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第14章
『亡国の鎮魂歌』
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評議会での一件以来、リベルタスの空気は、カイたちにとってひどく冷たいものに変わっていた。彼らは今や、ただの子供ではなく「神への反逆者」として、好奇と警戒の目に晒されている。
「ちくしょう、どいつもこいつも、遠巻きにしやがって」
ボルガンが、宿屋の窓から外を眺めて悪態をついた。
「仕方ありませんわ。神を敵に回すなど、誰もが恐れることですから」
ルーナの言葉に、重い沈黙が落ちる。
「……行ってみようと思うんだ」
沈黙を破ったのは、カイだった。
「人族の、最後の王……。アルトリウス王の墓所へ」
「裏切り者の王の墓にか?何があるってんだよ」
「わからない。でも、僕自身のルーツを知るためにも、行かなくちゃいけない気がするんだ」
その瞳には、迷いのない光が宿っていた。
アルトリウス王の墓所は、かつて人族の国があったという荒野に、ひっそりと打ち捨てられていた。風化した石材が、百年の孤独を物語っている。
「ひでぇ有り様だな。王の墓とは思えねぇ」
「歴史は、勝者によって作られる。敗者は、こうして忘れ去られる運命なのだ」
ガロウの言葉が、重く響いた。カイは、崩れかけた墓の扉に、そっと手を触れた。
墓所の最深部。そこに、一体の石棺が安置されていた。壁には、『紅の月の日』の様子が、神を賛美する視点で描かれている。人族の王が、他国の王たちに毒杯を勧める、忌まわしい絵が。
「嘘だ……。こんなの、全部……」
カイは、怒りに震える手で、石棺に触れた。その瞬間、世界が再び白く染まった。
(これは……王の、最後の記憶……!)
カイの意識は、百年前の祝宴の場へと飛んだ。陽気な音楽、各種族の王たちの楽しげな笑い声。若きアルトリウス王が、杯を高く掲げている。
「各種族の永遠の友好を!そして、我らを見守る偉大なる神に、感謝を!」
その言葉に、偽りはなかった。彼は、心から平和を願っていた。
だが、次の瞬間、空に浮かぶ月が、不吉なまでに赤く染まった。
「な、なんだ……!?」
王たちが、次々とその場に倒れ伏していく。だが、それは毒によるものではなかった。天から降り注ぐ、金色の光。神罰と呼ばれる、無慈悲な裁きの光によって、その命を焼かれていたのだ。
「やめろぉっ!なぜだ、神よ!」
アルトリウス王の絶叫が響き渡る。
「我が友を!民を!これ以上、傷つけないでくれ!」
彼は、神の光に操られようとする自らの体に抗い、必死で剣を抜いた。その切っ先は、仲間ではなく、天へと向けられていた。
「我は、人族の王アルトリウス!神の操り人形には、断じてならん!」
彼は、民と仲間を救うため、たった一人で、神という絶対的な存在に立ち向かったのだ。
ボロボロになりながらも、彼は最後まで戦い続けた。そして、最後に見たのは、悲しみにくれる仲間たちの顔と、全てを嘲笑うかのような、天上の黄金の光。
(すまない……みんな……)
英雄の最後の思いが、カイの心を駆け巡り、彼の意識は現実へと引き戻された。
「う……ああ……っ!」
カイは、石棺に手をついたまま、その場に崩れ落ちた。
「カイ!大丈夫ですの!?」
「小僧、何が見えたんだ!」
仲間たちが、心配そうに駆け寄る。カイは、涙を流しながら、途切れ途切れに幻視した内容を語った。
「彼は……裏切り者なんかじゃなかった……。最後まで、みんなを守ろうとした、英雄だったんだ……!」
その言葉に、誰もが息をのんだ。
