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後編
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そこに、両陛下と皇太子、宰相様が会場入りした。遅れていた将軍達も、一緒に入ってきた。
「……?」
場が妙に静まり返っていること、貴族や兵士達が1箇所に集まっている事から何かあったのかと私達の元に駆け寄ってきた。
「何があった?」
言葉と共に、こちらに顔を向けると一様に「は?」という言葉を漏らした。
「なぜ、お前達が参加している?」
と言った顔で、ゲイリオ様たちを見ていた。
ですよね!しかも、戦争に参加してもいない自称聖女もいるんだから、びっくりですよね!
「ゲイリオ……何故ここにいる?」
「何故って……私は皇子です。そして、マリアは聖女です。参加するのは当然では?」
「此度のパーティの参加規定を読んでいなかったのか?参加資格は、戦争に参加した者、その家族、治療に携わった者だ」
「はぁ~、ゲイリオ、お前なら確かに参加資格はある。……が、その女には参加資格は無かったはずだよ」
「……?」
何を言われてるのか分からないって顔してるな……
仲間の将軍達は、明らかに敵意を持って殺気を撒き散らしながら皇子を見ていた。
付近の兵士達が青白い顔で、立っているのがやっとな感じだ。
(あ~可哀想だなぁ)
将軍に視線を向け目で訴えてみるが…無視された。だいたい、守るべき皇族に殺気を向けたらダメでしょ……気持ちは分かるが。
「父上!」
ゲイリオ様が、ハッと顔を上げ、声を上げた。相変わらず、2人とも殺気に気付かないんだなぁ。鈍感なんだな。
陛下、嫌そうだなぁ、聞きたくないんだろうな。
「なんだ?簡潔に申してみよ」
「はい!実は私はマリアと結婚がしたいのです!」
「すれば良いだろう」
あ、これ、もう諦めたかな……陛下。
「それで、ティルセリアとは結婚したくないのです!」
あ、ダメだ……
アルが……射殺さんばかりに、ゲイリオ様を睨んでる!
「誰が、誰と結婚したくないと?」
冷たい眼差しと、ドスの効いた低い声で、ゲイリオ様に問いかけた。
(怖っ!)
「兄上?もちろん、私がティルセリアと結婚したくないのです!そして、マリアと結婚します」
そう言って、傍らにいたマリアを抱き寄せ、その額にキスをする。
満更でもないマリアが、ポっと顔を赤らめはにかんでいた。
(あちゃ~馬鹿だわ)
「ふ~ん、そう」
顔は笑顔なのに、目と声が笑ってなかった。
めちゃくちゃ怒ってる!
私、さっき言ったのに、もう結婚してるって忘れちゃったの?殿下は
……アルが本気で怒ると怖いのよ?
「ねぇ、ゲイリオ、セリアのどこがダメなの?」
「……?セリア?」
「君が、セリアと呼ぶのは、許さないよ」
さらに低くなった声に、ビクッと肩を上げコクコクと頷いたゲイリオ様。
「ティルセリアは、野蛮で粗野で人殺しです!その上、料理は下手くそ、女性らしさが1つもありません!
私はいずれ国を背負って立つ男です!マリアの様な、清廉で、心優しく美しい女性が私には相応しい!」
あれ?なんかいま、変な言葉が聞こえた気がする。
将軍達も「は?」って顔をしてた。
両陛下も唖然とした顔で、アルだけが笑っていた。
「国を……背負って立つ?だれが?」
「私です!」
とうとう、陛下がキレた。
「馬鹿者!お前が国を背負える訳がなかろう!どうして、そんな勘違いをしたんだ!」
あっ、私も気になります!
それに、何故私と結婚する話になったのかも知りたいです!
「え?だって、私は皇子で、いずれ皇太子になると……」
「アルヴィスがいるのにか?」
「兄上は、皇の器ではないと…聞きましたので」
誰よ、そんなデマ流したの!
