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第一章 ピンチとチャンスは紙一重

羽目を外し過ぎると大抵痛い目に合う

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 フォルテイス王国歴100年4月9日

 ……いつもよりも早めに起床する。
 なぜなら、今日はエリノラ姉さんが帝都へ出発する日だからだ。

 既に起きて、姉さんの荷物を玄関に運んでいる父さん母さんに「おはよう」と挨拶をして、リビングに降りる。
 昨日の晩御飯の残りを朝食にして、食べ終わると、すぐに顔を洗い、着替えて荷物運びの手伝いをする。

 リビングの窓から空を見ると、どんよりとした雲が広がっていた。
 あと数時間もしたら、雨が降る……そんな天気だ。

 二回から姉さんの荷物を抱えて玄関に向かうと、黄金の龍の紋章が入った一台の馬車が目に入る。
 実力至上主義国家として周辺国にまで知られているフォルテイス王国の国旗だ。

 その、あまりにも立派な馬車に少しの間、目を奪われていると馬車の荷物置き場から「ドンっ!」と荷物を置く音が聞こえる。

「あ、ユーリ!やっと起きたのね!遅いじゃない!」

 エリノラ姉さんはそう言って馬車の荷台からヒョイと顔を出す。

 ……よく言うよ。いつもは僕より遅いくせに。
 は口が裂けても言えないが。

「そんなことより、エリノラ姉さん。ずいぶんと持って行く荷物少ないけど、いいの?」

「あーそのことね。私もどうしようか迷ったんだけど、全部持ってくと荷物になるし、それにもう古いから多分、すぐにダメになると思ってね。どうせそのまま帝都に住むんだし、現地で買ったほうが荷物も少なくていいでしょ?」

「なるほどね。確かにその方が効率良いかもね」

「でしょう?フフンっ!私ってば頭良いわね!」

 エリノラ姉さんが頭良いだって?……はは、面白い冗談だ。もし、仮にエリノラ姉さんの頭が良いとする。ならなぜ僕の意見を無視して毎回連れ回すなんてお嬢様プレイが出来るんだ?
 なんて、口が裂けても言えないけど……心の中でならいいよね!

「なんか腹立つわね!その顔!」

 ……叩かれました。なるほど。これが理不尽というものか……。
 もう対処仕切れません!!!!
 人は皆平等なんて言葉、この世には存在しないな。

「エリノラ殿。荷物全てをお乗せ致しました。いつでも出発できますので準備が整い次第お声をかけてください」

「分かったわ!それじゃあ行ってくるわ!!」
 と元気ハツラツと言うエリノラ姉さん。

「頑張ってくるんだよ」と父さん
「帝都に着いたら手紙書きなさい」と母さん
 そして僕……
「お金稼いだら僕を養ってね!エリノラ姉さん!できればダラダラさせてくれると嬉しいです!」
「バカ言ってないで、あんたは働きなさい!!」
 エリノラ姉さんがそう言いながらも笑う。

「御者さーん。おねがいしまーす!」
 エリノラ姉さんが合図を出すと同時に馬車が動き出す。

「バイバイー!」
 僕は満面の笑みでエリノラ姉さんを送り出す。

 徐々に遠くなる馬車。
 エリノラ姉さんは僕たちが見えなくなるまでずっと手を振っていた。
 なにも見えなくなった今、
 何もない道を眺めていると――

 不思議と……元気が湧いてきた。

「すぅー。はぁーーーーーーーーー」

 そう、僕は今、自由だーーーーーーー!!!!!!!

 僕はついに……
 ついに!ついに!!ついに!!!

――ついに!!!あの忌まわしき、デスハンドから解放された!!!!



「あぁ、なんて清々しい気分なんだ……」

 なんだかこのまま家に帰るもの勿体ない。
 雨が降りそうな天気だが……

「今はそんなのどうでも良い!そうだ!せっかくだし、町の外にでも出てみよう!」

 実は、僕は今までこの町から出たことがない。
 まあ、この町から出るつもりなんて毛頭ないが……一度くらいは外の景色を見てみたいと思っていたのだ。
 外に出ようと何度か試みたのだが、エリノラ姉さんになぜかもの凄く止められ、代わりに、エリノラ姉さんに振り回される日々を送っていたため、なかなか出られなかったのだ。

 だが、もうその元凶はもういない。

 町の周辺は常駐している騎士たちが倒してくれているので安全だと(7年前ぐらい)聞いたことあるし、記念に出てみよう!



♢ 



 僕は今、門のすぐ傍にいる。
 そう、今から僕は生まれて初めて外に出るのだ!!
 なんだか緊張してきた……けれど、それ以上にワクワクしている!!

 さぁ、いざ外の世界へ――!!

「おい、坊主!今日は外に出ない方が良い。さっき王国軍の馬車が通ったとはいえ、町の外は――」

「あ、そういうのいいんで。それじゃあ」

 全くせっかくいいところだったのに……
 これだから空気を読めない人は!!

「あ、おい!!だから今は小型飛龍がいるから危険だっ……っダメだ、聞いちゃいねぇ…………まずいぞ。これは急いで報告しなければ――」




 町から出て二十分後――

――ヒュゥゥゥゥゥゥゥ

「うーん」
――ヒュオオオオオオ!!

「結構歩いてきたな~」
 ――ヒュオオオオオオオオオ!!!

「……満足したし、そろそろ家に帰って昼ごはんの準備でも……」
――「ガシッッッ!!!」

「ん?」
 僕の肩に大きくて硬い爪のような物が乗る。

「何これ?」

――バサ!バサ!バサ!
 羽ばたくような音と周囲に飛び散る羽らしき物。
 さっきまで居た場所からどんどん離れて行く。
 町が遠目に見えるなぁー。この町ってこんな形してたんだね。

 あ!衛兵さん達だ!!
 ……なんか慌ててるなぁ。
 一体どうしたんだろう?

 ……さてと、まぁ、うん、
 確認しないとダメ?だよね。

 とりあえず現実逃避は辞めよう。

――落ち着くんだユーリ、落ち着いて、確認をするんだ。

 ふむ、ブヨブヨ感触の手の平のような物に硬い爪。
「あー、うん。これはあれか。足?だよな」

「あはははは!笑える!デスハンドの次はってか!ご丁寧に空の旅付きときた。ははははは……はは……はぁ…………えええええええええぇ!!!!」


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