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第一章 ピンチとチャンスは紙一重

神様からの授かりもの

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―――――――バババババババッッッ!!
 体が空気を切る音が聞こえる。
 フォルテイス王国歴100年4月15日

 春の暖かな日差しが世界中に降り注ぎ、絶好の昼寝。

 眼下に広がる積雲のはるか上空より落下する影が一つ。

――そう、僕だ……

「ギャァァアアアーーーーーーーーー」
「ちょっっっ!!ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ」

 僕は今……

「死ぬぅーーーーーーーーーーーーー」

 絶体絶命の大ピンチだ……


 ♦

 ――フォルテイス王国歴100年4月1日

「ユーリ起きなさい。朝よ!」

「うっ……。もうちょっとだけ……」

「そんなこと言ってこの前も起きたの昼じゃない!いいから起きな、さい!」

 エリノラ姉さんはそう言って、僕の布団を無理やり剥ぎ取る。
 白日の下に僕の体が晒される。

「ギャァァァア!目が!目がーー!」

 日光が僕の目を容赦なく焼き付ける。

「そんなことばっかり言ってないで、早く準備しなさい。今日は神様からの恩寵の日でしょ!」

 くそっ、悪魔め!
 僕は神様の恩寵とかどうでも良いんだ。ただ、安全で、だれにも迷惑をかけずにダラダラとした生活が出来たのならそれで良いのだ。つまり、今の生活で十分な理想は叶っているのだ。

 よって、僕にとって恩寵とはそんな理想を脅かす脅威でしかない。

 もし、万が一でも嘗ての伝説の騎士と同じ恩寵、剣神なんかでも貰ってみろ!
 間違いなく王国の軍に重宝。なし崩し的に軍に入れられ、危険な戦場に連れて行かれる違いない。

 そんな人生僕はごめんだ。

 だから、僕は行く気はない。
 そう簡単に僕を連れて行けるなんて思うなよ!
 そう決意し僕はエリノラ姉さんを説得にする。

「エリノラ姉さん。この家で子供は僕ら二人だけ、それに姉さんは今年から国の軍に入隊するんだ。だというのに……僕までこの町から出て行く。なんてことになったら誰がお父さんとお母さんを見るっていうのさ。それに……もし、万が一でも戦闘系の恩寵なんか貰ったら、危険な戦に連れて行かれる可能生があるんだ。
 僕は安全で、日常にゆとりある生活を送れたらそれだけで幸せだ。せっかく授かった命、自ら捨てに行くような真似、僕にはとても出来ないよ。……分かったなら部屋から出てよ……まだ眠いんだ。僕は二度寝をするよ」

「そう!じゃあ、行くわよ!」

 大人しく帰るかと思われたエリノラ姉さんは僕の右腕を掴んで引っ張りだす。
 ニコニコとした表情で喜々として僕を連行しようとする姿は傍から見ると天使だが、僕からしたら悪魔だ。
 背中の辺りまである長い髪が左右に揺れる。

「は、ちょっ!!話聞いていなかったの!僕には恩寵なんて必要ないんだ!離してくれ!!!――くそ!なんて馬鹿力なんだ!!」

 なんとかして手を引き剥がそうと試みるが、その可能性は無いに等しいに近い。なぜなら、これはエリノラ姉さんの必殺技デスハンドだ。
 僕ごときの力ではどうしようもない。

 ……仕方がない。こうなったら、最後の手段だ。
 幸いなことに僕の部屋は一番奥。玄関に行くにはリビングを必ず通る必要がある。
 そう、つまり!!リビングにいる母さんに助けを呼ぶのだ!!
 運ばれながらも声をかけるタイミングを図る。

――今だ!!

「母さん!助け――」

「あら、もう行くのね!いってらっしゃい、ユーリ!エリノラお願いね!」

 僕の希望は母さんの前にあっけなく崩れ去る。
 あぁ、この世界には希望はないのか。

 僕は絶対に逃げれないことを悟り、絶望に苛まれる。
 だが、僕も男だ。いつまでも引っ張られるのもみっともない。
 だから、仕方なく自分の足で歩く。

 周りの人は僕らを見てヒソヒソと話している。

「わぁ!あの人すごい美人!羨ましいなー!」

「な、なんて可愛い子なんだ……惚れたぜ……」

 エリノラ姉さんは町一番の美人と評判だ。
 艶のある美しい黒髪。切れ長で左右対称の目。丁度良い高さの鼻。無意識に魅入ってしまう愛らしい唇。
 全てのパーツが最高峰かつ絶妙なバランスの配置。
 さらにハキハキとした明るい性格。