大方、殿下に皇位を継いでもらって、操ろうとした連中ね。
「それで、ティルセリア嬢との結婚は、なぜ言い出したのだ?」
陛下、既に疲れきってますね。
まぁ、私も疲れたので椅子に座っていいですかね。流石に立ちっぱなしは傷に触ります。
左手で脇腹を押さえ、少し顔に皺がよってしまった。
それをアルが目ざとく見つけ、椅子を用意してくれました。
「ありがとう」
「…無理するな、辛いなら部屋で休んでればいい」
いや、私当事者じゃん、帰れないでしょ。
アルの声は、先程と打って変わって、とても優しげで甘い声だった。
目の前では、未だ殿下がグダグダと言っていた。
「侍女の者が言ってたのです。戦争に貢献した者には、皇族を嫁、もしくは、婿に入れると……」
いつの時代の話しよ!と、この場にいる誰もが突っ込んだでしょう。
それって、
『 はるか昔、魔物が多く生息してた時代、魔王なる人物と勇者なる人物がいて、勇者が魔王を打ち倒し、褒賞に皇女を娶って幸せに暮らしましたとさ 』
って感じの童話じゃない!子供でも知ってるお伽噺……まさか!
信じてるの?……いや、まさかね。
「いや、流石にないでしょう」
「だが、あの殿下だぞ…!」
「有り得そう」
コソコソと話す声が近くから聞こえてきた。
「て言うか、ここまでの大騒動を起こして無事ではすまないんじゃないか?殿下」
「良くて、降格、悪くて、勘当でしょうか」
「皇太子殿下、めちゃくちゃ怒ってるから…降格は無い…んじゃないかな?」
「じゃ、勘当?」
好き放題言ってるな?
その向こうでは、陛下の拳骨が殿下の頭に直撃していた。
「……っ!痛いです!父上!」
「お前には、呆れたわ!どこの馬鹿にお伽噺を信じるアホがいる!?」
「まさか、そんな童話を信じてセリアさんに酷い事を言ったのゲイル?」
「違うんですか?良かった。じゃ、マリアと結婚出来るんですね!」
見当違いの台詞を吐き、マリアと手を取り合い喜んでいる。
殿下……陛下の顔を良く見てください。
鬼神の如く、恐ろしい形相で睨んでますよ!
皇妃様も、流石に庇えないのか悲しげな顔をしております。
これは……勘当の、流れ…かな?
アルの顔は覗き見れないので、どんな表情してるのかは分からないけれど…複雑なんだろうな……仲は悪くなったもの。
「……ゲイリオよ」
「はい!何ですか?」
喜んでいる所に陛下の声がかかった。マリアと手を離し2人で陛下の顔を見る。
「本日のパーティは夜会とは違い、フランクなもの……だが、この騒動は看過できぬ。其方を罰せねば、示しがつかぬ」
「はい?」
陛下の言っている事を理解出来ないのか、頭に?マークを付けて陛下の話を聞いている殿下。
(あれは、半分も理解出来てないな?)
