偽りの神話を打ち砕く者 ~最弱種族の烙印を押された俺、唯一の真実を知るチート能力で世界を救います~

酸欠ペン工場

文字の大きさ
4 / 20
第4章

『二人の誓い』

しおりを挟む
「カイっ!しっかりして!」
壁画に触れたまま崩れ落ちたカイの体を、ルーナが慌てて支える。彼の顔は青白く、まるで魂が抜け落ちたかのようだった。
「……見たんだ……」
「何を見たというのです!?あなた、一体……」
カイは、焦点の合わない瞳で虚空を見つめていた。脳裏には、まだ断片的な映像が焼き付いている。祝宴、杯を掲げる王たち、そして、全てを嘲笑うかのような黄金の光。あれが、神だというのか。

「全部、嘘だったんだ……」
カイは、途切れ途切れに語り始めた。百年前の『紅の月の日』。人族の王は裏切り者などではなく、神に操られた哀れな犠牲者だったこと。十二の王の間に生まれた絆を、神自らが引き裂いたこと。
「そんな……馬鹿な話がありますか……」
ルーナは絶句する。それは、エルフが千年以上にわたって信じてきた歴史そのものを、根底から覆す言葉だった。

「信じられないのは、無理もない。僕だって……信じたくない」
カイの声は、か細く震えていた。
「でも、僕のこの眼は、真実を映したんだ。人族の王の絶望も、他の王たちの悲しみも、そして……全てを仕組んだ神の、冷たい意志も」
「神の、意志……」
「ああ。神は、僕たちを弄んでいるんだ。まるで盤上の駒のように」
その言葉には、確信があった。揺るぎない、真実の色があった。

ルーナは、カイの瞳をじっと見つめた。そこには、嘘も、迷いもなかった。あるのは、あまりに過酷な真実を前にした、深い絶望と、それでもなお消えない怒りの炎。
「……わかりませんわ」
彼女は、ぽつりと呟いた。
「神が嘘をついているなど、考えたこともなかった。けれど、あなたのその瞳は、この森の呪いの真実も見抜いた」
「ルーナ……」
「私は、神の歴史よりも、今目の前にいるあなたを信じます」

その言葉は、カイの凍てついた心に、小さな灯火をともした。
「ありがとう……」
「礼を言うのは早いですわ。それで、これからどうするのです?神が敵だなんて、あまりに無謀ですわよ」
「それでも、行かなくちゃいけない。このまま、神の嘘の中で生きていくなんて、僕にはできない」
カイは、ふらつく体でゆっくりと立ち上がった。

「何か、手がかりはあるのですか?」
「さっきの幻視の中に……王たちが持っていた『証』のようなものが……」
カイは必死に記憶をたどる。
「そうだ、王の証だ。祖父の古文書で読んだことがある。十二の王が持っていたという伝説の宝具。それが、神への道を開く鍵になるはずだ」
「王の証……。確かに、そのような伝承は我が一族にも」
それが、唯一の希望の糸だった。

「ならば、それを探すのですね」
ルーナの言葉に、カイは驚いて彼女を見た。
「君も、来てくれるのか?」
「当たり前ですわ。あなた一人に、そんな重荷を背負わせるわけにはいかないでしょう」
彼女は、少しだけ頬を染めてそっぽを向く。
「それに、この森を救ってくれた恩もありますから。これは、そのお返しですわ」
その強がりが、カイには何よりも嬉しかった。

「待ちなさい」
凛とした声が、遺跡に響いた。現れたのは、里の長老だった。
「長老様……いつからそこに」
「お主たちが、森の呪いを解いた時からじゃ。カイ殿、お主のその眼、そしてその言葉、まことでまことか?」
長老の鋭い視線が、カイの魂を射抜くようだった。
「はい。僕の全てを懸けて」

「……よかろう。信じるに足る」
長老は深く頷くと、懐から古びたブローチを取り出した。美しい葉の形をしている。
「これは、我がエルフ族の『王の証』じゃ。本来ならば、決して他族の者に見せることすら許されぬもの」
「これを、僕に……?」
「お主たちの旅が、この世界の真の夜明けとなると、ワシは賭けよう。ルーナ、カイ殿を頼んだぞ」

「森の祝福が、お主たちと共にあらんことを」
長老の言葉に、二人は深く頭を下げた。
「カイ、準備はいいですわね?」
「ああ、行こう」
ルーナは弓を背負い、カイは脇腹の傷を確かめるように押さえる。痛みはまだ残っているが、不思議と気にならなかった。隣に、信じてくれる仲間がいる。それだけで、無限の勇気が湧いてくるようだった。
こうして、カイとルーナは、エルフの森を後にした。最弱と言われた人族の少年と、孤高のエルフの少女。世界の真実を取り戻すための、途方もない旅が、今、静かに始まった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

最強スライムはぺットであって従魔ではない。ご主人様に仇なす奴は万死に値する。

棚から現ナマ
ファンタジー
スーはペットとして飼われているレベル2のスライムだ。この世界のスライムはレベル2までしか存在しない。それなのにスーは偶然にもワイバーンを食べてレベルアップをしてしまう。スーはこの世界で唯一のレベル2を超えた存在となり、スライムではあり得ない能力を身に付けてしまう。体力や攻撃力は勿論、知能も高くなった。だから自我やプライドも出てきたのだが、自分がペットだということを嫌がるどころか誇りとしている。なんならご主人様LOVEが加速してしまった。そんなスーを飼っているティナは、ひょんなことから王立魔法学園に入学することになってしまう。『違いますっ。私は学園に入学するために来たんじゃありません。下働きとして働くために来たんです!』『はぁ? 俺が従魔だってぇ、馬鹿にするなっ! 俺はご主人様に愛されているペットなんだっ。そこいらの野良と一緒にするんじゃねぇ!』最高レベルのテイマーだと勘違いされてしまうティナと、自分の持てる全ての能力をもって、大好きなご主人様のために頑張る最強スライムスーの物語。他サイトにも投稿しています。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

処理中です...