前七時は朝食を済ませ、二人は村を後にする。
 次に向かう場所は、ウィルも行ったことがないらしい。
 はたしてどんな場所なのか。
 期待七割、諦め三割といった配分。

「ここからかなり距離がある。疲れたら言うんだぞ」

「はい! 大丈夫です」

「良い返事だな。ちゃんと言ってくれよ?」

「わかってますよ」

 過保護なイズチは、その後も何度も確認する。
 ロトンは途中から鬱陶しがって、時折そっぽを向いたりもしていた。
 甘えたロトンに続き、珍しい表情を見せている。
 当のイズチはというと、鬱陶しがられてショックを受けていた。

 途中で休憩を挟み、四時間が経過する。
 二人は大きな橋を超え、山を登っていく。
 さらに奥へ進んでいくと、開けた場所に出る。
 そこには――

「イズチさん、これ……」

「ああ、集落……だった場所だな」

 荒れた土地に、ボロボロになった建物。
 僅かに村だった頃の輪郭と、面影を残している。
 壊れた村がそこにはあった。
 明らかに滅んでいて、人は誰も住んでいないとわかる。

「まさか、ここに……」

 村の有り様を見て、ロトンが顔を青ざめる。
 気付いたイズチは、すぐに彼女の脳裏に浮かんだ光景を否定する。

「それはない。この感じは、数年やそこらでなったわけじゃない。おそらくもっと前に滅んでいる」

「ほ、本当ですか?」

「ああ。建物の風化、木の腐り具合からも明らかだ」

 イズチが説明すると、ロトンはホッと胸を撫で下ろす。
 一先ず落ち着いた所で、念のため調べてみることに。
 ただし案の定、めぼしい情報は残っていなかった。
 すでに滅んでから、十数年が経過しているのだろう。
 その間に、誰かが来た形跡すら残ってはいなかった。
 ここも関係ない。
 そう結論付けて、二人は最後の目的地へ向かう。

「……」

「……」

 道中、二人の会話はめっきり減ってしまった。
 一箇所目、二箇所目と不発か続き、最後の一箇所と後がない。
 何となくだが、終わりが見えてしまっている。
 期待半分、諦め半分といった所だろか。
 ロトンの脳裏には、見つからなかったという終わりがチラつく。
 ただし今回の場合は、その終わり方のほうが幸せだったかもしれない。

 夕刻まで歩き切り、野宿で一晩を明かす。
 早朝と共に再出発して三時間。
 二人はついに、最後の目的地へ到着する。

 たどり着いたそこは、古びた民家が並ぶ小さな村だった。
 最初の村より荒んでいるが、二番目に行った場所ほど崩れてもいない。
 足して二で割ったら丁度良いくらいだと、二人は感じた。

「……ここ」

「ロトン?」

 ふと、ロトンが棒立ちで固まる。
 噛み締めるように村を見つめ、呟くように言う。

「ボク……見覚えがあります」

「本当か!?」

「は、はい! 何となくですけど、来たことあると思います」

 イズチも目を丸くして驚く。
 最後の最後にして、ようやく当たりを聞けたと内心喜んでいる。
 ただ、見渡す限り人の気配はない。
 民家はあれど、人が暮らしている形跡もない。
 無人の村……二箇所目と同じく、すでに滅んでしまっているのだろうか。
 シュンとなるロトン。

「いや、奥! あそこを見てみろ」

 イズチが何かに気付き指をさした。
 彼が示した先に会ったのは、一軒の立派な家だった。
 煙突があって、そこから煙が立ち昇っている。

「誰かいるんだよ。この村に」

「だ、誰なんですか?」

「それは行って確かめることだ」

 イズチはロトンの手を握り、引っ張って先に進む。
 期待値がぐっと跳ね上がる。
 二人は駆け足で、煙の昇っている家へ近づく。
 
 トントントン

 三回ノックをして、ロトンが丁寧に声をかける。

「すみません。どなたかいらっしゃいますか?」

 数秒待ったが、中から返事はない。
 二人は顔を見合わせ、表情を曇らせる。
 が、その後で――

「……誰じゃ?」
 
 中から微かに、老人の声が聞こえてきた。
 二人は一瞬扉へ目を向け、また顔を見合って確かめる。
 ロトンは目を輝かせている。

「あ、あの! ボク、ロトンって言います! 伺いたいことがあって……少しだけ話を聞いてもらえないでしょうか?」

「ロトン……ワシは足が悪いんじゃ、悪いが中へ来てもらえるか?」

「わ、わかりました!」

 イズチが扉に手をかけ、先に中へと入る。
 家の中は、ほんのり暖かくて片付いていた。
 煙を上げていたのは暖炉の火だ。
 暖炉の前にはソファーがあって、そこに一人の老人が座っている。
 真っ白に染まった紙と、薄茶色の犬耳。
 メガネをかけて、優しそうなお爺さんだった。

「よう来たな」

「あっ……」

「ロトン?」

「ボク……この人のこと知ってます」

 ロトンはお爺さんの顔をじっと見つめ、そう口にした。

「ほう、ワシのことを覚えておったか。あれだけ小さかったのにのう」
 
 お爺さんもそれに反応した。
 どうやら二人は面識を持っているらしい。
 つまり、この村とロトンには関係性があるということ。

「じゃが……まさか来てしまうとはのう。忠告はしたんじゃが……」

 意味深な発言をするお爺さんに、イズチが尋ねる。

「何の話をしているんです?」

「お前さんたち、ウィリアムという若造から聞いて来たんじゃろう?」

「なっ、ウィルを知っているんですか?」

「ああ、前に尋ねてきよったからなあ……」

「ウィル様が?」

 ロトンは困惑した表情を浮かべる。
 イズチもまた、疑問が頭を過ぎる。

 ウィルは嘘を付いていた。
 だけどウィルは、意味のない嘘を付くやつじゃない。
 ましてや他人を傷つけるような嘘を、あいつが言うはずない。
 だとしたら――

 トウヤの脳裏には、すでに正解の可能性が映し出されていた。
 この時点で彼は、酷く後悔することになる。
 そうして知る。
 ウィルが言い残した一言を、見に染みらせるように。
感想 104

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

【完結】英雄様、婚約破棄なさるなら我々もこれにて失礼いたします。

ファンタジー
「婚約者であるニーナと誓いの破棄を望みます。あの女は何もせずのうのうと暮らしていた役立たずだ」 実力主義者のホリックは魔王討伐戦を終結させた褒美として国王に直談判する。どうやら戦争中も優雅に暮らしていたニーナを嫌っており、しかも戦地で出会った聖女との結婚を望んでいた。英雄となった自分に酔いしれる彼の元に、それまで苦楽を共にした仲間たちが寄ってきて…… 「「「ならば我々も失礼させてもらいましょう」」」 信頼していた部下たちは唐突にホリックの元を去っていった。 微ざまぁあり。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。