「よって、我は其方を勘当とする!」
「「……え?」」
2人の声が重なった。
「平民となり、市井で暮らすが良い!」
「……え?何故です?!」
「我は、もう其方の父ではない。故に、我を父と呼ぶ事は許されぬ」
「そんな……!…母上!」
父上である陛下に見捨てられたゲイリオ殿下は、母親である皇妃に縋るような目を向けた。皇妃様は、青白い顔で悲しそうで、それでも目をそらす事なく殿下を見つめた。
「ごめんなさいね、ゲイリオ。貴方は罪を犯してしまったの。私でも庇えないのよ」
「何が罪なのですか?!ティルセリアに言った事は本当の事です!」
「何が本当なのですか?野蛮で粗野?どこを見て、そのような事を言ったのです?」
「戦場に出てる時点です!女で戦場に出るとは野蛮です!そして、人ご……「いい加減になさい!」」
「…っ、母上?」
温厚な皇妃様が、声を荒らげるなんて…
いつも、ニコニコと笑顔を絶やすことなく、私達にも優しく接して下さる皇妃様が。
いまは、青白い顔で、でも厳しく悪い事をした息子を叱る母親の顔していた。
「ティルセリアは、アルヴィスのお嫁さんなの。貴方は、皇太子妃に対して不敬を働いたのよ」
「は?……え?」
「嘘よ!あんな人が皇太子妃なんて!」
え~~、と嘘では無いですよ。
アルと私は3年前に結婚してますから、うん。
「嘘じゃない」
あっ、後ろから声がした。
ゲイリオ殿下とマリアが、バッと振り向いた。
「兄上……?」
「セリアは、私の大切な妻だよ」
私と接した時の甘さはない。
再び、凍り付かんばかりの低い声で告げた。
「っ!……父上!謝ります!謝りますから!」
「更に!貴方が言った言葉は、この国の為に命をかけてくれた将軍や、兵士達を侮辱するものなの!」
力をなくし崩れ落ちた殿下は、縋る勢いで陛下の腰元を掴み見上げた。立ち上がれないみたいで、膝立ちで服を掴み謝っていた。
だが、陛下は何も仰らず、無言を貫いていた。
殿下の行動を無視し、皇妃様は話を続けます。
「違っ!将軍達を馬鹿にしたつもりは……!」
「誰が好き好んで、命を屠る事を良しとするのです?ティルセリアは、前線で兵士達の命を救う事が仕事なの。だから他の将軍達よりも、命を奪う行為は辛いのよ。それを!貴方は…!」
(皇妃様……)
「俺達は、何言われても構わねぇよ。実際多くの人を殺してるからな。でもな、セリアを悪く言うのは許せねぇ。例え、皇子殿下でもな」
「セリアは、兵士を見殺しにした事なんてありませんよ。後方任務でも、最後の瞬間まで力を注いでいましたから」
「自分の怪我を後回しにして、兵士の治療を優先してた人だよ?兵士の皆だって、ちゃんと分かってるし恨んでるやつなんていない」
「敵兵を倒した後、総大将の首を取った後、命を奪った事を神に祈ってた。後悔はしてないけど、ごめんなさいって」
将軍達が口を挟んでくれる。彼らの思いを今、初めて知った。今まで口に出さなかったから、知らなかった。口に出さなくても、通じあってたから。
「セリアを馬鹿にする事は、将軍や兵達を馬鹿にする事だ。分かったか?」
アルが、諭すようにゲイリオ様に告げる。
「父上が何故、お前を勘当にしたか理解出来たか?国のために戦った5将軍がいて、多くの兵士がいて、有力貴族がいるこの場所で皇族の恥を晒したんだ。勘当で済んだだけマシなんだぞ」
この場に、殿下を味方する者はいなかった。
「あああぁぁぁ!」
「!!」
その時だ、傍にいたマリアが発狂したのは。
急に叫び声を上げて、キッと私を睨んできた。
「あんたが、いるからぁ!あんたがぁ!アル様と結婚なんてっ!許せないぃぃ!」
異様な形相で、私を睨み歩み寄ってきた。
あまりにも異様すぎで、周りにいた者たちは後退りしていたが…私は立ち上がり、警戒を強めた。嫌な予感が、脳裏を掠める。
「あんたがぁ!いるからぁ!私が幸せになれないじゃないのぉぉ!ゲイル様もアル様も、私のモノなのにぃぃ!」
途中から駆け出し、手にはキラっと光る刃が見えた。
(どこに隠し持ってたのよ!そんなもの!)