カイが幻視を終えたその時、古びた墓所全体が、淡い光を放ち始めた。アルトリウス王の無念の魂が、百年ぶりに真実を認められ、安らぎを得たかのように。その光は、天へと昇り、中立都市リベルタスに集う代表たちの元へも、微かな奇跡として届いていた。神が築いた偽りの歴史に、今、確かな亀裂が入った瞬間だった。
「ちくしょう、どいつもこいつも、遠巻きにしやがって」
ボルガンが、宿屋の窓から外を眺めて悪態をついた。
「仕方ありませんわ。神を敵に回すなど、誰もが恐れることですから」
ルーナの言葉に、重い沈黙が落ちる。
「……行ってみようと思うんだ」
沈黙を破ったのは、カイだった。
「人族の、最後の王……。アルトリウス王の墓所へ」
「裏切り者の王の墓にか?何があるってんだよ」
「わからない。でも、僕自身のルーツを知るためにも、行かなくちゃいけない気がするんだ」
その瞳には、迷いのない光が宿っていた。
アルトリウス王の墓所は、かつて人族の国があったという荒野に、ひっそりと打ち捨てられていた。風化した石材が、百年の孤独を物語っている。
「ひでぇ有り様だな。王の墓とは思えねぇ」
「歴史は、勝者によって作られる。敗者は、こうして忘れ去られる運命なのだ」
ガロウの言葉が、重く響いた。カイは、崩れかけた墓の扉に、そっと手を触れた。
墓所の最深部。そこに、一体の石棺が安置されていた。壁には、『紅の月の日』の様子が、神を賛美する視点で描かれている。人族の王が、他国の王たちに毒杯を勧める、忌まわしい絵が。
「嘘だ……。こんなの、全部……」
カイは、怒りに震える手で、石棺に触れた。その瞬間、世界が再び白く染まった。
(これは……王の、最後の記憶……!)
カイの意識は、百年前の祝宴の場へと飛んだ。陽気な音楽、各種族の王たちの楽しげな笑い声。若きアルトリウス王が、杯を高く掲げている。
「各種族の永遠の友好を!そして、我らを見守る偉大なる神に、感謝を!」
その言葉に、偽りはなかった。彼は、心から平和を願っていた。
だが、次の瞬間、空に浮かぶ月が、不吉なまでに赤く染まった。
「な、なんだ……!?」
王たちが、次々とその場に倒れ伏していく。だが、それは毒によるものではなかった。天から降り注ぐ、金色の光。神罰と呼ばれる、無慈悲な裁きの光によって、その命を焼かれていたのだ。
「やめろぉっ!なぜだ、神よ!」
アルトリウス王の絶叫が響き渡る。
「我が友を!民を!これ以上、傷つけないでくれ!」
彼は、神の光に操られようとする自らの体に抗い、必死で剣を抜いた。その切っ先は、仲間ではなく、天へと向けられていた。
「我は、人族の王アルトリウス!神の操り人形には、断じてならん!」
彼は、民と仲間を救うため、たった一人で、神という絶対的な存在に立ち向かったのだ。
ボロボロになりながらも、彼は最後まで戦い続けた。そして、最後に見たのは、悲しみにくれる仲間たちの顔と、全てを嘲笑うかのような、天上の黄金の光。
(すまない……みんな……)
英雄の最後の思いが、カイの心を駆け巡り、彼の意識は現実へと引き戻された。
「う……ああ……っ!」
カイは、石棺に手をついたまま、その場に崩れ落ちた。
「カイ!大丈夫ですの!?」
「小僧、何が見えたんだ!」
仲間たちが、心配そうに駆け寄る。カイは、涙を流しながら、途切れ途切れに幻視した内容を語った。
「彼は……裏切り者なんかじゃなかった……。最後まで、みんなを守ろうとした、英雄だったんだ……!」
その言葉に、誰もが息をのんだ。
カイが幻視を終えたその時、古びた墓所全体が、淡い光を放ち始めた。アルトリウス王の無念の魂が、百年ぶりに真実を認められ、安らぎを得たかのように。その光は、天へと昇り、中立都市リベルタスに集う代表たちの元へも、微かな奇跡として届いていた。神が築いた偽りの歴史に、今、確かな亀裂が入った瞬間だった。
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