 うむ、誰が見ても間違いなく美人というだろう。

 だがしかし!実は僕もイケメンなのだ。
 身長175センチ。
 金髪の髪に青い碧眼。
 どこかの国の王子様か!といえるほどの甘いルックス。

「ねぇ見て!あの人、ものすごくイケメンよ」

「きゃーー!!私、目が合っちゃった♡どうしよう!!」

「わぁ、美男美女ねえ!恋人かしら?」

 エリノラ姉さんは父さんの遺伝子を、僕は母さんの遺伝子をそれぞれ強く引き継いでしまったため、あまり似ていない。
 そのため恋人に間違われることが多々ある。

 僕らは知る人ぞ知るこの町の美人姉弟だ。

 だが、実をいうと、僕はこの顔があまり好きじゃない。
 なぜなら、

「どいつもこいつもイケメンばかり追いかけやがって……この世にお前みたいのがいるから俺がモテないんだ!謝れイケメン野郎!」

「ペっ……!イチャイチャしやがって。へへ……だがそれも今日までのことよ。精々今のうちに楽しんでおくんだな!」

 イケメンなんてモテない人たちからやっかみを受ける原因でしかない。
 その他にも大量のトマトをなげてくる者……あ、違う人に当たった。

 ……こほん。つまり、イケメンは、モテない人達からやっかみを受ける。平穏な生活が理想の僕にとってはまさに害でしかないのだ。

 ……にしてもコイツら毎回毎回ホントに懲りないな。
 トマト当てられたおばちゃん。もうそろそろトマト投げ返さないであげて、初撃で意識失ってるし全身トマトまみれで殺害現場みたいになってるから。

「あらあら、賑やかで良いわね~。私も今度トマト投げて見ようかしらね」

 花屋のおばちゃんよ、あなたは一体、何に感化されたんだ。
 ……もしかして、誰かを血祭りにでも上げる予定でも?

 僕は引きつる笑み浮かべながら、早くこの地獄が過ぎるのただひたすらに待つ。

 それより、さっきからエリノラ姉さんに掴まれている腕が痛い。
 ……んん?あれ、僕の手、血通ってる?青白いんだけど。
 これは本当に僕の左腕死ぬかも……これは早急にデスハンドから逃げる作戦を考えねば!そう思い一人思考にふけ――

「ユーリ着いたわよ!」

 ――る、暇もなかったか。
 あ、良かった腕取れた。
 何だか、腕ジンジンするなぁ。

 目的地の広場には今年成人を迎える町の男性と女性が大勢いた。
 その中央にそびえ立つ塔を中心に固まっている。

 皆これから何の恩寵をもらえるのか!そわそわしているように見える。

「楽しみね!!ユーリ!」
 なぜエリノラ姉さんが楽しみそうにしている?



――――「カーン、カーン、カーン、カーン、カーン」――――




 塔の上部に位置する黄金の鐘から音が鳴り響く。

 この鐘の音が僕らの町で、神の恩寵をもらえる合図とされている。

 すると、空から見えるようで見えないような……けれど、確かにそこにあると感じる光が広場に降り注ぐ。

 まさに神からの恩寵と言うに相応しい光景だ……



「ッ~~~~!!ヨッシャー!!!剣術だ!これで俺は冒険者になれるぞー!!!」


――はっ!?思わず見とれてた……
 ……僕と同じく見とれていた人も何人かいたっぽいな。


「あぁ…そんな……この超最高綺麗で完全完璧人間でこの世の全ての愛していると言っても過言ではないこのアカマルちゃんが、呪い……なんて……。フフフ。これが私の運命だというのなら、私は神様を……呪ってやる……呪ってやるわ‼」

 喜びの声と悲しみの声が入り混じった音があちこちから聞こえる。

 とりあえずは、と……超最高綺麗で完全完璧人間アカマルちゃんから離れるか……
 この世界の裏ボスにならないことを心から願うよ。

 さて、僕はなんの恩寵かな?
 農業でも良いし、薬師でも良い、料理人なんかでも良いな!
 とにかく生産系でありますように!!!
 どうか神様お願いします!


 自分の願いを念入りに神様にお願いする。

 確認方法は簡単、心の中で恩寵解放と唱えればいい。

 さぁ、来い!農業、薬師、料理人よ!
 ――『恩寵解放!!!』


ユーリ・フィリドール あなたの能力は……

「――火事場の馬鹿力・超――」

 です。
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