戦争を駆け抜けた私に、たかが令嬢が短剣を握って襲いかかってきた所で避けるのは容易い。短剣を振り上げたが、サッと横に避ければ、勢いのまま床に倒れ込むマリア。
「避けんなよぉ!」
再び起き上がろうとしたんだろうが、将軍達の方が動きが早い。フェイドが魔法で動きを止め、アルフィが押さえ込んだ。
「くそぉぉぉ!」
令嬢にあるまじき雄叫びを上げて、床を殴る。会場警備についていた近衛騎士が呼ばれ、マリアを連れて出ていった。
「いぃぃやぁぁぁ!げいるさまぁぁ!あるさまぁぁ!」
会場は、騒然となっていて、パーティどころの話ではなくなった。
「皆の者、すまなかったな。後日改めてパーティを催すので、本日はお開きとする!」
陛下の言葉を持って、パーティはその場で解散となった。貴族や兵士達は帰り、今この場にいるのは、皇族とゲイリオ、私達将軍のみだった。
「……父上……母上……ぼくは……」
ゲイリオの言葉に反応せず、陛下は近衛騎士に指示をする「ゲイリオを連れて行け」と。
パーティはお開きとなり、後日また開くと陛下は宣言して下さいました。ゲイリオは、正式に勘当となっそうです。ただ、陛下達の温情で知り合いの商人の元に預けられたそう。その方は、とても厳しい方らしく、毎日怒られながら必死に働いてるそうです。
マリアは、私に対する暴言や傷害未遂で、国外追放を言い渡されたそうです。元々は、男爵家の出らしいですが、勘当を突きつけられ少ない金貨を渡され国境付近まで送られたそう。そこからの足取りは不明だと聞きました。
それで私は……というと。
「アル……」
「ん?なに?」
アルヴィスは、部屋に備え付けられているソファに座り、私はアルの膝の上に座らされていた。この部屋は、私達夫婦に与えられた皇宮の一室だ。
「降りたいのだけど……」
「却下」
「ねぇ、セリア」
「……何でしょうか?」
「忘れてないよね?」
「…………何をでしょうか?」
「帰ってきたら、お説教だって言ったよね」
「………………」
「言ったよね?」
耳にアルの息がかかり、チュッと音を立ててキスをしてくるアルヴィス。
こうして、アルの膝の上で、夜が更けるまでずっと怒られる事になりました。
怒られている間も、愛ある悪戯は続いてて恥ずかしい思いをした事は言うまでもなく。
~完結~
ここまで読んで下さり、ありがとうございます!
終わりが中々纏まらず、グダグダな仕上がりになってしまいました。
アルヴィスとのラブラブが少なかったかな?とちょっと残念な(T ^ T)感じに仕上がってしまいました。
楽しんでいただければ、幸いです。
「……?」
場が妙に静まり返っていること、貴族や兵士達が1箇所に集まっている事から何かあったのかと私達の元に駆け寄ってきた。
「何があった?」
言葉と共に、こちらに顔を向けると一様に「は?」という言葉を漏らした。
「なぜ、お前達が参加している?」
と言った顔で、ゲイリオ様たちを見ていた。
ですよね!しかも、戦争に参加してもいない自称聖女もいるんだから、びっくりですよね!
「ゲイリオ……何故ここにいる?」
「何故って……私は皇子です。そして、マリアは聖女です。参加するのは当然では?」
「此度のパーティの参加規定を読んでいなかったのか?参加資格は、戦争に参加した者、その家族、治療に携わった者だ」
「はぁ~、ゲイリオ、お前なら確かに参加資格はある。……が、その女には参加資格は無かったはずだよ」
「……?」
何を言われてるのか分からないって顔してるな……
仲間の将軍達は、明らかに敵意を持って殺気を撒き散らしながら皇子を見ていた。
付近の兵士達が青白い顔で、立っているのがやっとな感じだ。
(あ~可哀想だなぁ)
将軍に視線を向け目で訴えてみるが…無視された。だいたい、守るべき皇族に殺気を向けたらダメでしょ……気持ちは分かるが。
「父上!」
ゲイリオ様が、ハッと顔を上げ、声を上げた。相変わらず、2人とも殺気に気付かないんだなぁ。鈍感なんだな。
陛下、嫌そうだなぁ、聞きたくないんだろうな。
「なんだ?簡潔に申してみよ」
「はい!実は私はマリアと結婚がしたいのです!」
「すれば良いだろう」
あ、これ、もう諦めたかな……陛下。
「それで、ティルセリアとは結婚したくないのです!」
あ、ダメだ……
アルが……射殺さんばかりに、ゲイリオ様を睨んでる!
