幼馴染のふたり

桃ノ木一二三

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第5話 ライバル出現?!

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「やっべぇ~、遅刻した!」

 ちょっと昼寝のつもりが、気づいたら完全に陽が落ちて、あたりは真っ暗になっていた。   
 
 タケルとの約束まで、あと10分しかない。

 俺は急いで家を飛び出し、約束の場所である神社へ向かった。


--この時の俺は、急ぐあまり気づかなかった。頭上に赤い満月が輝いていたのを。


 今日はハロウィン。毎年10月31日の夜に行われる仮装大会?くらいな認識しかない俺。正直、仮装大会には興味ないが、高校に入って、やっと夜に外出できるチャンスを無駄にする気はサラサラない。

 今日の昼休みに仲の良いクラスメイトと相談し、街で行われる仮装パレードへ行く計画を立てた。そのパレードへ行く前に肝試しついでに神社へ行こうということになったのだ。

 タケルは相変わらず部活動があるから、後から合流することになったが、さっきスマホに入ったメッセージで、もう神社へ着いていることを知った。

「ぜってぇタケルに怒られるよな」

 全速力で走ったお陰で、神社の入り口に到着した時には息が完全に上がっていた。

 そういえばタケルから俺も運動系の部活動をしろって言われていたっけ。そんなことを考えながら、神社の石段を見上げた。

「まったく何段あんだよ、このオンボロ神社」

 文句を言うつもりは毛頭なかった。ただ息があがっている上に何段あるかわからない石段を登らなければならないのもあって、無意識に愚痴ってしまった。

 不意に生暖かい風が石段の上から吹き、思わず顔をそむけた。

 石段を登る前にスマホでタケルに連絡しようとしたが、圏外表示。

「あれ、ここって圏外だっけ」

 街からさほど離れていない神社なのに、と思いながらスマホをポケットにしまう。

「それじゃ、行きますかね」

 息を整え、石段を登ろうとした矢先、肩を叩かれた。

「うわぁ」

 驚いて振り向くと、そこには知らない男、というよりフランケンシュタインの仮装をした誰かが立っていた。

「なんだよいきなり、って誰?」

 相手を見据えながら後退りした。距離が近いと逃げるに逃げられないからだ。


「驚かせてすまん……お前って……もしかして三輪高のカオル?」

 予想しなかったフランケンシュタインからの質問に、一瞬何を言われたのか分からなかった。

「えっ……だったらなんだよ」
「俺は五輪高校の矢加部だ。知ってるか?」
「ごめん……知らん」
「そっか……」

 矢加部やかべ……知らん、と即答したが、その後すぐに、名前だけは聞いたことがあると思った。五輪の矢加部というよりも五輪のヤバイ……奴という異名でだ。

「上へ行くのか?」
「えっ? まぁそうだけど。あんたは?」
「俺もだ。なら一緒に行こう。それにこの石段は急な上に300段近くある。近道を知っているから、そっちから行こう」
「いや、俺は--」

 断る前に腕をぐいっと引っ張られ、鳥居のすぐ脇にある細い道へと連れていかれた。

「ちょっと、待てって!」

 俺の抵抗も虚しく、あっさりと連れていかれ、緩やかな小道、しかも真っ暗な道を歩かされた。背後にはフランケンシュタインの矢加部が歩いている。これじゃ逃げられん。

「って本当に上へ行けるのかよ、この道……」
「当たり前だ。じゃなければ、通るかよ」

 そりゃそうだ。でもこの神社に来たのは俺だって初めてじゃない。それなのにこんな小道があったなんて初めて知った。

「なぁ、えーっと……」
「矢加部だ」
「あ、ごめん矢加部。お前も肝試し?」
「あ? まあ、そんなとこだ」

 困った、話が続かない。黙ってのぼれば良いのだろうけど、沈黙は気まずい。それに小道と言っても、ほとんど獣道。さっきから石ころやら木の枝で転びそうになる。

「うわぁ」

 ぬかるんだ場所で足を滑らして、思わず後ろに倒れそうになった。ところが矢加部が背後から俺の背を抱きとめて、倒れずに済んだ。

「ごめん、ありがと」
「……いや、別に」

 フランケンシュタイの被り物のせいで矢加部の表情は見えないが、俯いていて、噂で聞いていたヤバイ矢加部という印象は全くない。なんだ、結構良いやつじゃん。

「静かに!」
「えっ、なんだよ急に!」
「前を見ろ」

 矢加部が指を差した方向を見ると、二つの光った何かが見えた。

「狼かもな……」
「狼っ!」
「静かに!」

 口を抑えら、その場にしゃがみ込んだ。都会の外れに狼って……マジかよ。まぁ自然は多いし、アリかもな。

「こっちだ」

 またもや腕を引っ張られ、小道から脇の草むらへと移動させられた。

「様子を見てくる。ここで静かに待ってろ」
「って、おい!」

 静かに待ってろって、なんで急にガキ扱いなんだ。お前だって俺と歳、あんま変わんねえだろ。

 そういえば、ここまでくるのにどのくらい歩いただろうか。スマホを出して時間を確認しようとしたが、今度は充電切れで電源がつかない。

「マジかよ……」

 ボソッと言ったつもりが、どうやら狼に俺に場所を知らせる羽目になったらしい……。背後に獣の気配を感じ、俺は固まった。何かの冗談だよな、これ……。

「カオル、頭を下げろ!」

 咄嗟に言われた通りにすると、背後でキャンキャンと鳴き声が聞こえ狼の気配が遠ざかっていった。

「大丈夫だったか?! 怪我はないか?!」
「やっ、大丈夫……」

 いきなりフランケンシュタインに抱きしめられた。避ける暇もないほど、なんて動きすんだ。そして「無事でよかった……」と安堵の声が被り物から聞こえた。

「……ありがとう……」

 なぜか顔に熱が集まってくるのを感じた。ちょっと待て、これは一体、何なんだ。それに鼓動が……!

