【未完】雨を呼ぶ忌み子

紫宛

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第1話 ???視点

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何も映さない私の瞳に、光が落ちる。
 


私の世界は、ここだけ。
この椅子の上だけが、私の世界。


けれど、そこに、誰かが来た。
人か獣かは、分からない。

人も、獣も見た事などない。
自分の姿さえも、見た事などない。

「…………」


私に触れる、暖かい感触。
ソレに、顔を向ける。

でも、暗くて何も見えない。
光が差し込んでいても、私には見えない。

言葉を発したくても、口から出るのは言葉にならなった息だけ。


「…………」

ソレは、私を立たせる。

どこかに連れて行……けない。

私の足?が、言うことを聞かない。

ずっと、座っていた。

ずっと


ずっと…


ずっと……


ソレは、
立てないと分かると、私を持ち上げた。

軽々と持ち上げて、光の先に運ぶ。

「…………」

『お前は、外に出てはならぬ』
『お前は、世界を知ってはならぬ』
 
「…………」

『お前は、愛してはならぬ』
『お前は、愛されてはならぬ』

どこからか、声が聞こえる。
頭に直接、響く、無機質な声。

『お前は、忌み子』
『お前は、生まれるべきではなかった』
『お前は、ここで一生を終えよ』

誰の声か、分からない。
でも、逆らえない…そんな気がする。

私を持ち上げる何かが、更に力を込める。

私が聞こえているのだから、ソレも聞こえてるんだと思う。 

なのに、連れ出すの?

ここから……



ドカドカと振動が伝わってくる。
光が強く感じ始めた時、気配が増えた。

「………」
「…………」
「……」


ソレは、歩みを止めた。


ソレは、歩き出した。






自分が何者なのか、人か獣か。
私は、知るだろう。世界を…

連れ出した、ソレが誰なのか。
私は、知るだろう。愛を……

ソレが、私を大切に扱い、大切に触れる。
私は、知るだろう。この身に宿る感情を…







ソレとの出会いで…

私は、自分を取り戻す。

名を与えられ、役目を与えられ、
存在を許され、生きる事を許され



私は、初めて……


世界に…


感謝する。




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