「誰が、誰と結婚したくないと?」
冷たい眼差しと、ドスの効いた低い声で、ゲイリオ様に問いかけた。
(怖っ!)
「兄上?もちろん、私がティルセリアと結婚したくないのです!そして、マリアと結婚します」
そう言って、傍らにいたマリアを抱き寄せ、その額にキスをする。
満更でもないマリアが、ポっと顔を赤らめはにかんでいた。
(あちゃ~馬鹿だわ)
「ふ~ん、そう」
顔は笑顔なのに、目と声が笑ってなかった。
めちゃくちゃ怒ってる!
私、さっき言ったのに、もう結婚してるって忘れちゃったの?殿下は
……アルが本気で怒ると怖いのよ?
「ねぇ、ゲイリオ、セリアのどこがダメなの?」
「……?セリア?」
「君が、セリアと呼ぶのは、許さないよ」
さらに低くなった声に、ビクッと肩を上げコクコクと頷いたゲイリオ様。
「ティルセリアは、野蛮で粗野で人殺しです!その上、料理は下手くそ、女性らしさが1つもありません!
私はいずれ国を背負って立つ男です!マリアの様な、清廉で、心優しく美しい女性が私には相応しい!」
あれ?なんかいま、変な言葉が聞こえた気がする。
将軍達も「は?」って顔をしてた。
両陛下も唖然とした顔で、アルだけが笑っていた。
「国を……背負って立つ?だれが?」
「私です!」
とうとう、陛下がキレた。
「馬鹿者!お前が国を背負える訳がなかろう!どうして、そんな勘違いをしたんだ!」
あっ、私も気になります!
それに、何故私と結婚する話になったのかも知りたいです!
「え?だって、私は皇子で、いずれ皇太子になると……」
「アルヴィスがいるのにか?」
「兄上は、皇の器ではないと…聞きましたので」
誰よ、そんなデマ流したの!
大方、殿下に皇位を継いでもらって、操ろうとした連中ね。
「それで、ティルセリア嬢との結婚は、なぜ言い出したのだ?」
陛下、既に疲れきってますね。
まぁ、私も疲れたので椅子に座っていいですかね。流石に立ちっぱなしは傷に触ります。
左手で脇腹を押さえ、少し顔に皺がよってしまった。
それをアルが目ざとく見つけ、椅子を用意してくれました。
「ありがとう」
「…無理するな、辛いなら部屋で休んでればいい」
いや、私当事者じゃん、帰れないでしょ。
アルの声は、先程と打って変わって、とても優しげで甘い声だった。
目の前では、未だ殿下がグダグダと言っていた。
「侍女の者が言ってたのです。戦争に貢献した者には、皇族を嫁、もしくは、婿に入れると……」
いつの時代の話しよ!と、この場にいる誰もが突っ込んだでしょう。
それって、
『 はるか昔、魔物が多く生息してた時代、魔王なる人物と勇者なる人物がいて、勇者が魔王を打ち倒し、褒賞に皇女を娶って幸せに暮らしましたとさ 』
って感じの童話じゃない!子供でも知ってるお伽噺……まさか!
信じてるの?……いや、まさかね。
「いや、流石にないでしょう」
「だが、あの殿下だぞ…!」
「有り得そう」
コソコソと話す声が近くから聞こえてきた。
「て言うか、ここまでの大騒動を起こして無事ではすまないんじゃないか?殿下」
「良くて、降格、悪くて、勘当でしょうか」
「皇太子殿下、めちゃくちゃ怒ってるから…降格は無い…んじゃないかな?」
「じゃ、勘当?」
好き放題言ってるな?
その向こうでは、陛下の拳骨が殿下の頭に直撃していた。
「……っ!痛いです!父上!」
「お前には、呆れたわ!どこの馬鹿にお伽噺を信じるアホがいる!?」
「まさか、そんな童話を信じてセリアさんに酷い事を言ったのゲイル?」
「違うんですか?良かった。じゃ、マリアと結婚出来るんですね!」
見当違いの台詞を吐き、マリアと手を取り合い喜んでいる。
殿下……陛下の顔を良く見てください。
鬼神の如く、恐ろしい形相で睨んでますよ!