 矢加部が片手で器用にフランケンシュタイの被り物を脱いだ。そして俺のことをなぜか見つめている。げっ、近い……それにこいつ結構イケメンじゃん。

「俺と……付き合ってくれないか?」
「えっ?」
「そのぉ、実は前からお前が好きだ。だから俺と付き合って欲しい」
「えっ! いや、俺、男だし」
「俺は別に構わん。他に好きなヤツでもいるのか?」

 頭を縦に思いっきり振った。

「す、好きな人がいるから!」

 正しくは、付き合ってる人がいるからなんだけど……未だに俺を抱きしめる矢加部。そろそろ離してくんないかなぁ、キツい。

「カオルを離せ」

 聞き慣れた声に心がほんわかと暖かくなった。

「タケル!」
「タケル? ああ、三輪のタケルか。なんでここに?」
「それはこっちの台詞だ、矢加部。いい加減、カオルから離れろ」
「おいおい、俺は命の恩人だぞ」

 矢加部の言葉を無視して、タケルが俺を無理矢理に矢加部から引き剥がしてくれた。

「へー、冷静沈着なタケルって聞いてたのに、意外だな」

 矢加部はニヤリと笑いながら、俺たちを交互に見比べた。

「なるほど、そういうことか……でも俺は諦めないぞ。いつかカオルを俺のものにしてみせるからな」
「出来るものならやってみろ」

 いや、お二人さん、俺は物じゃないって。

「ちょっ、タケ 」

 矢加部に見せつけるかのようにタケルが俺にキスをした。

「ふん」

 鼻を鳴らし、矢加部が踵を返して、再び草むらへと入っていった。

「ちょっと待てよ! 助けてくれてありがとな、矢加部!」
「カオル!」
「だって、助けてくれたのは事実だし」
「そりゃそうだけど……少しはこっちの気も……」

 眉間に皺を寄せるタケルの険しい顔を覗き込んだ。そうだよな、きっとタケルのことだからめちゃくちゃ心配になっただろうし……

「ごめんな、タケル。心配かけた」

 もういい、の合図かのように、タケルが俺の頭をガシガシと撫でた。

「それより……カオルも大変なヤツに気に入られたな」

 タケルがはぁと大きくため息をついた。

「今度の試合は荒れるな」
「えっ? 荒れる? もしかしてアイツもサッカー部なの?」
「そう。俺たちより一つ上で、しかも次期主将って言われてるそうだ」
「そうなんだ……あはは」
「試合はどうでもいいが、お前は絶対渡さない」
「俺は物じゃ 」

 顔に熱が集まってくるのと同時に、タケルが俺を抱きしめた。あったかい。めちゃくちゃ安心する。タケルの鼓動が聞こえてきた。あれ、結構早いじゃん。ごめんよ、タケル。

「そうだ、ここって狼が出んだよ。早く降りようぜ」
「はぁ? 狼? 狐の間違えじゃなくて?」
「狐?」
「俺もさっき遭遇したぞ」
「えっ、だって矢加部が……」

 クッソ、騙された。やっぱりこの地域には狼は出ないじゃんかよ。

 そんなことを心の中で呟きならが、タケルの肩越しに神社を見た。すると青白い光がゆらゆらと揺らめいている。てっきりクラスメイトが持っている懐中電灯かと思い、肝試しのことを思い出した。

「そういえば、クラスのやつは?」
「カオル? お前聞いてないのか? サッカー部の部室へ戻る時、肝試しはやめて、直接パレードへ行くって言ってたぞ。お前にも連絡したって」
「えっ、なにそれ。聞いてねえよ」
「はぁ、やっぱりこっちに来て正解だな。どうせお前にことだから昼寝して、そのまま寝落ちしたんだろ?」
「はい、すいません……」

 タケルは何でもお見通し。項垂れる俺の頭をガシガシと撫でる。でもそれが何となく嬉しい。

「さてと。それじゃそろそろ街へ行くか」
「うん。でもタケル」
「ん?」
「あの光って何だろうな」
「えっ?」

 タケルが振り返って、俺の指差す方を見つめた。

「さっきはもうちょっと遠かったのに、ちょっと近くなった、つうか……」
「カオル?」

 タケルが俺の顔を不思議そうに覗き込んだ。

「え? なに?」
「俺にはなにも見えないぞ」
「え、うそ。だってほら、あっち 」

 光のあった方に視線を移したが、そこは真っ暗な闇が広がっているだけだった。

「あれ? おっかしいなぁ」

 目をゴシゴシと擦って、目を細めて暗闇の中を見つめた。本当だ、なにもない。たしかに二つ、三つほどの光があったはずなのに。

「まだ寝ぼけてんじゃないのか?」
「そんな訳ないって。でも真っ暗だな……」
「きっと車のヘッドライトが反射したんだろう。神社の側って国道が通っているからな」
「ヘッドライトねぇ……そっかぁ」

 何だか腑に落ちないが、何度見ても暗闇が広がるだけ。それにクラスの仲間たちとの待ち合わせの時間は遠に過ぎている。

「ほら行くぞ!」
「あ、うん」

 タケルが俺の手を握った。心なしかいつもよりぎゅっと握っている。そして足早にその場から離れるように神社を降り街へと向かった。


**


「へぇ~珍しい人間だね」
「ボクたちのこと見えてたね」
「ほんと」
「それにすっごい綺麗な魂」
「欲しいね」
「ダメだよ」
「どうして?」
「一緒にいる人間見た?」
「ああやっぱり」
「だからダメだよ」
「残念だな~」


<了>
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