皇妃様も、流石に庇えないのか悲しげな顔をしております。
これは……勘当の、流れ…かな?
アルの顔は覗き見れないので、どんな表情してるのかは分からないけれど…複雑なんだろうな……仲は悪くなったもの。
「……ゲイリオよ」
「はい!何ですか?」
喜んでいる所に陛下の声がかかった。マリアと手を離し2人で陛下の顔を見る。
「本日のパーティは夜会とは違い、フランクなもの……だが、この騒動は看過できぬ。其方を罰せねば、示しがつかぬ」
「はい?」
陛下の言っている事を理解出来ないのか、頭に?マークを付けて陛下の話を聞いている殿下。
(あれは、半分も理解出来てないな?)
「よって、我は其方を勘当とする!」
「「……え?」」
2人の声が重なった。
「平民となり、市井で暮らすが良い!」
「……え?何故です?!」
「我は、もう其方の父ではない。故に、我を父と呼ぶ事は許されぬ」
「そんな……!…母上!」
父上である陛下に見捨てられたゲイリオ殿下は、母親である皇妃に縋るような目を向けた。皇妃様は、青白い顔で悲しそうで、それでも目をそらす事なく殿下を見つめた。
「ごめんなさいね、ゲイリオ。貴方は罪を犯してしまったの。私でも庇えないのよ」
「何が罪なのですか?!ティルセリアに言った事は本当の事です!」
「何が本当なのですか?野蛮で粗野?どこを見て、そのような事を言ったのです?」
「戦場に出てる時点です!女で戦場に出るとは野蛮です!そして、人ご……「いい加減になさい!」」
「…っ、母上?」
温厚な皇妃様が、声を荒らげるなんて…
いつも、ニコニコと笑顔を絶やすことなく、私達にも優しく接して下さる皇妃様が。
いまは、青白い顔で、でも厳しく悪い事をした息子を叱る母親の顔していた。
「ティルセリアは、アルヴィスのお嫁さんなの。貴方は、皇太子妃に対して不敬を働いたのよ」
「は?……え?」
「嘘よ!あんな人が皇太子妃なんて!」
え~~、と嘘では無いですよ。
アルと私は3年前に結婚してますから、うん。
「嘘じゃない」
あっ、後ろから声がした。
ゲイリオ殿下とマリアが、バッと振り向いた。
「兄上……?」
「セリアは、私の大切な妻だよ」
私と接した時の甘さはない。
再び、凍り付かんばかりの低い声で告げた。
「っ!……父上!謝ります!謝りますから!」
「更に!貴方が言った言葉は、この国の為に命をかけてくれた将軍や、兵士達を侮辱するものなの!」
力をなくし崩れ落ちた殿下は、縋る勢いで陛下の腰元を掴み見上げた。立ち上がれないみたいで、膝立ちで服を掴み謝っていた。
だが、陛下は何も仰らず、無言を貫いていた。
殿下の行動を無視し、皇妃様は話を続けます。
「違っ!将軍達を馬鹿にしたつもりは……!」
「誰が好き好んで、命を屠る事を良しとするのです?ティルセリアは、前線で兵士達の命を救う事が仕事なの。だから他の将軍達よりも、命を奪う行為は辛いのよ。それを!貴方は…!」
(皇妃様……)
「俺達は、何言われても構わねぇよ。実際多くの人を殺してるからな。でもな、セリアを悪く言うのは許せねぇ。例え、皇子殿下でもな」
「セリアは、兵士を見殺しにした事なんてありませんよ。後方任務でも、最後の瞬間まで力を注いでいましたから」
「自分の怪我を後回しにして、兵士の治療を優先してた人だよ?兵士の皆だって、ちゃんと分かってるし恨んでるやつなんていない」
「敵兵を倒した後、総大将の首を取った後、命を奪った事を神に祈ってた。後悔はしてないけど、ごめんなさいって」
将軍達が口を挟んでくれる。彼らの思いを今、初めて知った。今まで口に出さなかったから、知らなかった。口に出さなくても、通じあってたから。
「セリアを馬鹿にする事は、将軍や兵達を馬鹿にする事だ。分かったか?」
アルが、諭すようにゲイリオ様に告げる。
「父上が何故、お前を勘当にしたか理解出来たか?国のために戦った5将軍がいて、多くの兵士がいて、有力貴族がいるこの場所で皇族の恥を晒したんだ。勘当で済んだだけマシなんだぞ」
この場に、殿下を味方する者はいなかった。
「あああぁぁぁ!」
「!!」
その時だ、傍にいたマリアが発狂したのは。
急に叫び声を上げて、キッと私を睨んできた。
「あんたが、いるからぁ!あんたがぁ!アル様と結婚なんてっ!許せないぃぃ!」
異様な形相で、私を睨み歩み寄ってきた。
あまりにも異様すぎで、周りにいた者たちは後退りしていたが…私は立ち上がり、警戒を強めた。嫌な予感が、脳裏を掠める。
「あんたがぁ!いるからぁ!私が幸せになれないじゃないのぉぉ!ゲイル様もアル様も、私のモノなのにぃぃ!」
途中から駆け出し、手にはキラっと光る刃が見えた。
(どこに隠し持ってたのよ!そんなもの!)
戦争を駆け抜けた私に、たかが令嬢が短剣を握って襲いかかってきた所で避けるのは容易い。短剣を振り上げたが、サッと横に避ければ、勢いのまま床に倒れ込むマリア。
「避けんなよぉ!」
再び起き上がろうとしたんだろうが、将軍達の方が動きが早い。フェイドが魔法で動きを止め、アルフィが押さえ込んだ。
「くそぉぉぉ!」
令嬢にあるまじき雄叫びを上げて、床を殴る。会場警備についていた近衛騎士が呼ばれ、マリアを連れて出ていった。
「いぃぃやぁぁぁ!げいるさまぁぁ!あるさまぁぁ!」
会場は、騒然となっていて、パーティどころの話ではなくなった。
「皆の者、すまなかったな。後日改めてパーティを催すので、本日はお開きとする!」
陛下の言葉を持って、パーティはその場で解散となった。貴族や兵士達は帰り、今この場にいるのは、皇族とゲイリオ、私達将軍のみだった。
「……父上……母上……ぼくは……」
ゲイリオの言葉に反応せず、陛下は近衛騎士に指示をする「ゲイリオを連れて行け」と。
パーティはお開きとなり、後日また開くと陛下は宣言して下さいました。ゲイリオは、正式に勘当となっそうです。ただ、陛下達の温情で知り合いの商人の元に預けられたそう。その方は、とても厳しい方らしく、毎日怒られながら必死に働いてるそうです。
マリアは、私に対する暴言や傷害未遂で、国外追放を言い渡されたそうです。元々は、男爵家の出らしいですが、勘当を突きつけられ少ない金貨を渡され国境付近まで送られたそう。そこからの足取りは不明だと聞きました。
それで私は……というと。
「アル……」
「ん?なに?」
アルヴィスは、部屋に備え付けられているソファに座り、私はアルの膝の上に座らされていた。この部屋は、私達夫婦に与えられた皇宮の一室だ。
「降りたいのだけど……」
「却下」
「ねぇ、セリア」
「……何でしょうか?」
「忘れてないよね?」
「…………何をでしょうか?」
「帰ってきたら、お説教だって言ったよね」
「………………」
「言ったよね?」
耳にアルの息がかかり、チュッと音を立ててキスをしてくるアルヴィス。
こうして、アルの膝の上で、夜が更けるまでずっと怒られる事になりました。
怒られている間も、愛ある悪戯は続いてて恥ずかしい思いをした事は言うまでもなく。
~完結~
ここまで読んで下さり、ありがとうございます!
終わりが中々纏まらず、グダグダな仕上がりになってしまいました。
アルヴィスとのラブラブが少なかったかな?とちょっと残念な(T ^ T)感じに仕上がってしまいました。
楽しんでいただければ、幸いです。
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